| なかよくしようね。 |
| 手には大きな紙袋に入ったドーナツ。そしてあふれんばかりの笑顔。 これが、ヒューマノイド・タイフーン。ヴァッシュ・ザ・スタンピード。 「これで、人間台風とかいうんやで・・詐欺やな」 「自分で名乗ってるわけじゃないんだけど・・僕」 「まあ、いいじゃないですかー。ドーナツ好きな台風さんがいても、ね!先輩!」 「さあ今日の宿に着きましてよ!ミリィも遊んでないでお仕事ですわよ」 「はあい、先輩!じゃあ、お二人はここで待っててくださいねー!」 「ちょ、ちょっと・・くっついてこないでよ!暑いんだからさあ・・」 「なにゆうてんねん、お前場所とりすぎや!そこはワイの場所やで!」 (ごめんなさいね、ダブルとツインしか開いてないっていうものですから) (くじ運強いってよく言われるんです〜、すいません〜) くじで運悪く負けてしまった二人は仲良く?ダブルベッドでおやすみ、と相成った。 それからまだどちらが壁側で寝るかで揉めに揉め、じゃんけんの結果、壁側がウルフウッド、床側がヴァッシュということにやっと落ち着いた。 「だいたいオドレがくじ引きでスカひいたのが悪いんやんけ!反省せいや!」 「だって、君が引けっていったんじゃないか!そんなに文句いうなら自分が引きにいけばよかったんだよ!もう、押さないでってば!!落ちちゃうじゃないかあ〜」 「落としたる!地獄の底まで落としたるで!!」 「わ、わ、わあああ!これ以上押さないでってばあ〜!」 思わずしがみついてしまった自分の手。その先には、ウルフウッドがいた。 「くっついてくんなちゅうたんは、オドレとちゃうのんかい!離せ、離さんかい!」 「ひっ、ひとでなしい〜!!ばかー!!落ちるってゆってるだろ!ぎゃあああ!」 ごん。 鈍い音がした。 「いっ・・イタタタ・・」 「大丈夫か?」 「・・なんか今頭に当たった・・イタイ・・」 「ああ、これが当たったんとちゃうか」 ウルフウッドの手には洋酒のちいさな瓶が握られていた。 じいっと見入ったそのあと、ぽつりと聞き返した。 「・・・なにそれ・・」 「なにって、瓶やん」 「そうじゃなくって、何でそんなとこに瓶があるって訊いてんの!」 「その目、ワイを疑ってるやろ・・。今落ちてきたんやで、そこのテーブルから」 指さされた先のテーブルには、飲みかけのグラスと、食べかけのナッツが散らばっていた。 寝る前にたしかウルフウッドが飲んでいたものだ。そういや酒場からこっそりくすねてきたとか言っていた。 「・・ちゃんと片づけてから寝なよね・・君・・」 あきれてしまったヴァッシュは、落ちてきたらしい小瓶を、テーブルに載せた。 「それをいうか、オドレが」 「なんだよ、僕はなんにも散らかしたりしてないよ」 「この、匂いはどうやねん・・ええ?」 「え、なに?」 ウルフウッドはヴァッシュの着ているパジャマに鼻を押しつけ、匂いをかいだ。 そして大きなため息をひとつ、吐いた。 「この甘ったるーい砂糖の匂いや。なんとかせえよ・・。だいたいワイは辛党なんや」 「それって、僕に甘い匂いが染みついてるっていいたいわけ?」 「根性も性格もなんもかも甘ちゃんやろ。」 かちんときたらしいヴァッシュは、ちょっとムッとした表情で言い返した。 「あ、そーゆう嫌味いうわけ!なんだよ、このエロ牧師!聖職者のくせにさあ!」 「ルールっちゅうもんは、破られるためにあるんやで」 「君の場合は教義でしょ!神様に怒られちゃうよ!」 ヴァッシュはウルフウッドの胸元にきらりと見えた鎖を思いっきり引っ張った。 「あ、あだだだ!なにすんねん、離せや!いだだだ!」 「僕は怒ると怖いんだからね!思い知ったか!」 「ええかげんにせえや、このトンガリ頭があああ!痛いやんけ!」 「自分が悪いんだろー!!エロテロ牧師!」 こんなばかばかしいやりとりが小一時間ほど続いたころ。 二人の部屋に近い、メリルとミリィはすやすやと寝息を立てていた所を起こされていた。 「・・・すいません。申し訳ありません・・」 「あんたらが悪いって言ってる訳じゃないんだよ。ただ、あの二人に言って欲しいんだよ」 この声は宿屋の主人だ。 「よく言い聞かせて来ますから、今日のところは許していただけますでしょうか・・。起きなさい、行きますわよミリィ!」 「ふぁい、先輩・・。」 よろよろと立ち上がって、怒りにふるえるメリルがいた。ミリィは、そのあとをふらふらとついていった。