番外編『免許ください』

 学生時代からエリートと呼ばれ難事件を解決し、当然のごとくストレートで国際警察に入ったウーロン。現在は潜入捜査の為お笑い芸人になっているがおおむね順調な彼の人生にはただ一つ汚点があった。40童貞。。。じゃなくて、怪しい拳法マニア。。。でもなくて、それは『免許がない』という点である。他人はあまり気にしていなくとも、彼自身が凄い気にしていた。

「三島の陰謀の実体が明らかになっても潜入捜査の指令が解かれないのも、俺がもてないのも、えみえみが動いてくれないのも、みんな俺に免許がないからだ−!!」

。。。なんでも、自分に都合が悪い事があると免許が無いせいにしてしまうのだ。たまりかねたけんじは、ウーロンこと国際けいじに教習所の教官を紹介したのだった。

 入学から卒業までの代金を一括で25万円払い込み、学科の1と2を受けたけいじは、「な〜んだ、思ったより楽勝そうじゃん!」とか思っていたのだが。

「技能の教官は。。。。オリジナルだからな。」

けんじの一言で、彼の頭の中は真っ白になった。受かるわけねえ。だいたい、友達の少ないけんじが紹介するといった時点で怪しいのだが、時間の都合がつきにくいけいじは『キャンセル待ちしないでも乗れる』の一言に勝てなかったのだ。

 教習原簿と教習手帳、それに実技の回数券を手に持ち、けいじは「49番」とかかれた車の脇に立っていた。大体教習所の車には4とか9など使わないのに、49番。怪しすぎる。気の抜けるBGMがかかった。どうやら教習の始まる合図らしい。詰め所からわらわらと教官達がでてくる。そのなかで頭一つぶん高く一等目だつのがブライアンだ。白手袋をはめ、教官らしい白の半袖のシャツに紺のパンツ姿のブライアンはなかなか凛々しく、また、教官らしかった。どっちかというと軍隊学校中等科の教官みたいだが。

「……原簿とチケット、手帳をくれ。」

「あ、ああ。」

おずおずとそれらを渡すけいじ。ピンクの原簿を見たブライアンはぼそっと呟いた。

「……男性でオートマは、肩身が狭いぞ。。。」

「仕方ないだろ?短期間で取りたいんだから。」

ぶすっとするけいじにブライアンは、

「……限定は後で外せるしな。まあいい、助手席に乗れ。」

というと、運転席に乗り込んだ。

大人しく助手席にのるけいじ。ブライアンは安全確認をすると車を発進させ、教習コースに入った。

外から見ると長いコースも、回ってみるとそんなに無いように思える。

「……俺の顔ばかり見るな。」

「やっぱり、同じ顔だよなあ〜。」

「……コースをみてくれ。今日この後、お前も運転するのだから。」

「ほ〜い。」

2周目に入った。速度は40キロ。法定速度が60キロなのを考えるとそんなに早く無いのだが、気を張り詰めている彼には100キロを越えているように感じた。心臓がばくばくいっている。ブライアンの顔を見ると正面を見ながら涼しげに運転をしている。

