夢を見た。
何度も繰り返し、繰り返し見た夢。
そう、あの日の夢を。
忘れられたくても忘れられない夢を。


 

 


ずっと、僕は一人だと思っていた。
他人のことには無関心だったし、いつ、自分が死んでもかまわない、そう思っていた。
でもね、君を好きになった時から、僕は変わった。
死ぬのが怖くなった、何故だか、そのときの僕には分からなかった。
分からないまま、死と言う物に脅え続けた。
その想いを本当に理解したのは、あの日あの時、君を抱きしめた時だったからだった。
僕は君に逢えなくなることが、眩しく輝く君を見られなくなることが怖かった、そう気がついた。そして、僕はもっと怖いことに気がついてしまったんだ。
それは、君が死んでしまうこと。
だから、僕は………僕は………


 


『ねぇ、アスカ、知っていると思うけど、僕は寂しがりやなんだよ』
『知ってるわよ』
『ねぇ、アスカ』
『何、バカシンジ?』
『一つだけ、我が侭言って良い、僕の最初で、最後の我が侭?』
『いいわよ、聞いてあげる、一生に一度のお願いだ物ね』


『……が………つまで……………れますか……?』


『ばか、こっちは最初っから、そのつもりよ』





 


これは、もう、ずっとずっと昔の、夢。
だけれども、今でも心の中で鮮明に輝いている、あの頃の夢。



 


僕はこの幸せな夢の結末を知っている。





 

 

 


2018・ 9・13
PM1:37
ネルフ本部
A区画通路

 



両手から力がほどばしる。
眩しさで溢れんばかりの光は彼の力の証。
どれくらいぶりだろう、彼の全ての力が振るわれるのは。
「そこをどけぇぇぇ」
怒声と共に放たれた光の槍が彼の前の浮かぶ人形を焼き尽くすべく放たれる。
しかし、人形が展開したフィールドは微かに軋んだものの彼の攻撃を受け流してしまう。
「あきらめるもんかぁ」
叫びと共に、拳が振るわれ、彼の行動の邪魔をする人形を打ち抜いた。
彼は、シンジは、崩れ落ちて行く人形の姿を振り返りもせず、ケージを目指し急いだ。
地上で戦っているはずの、少女と共に戦うために。


 


同刻
???



パチン


微かな音を立て手にしていた人形が砕け散った。
彼女は何も言わず、ただ妖艶な笑みを浮かべ見つめる。
手のひらから一粒、紅い雫が零れ落ちる。
先程人形が砕け散った時、手のひらの何処かを切ったらしい。
ちらりと、傷口を見つめ、彼女はそのままペロリと、むき出しの傷口をなめた。
微かな鉄の味が彼女の口の中に広がる。
「ふふふ」
微かに、笑い声が彼女の唇から漏れた。
楽しくて仕方が無いから。
「ふふふふふふふ」
そう、本当に楽しくて仕方が無い。
彼があんなに焦っている姿を見ると、おかしくて仕方が無いのだ。
彼を更に焦るために、彼女は再度彼の前に"影"を送り込んでやる事に決めた。
幸いな事に、この場で材料は事欠かない。
見回せば、材料は大量に彼女の足元に転がっている。
そこにあるのは、十五人ほどの人の死骸。
この小さなシェルターに避難した彼女のクラスメートの半分ほどが、変わり果てた姿でそこにいた。全て、この場に入った時彼女がやったのだ。
いささか面白味に欠けたのが気に食わなかったが、今、こうして彼の邪魔をするのに役立ってくれるのだ。ありがたい、そう、彼女は思っている。
「ふふふふふふ、ははははははははは」
彼女以外誰も動く事の無いシェルターの中、彼女、エリカ・リシュナイールの笑い声だけが高らかに響き渡った。

 

 

 


永遠の時の果てで
第五部
別れの曲の響く時


第三十五話
永遠の始まり





6時間前
???

