『ねぇ、アスカ、知っていると思うけど、僕は寂しがりやなんだよ』
隣に座る愛しい少女に彼はそんな事を言う。
『知ってるわよ』
予想通りの答えを彼女は返し、そして、彼の瞳を見つめる。
一瞬の沈黙、でも、それは気まずい物ではなく、至極心地の良い物であった。
『ねぇ、アスカ』
どれくらい経ってからだろうか、先に口を開いたのは彼の方だった。
『何、バカシンジ?』
柔らかく微笑みながら、彼女は彼の瞳を見つめる。
綺麗な蒼い瞳で。
『一つだけ、我が侭言って良い、僕の最初で、最後の我が侭?』
『いいわよ、聞いてあげる、一生に一度のお願いだ物ね』

 


そっと、彼の唇が彼女の耳元までより、そして言葉を紡いだ。



『死が、僕らを別つまで、一緒に居てくれますか』


『ばか、こっちは最初っから、そのつもりよ』



そっと彼女は、彼の耳に囁いた。


嬉しそうな顔で彼は頷くと、そっと小指を立ててを差し出した。


『約束、だよ……?』


『一体、アンタはいくつなのよ』

 


苦笑しながら彼女はそっと小指を彼のそれに絡めた。




『ほんと、子供なんだから』


彼女の苦笑混じりの言葉が優しく、彼の耳に響いた。



 


それは優しい夢。
とてもとても優しい夢。
だけれども、優しい夢は時として人を傷付ける事がある。
優しすぎるが所以に。




 


2018・9・13
PM2:00
ネルフ本部総司令室


最後の戦いの時だと言うのに、彼らはそこに居た。
いや、違う、最後の戦いの時だからこそ、彼らはそこに居るのだ。
過去への思いを断ちきれない、哀れな二人の人物が。


「いきましょう、冬月先生」
黙ってモニターからの地上戦の映像から目を移すと、ゲンドウは言う。
先程、本部内からシンジのA反応消失の報告は来ている。
彼らの望んだ時が近づきつつあるのだ。
「ああ、全てはこの日のために、か」
「ええ、そうです、今度こそ……」
片手で紅いサングラスを外すと、ゲンドウはその手で自分の机の上の端末を操作する。
指定されたコードが端末から打ち込まれると、司令室の際奥の壁が開く。
そこにあったのは、小さなエレベーター。
その行き先は、本部内に眠る、初号機の抜け殻が眠るケージ。
全てこの日のために用意しておいた代物だ。
ゆっくりと、ケージに向け歩いていくゲンドウを見つめながら冬月は小さく呟いた。
「ユイ君……我々の成そうとする事は、本当に……」


気がつくのは遅かった。
もっと、もっと、速くこの事に気がついていれば、歴史はほんの少しだけ変わったのかもしれない、人に優しい方向に。
でも、もう遅い……

 


同刻
???



白い光が、その空間を満たした。
回りには何も無く、ただただ、暗い世界。
そこに浮かぶように彼は居た。
全身には激しい裂傷と酷い火傷を負っていた。
先程の白い光が原因だ。
この空間に引きずり込まれた時、別方面から入れられた反応兵器が至近距離で爆発した。
とっさにフィールドを展開したおかげで命を失う事はなかったものの、彼は酷い手傷を負う羽目になった。少しでも時間が惜しい、こんな時に。
「いかなきゃ」
小さな呟きが彼の唇から零れる。
行かなければいけない、行かなければ、再度悲劇は繰り返される。
それを避けるためにも行かなければならない。
人類のためでも、世界のためでもなく、たった一人の女の子のために。
行かなければならないのだ。
彼の内にある"力"がゆっくりとだが、彼の傷を治してくれている。
だけれども、完治するまでの時間すら惜しかった。
「できれば、人のまま、が良かったんだけどな」
全身の傷の苦痛に耐えながら、彼は呟いた。
少しだけ、寂しそうに。
「でも……今のままじゃ……だから、僕は………」
彼の瞳に、強い意思の光が灯る。
そして、彼は全ての力を解放する。

