解かれる封印
「あー! 疲れたっ!」
結界の間に着くなり、アタシは床に座り込んでしまう。ここに来るまでに、もうイヤになるほどにガーディアンとの戦闘を繰り返したからだ。
しかも、ほとんどのガーディアンが初めて見るタイプだったので、アタシの中にあるノウハウがまったく役に立たなかったというのも疲れた原因にある。セリカがいなかったら、もっと苦労していたに違いないなぁ。
他のメンバーもアタシに習って床に座っている。
「あれを壊せば、封印が解かれるんですね」
アレフが部屋の中央で、綺麗な青白い光を発して浮いている球体を見ながら言った。
そう、あれを破壊すれば旧時代に封印されたという魔獣の封印が解ける。しかし、森に充満しているマナの問題を解決するには、この魔獣を倒さなければならない。なぜならば、森に充満しているマナの正体は、この魔獣の物なのだから。
将軍殿が言うには、封印が解けた直後ならば力が完全に戻っておらずなんとかできる可能性はあると言っていた。気になるのは、倒せるでなく、なんとかできる、と言ったところだった。その辺の事情はアレフが聞いているはずだ。
「さて、聞かせてもらいましょうか」
腰に下げた水袋の中を飲み、アレフを真っ直ぐに見据えて言う。聞きたいことはもちろん魔獣の倒し方だ。
アレフもアタシの聞きたいことを察したのか、質問の意図を聞き返すこともなく話し出した。
「結論から言います。私がこの地に封印されている魔獣を、召喚獣として使役するのです」
「……」
しばしの間、絶句してしまう。そんなことができるのかしら? できるとしたらアレフは…。
「召喚魔法が使えるの?」
アレフの高い魔法能力を考慮すると、不可能ではないと思っていたが、それでも使える人を目の当たりにすると驚きを隠せない。
「はい…。使うことはできます。私は新月の日にこの世に生を受けたフォックスリングです。新月の日に生まれた子には高い魔法能力が宿ると、私たちの一族では言い伝えられています」
ふ〜ん。フォックスリング族については、調べられていない部分が多いから、そういったことがあるのは初耳だわ。でも、魔法能力だけじゃ召喚魔法は扱えるはずないわよねぇ?
アタシの考え込んでいる表情から内容を察したのか、アレフが言ってくる。
「確かに魔法能力だけで扱えるほど、召喚魔法は甘い魔法ではありません。知っての通りフォックスリング族は戦闘能力はそれほどではありません。そんな私が召喚魔法を扱えるのは、お恥ずかしいのですが、血筋……なのです」
「なるほどね」
それで納得した。でも、血筋だろうとなんだろうと、召喚魔法を扱えるのはたいしたものだわ。
「アレフはどんな召喚獣が使えるの?」
これは純粋な好奇心からの質問ね。アタシは召喚魔法を使える人と出会ったことはないし。どんな種類の召喚獣がいるのか興味ある。
「そうですね。私の家系に伝わるのは闇の魔竜・ティアマットです。全てのドラゴンを統べると言われる、ダークドラゴンの眷属と伝えられているドラゴンです」
「はぁ〜」
気のない返事を返す。
分かっていたことだけど、アタシの知らない名前だわ。ティアマットなんて竜、いたかしら? 多分、この世界にいる竜族ではないのだろう。さて…。
「召喚魔法に関しては分かったわ。で、魔獣をどうやって使役するの?」
正直言ってアタシには召喚魔法の知識はない。知っているのは、卓越した魔法能力と戦闘力が必要ということ。そして、呼び出すものが魔物ということくらいだ。
アレフはローブのポケットの中に手を入れ、何かを探している。やがて目当てのものが見つかったのか、それを手の平に乗せて、アタシに見せる。
一つは虹色の光を放つ宝玉。もう一つはアタシが持っている帰還の宝玉とよく似たものだった。
「これは?」
「はい、これは契約の儀式の成功率を上げてくれる宝玉だそうです。エリオット様が私に持たせてくれました。持ち手の魔力に比例して、その効力も上がるのだそうです」
虹色の宝玉をアタシに渡して、そう説明してくれた。将軍殿ってばこんなのを持ってたんだ。便利なものをくれるものねぇ。
アタシは、それをかざすようにして観察する。しかし、初めて見るもののせいか、よく分からない。ただ、綺麗だなぁ、と思うだけだ。
「そして、こちらはセレスさんの持っている帰還の宝玉の発展系だそうです。使い手のイメージした場所へと瞬間移動させてくれるのだそうです。その際には魔法陣は不要らしいですね。大切なのは確かなイメージだそうです。これは三つ、受け取りました」
虹色の宝玉と交換という形で、アタシはその発展系という宝玉を受けとる。
見た感じは帰還の宝玉とそうたいした変化はない。気持ち、こちらのほうが大きいくらいだろうか?
