悲しみが壊した心の欠片を
両手で抱きしめて、明日に怯えた
13
連邦歴435年
連邦標準歴12月11日 日曜日
惑星ファーウェア 首都エルシティ
AM 10:29
白い鉄の鳥が空を舞い、その腹の内から小さな影を一つずつ落していく。小さな人影はATフィールドを展開し、ゆっくりと、エルシティへと降下していく。彼らは"近衛"と呼ばれる者達。"帝国"を名乗るある組織が秘密裏に集め、育成していたエンゼルチルドレンの集団。そのほぼ全ての人員が、この辺境の惑星の首都へと投入されていた。一人の青年を殺し、一人の少女を彼のもとから奪う為に。彼らは舞い下りる。破壊と死の影と共に。
舞い下りる、天使達の姿を、シンジは黙ったまま見上げていたわけではなかった。アスカをそっとソファーに横たえると、彼は非常時用のロッカーを開けると、中から幾つかの物をとりだし身につけた。一組の手甲らしき物、蒼い色のジャケット、そして、ロッカーの奥に隠されていた一丁の拳銃と、幾つかの弾丸。それらを全て身に纏うと、シンジは急いでアスカの元に戻る。アスカは先ほどと変わらず、苦しそうな息をしたままだ。シンジはそっと、彼女の頬を撫ぜる。うっすらと瞳をあけ、シンジの姿を確認したアスカが、何かを言おうとする。シンジは無言のまま、そっと、彼女の唇に指をあて言葉を封じる。そして、彼女の耳元に唇をよせ、そっと囁いた。
「大丈夫、きっと護ってみせるから」
その言葉が彼を強くする。自分で放ったその言葉が、彼の心を強くする。自分の内に抱える誓いが、思いが、彼に百パーセントの、いや、百二十パーセントの力を出させるのだから。その、彼の言葉を聞き、アスカは安心したように微笑むと再度瞳を閉じる。そして、彼女は再度意識を失った。シンジは左手でそっと彼女を抱きあげると、強い意思を込めた瞳で、空を見上げた。
カテゴリーマトリエルの"力"が、彼に空で集っていく、大きな力の存在を教えてくれる。
「この数はちょっと厄介かな、でも」
言葉と共に、彼の右手が淡く輝く。
「負ける訳にはいかないからね」
右手の光は、数瞬の後、形を成す。それは強力なATフィールドの結晶体"タブリスの鏡"その完成と共に、天から打ち下ろされた光の矢が、彼の視界を真っ白に染めた。
最終幕は開幕し、ファーウェアという名の舞台で殺陣は始まった。
祈ることで、すべてが、叶うなら
生まれる前に帰して
14
連邦歴435年
連邦標準歴12月11日 日曜日
惑星ファーウェア 首都 エルシティ
AM10:34
最初に起きたのは、空を舞う者達から放たれた、巨大な光の矢だった。A級のカテゴリーラミエル達が作り出したそれは、狙いあたわず、目標が暮らしている場所へと叩き付けられた。幾人ものカテゴリーラミエルが作り出した、それは、莫大なエネルギーを放つ荷電粒子砲。彼ら一人一人が放つ、その一撃も強力なのだが、カテゴリーラミエルの術者数人係で作り上げたそれは、単純な足し算では済まず、その威力を何倍にも高めていた。"ラピュタの雷"そう彼らが呼ぶ一撃。それは名前どおりの威力を発揮した。一瞬、眩いばかりの光があたりを覆ったかと思うと、続いて凄まじい爆音が響き渡る。光の矢が打ち下ろされた地点は最早何も残ってはいなかった、有ったのは直径100メートルに及ぶ巨大なクレーターだけだった。
エルシティの中心街の屋上で、その様子を見つめる、人影が一つある。
風に、長い赤毛がなびき、冷たい蒼い瞳は冷静に事態の推移を見つめる。見る者が見ればこんな辺境の星に彼がいる事を知り驚くだろう。彼の名はライン・カーン、近年勢力を伸ばしつつある、新興宗教"全ての母たる者"の教祖。そして、彼には知られざるもう一つの肩書きが有った。"帝国"エンゼルチルドレン部隊"近衛"の指揮官と、しての顔が。
