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第十段

 入試まで後一週間。試験内容は体力テストだけなので、鉄拳大会レベルのブライアンには余裕である。焼肉屋に住み込みで働きながら日本語の勉強をし、その日がくるのを数えていた。

 この焼肉屋の向いの公園には桜並木があって、この季節は花見の客向けに宴会の席で焼き肉を焼くサービスをしている。調理師免許が無いのにこんな事していいのかと思いつつもブライアンは肉を焼く事に専念していた。

 ファランが肉の追加に店と公園を16往復した頃には、すっかり夜桜になっていた。桜の花の幽かな甘い匂いなど微塵も無く、自己主張の激しい肉の匂いが当たりに立ち篭めていなかったら月に呼ばれそうな美しい夜。肉奉行ぶりが板についたブライアンは交代要員を待ちながら、ファランと公園の隅で立ち話をした。皮肉な事に、公衆便所の脇にあるここの場所が、一番桜の色と匂いを楽しむ事ができる。水銀灯に照らされた桜とその間に覗く月と二つの光に照らされる青白いファランを見ながら、ブライアンはこの光景を以前どこかで見た、と思った。あれは大学の頃。

 その公園には桜並木があった。昔、日本と国交ができた時に友好の印に送られて来たのだという。三船に誘われて夜の公園を一緒に散歩した。確かに綺麗だったが始めて行った夜の公園はあんなかんじやこんなかんじで公園のなかはある意味昼間より盛り上がっており、公衆便所の方に向かったら、そここそ盛り上がりの総本山で、もうちょっと居ようという三船の意見を制してほうほうの体で帰って来たのだ。

『。。なあ、ファラン。夜の公園を散歩する二人、というのはどうゆう付き合いだと思う?』

「ホテル代が無くて外で済まそうとする二人。」

『。。。。。。こんなふうに公衆便所の脇にいく二人は?』

「やった後水道で洗って帰る二人。。。。。まさか、ブライアン」

身構えるファラン。少々腰が引けている。ブライアンはため息をついた。

『。。。。。。俺にはその気は無い。だが、かつて俺をこのような所に誘った奴がいた。』

「。。。それが、三船か?」

『そうだ。』

「いや、でも、ブライアンに精子バンクのことを話そうとしていたのかもしれないし。日本人だから危険に鈍感だったのかもしれないし。な?」

一生懸命明るい方に話を持って行こうとするファラン。

『どちらでもいい。奴が真実を話してくれれば俺はそれでいいのだ。』

「そうか。。ところで」

『なんだ?』

「その三船って、俺に似てたの?」

ブライアンは頭をかきながら、月を見て答えた。

『東洋人の顔は皆同じに見える。。。』

「ふんだ。」

『強いていうなら、ファランの方が綺麗だよ。』

「。。。。。。。?!」

『。。。。。。。。。。。』

「なあ、ブライアン。」

『。。。。。。。。』

「桜と月の下で遭うのは止めような。。。」

 ほどなくして交代要員が来た。ファランは公園の前の店の寮に、ブライアンは電車で一個先の駅前にある店の寮に帰って行った。帰りの道のりでブライアンはこんな事を考えていた。

『サク@なんとかっていう風にサク@がつく名前の馬って、モ@ンボンの持ち馬なんだよな。。。もしかして桜肉のさ@らからとっているのかな?』

まだ日本語の下手なブライアンは、言葉に奥の意味まで無かった。

一方ファランは夢でうなされた。

第十一段

 試験日当日。ファランは都合が悪いのか、シャオユウが案内をしてくれた。

「んと、忘れ物ない?受験票は?」

『ここに』

「筆記用具は?」

『一応ある。』

「おべんとは?」

『店の残り物だがある。』

「メリケンサックは?」

『。。。。。。え?』

「プリントに書いてあったでしょ?しっかたないね、あたしの貸してあげる。」

ピンクでシールだらけのメリケンサック。

「かわいいでしょ」

『。。。。俺にも入る、と言う事は。。結構指が太いのだな。』

かんぱつを入れずに顎をそれで殴られた。

「貸してあげない!」

シャオユウにそう言われたブライアンは、何を思ったかスーパーに飛び込んだ。

帰ってきたブライアンの手にはアルミホイル。ブライアンはそれを30cmくらい切り取った。ぐしゅぐしゅにして指に巻き出す。

「ブライアン、まさか。。。。」

『め、めりけんさっくつくってるの。。。。。』

潤んだ子犬のような目のブライアンをふかふかすると、シャオユウは

「大人気なかったね。。。」

といって、再びメリケンサックを貸してくれた。

 試験会場は、さながらKー1選手の控え室のようだった。ブライアンが目立たなくなる程のマッチョの巣窟である。汗臭いわ香水臭いわ痴漢は出るわもう凄い事になっている。

「ジッポスキー・ピョコタノフさん、第二体育館へどうぞ。」

放送がかかったのでブライアンは体育館に向かった。

 体育館にはリングが2つ置いてあった。前の選手がまだ決着がつかずに戦っている。(ムエタイと琉球唐手か。)ブライアンはそれを観戦しながら呟く。なかなか決着がつかない。それを見ながらブライアンは考えた。もしかして、キックボクシングで戦ったら正体がばれてしまうのでは無いかと。もしばれてしまったら、自分だけで無く入校をすすめてくれたファランにも累が及ぶ。それだけは避けないと。しかし、どうすればいいのだ?

