第六の遺跡へ
エリオット将軍を助けてから二週間後。体調を万全に整えたアタシたちは、いよいよ最後の遺跡へと出発した。
メンバーはいつもの四人。ザッパ、アレフ、セリカ、そしてアタシだ。
エリオット将軍は永い封印の為に、身体がかなり衰弱してしまっていた。命に別状はないけど、あと数ヶ月は戦闘は無理だろう。そんな身体なのに将軍殿はアタシたちに同行すると言い張った。当然の事ながら、それは丁重にお断りしたけどね。それでも、ベッドから這い出てこようとするものだから、文字通りベッドに縛り付けてきちゃったわ。
最後の結界を破壊したらどうなるか、それはすべて彼らには話してある。
アタシが前に自分で立てた仮説を話していたせいか、二人はそんなに驚くことはなく、冷静に事実を受け入れた。
この話をしたあと、ザッパとアレフがこんなようなことを言った。
「俺たちの目的は、森の平穏を取り戻すこと。結界を破壊することで、元凶が姿を現すなら好都合だ。それを倒せば、カタがつく。わかりやすいから助かる」
アレフの場合は微妙に言葉使いが違うけれど、だいたい似たようなニュアンスの事だった。
この意見に関してはアタシも同意だった。結局のところ、その元凶を倒さないと、森に充満しているマナはなくならないのだからね。
「着いたぞ」
獣道をひたすら進み、一つの遺跡の入り口へとたどり着いた。
いつもと同じ、これといって特徴のない地下へと潜っていく感じの遺跡。しかし、外見に騙されてはいけない。この中は旧時代の遺物ともいうべき、ガーディアンや数々のトラップが待ち受けているのだから。
アタシはいつものように、遺跡の入り口の近くに特殊なペンで帰還の為の魔法陣を描く。これとアタシが持っている帰還の宝玉を組み合わせることで、いつでもここに戻ってくることができる。遺跡探査の際には非常に頼りになる道具だ。難点は店で売っていないこと。遺跡で見つけてこないといけない。
「準備はできたか?」
いつのまにかアタシの後ろにやってきていたザッパが背中に話し掛けてくる。ちょうど最後の仕上げにかかったところだった。
「ええ、大丈夫よ。さて、行きましょうか」
ペンをサイドパックにしまい、代わりに一本のたいまつを取り出す。それに魔法で火をおこし、点火する。
一行が頷くのを確認すると、アタシはたいまつを掲げ、先頭に立って遺跡へと降りる階段を下っていった。
「しかしあれだな。まさかこんな結末になろうとはな」
さしたるトラップや戦いもなく、遺跡を5階層ほど下ったところで唐突にザッパがそんな事をいう。
「ええ、私もそう思います。でも、それも終わればすべてに決着がつくんです。頑張りましょう」
アタシの後ろにいるアレフがザッパにそう返した。
「……」
「? どうしました? マスター?」
アタシが何も言わないのが不思議だったのか、セリカがアタシの顔を覗き込みながら話し掛けてきた。
「ん…、うん。ちょっとね…」
たいまつで先を照らしながら、アタシは言葉を濁す。
旧時代に封印されたという魔獣。この遺跡の結界を破壊すれば、その封印は解け、魔獣が姿を現す。
森に充満していたマナの正体。そう、それは封印しきれなかった魔獣のマナだった。
将軍殿が言うには、封印が解けてもすぐに全魔力を魔獣は使うことができないということだった。
理由としては、永い封印の為に衰弱が進んでおり、全魔力を一気に吸収してしまうと、それに耐える事ができずに身体が崩壊してしまうという。よって、封印が解けた直後ならばなんとかなるといった。
(なんとかなるってどういうことかしら? 倒すことはできないっていうの?)
ずっとそれが気になっていた。封印されている魔獣の正体も気にはなるけど、やはり倒す方法の方が気になってしまう。すべてを知っているはずのアレフに聞いてもはぐらかされるだけ。時が来れば話すという。
「どうした、セレス。お前がだんまりとは気味が悪いな」
少しばかり沈んだ雰囲気を弾ませようと、わざとおどけた感じでザッパは言う。
「ごめんなさい、ちょっと気になることがあってね。もう、大丈夫だから」
軽く後ろを振り向いて皆に笑顔で言った。今は考えないことにしよう。時が来ればわかる。今はそれではなく、遺跡の攻略に全力を傾けなくちゃ。
「…ガーディアンの気配を確認。数は四体。恐らくルピナスと思われます」
ルピナスか。前にアクアと冒険してたときに戦ったことがあったわね。
白い装甲に包まれた、四足歩行のガーディアン。前足に折りたたみナイフのように刃が仕込まれているので注意が必要だ。
「来ますっ!」
二度のセリカの警告により、アタシたちは戦闘体勢を取る。
通路はかなりの広さだ。ルピナス四体くらいは余裕で横に広がることができる。ならば…。
「アタシとザッパが前衛。セリカはアレフの守備をお願い。アレフは状況に応じて魔法で援護。いい、ルピナスの前足に注意なさい。刃が仕込まれているからね。スピードもかなりのものだから、そのつもりで」
スラリと剣を抜き放ちながら、アタシは仲間たちに指示を飛ばす。ちなみにたいまつの火は消しているので、辺りは真っ暗だ。しかし、戦いになると、照明魔法を使うことをすでに知られているので、誰も慌てることはない。
ルピナスとの距離が縮まっているのを感じる。そして、相手の攻撃が届くぎりぎりの間合いになったところで、アタシは手の平に作っていたテニスボールほどの光球を軽く前方に投げた。
カッ!