「まだだ気を抜くな、奴はまだ、生きている」
小さな彼の呟きだが、その声は確実にその声を必要とする者達の元に届いている。なぜならば彼もまた強い力を持つエンゼルチルドレンなのだ。今の声はカテゴリーアラエルの能力である"心話能力"いわゆるテレパシーにより、彼の部下達の元に届けられているのだ。彼が有す、マトリエルの千里眼能力は爆煙を突っ切って現れる"タブリスの鏡"の姿を捉えていた。
「そう、そうこなくては面白くない」
顔に張り付いた妖艶な笑みと共に紡がれる言葉。その言葉と、今の彼の顔を見ればシンジはラインの遺伝子提供者の顔を思い出すかもしれない。銀河をその身から溢れる紅い炎で焼いた紅き魔女、エリカ・リシュナイールの顔を。
「シャムシエル隊、サキエル隊、予定通り目標を襲い、ASUKA=ONEを奪え」
自分の表情、戦と殺し合いに陶酔するその顔を知らぬまま、ラインは指揮を出し続ける。より多くの血と破壊と死を求めて。
いつからか誰かの 心も壊して
堕ちてゆくゆく自分を、蔑み生きてる
15
連邦歴435年
連邦標準歴12月11日 日曜日
惑星ファーウェア 首都 エルシティ
AM10:36
"ラピュタの雷"の作り上げた爆煙を突っ切り、それは現れた。紅く輝くクリスタル状の物体。その名を"タブリスの鏡"と、言う。強力なATフィールドが結晶化した物であり、その硬度は恐ろしく高い。そして、内に人を乗せたまま飛行する事も可能である。シンジの作り上げたその"鏡"は爆煙の向こうに居た、カテゴリーラミエル達の攻撃も弾き散らし、飛行を続けていた。ラインの予測どおりに。そんな彼らの前に、再度幾つかの人影が現れる。空中に幾つもの黒い穴が空く。恐らくは近衛に所属するACが作り上げたそれは、新たなる戦場に、新たなる駒を吐き出し閉じていく。
「どれだけのACがここに投入されているんだ」
小さく、そんな悪態を吐くとシンジは先ほどと同じように、彼らの間を強行突破すべく"鏡"の飛行速度を上げる。
「っ!!」
瞬間、シンジの首筋に、ゾワリとした、冷たい感触が走る。長きに渡り戦いの世界に身を置いていた彼の第六感が全力で危険を告げていた。シンジは瞬時に"鏡"の加速を止めると、盾代わりに幾つかの"鏡"を作り出し、シンジはその場に解き放った。シンジの予感は次の瞬間、正しかった事が証明された。シンジが通るはずだった空間に放たれた"鏡"が飛来した光の輪によって、切り刻まれたのだ。強力なATフィールドの結晶体である"鏡"を切り裂くなど、並のAC、いや、A級のACにだって出来る物ではない。
「新しいカテゴリー能力の使い方、か、さっきのラミエル達の一撃といい、次から次へと」
苦笑しながら、シンジは自分達の身を包みこむ"鏡"を分解する。"鏡"すら切り刻むような敵を相手に、これを何時までも展開し続けるのは、単に自らの動きを阻害するだけである。そして、対する彼の敵達は、彼の姿が無事である事を確認すると彼の身を今度こそ切り刻むべくその"力"を解き放つ。シンジと相対する六、七人のACの腕に光が灯る。一瞬、鞭状の姿を取ったその光は、次の瞬間、その腕を包み込み回転する幾つもの輪にその姿を変えていた。
「なるほど、シャムシエルの光の鞭の応用か、確かにあの切れ味はすごいからね」
先程、その威力を目にしたのにもかかわらず、シンジは落ち着いている。フィールドを展開する事もせずに、ただアスカの身を片手で抱き、彼らと相対している。自らの能力を舐められている、そう彼らが感じたのかはわからない。次の瞬間、シンジに向け幾つもの幾つもの光の輪が放たれた。光の輪は狙いを外す事なくシンジに向け殺到してくる。
