エリオット将軍
五つ目の遺跡を解放し、同じようにしてバストークへと帰還する。しかし、一点だけ今までと違うところがある。それは、セリカが背負っている一人の男。
先の遺跡で戦ったガーディアンとされていた男。一見すると、リザードマンのように見えるかもしれないが、肌の……いや鱗か? それが赤色なので違う。リザードマンの鱗は緑色だしね。そして、突き出した口。その口には無数の細かい歯が生えている。さらに長い尻尾。それ以外の至る所にドラゴンの特徴を持ち合わせている。
そう、すでに絶滅してしまい、伝説となっている種族・ドラゴニュート――または竜人族という――の生き残り。
セリカの話によると、旧時代の将軍で武人の中の武人として、広くその名が広まっていたらしい。しかし、ある日突然失踪してしまい、その行方はわからなくなっていた。それも当然よね、ガーディアンに仕立て上げられてたんだから。
「セリカ、大丈夫?」
自分の身体より、遥かに大きいエリオット将軍を背負っているのだ。いくらなんでもつらいものがあるだろう。
セリカの身長は前にも言ったとおり、150センチほど。それに対して、将軍殿は190はある。普通なら背負えるはずがない。現に尻尾や、足が地面に擦ってしまっている。
「はい、大丈夫です。これくらいなら十分に持ち上げられます」
息一つ乱さずにセリカが言った。
はぁ〜、魔導人形の体力と力はすごいわ。
「とりあえず、ここに寝かせてください」
アレフの家までやってくると、彼女がソファの上を整理しながら言う。それに従い、セリカは将軍殿をソファにゆっくりと降ろす。
「大丈夫なの?」
アレフに聞いてみる。特に外傷を与えるような戦いはしていないはずだけど…。
「ええ、多分気を失っているだけだと思います。時間が立てば目を覚ましますよ。それまでは待つしかないですね」
アタシたちに椅子を勧めると、アレフは食べ物を用意してきます、と言ってリビングを出て行く。
「私は見回りがある。すまんが、失礼するよ」
そう言ってザッパも出て行く。リビングにはアタシとセリカだけになった。
「ねぇ、セリカ?」
さきほどから将軍殿から目を離そうとしないセリカ。アタシは戦いの最中に疑問に思った事を聞くことにした。
「はい、なんでしょうか?」
視線を将軍殿からアタシに移す。
「なぜ、将軍殿を助けようと思ったの?」
「………」
ケイオスの時は問答無用で倒そうとした。しかし、将軍殿の時は倒すよりも、助けるという選択を選んだセリカ。ケイオスを倒したあと、セリカに疑問をぶつけた時、非常に冷たい答えが返ってきたのをはっきりと覚えている。
アタシの敵はセリカの敵。そして、目的遂行の為の障害ならば、排除することにためらいはない。
今回の将軍殿もケイオスと同じ。アタシの敵だった。そして、遺跡を解放するという目的の障害となった存在。
「わかりません。ただ、助けなければ、と思ったのです。理由はわかりません……」
苦悩するかのように俯く。どうも、セリカ自身がなんでそんな行動を取ったのかわかっていないみたい。
でも、これも人助けと思っていいのかな? 理由はわかっていなくても、セリカは人を助けたいと思った。この気持ちも人間として当たり前の気持ちなのかもしれない。少しづつ、本当に少しづつセリカは変わっている。きっといつの日か、自分がなぜ将軍殿を助けたいと思ったのか。それもわかるときが来るだろう。今は、セリカが誰かを助けたいと思っただけで十分か。
アタシは俯いているセリカの頭にぽんと手を乗せる。
「マスター?」
「悩むことはないわ。大丈夫、いつの日かセリカにもわかる時が来るから」
頭を撫でながら、アタシはそう言ってあげた。
「…ん……」
それ以降、会話もなくただ時間だけが過ぎていた部屋。そこにアタシとセリカ以外の声が入ってきた。見ると、将軍殿が少し動いている。気がついたのかな?