眩い光が辺りを一瞬だけ包む。光がやむと、アタシが投げた光球は上空にふわふわと浮かび、辺りを照らし出している。その光によって、4体のガーディアンの姿を確認できた。セリカの警告通りにルピナスが四体。
「まずは俺が行くっ!」
そう言って、ザッパが文字通り床を滑るようにして、ルピナスとの間合いを一瞬にして詰めた。
「クワァァッッ!!」
ルピナスが叫ぶ。それと同時に四体が同時に前足を振り上げ、その中に仕込まれている赤色の刃をさらけ出した。
フォン! ヒュン!! ブォン!!!
死神の鎌がザッパ目掛けて振り下ろされた。しかし、ザッパは凄まじいスピードでそれらを軽々と交わすと、一体のルピナスに己の爪を叩き込む。
その爪は並の鎧以上の硬度を持つルピナスのボディを、まるで羊皮紙のように軽々と切り裂いた。
ザッパの猛攻に怯んだ隙に、アタシも一体のルピナス目掛けて走る。
動揺していたせいか、必ず反応できるはずだったのだが、ルピナスはアタシの接近に気がつかないほどに浮き足立っていた。
「はあっ!」
マナを乗せた剣の一撃。アタシの攻撃はザッパと同様にルピナスの白い装甲で包まれたボディを切り裂いた。
残りは二体!
二人の仲間がやられて我に帰ったらしく、ルピナスも攻撃に転じてきた。
赤い死の爪を振り下ろし、時には目から不可思議な怪光線を発してくる。しかし、アタシとザッパはそれらを次々に交わす。そして交わすと同時にルピナスのボディに攻撃を加えていく。さすがに、もう奇襲戦法は使えない。ルピナスもアタシたちの攻撃を交わしていく。
背後では、セリカが攻撃の隙を伺っている気配を感じる。アレフも魔法をいつでも放てる準備をしているようだ。
ヒュッ!! ドガッッ!!
振り下ろされた爪をアタシは飛んで避ける。そのまま重力に引かれるままにアタシの身体は落下する。しかし、当然の事ながらこのままおとなしく地面に降りるつもりはない。
「でやぁっ!」
重力の力を乗せ、アタシは渾身の一撃をルピナスの爪にぶちかました。
バギィン!!
乾いた鈍い音を立て、ルピナスの爪が砕ける。その瞬間、アタシの脇を何かが通り過ぎていった。
ザシュゥ!
見ると、マナで作り上げたピンク色の剣で持って、ルピナスの身体を軽々と貫通させているセリカがいた。
信じられない。ルピナスの強靭なボディを切り裂くのではなく、貫くなんて。武器の切れ味はもちろんだけど、使い手の筋力もかなり必要な芸当だ。
セリカに続いて、後方からアレフの魔法が飛んでくる。無数の水刃は、残り一匹のルピナスのボディを細切れにしていった。
こっちも信じられないわ。なんつー、魔力を持ってるのよ、あの人。
分かっているつもりではいるが、やはりこうして見るととてつもない実力を持った魔導師だということがわかる。
「さて、片付いたわね。先に進みましょう」
光球を印を結んで消すと、再びたいまつに火をつけ、アタシが先頭となって進んでいく。
下へ降りたり、上へ昇ったり。数多のガーディアンとの戦いを繰り返しながらアタシたちは進んできた。
他の遺跡に比べると、異様にガーディアンとの遭遇率が高い。その謎も部屋を見ていくとよくわかる。ここは、ガーディアンの製造工場だったらしい。一部屋一部屋にそれらしい設備が、必ずといっていいほど設置されていた。中には、ガーディアンの格納庫とおぼしき部屋もあったし。きっと、何かの拍子で動き出したのがいたんだろうな。
下級のガーディアンから中級のレベルのガーディアンとの戦い。このメンバーでなければ、全滅とはいわないけれど、今以上の苦戦を強いられていたのは間違いないわね。
「ガーディアンですね。数は5匹。バリスタです」
セリカがいつものように警告する。彼女の索敵能力は実に頼りになる。なんせ、百発百中だしね。
剣を抜き放ち、アタシは照明魔法の準備に取り掛かる。ザッパもいつでも飛び込める体勢に。セリカはマナで剣を作り出し、アレフは頭上で杖をくるくると回し魔法の準備をしている。
タイミングを見計らってアタシは手に作っていた光の球を投げる。それは、さきほどと同じように一瞬だけ強い光を発すると、あとはゆらゆらと辺りを照らす光球となった。
その光球に照らされてガーディアンの姿を確認できる。肩に砲台のような物を背負った四足歩行のガーディアン。遺跡に多く見られるガーディアンの特徴である、硬い白い装甲で覆われている。
「注意してください。バリスタに装備されている光粒子砲の破壊力は油断できないものがあります。まずは光粒子砲の破壊が先決です」
この遺跡で出会うガーディアンはどれもアタシの知らないタイプだった。だから、セリカの助言は非常にありがたい。アタシとザッパは目を合わせると、互いに頷く。
バリスタの砲台の動きに注意しながら、アタシとザッパはゆっくりと間を詰めていく。今のところは発射の気配はない。しかし、発射までの時間が分からない以上は、速攻で行く方がいいかもしれない。
アタシはマナを剣に乗せ、一足飛びでバリスタの砲台目掛けてダッシュする。相手との間合いに入ると同時に、バリスタがその前足で薙いでくる。それをジャンプして交わす。そして、重力の乗った一撃をバリスタの砲台に剣を撃ちつける。
ガィンッ!!