「君達の失敗は、種のばれた手品を繰り返した事と、その狙いが正確すぎた事だね」
そのシンジの言葉と共に、彼の目の前に大きな黒い球体が生み出された、球体はシンジに向け殺到してきた光の輪を飲み込み膨れ上がっていく、そして、全ての光の輪を飲みこんだ後、それは弾けて消えた。シャボン玉のように跡形も無く。黒い球体はシンジがレリエルの"力"により作り出した虚数空間への門。そして門は主よりの命を果たすと弾けて消えた。
だけれども、攻撃はこれで終わりではなかった、黒い球体が消えると同時に、幾条もの光の矢がシンジの居る場所へ向け襲い掛かる。
シンジ達の上空に回り込んだ、カテゴリーサキエル達の攻撃である。そして、無数の光の矢が、シンジ達の元へ殺到し炸裂した。
孤独という、痛みが、胸を締め付けて
涙がこぼれる
16
AC、エンゼルチルドレンという名の異能力者が発見されたのは、サードインパクトの混乱さめやらぬ西暦2016年の事である。彼らは、SF作品やオカルトなどに登場するエスパーと呼ばれる人種とは一味違った。ATフィールドの展開の他は、各能力者、一つずつしか特殊能力を保持していなかった。公式に確認された能力は全部で14、それらはよく似た能力を有していた使徒の名前を冠したカテゴリー毎に分類された。
即ち、その手に強い威力を持った光の槍を生み出すカテゴリーサキエル。
その手に生み出した光の鞭で相手を切り裂くカテゴリーシャムシエル。
その手から強力な荷電粒子砲を放つ、カテゴリーラミエル。
自分の回りの"水"を支配し操る、カテゴリーガギエル。
自分に向け放たれたカテゴリー能力をそっくりそのまま反射する、カテゴリーイスラフェル。
自分の意志で自らの体の一部を無機物に変化できる、カテゴリーサンダルフォン。
"力"により、遠く離れた所をも見通す千里眼能力者、カテゴリーマトリエル。
念を込めた物質を全て爆発物に変える、カテゴリーサハクィエル。
ありとあらゆる電子機器やネットワークを支配し操る、カテゴリーイロウル。
影を介し、虚数空間への門を開き、虚無を操る、カテゴリーレリエル。
血と肉を介し、人や人形を操る、人形使い、カテゴリーバルディエル。
見えない不可視の刃で、全てを切り裂く最強の戦闘用カテゴリー、カテゴリーゼルエル。
人の心を読み、そして操る事すら可能なテレパシスト、カテゴリーアラエル。
自分の内に読み込んだ、人の遺伝情報(マトリクス)を使い、他者や動物にその姿を変える能力者、カテゴリーアルサミエル。
以上、14のカテゴリー毎に分類されたエンゼルチルドレン達。しかし、天使の子供たち、そう名付けられた彼らであったが、彼らの元に、幸福の天使が舞い下りるのは、その存在の認知よりはるか先の事となる。なぜならばエンゼルチルドレンは非常に有用な道具となるからである。特に、軍事や非合法活動においては特に。故に、その基本的人権が認められるのに四半世紀の時を要し、その公職の就任の認可には更に半世紀の時を要した、西暦から連邦歴に暦が変わり五世紀近く経った現在ですら基本的人権の保障と引き換えに、連邦政府への登録を求められている。そんな特殊な生まれや、能力ゆえに、彼らへの迫害は厳しく、彼らがその道を歪める事も多い。
そして、公的な記録には記載されていないカテゴリーが三つ存在する。
強力なATフィールドの結晶体である"鏡"を作り上げる、カテゴリータブリス。
心の壁を融かし消し去る、神たる身の証、カテゴリーリリス。
その力は学習、多様性、ありとあらゆる可能性をその身に宿す、カテゴリーリリン。