 線路よりの駐車場所に停車すると、ブライアンはけいじに車を降りるように指示した。

「……降りて、運転席に乗ってみろ。」

「もう、乗っていいのか?」

「……つべこべいわずに、降りろ。周りに人がいないか確認してな。」

窓から見た感じ、誰もいない。けいじはゆっくりと降りた。ブライアンはもうすでに降りて、昔ならフェンダーミラーがついてた当たりで待っていた。

「……さっさと乗れ。」

けいじは運転席側に移り、周囲を確認してから乗り込んだ。

「まず、足の長さを調整してくれ。学科の方で予習したと思うが、股の下にあるレバーを使う。」

「うわ、足長いんだ」

「……お前が短い。。」

三段階ぐらい前につめ、アクセルを軽く膝を曲げた状態で踏めるようにした。

「次は座高だ。ハンドルを楽な姿勢で持てるくらいに上げてくれ……」

と、いったところでブライアンは、けいじの座高だと逆に下げなくてはいけない事に気がついた。

「……まあ、気にするな。」

「そういわれるのが一番気になるのっ!」

むすっとしながらも調整する。シートベルトをはめ、格好だけは一人前になったけいじ。

「それでは発進だ。まず、周囲を確認!」

けいじが振り向くと、髪の毛が背中と背もたれの間に挟まったらしく、小さなうめき声をあげる。

「……髪をまとめてやる……。」

助手席の小物入れから櫛とゴムを取り出し、ブライアンはけいじの髪をほどいてまとめた。

「……これでいいだろう。」

けいじがバックミラーで確認すると、みずら(弥生時代の男性の髪型)を結われていた……。

「な、なんでまた。」

「……これだけの髪があったら結えると思ってな。一回やってみたかったんだ。」

しばらく見ないうちにブライアンの変人度に磨きがかかっていた。

「気を取り直して、右方確認!」

「はい!」

「左方確認!」

「うい!」

「後方確認!」

「るいるい!」

「歩行者確認!」

「はに!」

「ウインカー出すッ!」

「ぴこっ!」

「再び、右方確認!」

「みい!」

「左方確認!」

「けい!」

「後方確認!」

「うおんでっとー!」

「歩行者確認!」

「なし!」

「しゅっぱーつ!」

ばすっ。

けいじは、サイドブレーキをかけたまんま発進してしまった。

「……ちゃんと、技能のテキストを読んだか?」

「流し読みです。。」

けいじはもうシオシオのパーだ。

「……もう、時間だな。今回は初めてだから大目に見て判子を押しておく。次回までにちゃんと予習しておくように。」

ブライアンはそういうと車を駐車場まで戻し、けいじを解放した。

「い、生きた心地しね〜!!!!」

教官控え室にブライアンが移動したのを確認してからけいじは叫ぶのであった。

「……くそったれ」

教官室で番茶を啜りながら、ブライアンは呟いた。かれはけんじに「コーヒーの懸賞であたったライター」と引き換えに、けいじに簡単に免許を取らせると約束したのだ。しかし、今日の様子ではけいじに運転のセンスは皆無である。このまま取らせてしまったら、公道にでた時に大惨事間違い無しだ。

「……どうすれば、ちゃんと教習を聞き、且つ慎重に運転する心構えが身につくだろうか……」

オリジナル=ブライアンはちょっぴりお茶目だが、基本的には真面目な教官だ。一晩フルに使って、対策を考えた。

 次の日。ここのところ深夜ラジオの仕事が中心のけいじは、朝寝をしてから教習所に向かった。気が重いが、原簿を取って教習車に向かう。ほどなく、気の抜けた音楽と共に教官達がわらわらとでてきた。だが、背伸びをしてみてもその中にブライアンの姿が見えない。

「??」

「……原簿とチケット、手帳をくれ。」

声に釣られて下を見ると、教官帽にネクタイをかっちり絞めただぼだぼのワイシャツ、それにプリーツ状のミニスカート姿に白いニ−ソックスで黒いパンプスのえみえみがいた。

「え?えみえみ〜!!!」

「……この姿なら、優しく丁寧に運転する気になるだろう?」

けいじはヘッドバンキングのように激しく頭を降る。その姿を見たブライアンは、ちょっとはやまったかなあと思うのだった。

教習車に乗りこむ2人。まだ第一段階なので、ブライアンが教習コースまで運転する。けいじは初めて見るえみえみのアイスブルーの瞳〜魂が入っていないと開かない〜にどきどきして見入っている。

「……毎晩夜伽にしている癖に。」

ブライアンは不思議そうにけいじの顔を見た。けいじははっとすると、慌ててコースの方に目を向ける。

「……それでいい。このまま一周回るから、コースの癖を掴むんだ。俺のハンドルさばき、ブレーキ使い、それらは見なくていい。体の中心が動く、その感じを覚えてくれ。……そら……」

