銀河の中心、銀河連邦の首都星、惑星リュカーン。その中央部の大陸に位置する最大の都市カーンシティ。その中心街から少し離れた雑居ビルにその事務所はあった。
事務所の入り口には『万事引き受けます』そう記された看板がかかっている。そして、その看板にはこうも記されていた。『S・A・R・A』と。これが、銀河の中心系にて五本の指に入るという、何でも屋、サラ・カンザキとその相棒月夜の住まう事務所兼住居であった。そして、何時もだったら、静かな雰囲気に包まれているはずの事務所は、賑やかな来訪者を迎え、にわかに騒がしくなりつつあった。
「あら珍しい、いらっしゃい二人とも、貴方たちなら何時でも歓迎するわよ」
突然の来客を玄関まで迎えに行くと、この事務所の主、サラ・カンザキはにこやかに言った。彼女の前にいるのは、年の頃、十代後半の青年と少女。サラはこの二人の事を良く知っていた。何しろ自分の大好きな義父と、その伴侶の義理の息子と義理の娘なのだから。
「お久しぶりです、サラ姉さん」
二人のうち、先に挨拶したのは青年の方だった。その黒髪と黒い瞳、そしてその身に纏うどこか人をほっとさせる雰囲気は、彼の義父を思い起こさせる物だった。それを良く感じ取ったサラは家族とは血の繋がりではなく心の繋がりによってなるのだ、と、言う言葉を思い起こさせた。
「お元気そうで何よりです」
次に言葉を放ったのは、青年の傍らに佇んでいた少女の方だった。その自慢の長い紅茶色の髪と、そのハキハキとした言動と太陽のように輝く笑顔は、彼女の義母をどこか想像させる物だった。血は繋がっていなくとも長い間一緒にいると似て来るという言葉はどうやら嘘ではないと、二人の生きた実例を見つめながらサラは思った。
「ほんと、そっちこそ元気そうで何よりね、サヤ、カリン、ま、こんな所で立ち話もなんだから上がっていきなさい、コーヒーぐらいならすぐに出せるから」
言うとサラは、二人の答えを聞く前に背を向け室内に向け歩き出した。お邪魔します、と見事なユニゾンで言うと、二人は彼女の後を追い事務所の中へと入っていくのだった。
二人が通されたのは、何時も二人がサラに話を聞いてもらう、来客用のソファーのある部屋だった。二人が部屋に入ると、ソファーの上で丸くなっていた蒼銀の毛並みの猫、サラの相棒、月夜が二人の姿を認め、ふにゃ、と一声鳴いた。その様にクスリ、とカリンは微笑むと、月夜を抱き上げ頭を撫ぜてやる。
「何時もながら、可愛いわよね、アタシも今度猫飼ってみようかな」
月夜を何故ながら、ご満悦な様子で言うカリンに、彼女の傍らにごくごく自然な動作で座ったサヤが苦笑しながら言う。
「やめておいた方がいいと思うよ」
「何でよ」
「いつか拾ってきた、捨て犬の世話をしていたのは僕と義父さんだよ、義母さんと君とリュウは一週間で餌やりと散歩に飽きたじゃないか」
そう言うサヤの台詞には、長年の生活で積み重ねた苦労が滲んで見えた。
「じゅ、十年近く昔の話でしょ、それ」
「はぁ、何年、僕が君と付き合っていると思っているんだい、君の性格はお見通しなんだよ、君は変わっていないよ、本当に悪い意味でも良い意味でも、そんな君が僕は好きだよ」
言って、サヤは破顔した。
「ば、ば、ば、馬鹿、こ、こんな所で何、言ってるのよ、恥ずかしいじゃない」
顔を真っ赤に染めながら言うカリンだったが、その顔は何処となく嬉しそうな物だった。そして、真っ赤な顔のまま、カリンはサヤの方を向き何か、言葉を紡ごうとした時、彼女は視界の片隅に二人の成り行きを興味深そうに見守っている、サラの姿に気がついた。
「サラ姉、いつから、そこに」
「んっと『十年近く昔の話でしょ、それ』の辺りからかな」
言って、サラは、にやっと笑った。
「う?ん、意地っ張りのカリンも、とうとう素直になったわけだ、何時から付き合ってるわけ」
にこにこと、我が事のように嬉しそうにサラが問う。その問いに答えたのは恥ずかしさのあまり真っ赤になってフリーズしたカリンに代り、サヤであった。
「ついこないだからですよ、やっと僕の方で思いきりがついて、やっと言う事ができました、これも色々と相談に乗ってくれた、サラ姉さんのおかげですよ、ありがとうございます」