この三つのカテゴリーは、そのあまりの力と、そして、能力者の数が二人しか居なかった事もあり、公的記録には抹消された。最早、居ない者として扱われたのだ。が、しかし、一部の者達は知って居る。不死者の存在を、神たる身の証である、カテゴリーリリスの力により永遠を手に入れた一人の青年の存在を。たった一つの約束の為に、永遠の時を彷徨する事になった、と、ある人物の存在を。そして、今、久方ぶりに彼は歴史の表舞台に立とうとしていた。
銀河に撒かれつつある、悪夢を消し去る為に。
記憶の箱を今すぐ開けて
切ない過去を 永遠に消したい
Present by J−wing
永遠の時の果てで
最終章
そして、君のもとに
第三十九話
希望の空へ
歩きだす力に 気付いた時から
失くしてた思いを 求めてさまよう
17
連邦歴435年
連邦標準歴12月11日 日曜日
惑星ファーウェア 首都 エルシティ
AM10:42
シンジの元に殺到し、炸裂するはずだった無数の光の矢。しかし、それが、シンジの元に届く事はなかった。先程と同じ、黒い球体が彼の回りに幾つも出現する。それは一瞬で、かなりの大きさに膨れ上がると、光の矢を一つ残らず飲みこんだ。先程とカテゴリーシャムシエル達の攻撃を防いだ時と違うのは、黒い球体が未だに残留し、彼の回りを巡っている事だけだった。
「カテゴリー能力の応用が自分達の専売特許だと思わないで欲しいな、こっちだって無駄に年を重ねている訳じゃない」
にこやかにシンジは言うと、頭上へと上げた指を一つ鳴らす。瞬間、更に多くの黒い球体が生まれ散って行く。あわてて、自分達の近くまで来た黒い球体より身をかわす、カテゴリーサキエルとシャムシエル。黒い球体が、攻撃用のエネルギーの塊である事を危惧したのだ。
が、彼らの予想は、別の意味で裏切られる事になる。シンジはジャケットの懐から、何本かのナイフを取り出す。そしてナイフに念を込め"力"を流し込んでいく。そして、シンジは"力"を込めたナイフを、自分の目の前に黒い球体に投げ込んだ。瞬間、投げ込まれたナイフ達はカテゴリーサキエルと、シャムシエル達の回りにある、黒い球体から飛び出した。球体はレリエルの力を使い生み出したもの。今、行ったのはカテゴリーレリエルの力の応用。そして、シンジが投げたナイフにはシンジはサハクィエルの力を使い、念を込めていた。
「散」
シンジの声と共に、爆発するナイフ達。それは完全な奇襲だった。近衛達は成す術も無くその一撃を受け、散っていった。微かに歪む、シンジの顔。だけれども、それは一瞬。少しだけアスカの顔を見つめると、小さく溜め息を吐き、シンジは再度飛び立った。
希望の空を目指して。
傷つけ合う時代を駆け抜けて行ける
強さを与えて
18
連邦歴435年
連邦標準歴12月11日 日曜日
惑星ファーウェア 首都 エルシティ
AM10:48
「やはり、数だけ揃えてもかなわん、か、質で行くしかないと言う事か」
マトリエルの力を使い、戦場を見つめていた、ラインが小さく呟く。部下の近衛達が散っていっているのに、彼の顔に後悔だとか、憐憫だとかそんな感情は欠片も感じられない。その瞳に灯るのは、炎。自分だけではなく、他人まで巻き込み焼き尽くす炎。彼は笑っていた。強い敵との戦いを前にして。嬉しそうに笑っていたのだ。
「金、銀」
その呼び掛けに答えるように、ラインの両脇に影が二つ現われ、そして、それぞれの影より一人ずつ男が現れる。彼らの髪の色は金髪と、銀髪であった。その名前が示すように。そして、金と銀の顔立ちはよく似ていた。まるで双子の兄弟のように。当然であろう、金と銀は同じ遺伝子から生まれたクローンなのだから。そして、彼らの名の由来は固体区別のため染められた髪の色によるもの。彼らにはもう一つ名前があるのだ"Shinji=One""Shinji=Two"そんな、名前が。