セリカと顔を見合わせる。彼女は頷いた。
「将軍?」
軽く問い掛けてみる。それに反応したのか、将軍殿の目が薄く開けられた。
「…ここ…は?」
ゆっくりと上半身を持ち上げ、周囲を見渡す。そして、次にアタシとセリカ。
瞳を観察する。……うん、洗脳されている時のような虚ろな瞳じゃない。生気のある目だ。
「君は…セリカか?」
将軍殿がセリカの姿を捉えたらしい。
「はい、お久しぶりです。エリオット将軍」
「ああ」
頷いてベッドから降りようとする。それを慌ててアタシが止めた。
「ああ、まだ動かないほうがいいわ。かなり体力を消耗しているみたいだし」
肩を優しく掴んで、将軍をベッドに戻す。
「君は?」
「アタシはセレスよ。よろしくね、将軍殿」
「セレス? 初めて聞く名だ。どこに軍に属している?」
「軍? いえ、軍に所属していないわ。さらに言うと、今は将軍殿の知っている時代ではないわ」
「私の知っている時代ではない? どういうことだ?」
良く事情を飲み込めていない将軍殿にアタシは今までの経緯を話してあげる。
今の時代の事。将軍殿がどのような状況に陥っていたのか。そして、助けることに成功し、ここのいること。
「そうか。思い出した。私は魔術師のバルカスに呼び出され、魔法をかけられたんだ。そうか、私としたことが不覚…」
ぐっと拳を握り締め、悔しそうに唇をも噛んでいる。
普通なら信じないようなことをアタシは言ったつもりだったんだけど、将軍殿はあっさりと信じたようだ。かなり柔軟な思考を持っていると考えていいのかな? そういう問題じゃない?
「そんな大昔のことを悔やんでも仕方ないわよ。せっかく生き延びられたんだから、どうするか考えなさいな」
努めて明るい口調で言う。後ろ向きな考えはいけないな。常に前向きであれってね。
「ああ、そうだな。君の言う通りだ」
「食事ができましたよ」
ドアを開けてアレフが部屋に入ってきた。手に持った大皿には巨大な肉の塊。どうやら、猪か何かの肉を丸焼きにしたものらしい。確かにドラゴンが好みそうだけど。
「ああ、気がつかれましたか。私はアレフといいます。よろしく、エリオット将軍殿」
「君も私を助けることに協力してくれたらしいな。礼を言う」
「いえ、礼など不要です。当然の事をしたまでですから。さっ、お腹が空いているでしょう。お口に合うかわかりませんが、召し上がってください」
そう言って、ベッドの脇にある小さめにテーブルに大皿を置き、皿に乗っていたフォークとナイフで肉を切り分ける。
「すまない。好意に甘えさせてもらおう」
頭を下げ、もう一度お礼の言葉を言うと、将軍殿は切り分けられた肉をフォークを使い食べ始めた。
最初は遠慮気味であったが、やはり長い封印生活から急に目覚めさせられたこともあり、極度の空腹状態にあったらしく、数分後には綺麗さっぱりに平らげていた。
「食事が終わったのなら、アタシはあなたに聞きたいことがあるわ」
言い終わってから、ちらりとアレフを見る。彼女はアタシの言いたいことを理解したのか、軽く会釈をすると部屋を退出する。
こうして、六畳間ほどの部屋に、アタシとセリカと将軍殿のみとなった。
「聞きたいこと? いいだろう、なんでも聞いてくれ。私にわかることならばすべてを教えるつもりだ」
「ありがとう。じゃあ、聞くわ。あの遺跡には何があるの?」
「あの遺跡? 私がいたところか?」
ちょっと急ぎすぎたか。アタシも少し気が急いているみたい。順を追ってわかりやすく説明する。
ジュンケの森に充満しているマナ。そのマナが原因で魔物が活性化し、この国・バストークの食糧事情が芳しくないこと。それを打開するために、六つの遺跡に張り巡らせた結界を破っていること。途中の遺跡で見た壁画。そして、結界を破壊するごとに増す違和感。