「私は大した事はしていないわよ、ただ、貴方の話を聞いてあげただけ、ま、貴方達はパパの息子であり娘なんだから、私にとっても、貴方達は弟や妹みたいな物なのよ、兄弟の相談に乗ってあげるのは姉として当然でしょ」
そう言うとサラは自分の抱えていたお盆からコーヒーカップを三つ机の上に置いた。
「で、今日、私の所にきたのはこの報告の為なの、何か頼みたい事でもあるんじゃないの」
少し、真剣な顔をしながらサラが問うと彼女の瞳を見つめ返しながら、サヤはコーヒーを一口口にすると、ここを訪ねた本当の理由を語り始めた。
4
そこは銀河の片隅の、と、ある小さな惑星の小さな街に存在した。そこは地域に舞い込むありとあらゆる厄介事を解決する万屋のような所だった。経営者本人は、その、万屋という呼び方を田舎くさい、と言い“アタシは探偵なの”と、常日頃から言っていたが、街の住人からして見れば、呼び方が違うだけで、そこは厄介ごとを片付けてくれる、万屋なのであった。だから、街の住人は何時も、そこを正式な名称ではなく、万屋と呼んだ。もう一人の共同経営者、先ほどの言葉を言った人物の、夫に当るその人が、その万屋、という呼び方をあっさりと受け入れている点が、地域の住人から、そこが万屋と呼ばれる一つの原因なのかもしれなかった。
「ふぁあ、平和だねぇ」
窓の外に広がるのどかな街の景色を見つめながら、街の人からは万屋の若旦那、と言われる彼はお茶をすすりながら、爺臭く言うのだった。
「平和なのは結構だけど、それって家の仕事がないのと、どう意義だって事、アンタ、気がついてる」
徐々に赤く染まりつつある帳簿を見つめながら、街の人から“万屋の奥さん”と呼ばれる彼女が少し不機嫌な面持ちで言う。
「蓄えには余剰が充分にあるし、問題ないじゃないか、それに平和は満喫できる時に満喫しておかないと、特に、平和な時代はね」
前半ののほほんとした口調が、後半の言葉を呟く時は、どこか実感のこもった物に代ってゆくのに、彼女は気がついた。そして、彼のその言葉が確かな経験に基づいた非常に重い物である事も彼女は知っていた。
「それは分かるんだけれどね、どうも、働かずに蓄えを食い潰していくだけの人生なんて、耐えられそうにないのよ、アタシとしては」
「そうだったね、君は何時も、子供たちに口を酸っぱくして言っていたっけ」
そこで、彼は一呼吸置いた。
「「働かざる者、喰うべからず」」
瞬間、見事にユニゾンしかぶる二人の言葉。互いに、互いの呼吸が読めるからこそ行える芸当だ、それは。二人は、若い外見をしていたが、滲み出るその雰囲気は長年連れ添った夫婦の様でもあった。
「と、それで思い出したけれど、家の三人の子供たちはどうしてるのよ、アンタの事だから、どうせ紐無しでは離してはいないんでしょう」
「ん、ああ、まぁね、アイツはしばらく頭を冷やす時間が欲しいって言ったから、通帳から幾ばくかの現金をアイツの口座に移して送り出してやったよ、最後に聞いた話じゃあ友達の経営しているサルベージ会社のサルベージ船に乗り込んだって話だけれど」
一番やんちゃな、長男坊主の顔を思い出しながら、言う彼。
「ふ?ん、で、あの二人は?」
「結構、アイツが出て行ったことがこたえたみたいで、アイツを探してもらうんだって、僕の言葉もろくに聞かずに飛び出して言ったよ、あの娘は思い立ったら止まらないからね」
言って、彼は苦笑した。本当に誰に似たんだか、喉元まででかかった、そんな言葉を彼女の気がつかれずに飲み込む点で、彼と彼女の付き合いがいかに長いかを教えてくれる。
「で、もう一人のあの子は、彼女に引っ張られていったわけか、あの子、妙に昔のアンタに似ていない、やっぱり血の繋がりがなくても、似る所は似る物ね」
言って笑う、彼女。対する目の前の彼は、心の内でただ一言呟くのだった。その言葉、あの娘と君に、そっくりそのまま返すよ、と。
「そう言えば、籍を入れるとき、あの娘の籍だけ碇姓でなくて、ラングレーにしていたけれど、こうなる事、読んでいたの」
