| マイホーム |
| 最後の太陽が地平線に消えようとしていた。 乾いた大地に、燃料切れのバイクを押し続ける男が一人。 以前は巡回牧師を名乗っていた。 ニコラス.D、ウルフウッドと呼ばれているその男……。 現在は、とある田舎町の牧師を勤めているのだが、教会に住むことはせず、どこからか毎日通ってきているらしい。 しかし、住所を尋ねて聞き出せた者は未だに居ない。 娯楽の少ない田舎のコト。 善良な村人からの、興味津々の取り調べにも動じることなく、毎日どこからともなくやって来て、そして、どこかへと帰るのだった…… その日、男は隣町の有力者の娘の結婚式に招待されていたのだが、突然の破談でいきなりヒマになってしまった。 隣町とは云え、離れている上に、盛大に5日間は祝いをすると招待した手前なのか、娘の親にはゆっくりするように勧められたが、面倒なので辞退したその男。 用意された礼金には、迷わずに手を出し、揚々と町を出たのは朝早くのコトだった…… 「なんでこないコトになったンやぁ! 信じられへンでぇ!」 「こないに信心深いわいを見捨てるンかぁ!?」 誰の目から見ても、過酷な状況だというのに、かれこれ3時間近くもこの調子である。 「コレは、きっと神サンが、幸せすぎるわいに嫉妬しとるンやぁ! そ〜に違いないッ!!」 「…………」 何度も頷いているせいで、歩みが止まる。 「だぁ〜〜〜ッ! こないになるンやったら、5日くらい我慢しとったら、良かったンかぁ!?」 「アカン。そんなンしたら……、5日ヤ云うて出てきたけど、寂しがり屋のアイツのっこちゃ……」 「わいのコトを心配して病気になってまうかもしれへン。食事も喉を通らンなって、衰弱してまうで……」 段々、声が小さくなる。遠目には判りにくいが、握り拳が震えているらしい…… 「そいで、わいは、冷とうなったアイツを……。そんなンイヤやでぇッ!!」 突然叫びだしたかと思えば、肩を落としてぼやき始め、また叫び始める……。 (そんな様子は、遠くに見る分には面白いけれど、身内には欲しくないかも……) 「やっぱり、ハヨ帰ろ」 さすがに疲れてきたのか? 少々、疲れた表情で呟く。 (先程から、突然暴れたりしているせいで、何度も歩みが止まっているのだが、それらは計算外らしい……) 力強くバイクを押し始める。 その影は、その後1時間くらい伸びたのだった……。 寂れた郊外…… 暗闇に、数少ない窓を形取った灯りが見える。 それを遠くに見ながら、疲れのせいか、無口になった男が口の端を歪める。 (笑っているらしい……) 生活してゆくには、不便極まりない場所。 極めつけに、かつて住んでいた一家が揃って、通り魔に惨殺されたとあっては、買い手もつく筈もない……そんな一軒家。 勿論、周囲に僅かに並ぶ建物も全てが廃屋…… 全てを承知の上で、しかも、大いに値切った買い手が住み着いて、1週間ほどが経った…… 「やっぱり、『我が家』ちゅうンはエエなぁ〜〜」 「『お帰り〜』云うてくれる可愛いハニーがおって……。勿論、ダーリンはワイ……」 目的地が目前のせいで安心したのか、先程までの独り言が再び始まる…… ニヤけた表情を隠すこともなく、一応は軒先にバイクを置いて、扉に向かう。その足取りは当然の様に軽かった。 しかし、…… 「ン? ナンでヤ!? これだけ、存在感のあるわいが帰ってきたのに、出迎えがナンで無いンや!」 扉に手を掛けたまま立ち止まる男。 『存在感』以前に、煩いまでの独り言で、周囲に自己主張して回りそうな男だが……普段は決してこうではない。 普段は……口数は少なくはないモノの、鋭利なナイフを連想させる男なのだが……その筈だったのだが…… (人生には色々あると云うことである……多分!?) 「まさか……なンぞ、あったンか?」 いつものクセで、懐に手を入れる。 馴染んだ鉄の感触。