「レリエルによる空間の閉鎖は完璧だな」
ラインの問いに、金髪の男"金"が首を縦に振る。
「明けの明星の回り、半径百メートルから、部隊を撤退させろ、巻き添えで殺したら哀れすぎるだろう」
ラインの命令に、銀髪の男"銀"が首を縦に振ると"心話能力"を用いて、その命令を全部隊に伝える。
そして、ラインの髪がふわりと浮びあがる。ラインの全身より零れる、大きな力に反応して。
「狩りの、始まりだ」
そして、三人の姿は、ゆっくりと影の中に沈んでいった。
見上げる空に広がる青が
僕を待っている 僕を導く
19
連邦歴435年
連邦標準歴12月11日 日曜日
惑星ファーウェア 首都 エルシティ
AM10:50
力持つ者の数が減って居ることにシンジは気がついた。
まるで潮がひくように、彼の回りにいたはずのAC達の気配が消えていく。一糸の乱れも無く一斉に。相手が諦めた、そんな甘いことを信じられるはずが無かった。これほどの大部隊をこの星に投入してきたのだ。相手がこれくらいで、諦めるはずが無い。これは強力な兵器を使う為の一次撤退か、それとも、精鋭部隊投入のための、足手まといの排除か、どちらかであろう。
そうシンジは予想し、そして、前者の考えを数秒後に打ち消した。強力なACの気配を三つ感知して。そして、その力の波長にシンジは覚えがあった。それは近衛を率いる者、紅の魔女の力を継ぐ者、ライン・カーン。
そして、魔女の力を継ぐ者は、再度彼の前に降臨した。
シンジはそっと、左手に力を込める。そこにいる、少女の温もりを確かめるように。自らを鼓舞するために。もう、負ける訳にはいけないのだから。風が吹きぬけ、シンジの前に現れた男の長い、赤毛を舞い上げる。その両脇には、王を護る近衛兵のように、金と、銀の髪の男達が立ち、目の前に立つ彼を威嚇する。それは明けの明星、碇シンジの遺伝子を持つもの、シンジのクローン、金と銀。
「久方ぶり、と、言うほどには時は流れていないな"明けの明星"」
「出来れば、再会なんてしたくはなかったけどね」
シンジの声と共に、彼の右腕に幾つもの光の輪が生まれる、先ほどカテゴリーシャムシエル達が使っていた、シャムシエルのカテゴリー能力の応用である。二度見ただけのその技を、シンジは完全に学習していた。そして、放たれた光の輪は一斉に、ラインと金、銀に向け襲いかかった。奇襲に近い一撃だけれども、三人は慌てなかった、三人の目の前にシンジが作り出したものと同じ黒い球体が現れ、光の輪を飲み込んだ。
「くっ、なら、これで」
光の輪が無力化されたのを見たシンジは今度は幾本かのナイフをジャケットから取り出すと、念を込め、三人に向け投げ放つ。無論、それにはカテゴリーサハクィエルの力を込め、爆発物に変えてある。しかし、先ほど多数のエンゼルチルドレンを葬ったその一撃も、ライン達には通じなかった。彼らは、瞬時に"鏡"を作り出し、それを用いてナイフより身を護ったのだ。
「一度見た技を食らうほど、我らは愚かではないよ」
ラインの放つ言葉と共に、金と銀の腕に光が灯り光の槍を生み出す。そして、次の瞬間には逆の腕に光の鞭が生み出される。
「死んで、その伝説に幕を下ろすがいい」
金は言葉と共に動き出し、右側からシンジの元に迫る、左側からは同様に、銀がシンジに向け襲い掛かる。シンジは迷わなかった、迷うこと無く右側から放たれる、金の攻撃から身をかわす。そして、何時の間にか、右手に生み出した光の槍を金に向け投げ放った。