ふと、長年の疑問に思い至った彼は、思い切って彼女にそう聞いてみた。あの娘の籍をラングレー姓にする事を主張していたのが彼女だった事を思い出して。
「クス、あの時はほんの軽い冗談だったのよ、そうなったら親として、少し嬉しいなって思ってだって、あの娘は昔のアタシに良く似ていたから、だからアタシの分まで幸せになって欲しかったのよ、でも、この十年で冗談は予感に予感は確信に変わったわ」
彼女は何時になく真剣な面持ちで、彼を見つめながら言う。対する彼は寂しそうに微笑みながら問い返す。
「って言う事は、今の君は幸せじゃないって事かな、ちょっとショックだな」
「ばか、誰が今のアタシが幸せじゃないって言ったのよ、幸せじゃなかったのは、昔のアタシ、今のアタシは・・・・・」
それ以上、何も言わず、彼女は彼の胸にその体を預ける。柔らかなその身体を抱きしめながら、彼は小さく、ごめん、と言った。
「ホント、ばかなんだから」
小さく耳に響く、彼女の言葉が今の彼の耳には非常にこころよく響いた
ゆっくりと重なりかけた二つの影、だけれども、その穏やかな瞬間は、一本の電話の着信音により打ち破られる事になる。瞬間、彼は苦笑し、彼女は不機嫌になった。そして、不機嫌な面持ちのまま彼女は通話のためのボタンを押す。そしてビジフォンの画面に現れたのは、二人の古くからの友人の顔であった。
「久しぶりだね、でも、その顔からすると思い出話に花を咲かせている場合じゃなさそうだね」
二人の古い友人、カリン・D・バークライト情報局長官が真剣な面持ちのまま首を縦に振った。
5
「ふむ、事情は大体理解したわ、ま、こんな事が発生するんじゃないかって事は、五年位前からは予想していたけれどね、ま、どっちが家出するかって所までは予想できなかったけれどね」
自分の弟分と妹分から話を聞いたサラは、にやり、と笑うと言った。そう、こんな事になるであろう事は数年前から予想ができていた。自分の義父の三人の養子、碇リュウ、碇サヤ、カリン・ラングレー、その三人から、それぞれ恋の相談を受けた時から。リュウとサヤからはカリンに対する思いを、カリンからは揺れる己の心の内を相談された時から、サラにはこんな日が来る事は予想できていた。
「それなら、力を貸して、サラ姉!!」
「結論から言うわよ、カリン、答えはノーよ、リュウだってガキじゃないわ、でもね、完全に大人って訳じゃないのよ、ま、この場合、大人だって割り切って考えるには時間がかかるでしょうね、いい、カリン、リュウは貴方が好き、それと同じくらいサヤも好きなんでしょうね、そして、貴方はサヤを選んだ、リュウはね頭を冷やす時間が欲しいのよ、貴方とサヤの事を笑って祝福できるくらい頭を冷やす時間が、わかってあげて、カリン」
言って、サラはじっと自分の妹分の瞳を見つめる。涙をため、子供のように泣きそうな顔をしているカリン、彼女のこんな顔を見るのはどれくらいぶりの事だろうか、そんな彼女の肩をそっと傍らにいたサヤが抱いた。
「カリン、サラ姉さんの言うとおりだよ、リュウにも時間をあげよう、僕にはリュウの気持ちが痛いほどわかるから」
そう、少しでも可能性が違えば、家出をしていたのは自分であったことをサヤは理解していた。痛いほどリュウの気持ちは彼には理解できていた。つい、何時もの様にカリンに引きずられてここまで来たけれども、サヤはサラに諭されるまでもなくリュウの気持ちをよく理解していた。
「・・・・うん・・・・、ごめんね、サヤ、わかってた半分、私の我儘なんだって、どうしても納得いかなかったから、貴方も大切だけれども、それとは違った形でリュウもまた大切だから」
「わかってる、わかってるからいいよ、カリン」
サヤは言いながら、カリンの背中に手を回し、ポンポンと二度ほど叩いてやる。
「独り者には目の毒よね、そう思わない、月夜?」
何時の間にやらカリンの膝から自分の膝にやってきていた相棒に小さく声をかけるサラ。そんなサラの言葉を気にした風もなく月夜は小さく欠伸をすると彼女の膝の上で丸くなった。
「あ?、貴方たち、そう言う事は、二人っきりの時にしたほうがいいわよ」
