どうしようもない秘密
「あー!!」
ヴァッシュは、ウルフウッドの唐突な叫び声で目がさめた。
彼は、鏡に自分を映しながらなにかぶつぶつと言っているようだった。
ベットの中からもぞもぞと這い出したヴァッシュはまだ完全に目がさめてはいないようだった。
「ん・・なに?どうかしたのぉ?」
「どうかしたやないわ!!どうしてくれんのや!!」
勢い良く振り向いたウルフウッドは、ちょうど鎖骨のあたりをぐいと近づけ、指差した。
そこにはくっきりと歯形が残っている。どうやら、ヴァッシュの目も完全に覚めたようで、じっと見入っている。
「これや。絶対オドレのもんや!!昨日思いっきり噛んだやろ・・。痛いと思とったけど・・ったく・・」
「あ・・あははは・・」
「わらいごとやないで!まったく・・。普通にしてるとめっちゃ目立つで、これ・・」
鏡の前で角度を変え、なんとかみえないように努力しているが、とうてい隠せそうにもない位置に跡が残っている。
「じゃあさ、スカーフでもしてみるとか〜。案外似合うかもよ〜」
精一杯の提案のつもりだったのだが、案外そっけない返事が返ってきた。
「そんないかにも隠してますみたいなことできるかい。オドレ、責任とれや」
「せ、責任って?だって・・しかたないじゃないかあ・・」
だいたい最中に意識的にそんな器用なことが出来るほど、ヴァッシュには余裕などない。
ただ湧き上がる感情に流されるまま、といったのが現実だ。
ウルフウッドの鎖骨に、目をやるとうっすらと残る跡が確認される。自分には全く記憶がないが、どうやら自分が付けたらしい。
(ちっとも、おぼえてないや・・)
「うーん、なんだかわかんないけど、ごめんね、ウルフウッド」
すまなそうにあやまるヴァッシュをみていたウルフウッドが、意地悪く笑顔をつくった。吸っていた煙草を消し、鏡の前から移動する。
「まあ、ワイのテクにかかれば我を忘れるっちゅうのもアリやな」
「へぇ?な、なにゆってんの?」
真っ赤になったヴァッシュは、慌ててベットから降りようとした。それをウルフウッドが押しとどめる。
「まあ、そんな慌てんなや。隠さんでもええんやで?神は全ておみとおしなんや」
「隠すって、なにをさ」
すると、自分の鎖骨をちょいちょいと指差してみせた。
「これや。自分のつけた跡に欲情してんのやろ?ヴァッシュ」
「ばッ・・ばかじゃないの?そんなことないよ!そんな・・」
「素直やないなー。まあええ。どっちにしろ、”おかえし”はしたらんとな」
そういって、間髪いれずにヴァッシュの首筋に唇を当てた。
「ちょ、ちょっとぉ!!いたい、痛いってば!!なにしてんだよ〜!!」
「じたばたすんな、ちょお待っとけって」

数分後。ヴァッシュの首筋にはくっきりと赤いあざが出来ていた。ベッドに座っておいしそうにタバコを吸うウルフウッド。鏡の前で泣きそうになって首をさするヴァッシュ。
「・・・・これじゃ今日外にはでらんないよ・・。保険屋さんが来たらどうすんのさ・・」
「ほな今日は一日ここで二人っきりですごそうやないか?それもいいやろ」
「・・・あのねえ・・」
そういいながらもちょっとだけ、うれしく思ってしまった自分がいることは、この牧師には永遠の秘密。
牧師としても、二人きりで過ごそう、と言った時に心拍数が上がっていたことは、この人間台風には永遠の秘密。


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