 


「来い、リリスの分身、僕の鎧よ!!」

 



先程よりもまばゆい光が、その空間を満たし、それが消えた時、彼の姿はそこに無かった。

 


同日
PM2:12
ネルフ本部直上

 


紅い風が走る。
風が駆け抜けると、槍が振るわれ、火花を散らす。
戦いは続いている。
EVAシリーズと、アスカ、そして弐号機の戦いは。
実際、アスカはよく戦っている、数に勝る量産機を着実に確実に一機ずつ葬り去っている。
槍の力によって、どうにか三体までの量産期を撃破する事に成功した。
残りの数は後四体。まだやっと半分の勝負がついただけ。
「あと、四機、はやく来なさいよね、でなきゃアタシが見せ場、全部取っちゃうわよ」
自分を叱咤激励するための呟き。
彼が来る、そう思うだけで力が湧いてくる。
そう思うだけで勇気が湧いてくる。
それが人を思う力。
哀れな老人達や過去の妄執に囚われた者には分からないであろう、力。
「きしゃぁぁぁぁぁ」
残り四機の量産機達は激しい咆哮を上げると、その背の翼を広げ、紅い巨人に向かい飛び掛かった。
アスカの反応は素早かった。
素早くその場から飛びすさると双刃剣状に戻した武器を横薙ぎに振る。
その一撃は今さっきまで彼女が居た場所を通過しそこに向かい飛び込んできた量産機の身体を浅くだが切り裂いた。
続けて踏み込んできた二機の量産機が振るった双刃剣をフィールドで受け止めるとそのまま、痛撃な回し蹴りを量産機達の動体に叩き込んだ。衝撃に耐えかね吹き飛ぶ二機の量産機。
だが、まだ終らない、最後の一機は空中から、回し蹴りを放って無防備になっているはずの弐号機に向かいその手にしたコピーの槍を投げつけた。
そのまま槍は弐号機の脳天を打ちぬくかと思われたが頭上に展開されたATフィールドが槍の動きを阻む。それはほんの数秒であった、だがそれだけの時間で彼女には充分だった。一瞬、槍が停止したその時に彼女は体勢を立て直し余裕を持って槍の一撃をかわした。
「何度も同じ手は効かないって言ってるでしょう」
アスカの駆る弐号機はそのまま地面に突き刺さった槍を引き抜くと頭上を舞う量産機に槍を投げつけた。

 


同刻
???



暗い空間にモノリスが浮かびあがる。
そこに居るのは人類の未来を憂いていると自負する、何人もの人物達。
彼らは彼ら自身の傲慢を知らない。
酷く傲慢な事ではないだろうか、勝手に人類の未来を憂い、自分達が理想とする改革を最善の事と信じて成すのは。


「まさか弐号機の力がこれほどまでに増強していようとは」
「不完全なまま戦った前回とは違うという事か」
「このままでは、我らの計画に支障が生じる」
「議長、量産機覚醒の許可を」


口々に意見を述べるモノリス達、そして、モノリスの最後の言葉が響いた時、場は沈黙に包まれる。


「許可しよう」


厳かな声で01と記されたモノリスが宣言する。



 


「「「目覚めよ、我らが大願を果たすために」」」

 


目覚めの儀式は行われる


封印された獣を解き放つ、魔法の儀式が

 

 

 


「「「目覚めよ我らが下僕、人類の未来のために!!」」」

 











 

 

 

 


ドクン

 

 


 

 














