伝説の種族
ガーディアンよりも、吹き荒れる風に辟易しながら、アタシたちは遺跡を進んでいった。トラップというトラップもなく、特に大きな被害を受けずにアタシたちは結界の間へと到着した。
ガガガガガッ!!
相変わらずのでかい音を響かせ、扉が開く。
円筒形の部屋の中央には青白い光を放つ結界。その結果の前に一体の石像が置かれている。
「石像……。ガーディアンかしら?」
部屋に入り、用心の為に遠目から石像を観察する。人……とは違うみたい。なんだろう? リザードマンかしら?
距離があるので良くはわからないけれど、少なくとも人間型のガーディアンではないみたい。かといって、魔獣型ともいえない。初めて見るような感じだ。
「エリオット将軍…」
アタシの後ろでか細い声がする。この口調はセリカだ。あれのことを知っているのかしら? 全員の視線がセリカに集まる。
「セリカ、知っているの?」
「はい、あの方はエリオット将軍です。私のいた時代のお方です。武人の中の武人として、その名を知らない人はいませんでした。シューティングスターとの戦いで陣頭指揮をとっておられたのですが、ある日突然行方不明になったのです。まさか、このような所にいるとは…」
そう言ってセリカが俯く。表情こそ変わっていないものの、悲しんでいることはわかる。
「マスター。下僕の分際で失礼とは思いますが、私の願いを聞いてもらえますか?」
顔を上げて、セリカが言う。アタシは彼女を下僕だなんて思ったことはない。願いの内容は分かっているけど、快く引き受ける。
「ええ、言ってみて」
「ありがとうございます。エリオット将軍を救ってもらえないでしょうか?」
やっぱりね。でも、ここは聞いてあげるべきか。ケイオスは問答無用だったけど、今回はこう言って来たし。でも……。
「ねぇ、助けるのはいいんだけど、どうすれば?」
思った疑問を言う。助けると口で言うのは簡単だけど、実行の方法がないとできるはずもない。
「はい。エリオット将軍ほどのお方をそうそう洗脳できるはずがありません。恐らくは結界の強大な魔力によって、洗脳を施しているのだと思います」
「なるほど、結界を破壊すればいいわけね。将軍殿を倒さずに」
「はい。そうなります」
「ちょっと待った」
今まで黙っていたザッパが口を挟んできた。
「それは構わないが、あいつの戦闘能力はどうなんだ。それによって、戦い方も変わるぞ」
確かにその通りね。強いのであれば、アタシも参戦せざるを得ないし。でも、そうすると結界は破壊できない。
「かなりの力を持っているはずです。シューティングスターと互角に戦ったのは、エリオット将軍だけですから」
「………」
アタシもザッパもアレフも押し黙る。それだけの力を持っている者を倒すの。いや、倒すんじゃなくて解放なんだろうけど。正直、辛さは否めないわね。それに知恵あるドラゴンとまともにやりあえるなんて普通じゃない。まさかとは思うけど…。
セリカの言葉から疑問を抱いたアタシは、それについて尋ねることにする。多分、思ったとおりのはず…。
「ねぇ、セリカ。将軍の種族ってもしかして…」
「はい、お察しの通り、ドラゴニュートです」
やっぱり…。アタシは手を額に乗せ、天井を仰ぐ。
まさか伝説上の種族に会えるとはね。知恵あるドラゴンとやりあえるのも納得だわ。
「ドラゴニュート相手だとかなり苦戦を強いられそうですね。しかし、それしかないのならやるしかないでしょう」
アレフが杖を構えて言う。……そうね、アレフの言う通りか。ここはやるしかない。
「よし、それじゃやりましょう。アタシは結界を破ることに意識を集中させる。大変だろうけど、将軍殿の相手はあなたたちに任せるわ」
「ああ、任せておけ」
「はい、任せてください」
「了解です」
部屋に入り、結界まで半分というところでエリオットの封印が解かれた。赤い鱗で覆われた身体。そしてドラゴンを思わせる顔付き。腰には大きい鞘。中身はグレートソードだろう。
「………」
表情もなく、エリオットがアタシたちに襲い掛かってくる。
鞘からグレートソードを抜き放ち、それを思いっきり振りおろす。
ドッ! ガァァーン!!