第十二段

『あの〜。めりけんさっく、つかわないんですかぁ?』

ブライアンはわざとロリ喋りにロリ声で開いているリングの方の審判に聞いた。高い声を出すと嘘みたいに女の子声なので、審判はにやついた顔で振り返ったが、『マッチョなベンゾーさん(ばい キテレツ大百科)』のようなブライアンの姿を見てそのまま固まってしまった。

「あれはちゃんとプリントを読んでいるかどうか確認するための物だから。。」

『そおなんですかぁ。ぴょこたんてっきりこれで戦う物だと思ってました★』

ちゃっかり、二人がいない所では自分の事を『ぴょこたん』と呼ぶブライアン。審判の額に汗が浮かぶ。

「ところで、君の格闘スタイルはなんだい?名簿に記入していないようだけど」

『ぴ、ぴょこたんの格闘スタイルですかぁ?んと。。。』

0.1秒の間にブライアンの中の何かが勝手に喋った。

『ぴょこたん拳です〜』

口走った後に後悔。だが、一度言ってしまったからには辻褄を合わせないと。

「どんな拳法なんだい?」

『ぴょこんとした拳法です。』

会話が別の時空に流れて行く。もはや双方の感覚が麻痺していた。

「うん、ぴょこたん拳ね。登録したからこの試合が終わり次第出場してね」

どうしよう。

 「ジッポスキーさん、出番です!」

試験管に呼ばれてウサギ飛びで飛び出すブライアン。かれはもう、完全に開き直っていた。それを見たリングのわきにいた大戦相手の、合気道と思われる武術の使い手は目をそらしまった。

『うさぴょん☆ぱ〜んちっ!』

ウサギとびの体勢からくり出すネコパンチ!相手のやる気は削げまくりだ。

「おそるげし、ぴょこたん拳。。。。」

相手がそういいながら倒れるまでわずか25秒しかかからなかった。。

第十三段

 あっさりと合格してしまった。これで春から三島高専の生徒だ。ファランに付き添われて入学手続きを終了し、そのまま学校見学をした。

「この先に寮があるからおぼえときな。遅刻の時に便利な近道だ。」

『ぴょこたんよい子だから遅刻しないよ〜』

「。。。。そうだな。てゆっか、お前、本来の目的忘れてないか?」

『忘れてないけどぉ〜、今が楽しいからどうでもよくなっちゃった★』

いつのまにか、手を繋いでいる二人。

「そこ!校内でいちゃつくな〜!!」

後ろから先生の声がする。。。あれ?

『みふねさん?』

「ぶっ」

やっぱり三船だった。

『どうしてこんなとこにいるの?』

一同こける。

「もしかして。。。。ブライアン(汗)?!」

『あ、そだ。会いに来たんだったっけ。。。。ねえ、私の子供について何かしらない?ほら、精子バンクの。』

もう喋り方が特訓前に戻っている。三船は、笑いながらこう答えた。

「あれね、嘘。別の提供者のが成功したんだけど、お前に点数増やしてやろうと思って改ざんしたんだ。」

『ぬゎにぃー!!!!!』

「髪の色も目の色も、親の代含めて同じだったからばれないと思うけど。」

『はは。。。ははは。。。』

ブライアンは力無く笑いながらへなへなと地面にくずれた。

「それよりもさ、お前本当に生きていたんだな。この学校に入るの?」

いつの間にか三船はファランを押し退けてブライアンの脇にきて肩を抱いている。

ブライアン、思わず目潰し。

「ふしぇー!!」

『。。。。せくはらいやん。』

目でなく鼻の穴に入ったが気にしない。

「もしかして、俺が使わなかったお前の**飲んだのばれてる?!」

アトミックブロー。

23発ぶん殴ってハイキック!(ファラン)

「す、好きだったんだよう。。。」

『。。。変態はいやぷー。』

「なあ、ブライアン、これからどうするよ?」

ファランは三船を体育倉庫に押し込めて鍵をかけながら聞いた。

『。。アベル博士のところにかえる。最近ボケも始まっちゃったみたいだし、面倒見ないとね。』

「そうか。ま、なんかあったら俺んとここいよ。」

『。。。うん、ありがと。さよなら。。。』

 そうして二人は別々の方向に歩き出した。彼等の行く道はこれから先違えども、どちらも同じ闇の中、獣道に変わりはない。やがて交わることもあるかも知れない。だが、今はその闇に向かって歩き出すことを考え。。。。

『あ、帰りの旅費無いや。焼肉屋でもう少しバイトしてからか〜えろっ★』

。。。。こうして、ちゃんと締めさせてもらえないままこの話は終わるのだった。

<終わり>

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