「クッ!」
砲台はびくともしない。代わりにもの凄い衝撃が剣を伝わりアタシの身体に伝わってきた。なんとか、持ち直すとアタシはバリスタとの間を外す。
ヒュィィン!!
甲高い収束音が聞こえてくる。みると、5体のバリスタの砲台が、アタシの方を向いて光を放っている。
(しまった、これが光粒子砲!?)
着地の態勢が悪く、ここから避けることはできない。一か八かで全マナを剣に集め、光粒子砲を弾く準備に入る。
バシュゥゥ!!
普通の砲台よりも何倍も静かな音により、光粒子砲がアタシ目掛けて真っ直ぐに発射された。
「ハァァァァ!!」
剣を下段に構え、気合いを入れる。
「マスター!?」
剣を振り抜こうとした瞬間! アタシと光粒子砲の間にセリカが突然割り込んできた。
彼女はマナで作り上げた剣を構え、アタシの目前に立っている。その先には五つの白い光を放つ光粒子砲。
「セリカ!?」
アタシの叫びを無視し、セリカは剣を構え、光粒子砲に合わせて一気に振り払った!
「ハッ!」
白い光と共に、ピンク色の光が走る。
ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ!
光と光の激突。それに似つかわしくない鈍い音が響き渡る。その音と共にアタシが見たもの。それは、五つの光粒子砲を寸分たがわず、バリスタに跳ね返したセリカの姿だった。
跳ね返された光粒子砲は、真っ直ぐにバリスタに向かい激突した。
もの凄い轟音と共に辺りに埃が舞い上がる。
まさかこれほどの威力だったとは…。自分で跳ね返さなくて良かったぁ。跳ね返せないことはないけど、真っ直ぐに返す自信なんてなかったし。
トドメとばかりに、セリカは今度はマナでブーメランを作りだし、それをバリスタがいると思われる埃の中へと投げつける。
ザシュッ! ザシュッ! ザシュッ! ザシュッ! ザシュッ!
人数分を切り裂く音が聞こえると、セリカは戦闘体勢を解いた。どうやら片がついたらしい。
「セレス、あまり無茶はするなよ」
ザッパがアタシの肩を叩きながら言った。
「そうね、ちょっとあせり過ぎたかな? ごめんなさい」
自分でも分からないくらいのあせりのようなものを、アタシ自身が持っていたのかもしれない。ふぅ、気をつけなくちゃ。
「さっ、先を急ぎましょう。モタモタしていると、またガーディアンが襲ってくる可能性が出てきますから」
アレフも戦闘体勢を解き、後ろからやってきた。
「そうね、行きましょ。結界の間までもうすぐだと思うわ」
剣を鞘に収め、アタシたちは遺跡の通路を歩き出した。
後書き
どうも、筆者のぱんどらです。 トレジャーハンターの小さな冒険・第十八話「第六の遺跡へ」掲載完了です。
さっていよいよクライマックスに近づいてきました。遺跡探査は今回で最後となります。いやー、六つというのは予想以上に長かった。前の後書きでも書いたけど、変化をつけるのに一苦労。
今回の遺跡は基本的な感じでまとめてみました。違いは戦闘数が二回挿入されているところかな? 大抵は一話につき一回という感じだったんだけどね。なんとなく、こういうのでもいいかな? と思いまして。
しかし、まぁ、セレス以外のメンバーの戦闘能力は凄まじいですな。書いている自分でも少しビックリしてます。
では、次の後書きで。