 


「ようやく、全てのEVAシリーズの再生が完了した」
一つずつ、モノリスが浮かびあがり高らかに宣言する。
「我らの望みを、今度こそ、より確実に叶えるのだ」
答えるように、もう一つモノリスが出現し言葉を発する。
ここは、暗い闇の底。
そこは人の世を憂う、モノリス達の会議場。
「そう、失敗は許されない」
「さよう、幸いな事に、寄り代の生存は確認されている」
浮かび上がり言葉を放つ、二つのモノリス。
「全ては人類のために」
何度も放たれてきた陳腐な言葉。
"人類のために"その言葉が、どれほどの悪行を正当化してきただろうか。
たった、一言のその台詞が、どれほどの人の心を惑わせてきただろうか。
「人を完成された生物にするために」
最後のモノリスが浮かび上がり、言葉を放つ。

 


「「人は、再び一つになるのだ」」

 


重なる声。
それはさながら、魔法使い達が顔をそろえ行う魔法の儀式。


 


遥かな未来
???



それは彼の前に再び姿を現した。
白い翼、爬虫類のようなのっぺりとした皮膚、邪悪な喜びに歪んだ唇。
彼はそれを知っている。
過去に二度相対した事のある恐るべき敵である。
忘れる事のできるはずも無い、今でもその姿は確かに彼の脳裏に記憶されている。
その敵が、彼と最後に相対した時と同じ姿のままそこに居る。


「きしゃぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ」


彼の想いに関わらず、それは復活を喜ぶかのように咆哮を上げた。
一つ、それまでと違う点があった。今度のそれには、人が乗っているのだ。


「コロシテヤル」


プラグの中に居る彼女は唇を歪ませ、小さく呟く。
蒼い瞳は濁り生来の物と全く違った雰囲気を放っている。
今の、彼女にある物は殺意、それだけの感情しか今の彼女は持ちあわせていなかった。
単純だけれども、強いその思念は、もちろんそれと相対している彼も感じ取っている。


「………カ!!」


彼は必死にその内に居る彼女の名前を呼ぶ。しかし、その声は彼女の元には届かない。
ゆっくりと、その背の翼をはためかせるとその巨体に合わない素早い動きでそれは浮かび上がる。そして、その手にした巨大な剣を振り上げ、彼に向かい振り下ろした。


永遠とも言える旅の終幕が始まる。
だが、それを語る前に、今は永遠とも言える彼の旅の始まりを物語ろう。


そう……


 


2018・9・13
正午過ぎ



それの来訪は突然だった。
NERV本部のレーダーが太平洋上から高速で第三新東京市に接近する物体を捉えたのだ。
衛星からの写真、哨戒船からの目撃情報から、それの正体はすぐに分かった。
三年前、この街を襲い世界中に悪夢をばらまいた存在。
人の作り出した人に有らざるもの、汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオン、その量産機。
あの日、あの時、それは全て塩の塊となり消滅したはずのそれ。
だけれども、妄執から逃れられない老人達は、それを新たに建造し、この第三新東京市へと差し向けた。全ては、彼らの歪んだ欲望のために。
モニター上に映し出されたそれは、あの日と同じように、邪悪な喜びに唇を歪め笑っていた。


再度第三新東京市を襲来する、量産期の数、七体。
MAGIの予想ではその到着はほぼ一時間後。


NERV側は三年ぶりに第一種警戒警報を公式に発令。
要塞迎撃都市、第三新東京市は三年ぶりにその姿を人の前に現す事になった。
同時に公式に記録された最後のチルドレン、セカンドチルドレンにも三年ぶりに非常召集がかかった。ゼーレ対NERV、三年間世界の暗部で暗闘を続けた二つの組織が、その運命をかけて最後の決戦を行おうとしていた。

 


鐘が鳴り響く。
悲しい音色の、悲しいメロディの鐘の音が。
鳴り響く。悲しい物語を予感して。

 


