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何となく海が見たかったから、彼は彼と旅にでた。新車おろしの名目で、房総半島ひとまわり。けいじはいままで個々の場所にいったことはあったが全部を一回で回ったことはなかった。ダブルのウォーターベッドの上で地図を広げ、決めた最初の目的地は鎌川シーワールド。シャチやイルカのショーで有名なところだ。 「・・・この歳でそんな物を見て、何が楽しい?」 「見たことあんの?」 「・・・無い。」 「なら絶対行こう!お前にお前が生前見れなかった総てのもの、全部見せたいんだ。」 「・・・ありがとう。だが。」 「だが?」 「お前の運転はまだ恐いから、俺が主に運転する。」 「へーい。」 もらった休みは一週間。ブライアンは使わないでいた有給をつぎこんだ。けいじは仕事をかつての相棒に変わってもらった。もともとそんなに仕事は無いのだが・・・。 けいじの車は今はやりのSRV車(でも、軽)で、限定仕様のメタリックレッドだ。『はじめは教習車とにた型の普通車にした方がいい』というブライアンの意見を押し退けて購入した。 「ん〜、メタリーック!シャア専用!」 「・・・お前にこれが、乗りこなせるかな・・・。」 けいじは車の周りをぐるぐる歩いたのち、決心し、運転席に乗り込んだ。 「おまえもはやくのれよ〜!」 「・・・まるで子供だな。まあ、いいか。」 くすりと笑い助手席に乗り込むブライアン。体の大きな彼は軽の助手席からはみだし気味だ。 「・・・きつい。」 「でも、いいだろ?」 けいじはブライアンの右腕に手をまわし、腕から首筋に頬擦りした。 「・・・運転中は、やるなよ・・・。」 「さ〜て、どうかな?でもよ、ブライアン」 「・・・なんだ?」 けいじの頬から唇を離し、聞き返す。 「これってやっぱり、『密室に二人きり』になるのかなあ?」 「ばか。・・・何を今更。」 「ふふふっ、あ ドライブドライブたんのし〜な〜、と。」 「・・・ふはは。」 このあまあまモードは、30っ分後にはすっかり消えていた。 「ごんげーっ!!!」 「ふははははははははははははー!!!!!!」 はじめに運転したのはブライアンだったが、かれはいままでSRV車を運転したことが無かったのである。SRV車のハンドルには、パワーステアリングが無い物もあるのだ。けいじが購入した物がまさにそれだった。分かりやすくいうと、ハンドルをきったら戻りにくい。普通車は手を離すとするすると戻っていくのだが、彼等の乗っているそれは、きれたらきりっぱなしという恐ろしい仕様だった。結果、天浪からはにわ道を抜けて松尾に入る頃にはもう、ブライアンもけいじも疲れ果てていた。 「・・・これは、軽の癖に大型トラックと同じだけ、同じ種類のテクニックを要求するな。」 ブライアンはもう汗だくだ。なんとか我慢してしばらく走りアブラヤの駐車場で休むことにする。けいじはアブラヤでお弁当と飲み物を買ってきた。 「冷たいもの、買ってきたよ。」 「・・・ありがとう。」 「運転変わろうか?殿下海岸あたりまでは難しい道もないし、そのあとでも波乗り道路はいっちゃえばおれだって大丈夫だよ」 「・・・そうだな。なにかあったら、お前の足ごとブレーキを踏む。それでいいな?」 「こわっ!でも、しかたないよな。うん、いいよ。」 こうして、けいじに運転をかわってもらったのだが。 「あ、るんるんる〜ん、と。」 「???随分、スムーズな運転だな??」 「俺さ、じいちゃんのトラクターよく悪戯してたから、こっちの方が楽なんだよね。」 「・・・公道でじゃ、ないよな?」 「いまは免許あるから平気さ〜」 「・・・ふはははははは。」 |