何時の間にやら二人の世界を形成しつつある、サヤとカリンに、そうサラは声をかける。弾かれたように距離をとり、頬を赤く染めて見せたのは二人がまだまだ若い証拠だろうか。
「ごめんなさい、サラ姉、なんか、アタシのせいで迷惑かけちゃったね」
「気にしなくていいわよ、カリン、わかってくれれば私は満足よ」
言って、サラはにやっと笑った。そんな、彼女に対しサヤが何かを言おうとした時、それは起こった。ビィビィビィ、と、言う警告音が事務所の内から響いてきたのだ。その警告音の意味するところを知るサラは顔色を変えた。それとほぼ同時に、サヤとカリンは顔色を変えた。カーンシティ中央部から放出されたあまりに強い力に当てられて。
「その顔色を見ると貴方たちも感じ取ったみたいね」
「サラ姉さんにもわかるって事は、さっきの警告音はAセンサーか何か?」
Aセンサーとは、エンゼルチルドレンが力を行使する際に放つ固有のESP波を感知する装置である。仕事柄、荒事が多く、エンゼルチルドレンと接することの多いサラは事務所にも警戒用のAセンサーを仕掛けていた。
「相手はここに侵入したんじゃないわ、この街の中央部で派手に力を使ったみたいなの、そのせいで付近のAセンサーが反応したみたい、並の力じゃないわよ、これ」
「厄介ごとね、全く、こんな日に厄介事が起こらなくてもいいのに、とりあえず現場に行ってみましょう」
サラの言葉に、二人は頷くと駆け出したサラの後を追い事務所から駆け出した。
6
彼女は戸惑っていた。多くの人がその街にいた。それだけでも彼女にとっては驚きだった。はじめて見る人の作った街、そして人々。その全てが彼女にとっては驚きの対象だった。そして、彼女は思う、何て煩いのだろう、と。街には雑多な音が溢れていた、それは人の声であったり機械の出す音だったりする。そして彼女がさらに煩いと感じたのが、街を行く人々から感じられる心の声、それが、彼女にとって最も煩いと感じたものだった。
「これが、人、か」
雑踏を歩みながら彼女は小さく呟く。呟きながら、彼女は微かに顔をしかめる。耳障りな雑音に頭痛を起こしながら。つい、先日、戦った青年の心はこんなにも雑音だらけではなかった。裏も表もあまりない、素直な純粋な心、それをあの青年は持っていた。あの、穏やかな心の声がどんなに素晴らしい物であったか、彼女は今更ながらに理解できた。
そんな事を考えながらふらふらと彼女が歩いていると、当然の事ながら彼女は人とぶつかってしまう。瞬間、彼女の頭の中に先ほどまでとは比べ物にならないほど大量の人の思考が流れ込む。それは、とても彼女には耐えられる様な物ではなかった。
「おい、どうした」
「消えろ」
寄りかかった男の心配そうな声も彼女の耳には届かない。彼女は無言のまま男の顔を見上げると自分の力を解放した。瞬間、柘榴の如く弾け飛ぶ男の体。血に塗れる彼女の体、巻き起こる喧騒、それすらも彼女には煩わしくて、彼女はより強く、より大きく、力を解放する。それが更なる殺戮を巻き起こす事を知りながら。そして、彼女が生み出す衝撃波とエネルギー波は確かな滅びをここ、カーンシティにもたらすはずだった。だけれども、破壊と滅びが振りまかれる寸前、希望が生まれた、彼女の生み出した破壊の力を何者かが外側から強引にフィールドで閉じ込めたのだ。
「誰、邪魔をするのは?」
「誰じゃないわよ、こんな街の真ん中で派手に力を使って、カーンシティをぶっ壊す気?」
そう言うのは彼女と同じ年くらいの栗色の髪の少女。その背に生まれている光の羽が少女も彼女と同じエンゼルチルドレンである事を教えてくれる。
「カーンシティって言うの、ここは、必要なデータじゃなかったから引き出さなかったから解らなかった、もう用はないし煩いから、この街と人は消すの」
言葉と共に増す彼女の力、一瞬、じりりと押される栗色の髪の少女、カリン。だけれどもカリンは少しも不安を感じていなかった。この世でもっとも信頼する青年が側にいるのを知っていたから。
「それは穏やかじゃないね」
