第五の遺跡へ
「なるほど」
遺跡へと向かう道すがら、アタシは自分の仮説をザッパとアレフに話して聞かせた。
反応は予想通り。納得はしたが、遺跡の解放は止めないという感じだ。
「それでお前はそれを話してどうする気だった。遺跡の解放を止めさせるのか?」
いつの間にかザッパのアタシを呼ぶ呼称があなたから、お前に変わっている。まぁ、そんな細かいとこはどうでもいいのだけれど。
「いえ、そんなつもりはないわ。ただ、知って欲しかっただけだから」
「セレスさんは、私たちの住む環境をどう感じます?」
前にも似たような質問を受けたような気がする。……バストークか。アタシは考えて、答えた。
「良いと思うわ。やはり緑が豊かで、土の香りがする。理想郷だと思うけど…?」
思ったままの事を言う。しかし、二人の獣人はその答えに満足しないようで、複雑そうな顔をしている。
「確かにそこだけを見れば理想郷かもしれん。しかし、あそこは常に危険と隣り合わせなのだ。最近はめっきりと減ったせいで、セレスの滞在中には起ていないが、魔物が襲ってくる事さえあるのだ」
「……」
「だから今でも交代制で寝ずの番をしているくらいだからな。国民が真の平和の中に暮らすには、遺跡の解放を実行し、森に充満した魔力を打ち消し、そして魔物の力を抑えるしかない」
「国民の安全を手に入れる為に、私たちは原因を調べ上げ、そして遺跡の解放を行っているんです。ここまで進んだ以上、止める事はできません。それに前にもお話したように食糧問題もあるんです」
ザッパに続いてアレフが言った。
一国の責任者ともなると、いろいろと大変なのね。アタシにはそういうことはなかったから分からないけど。ハンターの組織の頂点に立ったことはあったけど、基本的に部下の好き勝手にやらせたし。まっ、いっか。アタシの仮説が合ってようと合っていまいと、どちらもでいいんだから。
「ごめんなさい。あなた達の国の事情も知らないで、無神経な問いだったわ。今は余計な事を忘れて遺跡の解放に全力を傾けましょう」
「ああ、もちろんだ」
「ええ、頑張りましょう」
「はい、マスター」
すっかり馴染みとなった地下へと続く階段を、アタシを先頭にして降りていく。
石を敷き詰め造られた床が、乾いた音を立てる。それをバックサウンドとし、アタシたちはずんずんと地下へと向かう。やがて、終着点についたのか、大きな扉にぶつかった。
大きいな。3メートルくらい。…っといけない。感心してないで、とっとと罠がないか調べて開けないと。
アタシは後ろの仲間たちに目配せすると、扉を調べにかかった。
鍵穴とかはないから、開けると同時に作動するようなトラップがあるかもしれない。サイドパックから商売道具を取り出し、念入りに扉を調べる。
「オッケー。罠はないみたい。開けるわよ」
商売道具をしまい、アタシは扉に手をかける。
ギギギギギギ……。
錆びたイヤな音を立てて、扉は開いた。
ビュオオオォォ!!
「風?」
開けると同時に突風が襲ってくる。かなりの風力なので、移動に制限がでそう。
風以外にもこの遺跡には特徴があった。今までは大なり小なりの違いはあったけれど、床や壁などの材質は基本的に一緒だった。しかし、ここはそのすべてが違っていた。
「森だな」
ザッパが言う。そう、遺跡の中は森だった。原生林といってもいいくらいに、木々が増殖している。どう考えても自然にできたものじゃないとわかる。こんな閉鎖空間に植物が生きていけるわけがない。仮に生きられるとしても雑草くらいだろう。
「この森に、風か…。探査には骨が折れそうね。危険だから固まっていきましょう。木の陰とかから襲われる可能性もあるわ」
アタシが一歩踏み出そうとすると、ザッパに肩を掴まれ止められた。なんだろう?