「なるほど。しかし、私はあなたの望む答えを出せそうにない。私も何も知らないのだ。私の最後の記憶は、バルカスに理由もなく呼び出され、魔法をかけられたところまで。それ以降はすっぽりと抜け落ちてしまっている」
「そう……」
セリカに続いて、もう一人の旧時代の生き証人。しかし、その彼も遺跡については何も知らないか…。
アタシの落胆に気がついたのか、つかないのか。将軍殿は先を続けた。
「あなたの期待する答えではないかもしれないが、祖父からこんな話を聞いたことがある」
そう前置きして、ゆっくりと記憶を引き出しを開き、アタシに話し始めた。
「私にとってはつい昨日だが、遥かな昔としておこう。旧時代というのだったな。その時代の話だ。あの森に一匹の強大な力を持った魔獣が現れた。その魔獣の力は恐ろしく、とても人の手で倒せるものではなかったらしい。そこで、旧時代の人々は殺すことでなく、封じることを最優先とした。六つの結界を張り巡らせ、魔獣の力を奪い、やがて大地に封じることに成功した。という話だ」
「……」
「マスター」
セリカがアタシを呼ぶ。セリカの言いたいことは分かっている。
将軍殿の話を聞いて、アタシは自分の推理が正しいことを確信した。確かに結界はマナを森に閉じ込めているためのものだろう。しかし、それだけではなかったんだ。
アタシは自分の推理を将軍殿に聞かせる。
「……なるほど、辻褄は合う。ほぼ間違いないだろう」
腕を組み、考え込むような仕草をしながら言った。
「どうすればいいと思う? 結界壊しを中断する? それとも…」
「…続けたほうがいいな」
少し考えたようなあと、そのように答えた。
「なぜ?」
「結界は魔獣の魔力を奪い、抑えるためのものだ。しかし、その五つが破壊されている。したがって、魔獣も少しづつではあるが、力を取り戻しているはず。ここで止めたらやがて、万全の状態で復活するだろう。ならば、不完全の状態で復活させ、なんとかしてしまったほうがいい」
言ってることはわかる。しかし、旧時代の人々でも勝てなかった魔獣。いくら弱っているからといえ、アタシたちに太刀打ちできるのかしら。
表情からアタシの不安を察したのか、将軍殿が言う。
「大丈夫だ。私にいい考えがある。アレフといったか? 彼女を呼んできてくれ。話がある」
「アレフ?」
「ああ、そうだ。詳しいことは彼女に話す。あなたたちは結界破壊に全力を傾けてくれ。本来なら私も協力したいところなのだが、身体が言うことを聞かぬ。すまんな、役立たずの木偶の坊で」
「いえ、将軍殿はゆっくりと休んでなさいな。あなたはアタシたちに助言をくれた。それで十分に力添えになってるわ」
椅子から立ち上がると、アタシはそう言う。嘘偽りない本当の気持ち。将軍殿の助言のおかげで、希望が見えたから。アタシたちでも、その魔獣がなんとかなるかもしれないという、希望。
後書き
どうも、筆者のぱんどらです。 トレジャーハンターの小さな冒険・第十七話「エリオット将軍」掲載完了です。
この話で、遺跡についてや結界のことなどのすべてを明らかにしたつもりです。あまり大袈裟なものではないので、こんなもんかってとこでしょうかね? 読んでいる人は。
エリオット将軍は言うなれば、ルーシアやアルフレッドといったジョーカー的強さを持っているキャラなので、適当な理由をつけて戦線離脱させました。戦闘に加わるのでは? と思った人もいるかもしれないけど、やはり無理です。強すぎます。
軍師的に動かして見てもいいんだけど、戦略とかは書いている人の頭が出そうなので、オレは辞退させていただきます。魔獣をなんかとするための知恵を与えるだけで精一杯ですね。
では、次の後書きで。