声と共に、突然頭上から光の剣を振りかざしながら青年が降りてくる。瞬間、周囲への力の解放を止め自ら生み出した光の剣で、その一撃を受け止める彼女。力と力がぶつかり、激しい火花が巻き起こり生み出されたエネルギーの余波が周囲のアスファルトを焦がしてゆく。
一瞬、互いに距離を取る二人、でもそれは本当に一瞬の事、次の瞬間二人は、再度正面からぶつかり合い光の剣をぶつけ合う。激しく火花を散らしながら二度、三度と攻防を変えながらめまぐるしく二人は剣をぶつけ合う、まるでそれが初めから打ち合わせをされた演武の如く、見事に美しく。二人の戦いは殺し合いはそれほどまでに美しく激しかった。横薙ぎに振られたサヤの剣を彼女は見事な剣捌きで受け流すとお返しとばかりに近接したサヤに向け力を込めた蹴りを放つ、岩をも砕くその一撃を紙一重でサヤはかわすと再度、今度は上段から鋭く剣を振り下ろす。彼女は全くその一撃に驚いた様子もなく、自らの手の内の光の剣でその攻撃を受け止める。まさに実力伯仲した二人の、全く互角の戦いがそこでは繰り広げられていた
「なかなかやるね、でも、これなら」
どれほどの打ち合いが続いてからの言葉だろうか、サヤは右手に生み出した光の剣で彼女の光の剣を受け止めながら自分の左手にも力を集中する、瞬間、生まれる二本目の光の剣。同種の力とはいえ同時に二つの力を行使するなど並のエンゼルチルドレンにできる芸当ではない。この辺りが、特A級のエンゼルチルドレンであるサヤの強さであろう。そして、左手に生み出した光の剣が彼女を切り裂くべく振るわれる、だが、サヤが並のACでないのと同様、彼女もまた並のACではなかった。一瞬、驚いた顔をしたものの彼女はすぐに自分の精神を立て直すと、彼女もまた、今、光の剣を生んでいる手とは逆の手に力を集中する、瞬間、生まれる闇の刃。サヤの生み出した光の剣は彼女の闇の刃により受け止められてしまう。
「くっ、異なるカテゴリーの能力を使えるだって、反則だよ、それは」
事の重大さに気がついたサヤは急いで彼女との間に距離をとる。自分の身近に同様の能力者がいたおかげで彼には、目の前にいる彼女の危険性がよく理解できた。
「あなたも、邪魔をするのね、それだけの力を有しながら彼と同じように」
サヤをじっと見つめながら、ポツリ、と彼女が言う。その両手には、いまだ、彼女の力が作り出した光と闇の刃が煌いていた。
「いくらなんでも、街一つ吹き飛ばすって言うのは不味いからね、君こそ何故こんな事をする」
油断なく彼女を見つめながら言うサヤ、何時しか彼のそばに駆け寄ったカリンも同様の表情をしながら彼女を見つめる。サヤの問いかけに対し、一瞬の沈黙の後、彼女は言う。彼女の存在意義である使命の一部を。
「人に安寧と平穏、永遠の世界をもたらす為に」
「大きく出たね、で、君にその妄言を信じ込ませたのはだれだい、その考えを君に吹き込んだ者がいるはずだ、よくある悪党の台詞だからね、それは」
「理解、してもらえないのね、なら計画の邪魔になる可能性がある以上、あなた達を野放しにして置けないわ、消えなさい」
彼女が言うと、彼女の両手に宿る力の質が変化する、それは圧倒的な攻撃力を持つ“ラピュタの雷”そう呼ばれる、最上級ランクのACの攻撃。彼女の手に生み出された“ラピュタの雷”は狙いを外すことなくサヤとカリン、二人に向け解き放たれた。
「カリン、フィールドの力を前面に集中、この一撃、避けるわけにはいかない」
彼等の背後には普通の町並みが広がっている、そうであるが故に彼らは避けるわけにはいかない、彼らが攻撃を回避すれば、彼女が生み出した“ラピュタの雷”は間違いなく、無関係の人々が住む町並みを焼く事になるのだから。
「くっ、予想していたとはいえ、重いわねこの攻撃」
前面に展開したフィールドで彼女の攻撃を支えながら、小さくカリンが言う。二人は全力で持ってフィールドの維持、防御に力を裂いていたが彼女の使う力の攻撃力は並ではない、力をそらす事も反撃する事もままならぬまま、じりじりと二人は押されていった。
「くっ、支え、きれない」
限界を超える力を使っている反動により唇の間から血を零しながらサヤが言う。しばし後に来る破滅を意識しながら。だけれども勝利の女神は、彼女ではなくサヤとカリンに微笑む事となる。
