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「まるで新婚旅行だよね〜、あの二人。」 「。。。そうだな。日帰りだが、俺達も似たような事しているし笑えないが。。。」 そんな会話があったのは昨日?1週間前?それともずっと昔の事だったろうか。確かな事は、そう話したあいつはもう俺のそばに居ないってことだけだ。結局俺はあいつにパートナーとしては見られていなかったって事なのか?今、俺は1.5人分の大きさのベッドを1人で占領しながらそんな事を考えている。もしかしたらここに戻ってきているのかも〜、とか思ってここにいるわけだけど。俺は。鳴るかどうかわからないケータイをまくらもとにごろんところがし、ただ天井を眺める。いまこの時間、一体何人の振られ者がこうやって天井を眺めているのか俺には見当がつかないけども。 「何も悲しむ事は無い もともと居なかったのだから元に戻っただけ あの頃は何も悲しく無かった」 これって老子だったっけ? 「悲しみを与えるのは簡単である 与えてまた、奪えばよい」 うーんと、これはキルケゴール?いや ちがうかも。誰の言葉だか忘れたがこれが今の俺の気持ちにちかい。元に戻っただけといわれても、食器の数も買ってる雑誌もベッドの皺も、確実にあいつの跡がついている。なにも元に戻っていやしない。こんなに、なにかに与えられ、なにかに奪われたあいつの跡に囲まれているのに、「元に戻った」なんて言えやしない。 「Angel night」が聞こえる。俺の着メロだ。 「あ、もしもしファラン君〜?」 それは、「なにか」からの電話だった。反射的に俺はケータイを握りつぶした。たぶん、あいつの変わりに別れ話を切り出すつもりなのだろう。もう鳴らない電話は冷蔵庫にぶちこむ。 俺は携帯電話越しに正拳を突かれたような錯角に陥った。 「……切られたか?」 「ああ。てゆ〜か、ケータイごとこわしたっぽいな〜。」 最後に聞こえたあの音はたぶんそう。もしかしたら俺があいつと駆け落ちしたとかなんとか思ってるのかな〜。俺はちょっと甘えた感じでブライアンに尋ねる。 「どうしよう、ブライアン」 「……とりあえず、運転を俺と変われ。気はすすまないがいつもの方法でつなぎをつける。」 「へ〜い、えみえみ一丁!」 えみえみの置いてあるブライアンの寮からあいつらのアジト(笑)は車で15分くらいの所だ。俺達はコンビニで運転を入れ替えた。 「……んん」 着替えて車に乗り込む。東関の前を通り15分きっかりでついた。 裏口から侵入、呆気無く成功。ドアを2:1:3:7のリズムでたたく。 「けんじ?!」 ターゲットの声そして足音がきこえる。勢いよくあいたドアの死角から攻撃。 身柄拘束。久々に仕事をした。無報酬だが。 車はスーパーダイエイ跡地に止まり、ブライアンは待ち合わせていたけいじの車に乗り込んだ。運転は引き続きけいじが当たる。ブライアンの体は前、ブライアン=えみえみは後ろで気絶したままのファランを見張っている。朝日がとても眩しい。 「で、あいつは今どのへん?」 「……佐倉当たりのようだ。。」 「思ったより近いね。」 「……あいつはあれだから、遠くに行けない。」 「あれってなんだよ?!」 うっすらと聞こえる会話にファランは飛び起きて天井に頭をぶつけた。ちなみに軽自動車は狭いので、ファランはえみえみに膝枕されていたりする。 「……子供だって事だ。」 ブライアンが答える。 「はあ?」 ファランは顔を歪めて聞き返した。 俺は気がついた時から大人だった。物心ついた、と言うべきかも知れないがそれ以前に俺は存在していないので気がついたと言う表現がしっくり来る。受験だの税金だのブライアンの脳にあった一般知識はあるが経験した事のある物は漫才だけ。