大地の魔獣



 将軍殿からもらった宝玉の力を使い、アタシたちはジュンケの森の北にある大平原へと転移した。
 アタシたちの正面には封印を解かれた大地の魔獣・ベヒモスがいる。恐ろしいほどの力を持った魔獣だ。文献によると、ヤツはその名の通り大地の力を使うことができるらしい。そういう意味では、平地での戦いは不利のように思えるが、少なくとも森よりは動きやすいのは間違いない。
「アタシとザッパとセリカでヤツを攻撃する。アレフは契約の儀式の準備をしておいて」
 剣を突きつけるようにして構えながら、アタシは言う。両隣ではザッパが、そしてセリカも構えている。戦闘準備は万全だ。
「はい、わかりました。頼みます」
 アレフが浮遊している杖を回し始めた。
「ええ、頼まれたわ。……いくよっ!」
 アタシが飛び出すと同時に、ザッパとセリカも出た。アタシは二人に両脇からの攻撃を命じる。二人は頷くと左右に散開する。
 ベヒモスに突進しながらも、アタシはヤツの姿をしっかりと見据え、攻撃手段を見極める。物理攻撃か、大地を利用した攻撃か…。しかし、ガーディアンのように無機質な瞳のせいで、何を考えているのかがわからない。わからない以上は、真正面から攻撃あるのみ!!
「はぁっ!」
 間合いに入ったアタシは、ベヒモスに向かった飛ぶ。そしてそのまま落下の勢いを剣に乗せ、思い切り振り下ろした。
 さらに両脇からは、ザッパの爪。そして切れ味抜群のマナの剣を携えたセリカが迫る。
 三つの刃が同時にベヒモスを切り裂く。傷からは赤い血が流れ出す。しかし、この巨体にこんな小さな傷では効いているはずがない。それに、無抵抗で斬られたのも気になる。アタシは目で合図し、いったん離れるように指示する。
 着地すると同時に、アタシたちはベヒモスから離れる。
「おい、どういうことだ。何もしてこないぞ」
「おかしい。復活は果たしているはずだけど…」
 未だに動こうとしないベヒモスを見る。しかし、相変わらずの無機質な瞳だ。
「魔力を全身に巡らせています。その為に動かないのだと思われます」
「魔力を?」
「はい。ベヒモスが動くためにまだ魔力が足りないのです。エリオット様のおっしゃった通りでした。森に充満していたマナを集めたのはいいのですが、大半を取り込むことができずに、散らしてしまったようですね」
「だから、この大気中にあるマナを集めている?」
「はい、その通りです。しかし、今の世の濃度の薄いマナではベヒモスは完全に動くことはできないはずです。ベヒモスの行動開始まであと5分です」
「5分か…。さすがにそれだけの時間であの巨体はどうにかできないな」
 そう言ってベヒモスを見上げる。その身体で太陽の光が遮られ、アタシたちは影の中にいる。
「そうね。しかし、動き出せばいくら弱体化しているとはいえ、苦戦は避けられないわ。今のうちにできるだけダメージを与えましょう」
 アタシの言葉に二人が頷く。
「アタシは魔法をメインで戦う。物理攻撃力が遥かに高いザッパとセリカは肉弾戦をお願いするわ。危険だけど、頼むわね」
「はい、マスター」
「任せておけ」
 言うと同時に二人が飛び出す。それを見届け、アタシはマナを集中させる。
 さて、アタシの魔法がどこまで通用するかな? その辺の魔法使いより使える自信はあるけれど、ベヒモスに通用するような魔法を覚えているわけはない。
「とりあえず、小手調べと行きましょか!」
 右の掌をベヒモスに向け、マナを集中し、水の刃を作り出す。アタシの水刃は鋼鉄を切り裂く自信がある。
「食らえっ!」
 六本の水刃をベヒモスの頭部に向かって打ち放つ。それは真っ直ぐにベヒモスへと突撃していく。
 四本はベヒモスの顔に小さな切り傷を作った。残りの二本はヤツの曲がりくねった角にヒットする。しかし、角はまったく傷がつかずに、逆に水刃を弾き飛ばした。
 アタシの魔法と平行し、ザッパがベヒモスの左側を。そしてセリカが右側を攻撃している。しかし、魔法と同様に小さな傷を作るだけだ。どう見ても、通用している感じはしない。それでも、やるしかないか。
 次の魔法の準備に入る。
 今度は火の魔法と食らわしてやる。
 両手の五指に小さな火輪を作り出す。これも水刃と同様に切り裂くための魔法だ。これもダメなら別系統の魔法で攻めて見よう。
「いけっ!」
 チャクラムを投げつけるようにして、十個の火輪をベヒモスに放つ。狙いはもちろん頭部だ。