同日
ネルフ本部内
A区画通路
PM12:43



第一種警戒態勢が敷かれ、B級職員の退去もすみ、人の少なくなった本部内を、一つの影が走っている。
ケージに向かう、シンジだった。
本来ならば直通エレベーターが存在し、即座に発令所、ケージ等まで向かえるのだが、本部無いの一部電力がダウン、その煽りを受け、彼はこうして走っている。
事態が事態だ、こういう場合には保安部の要員によるガードが回される手はずになっている、しかし、今回はそれも無い。いや、本来ならばあったのだ、だがその要員は、ことごとく消された。いかな防壁を築こうが、いかな武装をしようが、生身の人間では決してエンゼルチルドレンの攻撃を防ぐことはできない。それが、この時代最高の科学力を持って築かれた、NERV本部であったとしても、だ。
そう、ネルフ側がそれに気が付くのは、少し遅かった。
一瞬の、パターンAの検出の連続、あまりに短く断続的だったため当初は計器の故障かとも思われた。パターンA、エンゼルチルドレンの放つ特定の波長を示すコード、しかし、それは誤報ではなかった。突然の一部電源のダウン、そして、保安部要員の送ってくる絶望的な報告。サキ率いる、ネルフのエンゼルチルドレン部隊の到着が少し遅れたら事態は更に絶望的になっていただろう。
作戦指揮を統括する、作戦部部長、葛城一佐は、EVA弐号機の起動準備を指示、そして、地上へと射出した。他でもないEVAの中がこの第三新東京市で今、最も安全な場所なのだから。


シンジは走りながら軽く精神集中をし"力"を放つ。
レリエルの空間移動を使おうと思ったのだ。
しかし、虚数空間に通じる、空間の扉が開くことはなかった。
一瞬、何が起こったか理解できなかったシンジだが、だれかがこの空間に干渉し、空間移動を封じている事を感じ取った。
そして、術者以外の空間干渉は、空間閉鎖をしている者に、自分の位置を教える様な物だった。
「しまった」
シンジが驚くのも無理はない、エンゼルチルドレンの数は未だ多くない。
彼の空間干渉を封じられるような術者となるとなお更だ、シンジの知る限り、これほど強い空間干渉を行える人間はサキぐらいしかいない。
そして、敵対する術者は、彼に驚いている時間すら与えてくれないようだった。
彼の回りに黒い虚数空間への門が開き、そこから幾つかの影が出現してきた。
それはデパートなどに行くとよく見かける代物だった。マネキン人形、普段はショーケースの内などで着飾った格好をして立ったままのそれが、微かに軋む音を立てながらゆっくりと彼の元へと近づいてくるのだ。もちろん彼らは素手ではなかった、その手には刃物や銃器の類いが握られている。そして、じりじりとシンジの元へと近寄ってきた。
「ちっ」
シンジにとっても、それは始めてみる"力"だった。
"空間使い"や、"槍使い""鞭使い""精神感応力者"などは見た事があった。しかし、離れた空間から人形を操る"力"など、見た事はなかったし、存在すら知らなかった。
特A級のカテゴリーアラエルならば、その力を使って、多数の人間を操ることも可能だ。
だが、精神を持たない人形が相手となると、その力を使うことはできないはずだ。
どんな術者か、完全に理解できない故にこれからの手も読みようが無かった。
そして、シンジのそんな思考にかまわず人形達は一斉に彼に向かい襲いかかった。
「くっそぉ」
叫びと共に、シンジは強度の強いフィールドを自分達の回りに展開する。
フィールドの圧力によって、襲いかかってくるマネキン人形達を圧壊させようとしたのだ。
そんな彼の読みの甘さを嘲笑うかのように、マネキン達はフィールドを展開し、彼の一撃を防いだ。
「操っている人形に、フィールドを展開させられる、くそ」
小さく悪態を吐きながら、シンジは自分達の回りに展開したフィールドを強化する。
フィールドを中和され自分に危害を加えられないようにするためだ。
だが、長時間のフィールド展開など続けられるはずが無い。
しかも、今彼が張っている、可視化されるほど強力なATフィールドは、シンジといえども添う長時間展開し続けられない。
このままでは、敗北するのは時間の問題だ。
でも、負けられない、負けられるはずが無かった。
胸の中に灯る一つの光があるから。


『シ〜ンジ』


弾ける笑顔と共に金色の髪を翻して微笑むアスカの顔が胸の中にあるから。
その笑顔を憶えているからこそ、彼は負けられない、二度とそれを失うわけには行かないのだから。想いが、胸の中で輝く彼女の笑顔が彼に力をくれる。
だからこそ、彼は戦える。どんなに不利で、厳しい戦いでも。
「大丈夫、きっと君の元にたどり着いてみせる」
溢れる想いが、そのまま彼のフィールドに伝わっていく。思いを、護りたい共に生きたい、と言う思いが。それがATフィールドの一つのあり方。
フィールドの強度が一気に跳ね上がった。
人形達の張る脆弱なフィールドでは、最早それに耐えるだけの力は出せなかった。
鈍い音を立て、人形達は吹き飛ばされ、砕け動かなくなった。