同刻
第三新東京市
ネルフ本部直上



量産機のその変化に気がついたのは、彼女がこれまで戦場で生き抜いてきた勘による物だった。
一瞬、量産機の再生が止まったのだ。
ほんの一瞬だったために彼女以外にそれに気がついた者は居ないだろう。
その瞬間の後から、量産機の再生のスピードが一気に跳ね上がった。
そして、量産機の頭にそれまで無かった物が出現した。
量産機の頭の一部が膨らんだかと思うと、そこに紅い色をした瞳が現れたのだ。
ぎょろぎょろとその瞳は暫く動いた後、自分の目の前に居る獲物をその目に捕らえた。
そして、にぃ、と笑ったのだ。
「悪趣味ね、アタシがこの手で引導渡してあげるわよ」
双刃剣を構え突っ込んでいく弐号機の動きはこれまでに無く早かった。
が、量産機のスピードはそれすらも圧倒した。
神速とも言える動きで残り三機の内二機が弐号機の両脇に展開すると凄まじい力で弐号機を拘束する。
振り払おうとする弐号機だが量産機の力は弐号機の力を遥かに凌駕していた。
邪悪な喜びに残り一機の量産機の唇が歪み。そして、その手の内の双刃剣が紅い二股の槍へと姿を変える。
そして、白い悪魔の手からロンギヌスの槍は投げつけられた。
瞬間、アスカの脳裏にフラッシュバックする、残酷な思い出。
二年前の悪夢。生きながら喰らわれ陵辱された記憶。






 


「いやぁぁぁぁぁぁあああああああああああ」


 






少女の絶叫が狭い、エントリープラグの中、響き渡った。


その時だった、空間を引き裂いて、もう一人の巨人が姿を現したのは。

 

 

 

 


















 

 

 

 


永遠の時の果てで

第五部

別れの曲の響く時

第三十六話

約束


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


『ねえ』
『何、アスカ?』


それは遠いあの日々の事。


『貴方は、どれくらい生きられるの?』


アスカが唐突に僕に言った。


『わからない、わからないくらい、長い、長い間だと思う』


それまで考えた事無かった。
考えたくも無かった。


そう、僕には永遠が与えられたのだ。
古来より、権力者達が望み続けた。


『そう……』


視線を上げると、悲しそうな顔のアスカの顔が見えた。


青い相貌が、僕の胸を締め付ける。
その瞳が、その茜色の髪が、その声が、その心が僕の心を震わせる。


でも、先程のアスカの問いかけが、僕の心を絶望の淵へと叩き落とした。


僕は彼女と共に時を経る事ができないのだ。
僕は変わらない。
いや、変われない。


僕の心が病みに沈みかけた時、彼女の声が響いた。


『ばかシンジ、今、ばかな事考えたでしょ』


『……アスカ』


彼女は僕の顔を見ながら微笑んだ。
優しい顔で。


『僕は"永遠"なんだよ』


それだけしか言わなかったけれども、彼女には僕が何が言いたいか分かったはずだ。


『アンタばかぁ、永遠だろうと、なんだろうと、たとえあんたが使徒だろうとも、アタシにとってはアンタはシンジよ、それ以上でもそれ以下でもない、碇シンジよ』


『でも、君も気がついている、僕も気がついた、今まで考えようとしなかった事に、僕は永遠だけれども、僕は永遠だけれども……君は』


僕は泣いていた。
何時の間にか涙が溢れ頬を濡らしていた。


『僕は、僕は永遠なんて要らない、永遠なんて要らない、君と共に時を経られない、永遠なんて要らないよ』


『何時からこんなに泣き虫になったのよ、バカシンジ』


僕の耳に響いた彼女の言葉は何処までも優しく響いた。


『たしかにね、アタシはずっと、貴方と一緒に生きてあげる事はできない、でもねシンジ、一緒に時を経てあげる事はできるわ、ずっと一緒に生きる事だけが、時を経る事にはならないはずよ、アタシは貴方に永遠は約束できないけれども、限りある時を共に生き、思い出を作る事はできる、一瞬を共有する事はできるわ』


そこで彼女は言葉を切った。


『それじゃあ、駄目、バカシンジ、それとも、あたしじゃ不満?』



僕はバカシンジだった。
どんなに強い力を持っても。
深い知識を持っても、僕は彼女の前では、バカシンジだ。


ただの、人間、シンジだった。




『僕はほんとに、バカシンジだね、ありがと、アスカ』


そう言って彼女を見上げた時。彼女が少し不安な顔で僕を見つめている事に気がついた。
一瞬、きょとんとした僕だったが彼女の言わん事を理解して少し頬が赤く染まるのがわかった。