確かめるようにしっかり掴んで、静かに扉を開いた…… 「? ……ナンにもないやン?」 室内には、荒らされた気配もなければ、事態が急変した証拠も発見できなくて、肩の力が抜けたらしい。 「……」 「ちょ、ちょっとぉ! それは、止めてよぉ!?」 「……なんやぁ?」 奥の部屋。 シャワールームのタイルに反響している声が聞こえたのは、そんな時だった…… 「もぅ〜〜〜〜! ナンで、云うこと聞いてくれないの!!」 困ったような台詞。 シャワーの水音にかき消されることの決してない、耳に馴染んだ声。 それらに、楽しんでいる響きが含まれているのに、安心する反面……焦り始める。 近くにあった椅子を避けることもせず、蹴り飛ばして一直線に奥へと急ぐ。 『ナンでやねン! わいが留守なンを狙って、誰ぞ連れ込んだンかぁ!? 否、ハニーに限ってそないなコトは……!?』 声に出すことはなく、焦った心情そのままの表情で、シャワールームの扉を開けた、その男。 頭に血が上っているせいか、中の様子を確認するとか、相手が何人……とか、ナニも確認しないままの行動。 全てがらしくないコトに、本人は気が付いていない。 「どーいう、こっちゃねン!」 勢い良く開けたカーテンの向こうには、ズブ塗れの痩せこけた犬が一匹。 そして、それにシャワーで水を掛けていたらしい青年。 同じくズブ濡れのままの姿でポカンと口を開けて立ちつくしていた…… 「どーいう……って? ああ! もうッ!? またぁ〜」 全身で身震いをして、その存在を自己主張する犬。 カーテンのお陰で、かろうじて濡れずに済んだ男が、先の奇声の理由を見つけたのか、全身から力が抜けたのが遠目にも判る…… 「あ〜あ……、で、どうしたの?」 シャワーヘッドから零れる水を止めながらも、呆然とした表情には変わりない。 「あと3日は掛かるんじゃなかったの?」 心なしか不機嫌な声が続く。 突然の同居人の帰宅……それは良いとして、いつまでも、拳銃を突き付けられたままの状態。 これで、上機嫌の人間がいたら、その方が心配されて当然かもしれない……? 「予定変更ヤ」 開き直ったらしい男が回りを観察し始める。 痩せこけた犬。ズブ塗れなのは、水洗いのせい? そして、シャツ一枚姿の青年は、それを洗っていた……と、云った所らしい。 濡れるのを嫌ってなのか、見覚えのあるシャツの下には、珍しく半ズボン姿だった。 素足を見やりながら、コレまでの課程を想像していた男。 「ふ〜〜ん。良いけど、いい加減、その銃しまって貰えない?」 「スマンスマン……」 不機嫌の理由を拳銃のせいだと思い当たったらしい男は、慌てて銃を懐にしまう。 「じゃコレで拭いてあげてよ。キッチンにミルクを用意してるんだ……」 「はぁ?」 空いた腕にいきなり、タオルにくるまれた犬を渡された。 暴れようとする身体を、落とさないようにそっと抱え直す。 痩せこけた骨と皮だけの感触に、気味悪いモノを感じて、無意識に力が入ってしまう。 「じゃ、僕は濡れたついでにシャワー浴びるから……」 「な? ちょ、ちょっとぉ? 待ってぇヤ! どないしたンや!?」 いきなり、蹴り出されるように、シャワー室から追い出されてしまった。 室内からの水音は、質問に対する答えを拒否している証拠なのか? 「ま、エエわ。夜は長いンやさかい……」 誰に聞かせるでも無いのに、云ってみせる男。 仕方がないので、云われたままにキッチンに向かうのだった…… 「じゃ、お休み」 濡れた髪をタオルで拭きながら現れた青年は、ワザと男を避ける様に、室内を大回りして階段へと向かおうとする。 「ちょ〜待てヤ」 その行動を読んでいたのか、それとも、単なる勘なのか? 男の反応は素早く、云い終わらない内に、その腕を掴んでいた。 階段の手前。自分の方へと、その逃げ腰の身体を引き寄せようとする。 「なっ!? 離してってば!」 取り戻そうとした腕だったけれど、逆に男の腕の中に取り込まれてしまう。 