 


同日
AM8:14
コンフォートマンション



「じゃ、行ってくるわね」
玄関で見送りに来たシンジに対し、アスカは笑顔で言う。
対するシンジの方もニコニコと笑顔を浮かべている。
今日はネルフの方でEVAの実験があるために、一緒に学校へは行けないのだ。
だから、その関係で少しだけ彼より早く家を出る彼女を、シンジは玄関まで見送りに来ているのだ。
「夕御飯は何が良い、今日はアスカのリクエストに答えるよ」
「ほんと、ほんとに、じゃあねぇ」
シンジの言葉にアスカは子供のようにはしゃぐと、真剣な顔で夕飯のメニューを考え続ける。
「スパゲッティミートソース、もちろんミートソースは市販の物じゃなくてシンジの手作りね」
「わかったよ、アスカ」
「じゃあ、行ってくるわね」
上機嫌な様子で手を振りながら、アスカは玄関から飛び出していく。
「行ってらっしゃい」
それをシンジは心底嬉しそうな顔で見送る。
憧れていた物が手に入ったのがとても嬉しくって。何度経験しても嬉しかった。
でかける時、行ってらっしゃいと言ってくれる人が居ることが、帰ってきた時、お帰りなさいって言ってくれる人が居ることが。
ほんの些細な物だけれども、それがとてもとても嬉しかった。
しばらく玄関の前で佇んでいたシンジだが、自分の準備を整えるため自室に戻ろうとする。
その時だった、再度玄関の扉が開くと、息を切らしてアスカが戻ってきていた。
「あれ、アスカ、忘れ物?」
「うん、忘れ物」
ニコニコと近寄ってきたシンジに向かい、アスカは微笑むと、ちゅっとその頬に唇を触れさせた。 一瞬にして、シンジの顔が茹蛸の如く真っ赤に染まる。
「行ってきますのキス」
言って、にこっと微笑むと、アスカは真っ赤になってフリーズしたシンジを玄関に残し玄関から再び駆け出した。

 


それは最後の幸せな日常の、欠片………


 


2018・9・13
PM1:37
第三新東京市



戦いは続いている。
紅い巨人と、白い異形達との戦いは。
白い異形〜EVA量産機〜の放った双刃剣の一撃を紅い巨人〜EVA弐号機〜が同様の剣で受け止める。
あの時と同様に、一対七の圧倒的に不利な戦い。
だけれども、弐号機に乗るアスカの顔に不安はない、信じているから、黒髪の少年をこの街を護ろうと奮起する、ネルフの職員達を。
「負けてられないのよ、負けるわけにはいかないのよ」
弐号機は自分の前の量産機を押し距離をとると一気に自分の回りにフィールドを放つ。
たまらず接近してきた量産機の何体かがその身体を切り裂かれ吹き飛ぶ。
だが、即座に、その傷も恐るべき自己修復力で再生していく。
「やっぱりこれじゃ、駄目」
ふらふらとゆっくりと立ち上がっていく量産機の姿を見つめアスカが小さく呟く。
そして、一番再生の早かった一体が、その手の双刃剣を振りかざし飛び掛かってくる。
それは、素早くその形を変え二股の槍へとその姿を変える。
「何度も、同じ手を食らうあたしじゃないわよ」
言葉と共に、アスカは双刃剣を持つ右手へ軽く力を込める。
そして、双刃剣を素早く量産機目掛け投げつける。
眼前に展開したフィールドでそれを裁こうとする量産機だが、フィールドを展開する直前双刃剣は形を代え紅い二股の槍へと姿を変えた。
槍は量産機の展開したフィールドを打ち抜き、そのコアを打ち抜いた。
「ぎしゃあああああああああ」
量産機はそのまま、塵となりその姿をこの世から消し去った。
「コピーの槍を持っているのが、そっちだけとは思わない事ね」
素早くアスカの手元に舞い戻ってきた槍を持ちながら彼女は言う。
すでに他の量産機達はあらかた、修復を終え、ゆっくりと立ち上がっている所だった。
「やっと、一対六、か……」
紅い二股の槍を構えながら、油断無く回りを見回し、アスカは小さく呟いた。
まだまだ、戦いはこれからだ。
長く険しい、人類の命運をかけた戦いは。