 火輪がベヒモスの頭部を切り裂いていく。しかし、水刃と同様に小さな傷を作るだけだ。例によって角は斬ることができず、弾かれてしまう。眼球も狙ったのだが、的が小さいせいでうまく当たらない。
 次の魔法の準備に入ると、セリカとザッパがやってきた。
「時間です。ベヒモスが動きます」
 セリカの警告と同時に、ベヒモスが低い唸りをあげて動き出した。その唸りで大地が揺れる。
「グオオオォオォァァ!!」
 ビリビリビリッッッ!!
 ベヒモスの咆哮。さらに激しく大地が揺れた。声の衝撃波がアタシたちを襲う。
「うわっ!」
 油断したら吹っ飛ばされそうになってしまうくらいの衝撃だ。両足をしっかりと地につけ、踏ん張る。
 しばらくして地震が止む。そして、さっきまで木偶人形だったベヒモスがゆっくりと動き出す。そして、アタシたちを睨みつけると、ニヤリと笑った。
「来るよっ! 相手の攻撃手段が分からない以上、固まってたら危険だ! 散開しなっ!」
 アタシの指示通りにセリカが右。ザッパが左へと移動する。それと同時に両脇からの同時攻撃に入った。
「食らいやがれっ!」
「はっ!」
 バガァン!
 えっ!? 破裂音だっ! 見るとザッパの爪と、セリカの剣はベヒモスの身体に触れていなかった。ヤツの作り出したと思われる大地の壁に阻まれていた。
 チッ 厄介ね。大地の壁に守られているのか。これは、奥の手を使わないとマズイかもね…。
 二人の超スピードの攻撃は次々にベヒモスを覆っている壁を破壊していく。しかし、破壊した側からすぐに再生してしまい、まさに焼け石に水の状態だ。
 魔法で援護するしかないか。一発じゃダメだな…。ならば!
「連発を食らわしてやるよっ!」
 精神を集中し、両手に火球を作り出す。そして、それを放つ。一発でなく連発でだ。
 戒めから解き放たれた無限の火球はベヒモスを覆っている壁に直撃する。もの凄い爆裂音と共に、土がばらばらと地面に落ちていく。
「…どうだっ!」
 両手をだらんと下にぶら下げたまま、アタシは睨みつけるようにしてベヒモスを見る。しかし、ベヒモスの大地の壁を貫通することはできなかった。ヤツの身体には傷一つついていない。
「グオオォォッ!!」
 ベヒモスが唸る。そしてそれに呼応するかのように、大地が震動する。
「!? 何かヤバイッ!」
 本能的に危機を察し、アタシはすぐさま今まで立っていたところから回避行動を取る。その数秒後…。
 バァン!!
 アタシの立っていたところが一本の槍のように隆起する。危なかった、あそこに立ってたら串刺しにされてたわ…。
 回避した場所でアタシは息を吐く。頬を冷たい汗を伝うのを感じる。
「大丈夫か?」
 二人が攻撃を止め、アタシのところに戻ってきた。さすがのザッパも息が上がっている。
「マスター。あの壁はベヒモスの魔力で硬質化されています。生半可な攻撃では破ることは出来ません」
「とりあえず、ここから離れましょう。立ち止まったままでは危険だわ。あいつの注意はアタシたちに向いているからアレフは大丈夫」
 ベヒモスが再び大地の槍を使う前にアタシたちは走り出した。それと同時に立っていた場所の土が盛り上がり、槍が出来上がっていた。
「ふぃ〜、危ない危ない。それで、手はあるのか?」
 ベヒモスの攻撃を避けながら、アタシたちは走る。喋りながら走るのはちょっと疲れるわね…。でも、立ち止まったら串刺しだし、しょうがないか。
「ええ、奥の手を使うわ」
 バァン!
 地面から生えてくる槍を横へステップを取って交わしていく。ちなみにアレフから離れすぎないように逃げているわ。あまり離れてしまうと、アレフが状況を把握できなくなってしまって、契約の儀式ができないしね。
「奥の手?」
 バァン!!
 今度は進行方向に生えてきた。どうやらアタシたちの動きを先読みしてきたらしい。失速しつつも、それを交わしさらに走り続ける。
「ええ、そうよ。とっておきの魔法。超圧縮したマナを打ち込む魔法よ。これなら恐らく壁を破壊できるはず」
「そんなものがあるなら、なんで最初に使わなかったんだ!」
 怒ったようにザッパが言ってくる。まっ、事情を知らないならしょうがないんだけどさ。
「この魔法は使ったら最後、アタシは行動不能になってしまうわ。あの時に放って、もし倒せなかったらアタシは今ごろお陀仏なんだけど?」
 バァン!! バァン!
 立て続けに槍が二本、現れた。交わしきれないと判断したアタシはマナを乗せた剣で切り裂く。
