世の中の全てが光に包まれる事などという事はありはしない。
必ず、世界のどこかには闇が存在し、そこでしか生きていけない物が多数、その中に住まう。
そして、闇の中で蠢き何かをなそうとする。
決して、それは光の中で認められるような事は滅多に無いような事ばかりだったけれども。
そして、西暦2017年、この時にもまた、闇の中で蠢いていた。
粗悪で、醜い陰謀を企てながら。
彼らよりも強大な、幾つかの存在は、彼らの粗悪な計画に気が付いていた。
紅き魔女も、老人達も、過去を追う者達も、皆気が付いていた。
気が付いていたけれども、知らぬ振りをしていた。
彼らが行動を起こした時、彼らの目標たる人物の側に佇む青年はいかに動くか非常に気になっていたから。
準備が整うのが近いが故に。
所以に、彼らの粗悪な計画は誰にも邪魔される事無く実行される事となった。
彼らの名を"アタナシウス"と言う。
セカンドインパクト後に生まれた、キリスト教の最右翼の分派である。
彼らは知らない、自分達が道化者のダンスを踊る羽目になる事を。
そう、知らない……
永遠の時の果てで
第五部
別れの曲が響く時
第三十二話
アッチェレランド
世紀末に起きた大惨事、セカンドインパクト、それは世界中に多大な被害を与え、多くの人々の命を、住む家を、希望を奪った。
それだけなら良かった。
人は不安定な生物である、決して一人では生きていけないし、その身にあまりに巨大な物が迫った時、萎縮し、脅えるしかなす術はない。
そんな時、人は信じる物を求める。信じる物さえあれば、人は何だってできるのだから。
そう、何だって……
セカンドインパクトは起きた時期が世紀末であった、これがなおの事人々の心に不安の種を植え付けた。
これは聖書に書かれた黙示の時ではないのか、終末の時ではないのか。
そんな想いが人々の心を包み込んだ。
そして、様々な新興宗教を生み出し、大きく成長させるための土壌となった。
ここに一つの統計がある。
西暦2001年次における、新興宗教の法人登録数、それは前年度の十倍近い数値になっていた。カンドインパクトの混乱の時を脱していない時の物でありいささか信頼にかけるが、それでも、この統計は人々が不安に脅え、信じる物を求め宗教に走ったという事を端的に示していた。その、西暦2001年度に法人登録した宗教団体の一つ、それが"アタナシウス"である。
古代のキリスト教の聖人の名前を冠した名称が示す通り、キリスト教系の新興宗教団体の一つである。
彼らの主張は過激だった、セカンドインパクトは神が地上に向け放った恩寵である。
人々は謹んでこれを受け入れ、これから起こる様々な奇跡としか言い様の無い事を受け入れよ、それが叶った時、我らは神の国で苦しみも迷いも無く、心を一つにして、争いの無い世界で生きていけるだろう。
そう、彼らは唱えた。
全てを受け入れろと、第三新東京市を襲った"使徒"彼らはその名の示す通り、神の使者であり"使徒"である。人類は彼らを受け入れるべきなのだ。
彼らのもたらす滅びを。
それが彼らの主張。
しかし、歴史が示す通り、それが受け入れられる事など無かった。
"使徒"は全て滅ぼされ彼らの言う"神"の恩寵が世に受け入れられる事も無かった。
彼らは求めた、その事実を受け入れたくないが所以に。
彼らの望みが叶う術を、そして、その想いは彼らの行く道をより過激な方へと走らせる事となった。
そう、より過激な方向へと……
シャーシャーシャー
セミの鳴き声が耳に響く。
数年前までは一年中聞こえた、命の歌声。
限りある命を燃やし尽くすかのように、彼らは鳴く。
己が命の全てを駆け、次の世代へと命を紡いでいくために
。
鳴く、ひたすらに。
そんな彼らを見つめながら、シンジは淡く微笑む。
青い青い空が彼の頭上に広がり。心地よい風が彼の頬を優しくなぜる。
そして、彼の側で漂うほのかな甘い香。
彼の方に身を寄せ安心しきった表情で眠る少女が一人。
ちらりと、少女〜アスカ〜のそんな表情を見て、彼の微笑みがより優しい物に変わる。
昼休みの一時、だれも訪れる事の無いこの屋上の一角は彼らの指定席。
無粋なチャイムの音が鳴り響くまで二人は寄添い、暖かな時を過ごした。
シャーシャーシャー
セミの鳴き声が響く。
しかし、そこに居る人物はただそれをうっとおしそうに眺めるだけ。
シンジのように、その命の歌を聴くわけでもなく、顔をしかめるだけ。
同じセミの声を聞いているのに、どうしてここまで違うのだろう。
彼は監視を続ける。
命の歌を聴きもせずに。
ただ、監視を続ける、学校の屋上で小さな幸せを満喫する少年少女を。
歪んだ眼差しで。見つめ続ける。
彼らが地獄の業火で焼かれるまで、その眼差しが写る事はない。
そう、それが彼に神から与えられた使命なのだから。
だから監視を続ける。
神の使徒を、恩寵を滅ぼした彼らを。
許せる物か。
焼き尽くすまで、神の炎で彼らを焼き尽くし、地獄に陥れるまで。
そう……
数日後
数日前から幾つかの視線をシンジは感じていた。