僕は何も言わず、彼女を抱きしめた。


『不満になんて、思うわけ無いよ、アスカ、こんな僕とで良かったら、一瞬を共有してくれる』


『一つだけ、約束して?』


『何?』


『アタシが死んでも、後を追う事なんて、しないでね?』


『わかった、約束するよ』


『ほんと、約束、だよ?』


『うん』


そして、僕らは約束と誓いの口付けをかわした。


 


それは遠い昔の事。
彼女がまだいた頃の夢。


優しい夢。





 

 


2018・9・13
PM2:07



ゲンドウと冬月はケージに居た。
やがて出現するであろう、少年を待つために。
シンジは知らないが、未だ彼の父の手にはアダムが融合しているのだ。
この二人はリリスの代わりに、その分身たる初号機を使おうと考えていたのだ。
彼がこの空間に出現し、初号機に搭乗しようとする時の一瞬の隙を狙って。
かつての彼らからは考えられないほどずさんな計画だ。
だが、最早この二人には、それしか取るべき道は残されていなかったのだ。


そして、終幕のベルは鳴った。


光を失った初号機の瞳に光が灯ったかと思うと。初号機は真なる主の呼び掛けに答え咆哮を上げた。


拘束具を引き千切ると初号機は空間に手をかけ文字どおり引き千切った。
初号機は強引に虚数空間への門を開いたのだ。
何も無いその空間に、一気に回りの空気や、物は吸いこまれていく。
それは人間とて、例外ではなかった。
「ば、ばかな」
それが、妻を取り戻すために全てを犠牲にした男の最後の一言だった。


冬月は何も言わず粛然として、そのまま死を受け入れた。


そして、充分な大きさまで扉が広がると初号機はその身を、虚数空間へと飛び込ませた。

 


同刻
???


巨大な空間の揺らぎはどうしないに居たエリカに、簡単に感知されていた。
自分が仕掛けた罠が破られようとしているのにエリカに狼狽の顔はない。
妖艶なその笑みを浮かべたままである。
「鎧が主の元へと向かったのね、次の空間の揺らぎが、終幕のベルの音ね」
彼女は何もかも見通しているのだろうか。
そんなはずはない、いくらエンゼルチルドレンとは言え全てを見通す事は不可能に近い。
だけれども、確かな観察眼と推理力を持つ物なら、事の成り行きをある程度までなら見通す事ができる。あくまで、ある程度ではあるが。
ここまでの事態は大体、彼女の予想通りに事は動いている。
しかし、まだ、舞台は終ったわけではないのだ。
もうすぐ劇の主人公がヒロインを救出すべく舞台に踊り出るだろう。
そこからが本当の勝負、そう、エリカは思っている。
「さぁ、絶望と共に歩むために、舞台に上っていらっしゃい、サードチルドレン」
舞い上がる彼女の赤い髪と、そして、彼女の哄笑。
魔女は笑う、狂気に犯された顔で、笑い続ける。己が精神の均衡を図るために。

 


???


力が満ちる。
己が内に。
自分の体が大きくなる感覚。
ゆっくりと彼は手を開いたり閉じたりする。
彼の鎧は、主の意思に従い主のとった行動をそのままトレースする。
彼の鎧はかつては自分の意志を持っていた、しかし、審判の日、そう呼ばれたあの日にその意志は天へと帰り。鎧を制御するのは最早彼の意志のみと相成った。
人が手にするにはあまりにも巨大な力。
彼はその力を振るう事を決めた。
人類のためでも、世界の平和のためでもなく、たった一人の女の子のために。
彼はゆっくりと目を見開いた。
瞬間、再度鎧の瞳は見開き、彼の自分が見た物をあるがままに伝えてくる。
「今、行くよ、アスカ……」
決意を秘めた呟き。
彼の鎧はゆっくりとその主が意思に従い動き出した。
鎧の名をエヴァンゲリオン初号機と呼ぶ。
彼、シンジは、ゆっくりと初号機の手に力を浸透させて行く。
光を灯した初号機の手は何も無い空間に突き刺さり、門をこじ開ける。
只一人奮闘する、エヴァ弐号機の元へ駆けつけるために。