それを全員、横っ飛びで交わす。剣の威力が衝撃波となり地面を伝わる。その衝撃波は、部屋の壁まで真っ直ぐに伸びるとそこで激突し、壁に穴を開ける。さらに剣が打ちつけられた箇所は巨大なクレーターと化していた。
「ちょっと、冗談にならないわよ」
愛用のロングソードを握り締め、結界破壊の準備を整えようとするが、その一撃を見てアタシも戦闘に参加すべきか躊躇する。しかし、アタシの様子から察したのか、ザッパが言う。
「大丈夫だ。お前はお前の仕事をこなせ!!」
「……」
アタシが早く結界を破壊すれば、それだけザッパたちの危険も減る。でも、あの破壊力を生み出す者を相手にできるはずがない。アタシは結界壊しの準備を中断し、ザッパたちの援護に入った。
「バカ! 何を考えてる。お前が言い出したことだぞっ!」
「ごめんごめん。気が変わったわ。とりあえず、将軍殿を弱らせなきゃ」
アタシの先でゆっくりと剣を構えている、ドラゴニュートを見る。構えに隙がない。これは思った以上に厄介な相手だわ。
さっきの一撃を見て、アタシは少なからず恐怖を覚えた。あれがドラゴンの力で放った剣の威力。とてもじゃないけど、アタシの腕で支えきれるものではない。なんとか当たらないように交わすしかないわね。
「策はあるのか?」
油断なく構えたザッパが言う。
「そうね、何もない。というか思いつかないわ。まったく隙を感じないもの。なんとか、攻撃をかいくぐって少しずつ打撃を加えるしかないわ。剣や爪などで切りつけることができないから、かなりのハンデはあるでしょうね」
そう、アタシやザッパの攻撃手段である剣や爪はおいそれと使えるものではない。もし、急所にでも命中し、致命傷を与えてしまったらセリカの願いを叶えることができないからだ。
「かなり苦戦しそうだな。…しかし、やるしかない。……来るぞっ!」
言ってザッパが攻撃を避ける体勢をとる。アタシも同じようにどこにでも避けることができるように準備を整える。
真っ直ぐに突っ込んできたエリオットは、アタシたち目掛けて再び最上段からの一撃を見舞う。
それをアタシとザッパは左右に避ける。そして今までアタシたちがいた地点は再びクレーターへとその姿を変える。
「はっ!」
着地と同時に地を蹴り、エリオットとの間合いを詰める。見るとザッパも同じように間を詰めている。
「くらえっ!」
両サイドからのアタシとザッパの攻撃!
ガッ! キィン!!
激しい金属音。アタシの攻撃はエリオットの剣で完全に防がれていた。しかも片手で持ったグレートソードでだ。ザッパのほうは、腰にもう一本さげてあった、細身の剣、レイピアで防がれていた。
エリオットは受け止めた体勢のまま、剣を振るいアタシたちを弾き飛ばした。
「うわっ!」
二人して壁に向かい飛ぶ。が、なんとか身を捻って激突だけは避けることができた。ザッパも同様にして地に立っている。
しかし、休む間もなくエリオットはアタシに向かって突撃してくる。レイピアを鞘に戻し、グレートソードを横サイドに構えた状態で。
攻撃は横凪ぎ? いや、違う。あの体勢はフェイントか!
相手の目線を読み、アタシは蹴りが来ることを予想し、それに備える。しかし、アタシに向けられた攻撃は違っていた。
ドガッ!
「がっ!!」
蹴りを予想していたアタシにはその攻撃に対処できなかった。蹴りもフェイントで、剣を持っていない左の拳で殴りつけてきた。たまらずアタシは吹き飛び、壁に叩きつけられる。
「セレスさん!」
駆け寄ろうとしてくるアレフをアタシは手で制する。ここでアレフに来られてもなにもできない。自分の仕事を忘れるな、とアイコンタクトを送る。彼女は理解できたようで、こくりと頷くと魔法の準備に入った。
「マナよ! その姿を鋼鉄と化し、かの者を守りたまえ!」
アレフの杖がくるくると回転し、防御魔法が発動する。アタシとザッパ、そしてセリカの身体がマナによりコーティングされる。
そしてさらにスパークの魔法をエリオットに向けて放ち、ザッパとセリカを援護し始めた。
「ぺっ!」
そんなアレフを横目に見ながら、口に溜まった血を吐き出す。ったく、レディの顔を思いっきり殴るなんてとんでもないわ。アタシは少しばかりの殺意を抱き、エリオットを見る。
ザッパとセリカの二人が奮戦していた。ザッパがスピードで翻弄し、セリカが隙をついて一撃一撃を確実に加えている。
エリオットもザッパのスピード、そしてセリカの戦闘能力に手を焼いている。なんだ、結構いいコンビネーションやってるじゃない。今がチャンスかも。
体内のマナを活性化させ、剣に結界を破壊することを可能にする力を溜め始める。
「ハァァァァッ!」
やがて、アタシの身体が白い光に包まれる。そして、その光は剣に集約され、まばゆい光を放ち始めた。
「よしっ!」
力が溜まったのを確かに感じると、アタシは結界に向け動き出そうとした時! 凄まじい衝撃波を放ち、ザッパとセリカを吹き飛ばしたエリオットの姿が見えた。そして、そのままアタシに向かって突進してくる。
しまったっ! まさか気づかれたっ!?