「待て、森の中ならお前より私のほうが慣れている。私が先頭で行こう」
確かにそうかもね。なんたってウルフリングは森の種族なんだから、森に強くて当然か。ここは断る理由はなし。
肩に置かれた手をどかし、アタシは頷く。先頭交代ね。
アタシが後ろに下がり、それと入れ替わりにザッパが先頭へと立つ。ザッパが一番身長あるし、風除けにも最適かもね。
皆、神経を尖らせ、前後左右からの敵の襲撃に備えつつ、遺跡の探査を始めた。
しっかし、うんざりするほどの木々。不思議とバストークのような美しさはここから感じ取ることはできない。逆に禍々しさを感じる。多分、遺跡の中に森があるという、非現実感がそう思わせるのかもしれない。それに、水も栄養も人から与えられることはなかったのに、枯れる事がなかったのだもの。それも不気味な感じ。
「道なき道ですね、まったく」
最後尾のアレフが言う。彼女も森の種族なので、アタシやセリカより森には強いはず。その声から疲れを感じることはない。逆にアタシが少し疲れてきたかも。森に慣れていないとはいえ、セリカは魔導人形だもんね。疲れる事は滅多にないし。
「どうした? 疲れたか?」
先頭のザッパが足を止めてあたしに問い掛ける。普通ならばここで、大丈夫、とか、疲れていない、とか格好つけて言うものだろうけど、アタシは違う。自分の気持ちは正直に言うべきでしょう。
「ええ、この風の中を2時間以上も歩きまわされてはね。さすがに疲れるわ。魔物が襲ってこないだけ、まだマシといえるんだけど」
といっても、探査ができないほどに疲れているわけではない。ただ、戦闘に少し影響するかもしれない程度の疲れだ。でも、その『少し』が死活問題に発展する可能性があるのが怖いところ。ザッパは少し考えたのち、休憩を取ることに決めた。
サイドパックから携帯食を取り出し、ザッパとアレフに振舞う。腹が減っては戦はできぬってね。ちゃんと食べる物は食べておかないと、いざというときに力がでないものだし。
「しかし、よくこの戦力でここまでこれたものだな。私が以前、遺跡に潜った時は全然ダメだったが…」
携帯食を食べながら、ザッパが言う。
「何人くらいで潜ったの?」
水を一口含み、ザッパに聞く。あ〜、汗をかいたときに水はおいしいわ。
「そうだな、10人くらいか?」
思わずアタシはずっこけそうになった。遺跡探査の定石を知らないみたい…。せっかくだから教えてあげよう。
「いいこと、今までの遺跡を見てきて思ったろうけど、どこも狭いの。遺跡探査は少数で行うのが原則よ。そんなに数を持ってったら逆に身動きができなくなるわ」
「言われてみればそうなのだがな。少数精鋭となると、少しきつかったんだ。今ここにいる者たち並に強いものが部族にいないのさ」
「なるほどね〜。それじゃあねぇ。ザッパとアレフだけというわけにはいかないし」
最後の携帯食を食べ、そしてもう一度水を飲む。
「さて、それじゃあ行きましょうか!」
後片付けを始めたアタシを見て、他のメンバーも立ち上がる。
「しかし、この風はなんとかならないものでしょうか?」
アレフが乱れる毛並みを一生懸命に揃えながら、うんざりしたかのように言った。
いくら下に進んでいっても、森が続き、そして風が吹き荒れる。
「う〜ん、どっかに仕掛けでもあると思うんだけど……。こういうケースは初めてだから予想がつかないわ」
アタシは髪を長くしてないからそんなに苦にはならない。セリカはそういうの気にしてなさそうだしねぇ。アクアだったら凄いことになりそう。ちょっと見てみたかったりして。
「魔物の気配です。数は3。ガーディアンではありません。オーク、コボルト、ハングドマンです」
セリカの警告で、談話が中断され、一変して皆に緊張が走る。
サッパは構え。アレフは杖を空中で浮遊させ、魔法の準備に入っている。セリカはマナの剣を作り出し、アタシは自慢のロングソードを抜き放ち、油断なく構える。
ガサガサガサッ!!