 


同日
PM2:21
ネルフ本部直上



「うぉぉぉぉっぉぉぉぉぉぉぉ」
空間が引き裂かれ、紫色の腕が時空の割れ目から出現し、槍を掴んだ。
もう一本腕が出現し、空間の裂け目を大きく広げて行く。
そして、紫の鬼神が出現した。
「遅いわよ、バカシンジ」
「ごめん、遅くなって」
弐号機のプラグ内に出現したSound onlyと記された表示がすまなそうに言う。
「ばか、来てくれただけで百人力よ」
場違いな微笑みを浮かべつつ、アスカは言う。
これほど心が安心するとは思わなかった、ただ、彼が来てくれただけで。
それだけで、心に、体に力が湧いてくる。
「はぁぁぁぁぁぁぁ」
力任せに自分の両腕を拘束している量産機を振り払う弐号機。
先程は叶わなかったが、今は信じられないほど力が湧いてくる。
あっさりと弐号機は量産機を振り払い、体勢を立て直す。
同時に初号機はその手に持った槍を投げ捨てた。
そして、天に手をかざし何かを呼ぼうとする。
その時だった、弐号機に振り払われた量産機のその手から力が放たれたのは。
「何?」
それは真っ直ぐに初号機に向かって放たれた。
エンゼルチルドレンである、シンジはそれが何であるか気がついた。
それは、ATフィールドで作り上げられた、網。相手を捕らえ拘束する事のみを主目的とした。
気がついた時にはもう遅く、初号機と弐号機はその網で拘束されていた。


 


「今こそ、我のぞみし好機」
魔女の唇が歪み力がその手から零れた。

 



「こんな物」
自らを拘束する網を引き千切ろうとする初号機、その瞬間、突然、網を形成するフィールドの強度が跳ね上がった。
「くっそお」
「シンジ!!」
白き獣達がそのチャンスを逃すはずが無かった。
三本のコピーの槍が量産機の手の中に出現し、紫の巨人に向かい投げつけられた。
「ママ、力を貸してぇぇぇぇぇぇっ」
彼女はこの時気がついていなかった、その瞬間、プラグの片隅にと、ある表示が示された事に。
Mother System 起動、そんな文字が浮かびあがっている事に、気がつく事はなかった。
一瞬の脱力感が彼女を襲い、そして、それから解放された時、弐号機の瞳が輝いたかと思うと、信じられない力でフィールドの網を切り裂くと三本の槍が飛んでくるその場所へ、両手を広げ、飛び出した。














 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

ザシュ


 

 

 

 

 

 

 

 

 

















 

 

 

 

 

 


 

ガシュ

 

 

 

 

 

 

 

 

 







 

 

 

 

 

 










 

グシャ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

















 

 

 

 

 


「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



















 

 

 

 

 

 



「アスカ………」



 

 

 

 

 

 

 












 

 

 

 



「嘘だよね、嘘だと言ってよ」

 

 

 




















 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「うわぁああああああああああああああああ」

 




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
















そこから先、何が起こったかは良く憶えていない。
気がつけば、僕は血まみれの姿で立っていた。
回りを見回すと、引き裂かれた量産機の無残な屍が散乱していた。
一瞬、呆然としていたものの、僕は急いで弐号機に向かい駆け出した。