まだ半分は夢の中のようだ。 「まったく、あの男達はなに考えてんだか・・。子供じゃあるまいに」 宿屋の主人が、ぽつりと誰もいなくなった部屋でつぶやいた。 「やるやんけ・・トンガリの分際で」 「君こそ、ただのエロテロ牧師じゃないみたいだね・・」 男達は、息があがっていた。ふたりとも、体力を使い果たした後だった。 そこらじゅうに羽がとび、綿がとんでいる。机の上にあったナッツは全部散らばっている。飲みかけだったお酒も、コップの水もそのあたりにこぼれていた。割れているものも少しあった。 二人はじっとお互いの目を見て、手をどちらからともなくさしのべた。 着ているものもほこりまみれだったけど、手だけは拭いて握手しあった。 「ヴァッシュ・・」 「ウルフウッド・・」 周りには見えないけれど、星がまたたいていた。 友情の星がまたたいていた。 「はいはい、そこまでですわよ〜」 「こんばんわぁ、お二人しゃん・・むにゃ」 「ほ、保険屋さん?どうしたの? 」 「なんやこんな夜更けに・・。おねえちゃんらは寝とったんとちゃうのか?」 「誰のせいで起きてきたと思ってますの?ウルフウッドさん・・」 すごい形相でこちらをにらみつけるメリルの迫力に押されて、思わずじりじりと後ずさりをする。 「な、なんや・・何怒っとんねん。おい、トンガリ、なんかしたんか」 「わかんないよ。君こそなんかしたんじゃないの?」 「なに二人でこそこそしゃべってるんれすかぁ?うう・・」 ミリィが眠い目をこすりこすり、話しかけてきた。 「うー、静かにしないろ、めっ!ですよ・・」 そう言うと、おもむろに二人のまえに自分の親指をぐっとだした。 「ミリィ・・。あなた眠いのなら寝てきていいですわよ・・」 「らいじょーぶれす、はひ。せんぱい、私は起きてます!」 「ねえちゃん、眠いんやったらはよ寝てきた方がええで。なんやったら連れてったるわ。部屋どこやったかいな」 「牧師さん、やさしーんですねえ。うにぃ・・」 ウルフウッドは自分の肩にミリィの腕をのせ、メリル達の部屋へ連れていこうとした。 「ちょっと待ちなさい!そんなことで逃げるなんて、男らしくありませんことよ!大体、ミリィとあなたを同じ部屋で寝かせるわけにはいかないでしょう!!」 「え、ウルフウッド逃げるつもりだったの?なに、ずるいじゃない!」 ヴァッシュはウルフウッドって、優しいところもあるんだなあ・・なんてぼんやり考えていた自分が情けなくなった。自分は全然気づかなかったのがまた情けなかった。 「先輩、そんな人じゃないですよ。そうやってすぐ人を疑うのはよくないですぅ」 「どっちにしても、だめです!こんな男とふたりきりにさせるわけにはいきませんわ!ミリィの親御さんに顔向けできなくなりますわ!!」 「うーん、それは言えるかもねえ」 「ちょお待てや!トンガリ!お前までそんなこというんか!ワイらの友情はどこいったんやー!!」 「ぼくを置いて逃げようとしてたくせに!な〜にが友情だよ」 明け方。 宿屋の主人は眠そうな目をこすりこすり、ことの成り行きを見ていた。 男ふたりと女一人はまだなにか言い合っている。 そのそばで大きな女が寝息をすうすうとたてて寝ている。じつに気持ちよさそうだ。 金髪の男は、もうかなり疲れている感じがするなあ。 黒髪の男は、どこのうまれなんだ?訛りがきついなあ。 黒髪の女は、よく怒るなあ・・。さっきから怒りっぱなしじゃないだろうか? あ、あそこにころがってる灰皿・・この部屋の備品だよ、割れてるよ。 あとでちゃんと請求しないとねえ・・。安物でも器物破損は器物破損だよなあ。 ここは宿屋。 部屋の中はちらかり放題。 夜中から続く、ながいながい喧嘩に苦情はたっぷり。 宿屋の主人の顔色わるく、これでは健康が心配だ。 ほんとになにが運の尽きかわからない。 でもそれはしかたないのかもしれない。 人間台風・ヴァッシュ・ザ・スタンピードがいるところには騒ぎあり、なのだから。 「え?この喧嘩って、僕のせいなの?」 「まあ、騒ぎを起こすっちゅうトコは、看板に偽りなし!やんなあ」 「そうですわね・・」 「いつもそうですもんね!」 「・・・ええ?、みんなそう思ってるの?」 ヴァッシュ・ザ・スタンピード。 人類初の災害指定。 ヒューマノイド・タイフーン、ヴァッシュ・ザ・スタンピード。 彼の周りではいつもなにかがおこる。 |
4人の日常を書いてみました。オチもなんもないことに今気づきました。