同じようにしてかざしながら観察してあと、それをアレフに返そうと思ったが、アレフはそれを拒否した。
そうか、そういうことね。
「この宝玉を使って、アタシたちが戦いやすい場所に転移すればいいわけね」
アタシの手の中にある、三つの宝玉とアレフを交互に見ながら言う。
森じゃ思う存分に戦えないものね。それを渡す意図はそれしか考えられない。
アタシの考えは正解らしく、アレフがにこりと笑う。
「難しい話はもういいだろう。その契約の儀式を行う条件は?」
魔法に関してはまったくダメなザッパが口を挟んでくる。そうね、それも重要なことだわ。
「はい、魔獣を動けないくらいまでに弱らせてくれればそれで大丈夫です。あとは私が契約の為の結界を張って、儀式を行います」
「分かったわ。任せてちょーだい。ねぇ、皆」
自分の胸を叩き、明るい調子でそう言うと、アタシはここまで苦楽を共にした仲間を振り返る。
彼らからの言葉はなく、ただ力強い頷きと、意思を持った瞳が帰ってきた。
「よっし、それじゃ、結界を破壊するわ。覚悟はいいわね?」
飛ぶようにして床から立ち上がると、アタシは愛用のロングソードの具合を確かめながら言う。
「ああ、いつでもこい」
「いつでもいけます。マスター」
「はい、大丈夫です」
各々からの返事。声だけで分かる。皆、気力が充実している。もちろん、アタシもね。
結界の前までやってくる。結界は青白い光を放ちながら、地上わずか数センチの箇所を浮遊していた。これを破壊すれば、元凶が姿を現す。
最初は結界を六つ破壊すれば終わると思っていた冒険。でも、蓋を開けて見れば、こんな結末になろうとしてる。どこでどう変わるか分からないものね、本当に。
剣を上段に構える。後ろでは杖が動く音が聞こえる。アレフがマナを練っているのだ。
「いきますっ! スパークッ!!」
アレフの気合いの叫びと共に、青い雷がアタシの剣に落ちる。
アタシは全魔力を剣に総動員し、その雷のエネルギーをすべて吸収する。
「ハアアァァァァッ!!」
さらに剣にマナを乗せる。やがて、剣が凄まじい光を放ち始めた。これで、結界破壊の準備はオッケー!
「いっくわよー!!」
剣を握りなおし、真っ直ぐに結界を見据える。それは、これから起こる事をまったく把握できていない様子でそこに佇んでいた。
「でやぁっ!」
青白い光をまとった、愛用のロングソードを、同じ青白い光を放つ結界へと振り下ろしたっ!
ガキィン!! ………バアアァァァンッ!!
剣が結界に激突する音。そして、それにワンテンポ遅れて、結界の砕け散る音がアタシの耳に聞こえた。
結界が砕け散った瞬間、皆の緊張が高まるのを肌で感じる。無理もないかもしれないけど。かくいうアタシも緊張しているのを実感してる。
サイドバックから帰還の宝玉を取り出しながら、アタシは仲間のもとへと急ぐ。三人とも緊張の面持ちでさっきまでいた場所に立っている。
ゴゴゴゴゴゴゴッッ!!
部屋が揺れ出した。いや、部屋というより遺跡全体が。封印が解けたからかな?
ガンッ! ズゴォン!!