強制排出スイッチを押しプラグを射出させると、僕はもどかしげにプラグのハッチを引き千切る。そして、プラグの中に飛び込む。


「アスカ……?」


恐る恐る声をかけると、微かな呻き声が聞こえる。
ほんの少しだけ、僕の心に希望の灯が灯る。


僕はそっと彼女をプラグの中から連れ出した。


「アスカ……アスカ……」


彼女の名前を呼び続ける僕。
そうでもしないと、彼女が何処か遠くに行ってしまうような気がして。


「んっ」


うっすらと彼女は瞳をあけ、僕を見つめる。
そして、僕の頬をそっと撫ぜた。


「何、泣きそうな顔をしてるのよ、バカシンジ」


僕は何も言えなかった。ただ、彼女の温もりを逃がさないように、そっとその手に自分の手を重ねる事しかできなかった。


「ほんと……泣き虫……さん、なんだから」


彼女は微笑んだ。
僕の顔を見ながら。微笑んだ。
そんな、彼女の瞳からも一滴、涙が零れ落ちた。


「あれ……?」


自分の頬を伝った涙に怪訝な顔を擦る彼女。
僕は黙ったまま彼女を強く抱きしめた。




 


………

 

 


…………

 

 


「ねえ、また、逢えるかな……いつか何処かで……」


少しだけ不安がにじんだアスカの言葉。
シンジは何も言わず、ただ、彼女の言葉に黙って首を縦に振るだけ。


「うん、逢えるよね、きっと、ううん、絶対に逢いに行くから、待ってて」


「うん」


「だから、待っててね、貴方も探してね」


「うん」


「忘れないでね、私の事」


零れ落ちる、一滴の涙。
少女の瞳から零れ落ちたそれを、シンジはそっと拭ってあげる。
そして、万感の想いを込め首を縦に振る。
そうやっている彼自身の頬も、流れ出す涙で濡れていた。


「私は、どんなに時が経っても、生まれ変わってでも、貴方を見つけてみせるから」


そっとシンジの頬の涙をふいてやりながら、アスカは言う。
想いを込め。
最愛の人の心が少しでも不安から解放されるように。


「きっと、見つけてみせる、世界で……たった一人の……貴方を」


「うん」


「ね、約束、よ……」


ゆっくりと瞼が閉じられ、彼女の蒼い相貌を隠した。
そして、二度と開く事はなかった。


そう、もう二度と………


無言のまま彼はぎゅっと、命の灯火が消えたその体を抱きしめた。
不思議と、もう、涙は零れなかった。



 

 

 

 

 

 

 


約束。
この一つの言葉が、彼を永遠かと思われる時の旅へと導いた。
この一つの言葉が、この物語を形作ったのだ。



この戦いは、戦いの初動において、エンゼルチルドレン部隊の侵入を許したものの、サキ・クリューヌの率いる、エンゼルチルドレン部隊により劣勢を挽回、そしてサードチルドレンによる、全EVAシリーズの殲滅を持ってNERV側の勝利となる。
この戦いにおいてエンゼルチルドレンの実戦における有用性が認められたのも確かである。
避難勧告が行き届いていた事もあり戦いの犠牲者は僅かである。
そのわずかの内に、セカンドチルドレン、惣流アスカ・ラングレーも含まれる。


行方不明者は三名。
総司令碇ゲンドウ、副司令冬月コウゾウ、そして、ネルフ側の勝利の立役者、碇シンジ。


彼が再び公的記録に姿を現すのは、この半年後の元ゼーレ評議員達の変死事件においてである。


そして、彼の姿は、千年の間、歴史の片隅に現れ続ける。
少年は神話となったのだ。




 


恒星間宇宙船の開発。

EVARと呼ばれる生体機械と、人体の融合実験による試験体の暴走。

植民星の過少期における、植民者の数を巡る地球政府側と植民星の確執。

植民星側の独立運動。

地球連邦政府の成立。

人類最初の惑星間全面戦争である汎太陽系戦争。

宇宙海賊の跳梁。

一部軍高官による、クーデター未遂事件。




 

 

 

 

 

 

 

 

 


時は流れた………



 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 


時に連邦歴435年

 


 


悲劇は再び繰り返そうとしていた


大いなる過去の遺産の手によって


狂える一人の科学者の妄執によって……


物語の最終幕が始まる





 

 

 

 


To Be Continued
Final Stage

 

 

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