 


同日
PM1:53



ケージ直通のエレベータシャフトの中、彼は戦っていた。
フィールドを使い、重力制御をしながら、ケージに向かい降下していく彼。
それを邪魔するべく出現した、七体の影。人形達。
またか、ちらりと、シンジはそう思ったがすぐにその考えを改めた。
明らかに人形達は今までと違った。
その手に巨大な双刃剣を持っていたのだ。
そして、一斉に武器を振りかざし、襲い掛かってきた。
「邪魔だ、そこをどけぇ」
自分の進路の邪魔をする、二つの人形に向かいシンジは全力で展開したフィールドを叩き付けた。二つの人形も、同時にフィールドを張り、辛くもそれをやり過ごす。
シンジの注意が前方の二つの影に向いた時、左右と背後の四つの人形が一斉にシンジに向かい襲い掛かった。
その一瞬の動きはまさに神速だった、背後の二つの人形の一撃はとっさに展開したフィールドで受け止め、左右の一撃は両手に生み出した光の槍で受け止めた。
そして、強めのフィールドを自分の回りに放ち、六つの人形と距離を保つと、両手に生み出した光の槍を一つにあわせ、巨大な投げ槍状に代え前方の人形に叩き付けた。
その一撃は人形のフィールドを打ち破りその身体を粉々に打ち砕いた。


「一つ」

 


「ちっ、まだ、いかせないわサードチルドレン」
一斉に人形達がその手の武器をかまえ、突っ込んで行く。
彼女が命じた通りに、人形は動き、人を襲う。
なぜならばこの生き人形達は彼女が生み出したのだから。
人の生き血と、肉を使い人形を生き人形へと変える“力”。
未だ、確認されていないとされるカテゴリー"バルディエル"の力を使って。




「邪魔をするなぁぁぁぁぁぁぁぁ」
怒鳴り声と同時にシンジの回りの水蒸気が一斉にその姿を液体へと変え、高速回転を始めた。
超高速で回転する水の刃はそれ自身がもう、凶悪な凶器となる。
ガギエルの"力"の応用だ。
水を支配するその"力"は使いようによっては喩様も無く大きな力となる。

 


「ちっ」
小さな舌打ちと共に彼女は人形達にフィールドの展開を指示する。



だが、その指令を出すのが、一瞬遅かった。
最も突出していた、左右の人形達は成す術も無く水の刃その身を両断された。
後ろの二体の人形は、ぎりぎりフィールド展開が間に合ったもののその身に受けたダメージは大きかった。無傷のままで済んだのは一体だけ。

 


だけれども。
一体だけ残っていれば充分だった。
エリカの唇が歪んだ。
邪悪なる喜びに心震わせ。
「絶望を思い知りなさい」
唯一五体満足な人形がシンジに組み付いた。




「なっ」
シンジが何かするより一瞬、早く、人形は虚数空間へのゲートを開き、自分もろとも彼をそこに引きずり込んだ。
「くっそぉぉぉぉぉぉぉ」

 


少年の絶叫が、狭いシャフトの中響き。穴が仕舞っていくと同時に、徐々に小さくなりそして、消えた。


彼の姿が完全に消えると、マネキン人形達はその役割を終え、ただの無力な人形として崩れ落ちていった。


 

 

 


『ははははははははははははははははは』



 


狂える魔女は狭いシェルターの中で笑った。
ただただ、笑い続けた。


 


 

 

 


続劇

 







後書き

お久しぶりです、J−wingです。
永遠の時の果てで、第三十五話、ここにおおくりいたします。
いかがでしたでしょうか、楽しんで頂けましたか。
次回を持ちまして第五部は終了、そして、最終章へと話は進みます。
長い間書いてきた永遠の時の果てでも、徐々に終わりが見えつつあります。
よろしければ皆さん、最後までお付き合い下さい。
それでは、恒例となりました次回予告を……



 

 


永遠は始まる、たった一人の少女の死から


零れ落ちる涙は、交わされる想いは、千年の後への布石となり


少年は神話となる


彼がこの時、手にしたのは希望なのか、それとも更なる悲劇への道標なのか


次回永遠の時の果てで
第三十六話

約束

 

 


「約束……だよ」


 

 

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