俺は24時間テレビのいっぱつネタの為だけに三島の資金で作られたブライアンのレプリカ、けんじ。俺はたかだか実質1時間の放送の為にこの世に生み出されてしまったのだ。その放送も終了し、いまはただこうして壊れるのを待つだけの身である。 「。。。。。」 終の住処にするはずだった森の中に、プラスチックのシャボン玉のようなジャングルジムがあった。よくみるとあたりには綱で作った蜘蛛の巣やロープウェイなど、遊具で一杯だ。どうやら、アスレチック場に出てしまったようだ。なにげなくジャングルジムに手を入れてみると、肩までしか入らない。俺にはこれに入る体はもともと無かったのだと思うと、悲しくなった。ここでは人に見つかってしまう。もっと奥地に行った方がよいようだ。 「……この当たりにいるようだ。」 ブライアンは元の体に戻り、けいじに車をとめるよう指示した。そこは県下の小学生の遠足コース、葦笛の丘だった。 「アジトから遠くにいったつもりでも、車で30分の距離。。。。やっぱり、子供なのか。」 「さっきっから子供子供って、けんじをなんだと思ってやがる!」 ファランは子犬のように叫ぶ。 「だから、子供。」 落ち着いた顔で二人は答えた。 なんだこいつら。俺は真剣に思いつめているだろうけんじの事を考え、いますぐ走っていきたい気分になった。だけど、両腕を捕獲された宇宙人のように掴まれているのでそれはできない。 「離せよ。」 「……離したところで、お前はあいつのところにはたどり着けない。俺達ならわかる。」 「なんでだよ?!なんで俺がわからなくてお前達がわかるんだよ?!」 俺は叫んだ。頭ではブライアンとけんじはテレパシーで繋がってるってわかるけど、心はずっと一緒にいた自分がわからなくってこいつらがわかるってことを否定したがっている。あいつは自分が一番知っていると思いたがっている。 「あいつが子供だからだ。」 呆れた感じで答えるブライアンの声の調子になにかが分かった気がした。そして、泣いている自分にも気がついた。 ここまでくれば、誰にも見つからないだろう。子供達の声も聞こえない。俺は森の奥深くまで進み、太い幹にもたれる。俺の体が不死身だといえどもエネルギーの補給をしなければ有機媒体の脳は死ぬ。こうして目をつぶれば、終わりだ。 「こんなの、どっかでみたな〜。」 「……熊のプーさんだろう。」 「確かに子供かも。。。けんじ〜(涙)」 けんじは、腐った木の幹に腰から上を取り込まれ抜けられずに足をじたばたしていた。一同はけんじの体を木に垂直に持つと、軽くひねって引っ張り出した。 「。。。あ。」 恥ずかしそうにうつむくけんじ。顔を伏せたままのけんじをけいじが優しく抱き締める。 「もう、大丈夫。」 「……ああ、大丈夫だ。家に帰ろう、けんじ。」 けんじの背中をブライアンがけいじごと抱き締める。 「。。。俺は、これから、どうしていいのか。。」 戸惑っているけんじに、ブライアンに目配せしたけいじが優しい瞳でこう言った。 「お前は俺に望まれて、ブライアンの心と体の一部をもらってこの世にうまれたんだ。そしてずっと俺と一緒に生きてきた。お前は、俺達の子供なんだ。どっかのアホが心が大人になる前に手ぇ出したからややこしくなったけど、お前は俺と、ブライアンの子供なんだ。だから。。俺達と一緒に歩いていこう。」 「……そういうわけだ。けんじ。」 ブライアンがポンとけんじの肩をたたく。 「。。うん。いこう、父さん、母さん。。。」 けんじを挟んで「家族」は車に歩いていった。後ろから見ているとけいじよりもひとまわり大きいはずなのにけんじがちいさな子供に見える。あんなにはしゃいで、本当に子供みたいだ。 。。。て、俺は?俺の立場は?!(涙)そして俺の席は〜!!!!!! 俺は「家族」を追い掛け、追いこし、けいじの新車に頭から突っ込んで傷を作り、その場に置き去りにされた。 |