確証はないが、アタシの力に危険を感じたのかもしれない。どうする? この状態では素早く動けない。エリオットの攻撃を避けるのならば、溜めたマナを散らさなければならない。
えーい、考えている余裕はないか!
アタシはマナをすべて解放し、エリオットの横凪ぎの一撃をバックステップでかわす。グレートソードの切っ先がアタシの鎧をかする。
地面に着地すると同時に、マナを練り、炎の魔法をお見舞いしてやる。
巨大な火球は真っ直ぐにエリオットに向かう。
半ば予想はしていたけれど、エリオットはそれを軽々と切り裂いた。しかし、アタシの狙いはエリオットに攻撃を加えることじゃない。アタシの考えを分かっていた二つの影が、今まさにエリオットの背後に迫ってきている。
「でやぁっ!」
ザッパがエリオットの足を払う。剣を振った直後の隙だったので、見事に足払いが決まり、エリオットの身体が宙に舞う。
「はっ!」
すかさず、セリカが無防備なエリオットの脇腹に痛烈な蹴りを見舞った。
鈍い音と共にエリオットの身体は吹き飛び、壁に激突する。
うわぁ、助けてください、とか言ってた割には情け容赦ないわね。多分、あれマジで蹴ったわよ……。
「セレス、二度目のチャンスだ! 今度はしくじるなよっ!」
言われるまでもない、と反論したいけど、時間が許してくれない。あの程度でエリオットが気絶するわけないし。アタシは速攻でマナを溜め始める。
さっきと同じように身体が輝き、そして剣が輝く。二度目ともなると、マナの集約率が下がってしまう。あともう少し。
「まだか、ヤツが来るぞっ!」
悲鳴にも似たザッパの叫び。さすがのウルフリングもドラゴニュートの強さに恐怖を覚えたらしい。
「あと、もうちょいっ!」
さらにマナを高める。やがて、光が最高潮に達する。準備完了!
それと同時に、瓦礫の崩れる音がし、エリオットが壁から這い出てきた。
「くそっ、来るなら来い!」
ザッパが構える。セリカも同じようにして構えている。
アタシは真っ直ぐ、結界を目指し走った。後ろからはザッパとセリカが戦っている音が聞こえる。
あと5メートル。
「ぐわっ!」
「つっ!」
二人の悲鳴が聞こえた。後ろから何かが迫ってくる気配を感じる。
あと3メートル。
遠かった気配が、どんどん近くなる。
あと1メートル。
後ろで剣を振りかぶる気配を感じる。
「砕けろーっ!!」
アタシは前にジャンプしながら、思い切り剣を振り下ろす。
カカッ!! ドォォォン!!
光と爆音。結界が破壊されたのを手ごたえで感じた。
「……アタシは…生きてる?」
胸に手を当て、心臓の鼓動を思わず確かめてしまう。……大丈夫、動いてるわ。ということは……?
アタシはゆっくりと振り返る。そこにはグレートソードを握り締めたまま、地面に倒れているエリオットの姿があった。
後書き
どうも、筆者のぱんどらです。 トレジャーハンターの小さな冒険・第十六話「伝説の種族」掲載完了です。
今回の主題。恐怖とか、驚愕とかそういったものを描いて見たつもりです。
RPGなんかでよくある、イベントの関係上負けるしかない戦闘とかいうやつ。どうやっても勝てない相手との戦闘。この場合は『負ける』で決着はついていないけど、『勝利』でも決着はついていないと思うんですよね、オレとしては、
オレが初めてそういう戦闘に遭遇したときは、必死に勝とうと努力した覚えがあります。プレイヤーはそういうイベントと理解しているけど、登場人物はそうじゃないんだろうなぁ。
まぁ、上手くセレス一行のあせりとか、恐怖感とかそういったものが表現できていればいいなぁ、と思いますね。
エリオットが無口というか、まったく喋らないのは無言の恐怖みたいのをやってみたかったんです。もうちょっと『……』を多用しても良かったかな?
最後に自分でもマズイかなぁ、と思った事。セレスって打たれ強すぎ??
では、次の後書きで。