 気を張っているのに夢のような時間。時々、ブライアンがこつをぼそっと呟く時以外車内には何の音も無い。彼の運転の腕は確かで、音も無く優しくすっとブレーキをかける。だから車の音も無い。強いて言えば、けいじの心音が、他の音より強かった。

「……こんなに、無口な質だったか?まあいい。交代だ。」

高まる気持ちを知ってか知らずか、安全地帯側のパーキングコーナーに見立てた箇所でブライアンはそういいながら車を降りた。

「……髪を、結わえなければな。」

今日の髪型は、203高地という名前だそうだ。かなりマニアックな髪型だ。

「そういえば、昔散髪屋が好きだって言っていたね。。」

「……そんな声で言われても困る。確かに、俺は散髪も調髪も好きだし、自分でもやってみたかったと思っているが。」

鏡越しに見えるブライアンと目が合い、微笑むけいじ。(しまった、やっぱりえみえみになんて入るんじゃ無かった)ブライアンは後悔した。中に入っているときはともかく、それ以外では特に繋がりは無いので、適当にあしらってもいいのだが。だが……

「まあいい!早く車に乗れ!」

次に出そうな言葉を自分の声の向こうに押し込めた。はっとしたけいじはあわてて車に乗り込む。今日はなにごともなく車が発進した。発進こそしたが。

「……法定速度は?」

「60Kmです」

「……いま、どのぐらい出ている?」

「。。20kmです。。。。。」

「初めての運転だから、怖いのは解る。だが、この速度で運転されると他の教習生に迷惑だ。40kmまで出しなさい。」

「。。は〜い」

そういうとけいじはアクセルを思いっきり踏んだ。とたんにブライアンが助手席のブレーキを踏む。ガツンと車が止まった。

「馬鹿!出すのは直線コースに入ってからだ!カーブの手前では速度を落とし、アクセルを軽く踏みながら回れ!」

「俺は初心者なんだから、先に言ってくれな。。」

怒鳴りかけたけいじだが、バックミラー越しに見たブライアン、というかえみえみの悲しそうな顔をみたら怒鳴れなくなってしまった。(もしかしたら、国際警察で俺と対立していた時のブライアンもいままでこんな顔をしていたのかもしれないな。。眉毛無いから解らなかったけど)けいじ、ちょっと反省。

「……済まない。学科の方でもう知識の方は学習しているという前提で講習しているからな。」

「お、俺こそ済まないな〜、人に教えてもらうのにこんな態度で。ははは。」

ブライアンも反省しているようだ。その後の教習はお互いに気を使いあったせいか、うまくいった。

「……今日は文句無しに判子を押せるな。今後もこの調子でいってくれると嬉しいのだが。」

ぶっきらぼうな口調だが、優しい声。

「な、ブライアン、これからなんか食べに行かないか?俺おごるからさ」

「食事か。……考えてもいいが。」

わくわくするけんじ。それをみたブライアンは、えみえみでなくブライアンとしか言えない顔で笑いながらこういった。

「……だが、本当の姿でな!この体は、お前がラジオの収録をしている間にかえしておく。」

けんじは、がっくりうなだれた。

「……冗談だ。お前のマンションにはいるのには鍵が必要だから、スペアキーかなにか借りようと思っていた所だ。丁度いい。」

ぱ〜っと、けいじの周りに花が咲いたように笑顔になる。(……面白いやつ。)ブライアンは改めてそう思った。

教習所の裏手で、行き先をきめる相談をする2人。

「どこ食べに行く?まだレストランが空く時間には早いから、買い物とかして時間つぶせるところがいいかな?」

「……そうだな。このあたりだと、リロン成田当たりか。20分くらい歩くが」

「歩くの、嫌い?」

「……歩くのは好きだが、日射しが嫌いだ。」

「それじゃ、駅行きの送迎バスに乗って行こう!」

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