左右と上から木の葉のずれる音が聞こえた。その音を察知し、全員がすぐにその場を離れる。
さっきまでアタシたちがいた地点を見ると、右からオーク。左からコボルト。そして頭上からハングドマンが襲い掛かってきていた。
「ザッパはオークを。セリカはハングドマンをお願い。コボルトはアタシが相手するわ。アレフは魔力を温存しておいて。この先に何があるかわからないから」
アタシの指示と同時に、皆が動く。アタシもコボルトに戦いを挑む。
コボルトも獣人族といえる種族。全身を覆う茶色の体毛。そして身につけているのは鉄製の鎧。右手にブロードソード。左手にラウンドシールドを身につけている。
アタシはすぐに突っ込む真似はせずに、相手の様子を見ることにした。大抵のコボルトの戦闘能力は高くないのだが、ごく稀に高い戦闘能力を持つものもいるからだ。
牽制のつもりでアタシは剣をコボルトに斬りつける。
ガキィン!
コボルトがアタシの剣を盾で受け止めた。それと同時に盾をアタシに向かって押し込んでくる。こっちの体勢を崩すつもりね。良くある盾の使い方なので、アタシはそれを読み、体勢を立て直すためにバックステップで下がる。
(今ので実力は分かった。大した敵じゃないわね。一気にケリをつけるか)
離れた間合いを――自分で言うのもなんだけど――得意の俊足で持って一気に制圧する。コボルトも驚いたようで、アタシから離れようとする。しかし、アタシはぴったりとコボルトに吸い付くように動き、離れない。それに苛立ったのか、コボルトは大きく剣を振りかぶり、攻撃に転じてきた。
それを横に交わす。少し体勢の崩れたコボルトの顔面に、交わした勢いでたっぷりと遠心力を乗せた拳を叩き込む。
「ブギャッ!」
無様な悲鳴。そして鼻血を噴き出しながらコボルトは地面に倒れた。女の力でもしっかりと腰を入れればこの程度の芸当はできる。
倒れて痛みにもんどりうっているコボルトにアタシは、容赦なくトドメを刺す。
「ふぅ〜、終わり終わり」
剣に付着した血をふき取り、鞘にしまう。
「どうやら片付いたようだな」
戦闘を終えたザッパとセリカがアタシの元にやってきた。魔力温存の為に戦闘に参加しなかったアレフも一緒だ。
「ええ、そうね。第二波が来ないうちにとっととここを離れましょう。すぐに騒ぎを聞きつけて魔物がココに来るはずよ」
アタシの言葉に皆が頷いて答える。
下へとどんどん降り、だいたい半分くらいまでこの遺跡の攻略が終わった。
ガーディアンというガーディアンは出現せず、相変わらずの森林と強風がアタシたちの行く手を遮っている。
「ふぅ、さすがにこれだけの風を延々と受けているとかなりの体力を奪われるわ」
さして暑くないはずなのに、アタシの額にはうっすらと汗がにじんでいる。風のせいで余計な運動を強いられているからだ。まったく、凶悪なトラップはないから楽できるからいいんだけど、ある意味ではこの風が凶悪なトラップになっている気がする。
他のメンバーにしてもそのようで、セリカ以外は疲れの色がはっきりと見て取れる。最下層までもう少しだし、ここらでもう一度休憩を取ることは必須かも。
「休憩にしましょ。これ以上強行すると、最後の最後で使い物にならなくなってしまうだろうから」
アタシの提案に皆が頷く。
こうしてアタシたちは再び休息を取り、最後に備える準備に入った…。
後書き
どうも、筆者のぱんどらです。 トレジャーハンターの小さな冒険・第十五話「第五の遺跡へ」掲載完了です。
前回のまったりとした展開と変わり、再び舞台は遺跡へと移りました。
いろんなパターンを考えてきましたが、正直ネタが尽きた…。もう少し強風とか、森林の感じを強く前面に押し出したかったですね。その辺りが心残りとなってます。
戦闘シーンも少しマンネリかなぁ。少し趣向を変えて、セレスが剣を使わずに拳で攻撃させてみましたが、どうでしょう? 少し強すぎたか? でも、勢いを乗せればかなりの破壊力が出ると思うんだよなぁ。
では、次の後書きで。