 この大地の槍はベヒモスの魔力で完璧には硬質化されていないらしく、あっさりと斬ることが出来た。
「分かった。それで、俺達はどうすればいい?」
「とりあえず、散開して。チャンスを見てアタシがベヒモスの顔面のところに魔法を放つわ。そこに出来た穴から、あなたたちは飛び込んでちょうだい」
 性懲りもなく槍を突き出して攻撃してくる。しかし、それらの攻撃は難なく交わすことができる。本来ならもっと豊富な攻撃パターンがあるのだろう。しかし、これしか使ってこないということは、やはり完全復活を果たしていないということだろう。
「私たちはベヒモスのどこを攻撃すればよろしいですか?」
 セリカは槍を交わさずに、すべてを斬り払っている。
「眼球と喉よ」
「眼球と喉?」
 走りながら、ザッパが聞き返してくる。
「ええ、そうよ。今まで無数の魔物と戦ってきたけど、眼球と喉が硬い魔物はいなかったわ。ベヒモスも例外ではないはず」
「分かった。お前が開けた穴から俺たちが侵入し、集中攻撃ということだな」
 軽やかなステップでベヒモスの攻撃を避けながら、ザッパが言う。
 その避け方を見ていると、やはり異種族という事を実感する。アタシも難なく避けているんだけど、ある程度は地面に神経を集中させている。しかし、ザッパはそんなことをしているように見えない。勘というか、何が来るかわかっているみたい…。
「では、私たちは散開し、様子を見ます。マスター、お気をつけて」
「ええ、頼むわ」
 それを最後に、ザッパとセリカが散る。ベヒモスの狙いは依然としてアタシ。何かあの魔獣の気に入らないことでもしたのかしらね? アタシ。封印を解いてあげたんだから、感謝されることはあっても、恨まれる筋はないんだけど…。
 バァン!!
 アタシの進行方向に一本の大地の槍がそびえ立つ。それを交わすことはせず、駆け上る。
「たぁっ!」
 登れる限界まで登り、その限界点からジャンプする。左手を右の手首に添えるように置き、衝撃に備える。精神を集中し、マナを右の掌に集める。やがて、アタシの右手が青白い光を発し始めた。
 ベヒモスもアタシに集中しているマナに気がついたのか、攻撃の手を休め、アタシを観察し始めた。どのような攻撃がくるのか予測しているのだろう。が、しかーし、あいつの予測をふっ飛ばす特大魔法を見舞ってやるわ。
 右手に集まったマナをさらに集中していく。やがて、それは剣ほどの長さと太さになる。
「くらえ!! ビクシオマ」
 一度、右手を天にかざし、それからベヒモスへと魔法を放つ!
 戒めから解かれたマナは、無数の光の矢となってベヒモスへと突き進む。奴はアタシの魔法に備えるために、さらに厚く大地の壁を張る。
「甘いよっ!」
 さらに出力を上げ、アタシは魔法を撃ち続ける。光の矢はもの凄い勢いでベヒモスの大地の壁にぶち当たる。
 バァン!! バァン! ガァン!!
 光の矢が次々とベヒモスの大地の壁に激突する。その度に凄まじい爆音が響き、地が揺れる。しかし、まだぶち破る手ごたえがない。
 どうする? これ以上の出力増加はアタシ自身も危険に陥る可能性もある。
 しかし!!
 アタシが!!
 やらなきゃ!!!
「誰がやんの……よぉぉぉ!!」
 さらに魔法の出力を上げていく。無数の光の矢はさらに数を増し、ベヒモスの壁にぶち当たっていく。
 ガン!! ガン!!! ガン!!!! バガァァァァンッ!!!
 !! 音が変わった!!
 それを聞き取ったのか、アタシが叫ぶより先に、ザッパとセリカが煙を上げている中へ飛び込んでいった。
 後は……任せたよ…。
 アタシはそのまま地面に落下し、気を失った。
 次に気がついたときには………。



後書き

 どうも、筆者のぱんどらです。 トレジャーハンターの小さな冒険・第二十話「大地の魔獣」掲載完了です。
 正直言って、すごく難しかった話です。
 書く前では、いい感じでベヒモスに追われるセレスたちを描けたのですが、いざ書いてみるとちょっと……。
 もうちょっと追いかけっこのところを濃くしてもよかったと思うけど、どんな風に濃くしたら緊迫感を描けるかわからんです。この辺りはいろんな小説を読んだり、または書きまくったりして経験を積んでいくしかないんでしょうなぁ。
 では、次の後書きで。



2002年 5/12 ぱんどら

解かれる封印 決着
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