「ナニ怒っとるンや?」 わざと耳元に息を吹きかけられて、身体が強ばるのを隠すことが出来ないらしい。 体格的にも優位な男が、全てを計算の上で、緊張した身体を逃げられないように壁へと追い込んでゆく。 「怒ってなんか…ないよ。ちょッ……やッ!」 耳朶を噛まれて、つい、小さい悲鳴が上がる。 慌てて口を塞ごうとしたけれど、反対の手まで掴まれて、歯を食いしばるしか出来なくなってしまった青年。 悔しげに見上げる瞳が潤んでいて、余計に男を興奮させていることには、未だに気が付けないらしい。 「云うコトあるヤろ?」 「……。そ、それは……」 「吐け……ちゅうとるンや」 嘘を許さない真剣な表情に、小さなため息が零れる。 「『犬飼っても良い?』かなぁ?」 「ちゃうて」 目線を外しての台詞。 視線の先には落ち着いたのか、寝入った先程の犬…… 「コッチを見ンかい」 「……」 「ちゃうンやろ?」 視線を合わせられないのは、嘘を付いているときの癖。 云い当てられてから、注意するようにしてきた青年なのだが、そうそう直るモノではないらしい…… 「やめ……ン」 壁に押し付けられて、身動きを封じられた身体に、男が自分の熱を露骨に押し付けてくる。 「も……ヤ、止めて……よぉ」 「イヤや」 キッパリ云い切った男が、益々、大胆に青年の身体を探り始める。 「ナンでヤ? 出がけは、あないに可愛いかったやン? ナニを怒っとるんヤぁ?」 際どい所を攻めながらも、質問は続けられる。 「『もっとぉ』なんて、珍しいにおねだりまでしてたヤん? あないに、可愛い子ちゃんやったのになぁ〜〜」 「あ、アレは……君が……」 「せや。欲しがったンは、ワイヤで。……せヤけど、応えたンはお前ヤで……」 「ち、違……ぁう……ったら」 「違わへンて。なぁ? ヴァッシュ……」 ワザとアノ時にしか呼ばないトーン。 「……もぅッ! ……君には敵わないなぁ」 奥の手を出されて、完全な敗北を認めたらしい。 「せヤで、やっと判ったンかいな……」 自信満々の笑みには、青年は苦笑で応える。 「……」 「で、ナニが原因や?」 「だって、君、僕が寝てる間に行っちゃったじゃない……」 「……そう云えば、せヤなぁ」 起こせば、無理を押してでも起きて見送ってくれるのは安易に予想できた。 しかし、ムリをさせた自覚もあったので、ワザと起こさずに出発した男なのだが…… 「それが、どないしたン?」 頬を赤くしたまま睨み付けてくる、腕の中の存在を確かめるように抱き直しながら、続きを促す。 「だって『行ってらっしゃい』云ってない……」 「……はははははは」 「ど、どうしたの? ねぇ!?」 壊れた様に笑い出した男に、不安を覚えて問い掛ける。 けれど、返事は無い。只、抱きしめてくる力が強くなるばかりだった。 「ちょっと?」 腹を抱えるように笑い出した男。 それを不安げに覗き込む表情は固い。 「ねぇってば! どうしたんだよぉ!?」 「はぁ、ダイジョーブやてぇ〜はぁ〜〜」 落ち着いたのか、大きなため息をついて、男が顔を上げる。 その表情は、異様に明るい。 「本当にぃ〜?」 「ホンマやて」 「じゃ……そう云うことにしておくよ」 口で勝てない相手なのは、身をもって知らされているので、そうそうに降参したらしい…… 「ほな、云うで……」 「へ? ナニを?」 不敵な表情でいきなり切り出されて、対応が遅れてしまったらしい。 大きく目を見開いた表情に、イタズラ心を擽られたのか、男がクビを傾げて鼻先を舐め上げる。 「ン! ……もうッ!」 脱力した身体を、逞しい腕が抱きしめる。その仕草は限りなく優しい……。 「ただいま」 「……うん。お帰り」 少し遅れての台詞は、短いキスの後だった…… |
ウルフウッドかっこいい!ヴァッシュかわいすぎ!!
無理やりリクエストして書いていただいた新婚さん小説です。
みなさん、タンノーしてくださいませね。