天井から瓦礫が降ってくる。どうやら、この振動で部屋が崩れ出したようだ。強烈な魔法を連発しても大丈夫な建物のくせに、こういうことになると意外と脆いのね。
「さっ、ここにいつまでもいたら生き埋めになってしまうわ。さっさと外に出るわよ」
皆の了承を得る前に、アタシはとっとと帰還の宝玉を床に叩きつける。
白い光が、アタシたちを包み、瓦礫で埋まろうとしているこの部屋から外へと転移させた…。
「これは…」
外に出るなり、アタシは言いようも知れない違和感と感じていた。アレフも同様のようで、戸惑いの表情を浮かべている。
あれだけ充満していたマナが、ある一点に収束しているのを感じる。恐らくそこが魔獣の封印されている地点だ。この感じだと、ちょうど六芒星の中心になるはず。
「魔獣の封印されている場所へ行くわよ」
アタシは六芒星の中心となるだろう、場所を思い浮かべ、アレフから預かっている宝玉を地面に叩きつける。
さきほどの帰還の宝玉と同じような光が、アタシたちを包み、その場所へと転移させた。
凄まじい暴風が吹き荒れている。そこに立っているのが苦痛なくらいだ。周りの木々がしなり、悲鳴をあげている。
「ヤツの姿が現れたと同時に、これを使って転移させる。そのあとでアタシたちもあとを追うわ」
風で舞い上がる石つぶてから身を守りながら、アタシは言う。こんなところじゃ、全力で戦えるはずがないものね。ちょうどおあつらえ向きな場所もあるし。
「どこで戦うつもりだ?」
ザッパが聞いてくる。そうね、それくらいは言うべきか。
「この森を抜けた先にだだっ広い平原が広がってるの。そこなら大丈夫。滅多に人も通らない場所だから、思う存分に暴れられるわよ」
宝玉を握り締めながら、アタシは魔獣が姿を現すであろう一点を凝視しながら言う。
それを聞き、他のメンバーも頷くと、アタシと同様にある一点に注目する。
バリバリバリッ!
風と共に放電が始まる。どうやら、封印が解けるのが近いらしい。アタシは平原を思い浮かべ、いつでも転移できるように構える。
地上から吹き出る六本の雷。それは真っ直ぐに空中へと伸びると、ある一点で一つにまとまった。そして、そのまま六芒星の中心へと落雷した。
ズガァン!!
迫力の割にはそれほど大きくない音を立てる。それと同時にあれだけ吹き荒れていた風が止んだ。
「!?」
身の毛がよだつとは正にこのことだろう。全身の毛穴という毛穴が開く感覚だ。アレフも全身の毛を逆立てている。同じ魔法能力者として、この凄まじいまでのマナを感じ取っているのだろう。そして同様にザッパも毛を逆立てていた。こちらは魔獣の迫力に圧されているためだろう。
しかし、将軍殿の話が本当ならば、ヤツはこのマナ全てを発揮することはできないはず。今はそれを信じるしかない。
そして、ついに封印されていた魔獣が姿を現した。
頭の両脇に生えた、二本の曲がった角。赤く光る無気味な瞳。そして、横に広がる巨大な口。半開きになっているそこからは無数の細かい歯が見えた。歯というよりは、刃といったほうが正しいような気がする。
巨大な身体。恐らく五メートルくらいはあるだろう。四足歩行で全身が茶色っぽい体毛に覆われている。
「…コイツは……」
これには見覚えがあった。ある遺跡で見つけた文献に載っていた魔獣だ。大地の力を司ると言われる魔獣。
その名はベヒモス。大地の魔獣・ベヒモスだ。
まさかこんなのがいたとはね。まったくもってやられたわ。
「セレス、早くしろっ!」
ザッパの声でアタシは我に帰る。見ると、ベヒモスがにやりと笑い、こちらを見ている。
「ええ。それっ!」
森を抜けた先にある平原を思い浮かべ、アタシは宝玉をベヒモスへと投げつけた。
カッ! パァァァァ…。
白い光がベヒモスの巨体を包み、やがてその姿を森から消し去った。
「よしっ! アタシたちもいくわよ」
ベヒモスの行き先と同じ平原を思い浮かべ、アタシは最後の宝玉を地面へと叩きつけた。
三度アタシたちの身体は光に包まれ、やがて森から姿を消した。
後書き
どうも、筆者のぱんどらです。 トレジャーハンターの小さな冒険・第十九話「解かれる封印」掲載完了です。
やっとRPGでいうラスボスの登場です。
今回は特にこれといって気をつけたような部分はないですね。普通に意識をせずに書いた感じです。
アレフの半端じゃない魔法能力の説明はちと中途半端だったかなぁ? と思うような思わないような…。まぁ、こういう設定も有りなんじゃないかと。
もう少し封印が解かれるあたりの描写を派手にしたかったように思いますが、あまり状況描写を濃くするわけにもいかないし、それに似通った表現が重なるとアレな感じもしますしね。いつもいっていることだけど、バランスってのは難しいです。
では、次の後書きで。