昔の彼だったら決して気が付かなかったはずの視線。
いや、普通の世界に暮らしている者なら決して感じる事のできない視線。
だが、今のシンジは違った。
二年ほど前から、ずっと普通の世界から半歩以上はみ出た世界で暮らしてきたのだ。
その視線に、その危険性に、彼は直ぐ気が付いた。
保安部の方も動き出しているらしい、一毛打尽にするといった所か。
そう、彼は考えている。そして、今隣で微笑んでいる少女だけには絶対に危害を及ばせない様にするつもりである。
それが誓いなのだから。
二年前、自分に課した、誓い。
「どうしたの、シンジ」
シンジの思考は隣の少女のそんな声により中断される。
少し心配そうな表情の少女に向かいシンジは微かに微笑みかける。
「ちょっとね」
「むぅ、何よ、このアタシに隠し事をしようって言うの、バカシンジのくせに」
頬を膨らませながら言う彼女。
そんな、幼い所を見せてくれる彼女が彼にはたまらなく愛しく、可愛らしく思える。
「酷いなぁ、まだ、バカシンジなの僕?」
「そうよ、シンジは、いつまでも、アタシのバカシンジなんだから」
笑顔が弾けた。
まぶしい笑顔が。
彼の大好きな少女のまぶしい笑顔が。
そう、僕はこの笑顔を護りたいから。
だから、僕はこの力を使う。
たとえ、この力の所為で君から恐れられたとしても、僕は戦うよ。
一人よがりな、勝手な理屈だとは思うけど。
それでも、君の笑顔が、君の声が、この世から消える事を思えば。
ずっと、ずっと良いから。
だから、アスカ、この一瞬だけでも良いから、僕に夢を見させて。
目覚めたら、消えてしまうような儚い夢かもしれないけれども。
それでも……
嬉しかったんです
彼女の笑顔が僕に向けられている事が。
彼女が側に居てくれる事が。
弾けるような笑い声を聞ける事が。
直ぐ側で彼女の温もりが感じられる事が。
アタシのばかシンジって、いってくれる事が。
たまらなく、たまらなく。
嬉しかったんです。
そう、たまらなく。
愛しく、愛しく想う彼女が側に居てくれる事が。
微笑んでくれる事が。
僕の名前を呼んでくれる事が。
ただ、それだけでも嬉しかったんです。
彼女は、僕の希望です。
僕は……
弾ける想い。
それが彼の永遠とも思える旅の源泉。
その想いがあるからこそ、彼は生き続けた。
見たかったから。
笑顔が。
聞きたかったから。
声が。
呼んでほしかったから。
名前を。
温もりを感じたかったから。
だから、だから
彼は。
彼は………
儚い想いに身を委ね、さまよう。
微かな希望を胸に抱きながら。
幾つものモノリスがその場所に浮かび上がる。
彼らは高らかに、宣言する。
「時は近い」
「さよう、再び世界を」
「全ては人類のために」
「我らの望みを」
「叶えるのだ」
一つ一つモノリスが浮かび上がるために宣言は高らかになされる。
「我らが邪魔をする物に、死を」
「寄り代に、絶望を」
声が響く。
シンジの思いとは別に、絶望を求める声が。
ゼーレの評議員達は気づいていない。
最後に言葉を放った人物が、もうこの世に居ない事を。
彼らが気が付かぬ内に、彼は殺され、灰となった。
死者が声を発する事はない。
ともすれば回答は一つだ。
入れ替わったのだ。彼女と……
誰も気が付いていない。
彼らが魔女の手のひらの上で踊っている事を。
陰謀論者が聞いたら、それ見た事か、と狂喜乱舞する事実だろう。
だが、それを知る物は、彼女のみ。
今、魔女の哄笑が高らかに響き渡ろうとしていた。
「解き放つのだ、我らの願いを叶えるために」
「新たなる、エヴァシリーズを!!」
高らかな声と共に映し出される映像。
それは大事のように身を丸め、眠る白い巨人の姿。
爬虫類のような頭を持った、絶望を運ぶ白き天使。
白い顔には巨大な口があるだけで、瞳は見当たらない。
いや、見当たらないのではない、閉じられていたのだ。
瞳が見開いた。
それは、血のように赤い、紅い瞳だった。
魔女の嘲弄の声と、老人の歓喜の声。
それと共に最終幕の幕は開ける。
鳴り響く、別れの鐘の音と共に……
To be continued
後書き
どうも、J−wingです。
永遠の時の果てで最新話、ここにお届けいたします。
四部を書き始めていた時、もくろんでいたシーンにようやく辿り着けそうです。
かかった時間はほぼ一年、まさか僕もこんなにかかるとは思ってはいませんでした。
少しずつですが、一部から三部まで書き上げていた時の、執筆速度が取り返せるように頑張るつもりです。
これからもどうぞお付き合い下さい。
それでは、久々に予告編をお届けしたいと思います。
予告編
動き出す粗悪な陰謀。
それは新たなる悲劇への前奏曲
千年の後へと続く悲しみの始まりなのか
煌く星の光の中、天使の子供たちの戦いは始まる。
そして、一つ、また一つと少年の手からは零れていく。
次回
永遠の時の果てで
第三十三話
ノクターン
「神様なんて、いや、しないよ」
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