職業物語

 

  日暮れの決闘

 

 

リーンテイク山からの風が通りの砂を巻き上げる。

「寅の道」

己の腕を確かめるため、互いに拳を交わす格闘家たちが集う通り。

 

「…。」

俺は自分の腕を試すためにここにやってきた。

我流で学んだ、格闘技は確かにこの町では遅れていた。

だが、この町の格闘家たちは弱かった。

俺にその技を盗まれ地に沈むほどに。

 

確かな自信をつけつつあった俺にも、その自信を叩き壊しそうな奴との出会いが待っていた。

そいつは――。

 

 

――今、目の前に立っている。

 

「……来ないなら、こっちから行くわよ?」

そう呟いた目の前の女。

 

ほっそりとした体格ながら、相手の力を利用した技を操る。始めてあった時、奴は言った。「あなた強いんだってね。1試合相手してくれない?」

奴が言った一言に、酒場中に笑い声が溢れた。確実に強くなりつつあった俺に浴びせられた嘲笑。「女に勝負を売られるのか?」と。

俺はプライドを傷つけられ、その無礼な女の勝負を買った。

 

今思えば、そんなちんけなプライドなど売り渡してしまえば良かったと思う。

小さなプライドの代償は、俺の左腕。

ずきずきと左腕が絶え間無い痛みを送りつづける。まるで降伏宣言のように。だが、俺はそれを無視した。

プライドではない。そんなものは左手がこうなった時に捨てた。

ただ。

彼女に全力で挑みたかった。

彼女は……、こちらが腕を痛めているのを承知であえて勝負を続けてくれた。

 

「はぁっ!」

小さな吐息。滑る様に間合いを詰め、互いの息が分かるような距離からアッパーの一撃。

達人の一撃は、ただ触れるだけで強烈なダメージを相手に与える。

背をのけぞらせるようにかわし――膝蹴り!

ガッと、肉と肉のぶつかる音。

俺の放った膝蹴りは彼女を押し飛ばすように弾かれ、彼女の当身と互いに相殺しあう。

「っふぅー。」

ためていた吐息を漏らし倒れ込むような低姿勢で彼女を追う。

一瞬躊躇し、牽制の蹴り。それが彼女の放った一撃。

相手の攻撃を利用する彼女の技だが、彼女の癖か下段からの攻撃は苦手だというのが、拳を交わしていて悟った唯一の勝機。

そして、俺の必殺の一撃は低姿勢から放つ技。

牽制の蹴りは無視。

がつん

左手に意識が飛びそうな激痛。恐らくは。

――折れた。

 

それでも止まらない。

「ぉおおお!」

気合の叫び。地に擦るような横殴りの拳。

「ぅあ!」

彼女がはじめてうめきとも驚きともとれる叫びを発した。

拳は相手に触れると同時に引かれ相手の足を引く。

「っは!」

強引に足を止め身を翻しての延髄蹴り。軸足の左足が悲鳴を上げる。

「ぅらぁー!」

止められた運動エネルギーを全て蹴りに込める。

「っあ〜!」

その声は、彼女が上げたもの。

がきんと、蹴りが当たった感触。エネルギーが全て衝撃として彼女の体に飛び込んで行く。

(決まった!)

――その瞬間、俺の世界が変わった。

 

何事か、理解する暇もなく近づく土色。

衝撃。

そして黒く遠ざかる視界。

 

 

――意識を失っていたのだろう。

瞳を開けて最初に見えたのは空だった。

(俺は――俺は!)

自分がどこで何をしていたのかを思い出した瞬間、現実感が甦る。

激痛と共に。

 

全身から絶え間無く痛みが送られてくる。

悲鳴を上げる筋肉を強引に動かし、右手だけで苦労して置きあがる。

ふらりと傾く。

全身が、重い。

 

彼女は――

倒れていた。

(……!?)

一瞬なぜか不快な胸騒ぎがして、ぞっとした。

 

「……お、おい!」

ふらつきながら、歩み寄る。

(気を失ってる…のか?)

瞳を閉じた彼女。その胸が緩やかに上下しているのを見て、心のどこかでホッとした。

「……おい。」

そっと瞳を開けた彼女が、再び瞳を閉じる。

「……ばれたか。」

いたずらっぽく笑う。

「……やっぱり強いね、虎の王は。」

ゆっくりと上半身を起こし、地面を見つめて呟く。

「……虎の王?」

「あなたよ。そう呼ばれてるの、知らない?」

初耳だった。

「やっぱ負けちゃったか。」

「……お前の方が強い。」

はっと顔を上げる彼女から目をそらし、呟く。

俺が負けていてもおかしくなかった。

一度誤って人を殺してしまった、封印していたつもりの技を使わねば倒せなかった彼女。

しかも、その一撃さえも返された。

むしろ、俺が敗れる確率のほうが高かっただろう。

「……謙遜?」

「事実だ。俺の、負けだろ。」

今まで一度も口にしなかったセリフ。

だが――思ったより悔しくは無かった。

「一つだけ、教えてくれないか?」

どうしても。知っておきたかったこと。

「……最後に俺が放った技を破った、あの技は一体?」

「ん〜。」

じらすように呟く。

「……秘密。」

「おいっ!」

「ねぇ、提案があるんだけど。」

怒気を発する俺の顔を見つめ、彼女が言う。

「私と、組まない?」

「あ?」

「どうせこの町にいても、私達より強い人とはあまり戦えないでしょう?」

確かにそうだった。彼女以外の俺に挑んできた奴らは、みなため息が出るほど弱かった。

――きっと、彼女も同じだったんだろう。

「……ダメ…かなぁ?」

彼女の顔に影が差す。

「……かまわないさ。」

「え!?」

彼女の顔が一転して明るくなる。

彼女と、もうしばらく一緒にいられる。俺はなぜか嬉しかった。

 

「名前、聞いてなかったよね?」

「ローク。」

「ふぅん、ロークって言うんだ。」

「……お前は?」

「え?」

「お前の名前だよ。」

「……サラ…」

「なんだって?」

「サラ・エリアよ!」

「……ぷっ!」

吹き出す。

「なによ、普通の女の子みたいな名前で、何か文句ある?」

「……ははは、いや…っく…何でも無い。」

はじめは憮然とした表情を浮かべていた彼女だが、こちらの笑いが移ったのか一緒に笑い出す。

(本当は……)

彼、ロークの最後の一撃。

実際には防げなかった。彼自身は気づいていないが、彼が技を放った瞬間折れた左手のせいでわずかに蹴りが鈍ったのだ。

その一瞬があったおかげで彼の軸足を蹴り払うことができたのだ。

つまりは――彼の自爆みたいなもの。

(でも……)

目の前で大笑いをしている彼を見て、後しばらくは黙っておこうと思った。

 

 

後に、彼らの名は五王朝に大きく広がる事となる。

伝説の格闘家「伏虎のローク、返龍のサラ」と呼ばれて――。

 

 

     ――アスラ

 

 


 

あれぇ〜?最初の設定とちがうなぁ?(バージョン2)
これが感想(笑)。ラストの、名前が広がる〜、の部分が最初にあって、それから内容ができました。
最初はただどつきあってるだけだったはずが、完成してみるとどこかラヴコメになりそうな雰囲気。
続き、読んでみたい?
自分は、これ1回きりだと思う。戦闘シーン、好きだけど苦手なの。描写がヘタヘタ(苦笑)。
感想ください(笑)。

 

追記:あまりに酷かったので1回修正。自分、句読点をやたらと使ってしまう癖があるみたいです。他の「職業物語」も直した方が良いんだけど……。