影を介した空間転移を使い、一匹の猫が彼等の前に現れたから。その猫の名は月夜、千年の昔から人を見守り続ける女神の化身たる蒼銀の猫。その瞳が紅く染まった瞬間、月夜の前に巨大な擬似ブラックホールが生まれる、ありとあらゆるエネルギーを食い尽くすその黒い球体は、彼女が放つ“ラピュタの雷”の力を残らず吸収した。
「また、邪魔が入った」
前方にいる一組の男女と猫を見つめながら彼女は忌々しそうに呟く。そして、その独り言に答えるかのように場違いな明るさの声が彼女の耳に響く。
「そう言うこと、ホントはボランティアなんて柄じゃないんだけれど、この街を壊されるわけにはいかないからね」
声と共に引かれる引き金、何時の間にか彼女の側面にいた女性、サラの攻撃が彼女の肩をかすめる。彼女は自分がかなり不利な状況にあることを悟った、これ以上ここに居ても、得る物がないことがわかる彼女はいったん退却する事に決めた。
「ここはひかせて貰うわ」
言葉と共に彼女はその手に一つ光を生み出すと、その場で握り締める。瞬間、眩い白い光が三人と一匹の網膜を焼く。三人と一匹の視力が回復した時にはすでに、そこに彼女の姿はなかった。
「ふう、ひいてくれた、みたいね」
先ほどまで彼女が居た場所を見つめながら、サラが小さく呟く。そんな、彼女の側に二人と一匹は駆け寄ってくる。
「サラ姉、大丈夫?」
「それはアタシの台詞よ、あの凄い威力の“ラピュタの雷”を真正面から受けていたみたいだけれど、怪我とかはない?」
サラの言葉に二人は無言のまま首を縦に振った。
「それにしても、あの娘は一体・・・・」
「わからないわ、でも、十数年ぶりにこの銀河に何かが起ころうとしているのは確かみたいね」
サラの言葉が、重い響きとなり、ただその場に響き渡った。
多くの人間にとってのハジマリは、このカーンシティでの特A級のエンゼルチルドレンの戦いからであった。人的な被害は数人ほどですんだとはいえ、銀河連邦政府の首都星リュカーン、その最大都市であるカーンシティで激しい戦いがあったという事実は変わらないのであるから。
だけれども、これが銀河系最大の危機のほんの序曲に過ぎない事は、ほとんどの人間は理解していなかった。だけれども、僅かな数であるが何か事が起こりつつあることを理解する物が居た。
一人は老女、銀河連邦政府情報局長官、カリン・D・バークライト。
一人は女性、銀河でも5本の指に入るエージェント、サラ・カンザキ。
一人は青年、重力井戸よりあらわれし魔女と最初に戦いし者、リュウ・イカリ
一人は青年、カーンシティを守った知られざる英雄、サヤ・イカリ。
一人は少女、カーンシティを守ったもう一人の英雄、カリン・ラングレー。
そして、千年の長きにわたり人類を守護せし者、知られざる英雄、シンジ・イカリ。そして、その伴侶たる女性、アスカ・イカリ。
この人物達を中心に、この物語は紡がれてゆく。まるでそうなる事がはるか昔から決められた運命であるかのように。
そう、千年前のあの時、この物語の始まりが義務付けられていたかのように。
後書き
はい、嘘つきのJ-wingです。
前回の後書きであの二人の登場は随分先って書いちゃったのに、出ちゃいました。もっと勿体つけてから、もう五回くらい後に出す予定だったのに、僕の中に居る二人は、僕の予想以上に元気で勝手に物語にしゃしゃり出てきて、あっという間に出番を作ってしまいました。
とは言っても、どっちかって言うと新登場のお二人さん、サヤとカリンのほうが派手に目立っているんですけどね。サヤとカリン、そしてリュウ、この三人がどんなラブコメというか恋愛模様を繰り広げたかに関しては、後日別の物語として書きたいんですけれど、書ける日は来るんでしょうかねぇ(とほい目)
ま、お気に入りの三人ですから、場所を用意してある程度のプロットを造って放り込んでやれば勝手に動き出すんでしょうけどね(苦笑)
次は多分、リュウメインで物語を描く事になると思います。もし、お付き合いいただける奇特な方がいらっしゃるんでしたらどうぞ、お付き合いくださいな。
それでは次のお話の後書きでお会いしましょう。