「そんな物」
声と共に金は"力"を込めた右手でそれをかき消そうと試みる。
「散」
シンジの声が響いたかと思うと、光の槍は金の目の前で爆散した。その衝撃に吹き飛ばされる金。そちらを省みること無く、シンジは振り返り様に向かってきた銀の腹に蹴りを叩き込む。勿論、その足には"力"が込められている。完全に予想外の一撃に、成す術も無く吹き飛ぶ銀。
「そうこなくてはな」
頭上から声が響いたかと思うと凄まじい殺気がシンジに向け迫る。何とか身をかわすシンジ。そして、先程まで彼がいた所に光の槍が振り下ろされる。先程まで動きが無かったラインの一撃だ。シンジは右手から"ラミエル"の荷電粒子砲をラインに向け放つ。ラインの前の前に展開されたATフィールドがそれを弾き散らす。
「ははははははは、最高だよ、お前は」
ラインの回りに水が渦巻き槍状に変わっていく、ラインは"ガギエル"の力を持って大気中の水蒸気を水へと変換したのだ。そして生み出された水はラインの意思に従い槍へと姿を変えシンジに向け襲い掛かる。ラインの目に宿る光は最早尋常な物ではなく、戦いに血の香りに興奮する野獣のような輝きを灯していた。
「くっ」
右手に生み出したATフィールドで何とか水の槍を退けるシンジ。だが次の瞬間、シンジの背中に鈍い痛みが走る。
「忘れてもらっては困るよ"明けの明星"」
何時の間にか背後に回りこんだ、銀がその手に生み出した光の槍で彼を背中から貫いたのだ。
「がは……くっ、負ける、もんかぁぁぁぁぁぁぁぁ」
シンジの怒声と共に、彼の身体に光が灯る、そして、光は爆発的に広がっていき、回りにいる者の視界を一瞬奪う。そして、光はシンジの背中に収束し、ATフィールドで作られた六対の光の翼へとその姿を変えた。至近距離にいた銀は、身を護ることすら出来ずに光の翼にその身を焼かれ崩れ落ちた。
「"明けの明星"の名は伊達ではなかったと言う事か」
目の前に立つ、その背に六枚の翼を輝かせるシンジを見つめながら、ラインが呟く。
光が収まった時、回りの景色は変わっていた、圧倒的な光とATフィールドの放出により周囲百メートルほどの建物は何らかの被害を負っていた。近距離の建物はほとんどが崩壊していた。ここが、シンジが回りを巻き込まぬ様選んだ戦場、空中であってでもだ。その事が、今放出された力の凄まじさを物語っていた。対するシンジは苦い顔をしたまま腹部の傷を唯一自由になる右腕で押さえていた。銀に与えられた傷は重傷だった。いかなシンジとは言えそう一朝一夕に傷を癒すことなどできやしない。何とか、銀だけは倒したものも、まだ敵は二人はいるのだ。そして、左手は塞がり、そして、腹部には重傷を負っている。彼は圧倒的に不利なままだった。
「同じ遺伝子から生まれたというのに、この差異、妬ましいとでも言うべきかな」
何時の間にか再度、ラインの右脇まで浮かび上がってきた金が言う。シンジは右手で傷口を押さえながら苦笑した。
「遺伝子で人間の出来が全て決まったら、苦労しないよ、だとしたら僕はとっくに君達に負けているはずだ」
「オリジナルである、貴様が何を言う」
怒声と共に金の腕に光が灯り放たれた、それは"雷"と呼ばれるカテゴリーラミエルの能力、荷電粒子砲。放たれた"雷"はそのまま真っ直ぐシンジに向け突き進む。少し顔をしかめながらシンジは右手をかざしフィールドを展開する、ばしゃっという音と共に弾き散らされる"雷"その閃光で一瞬、シンジの視界がふさがれた瞬間、彼らは動いていた。金は"雷"を放った後続けざまにシャムシエルの"光の輪"を放った。それは皮肉にも金が持つシンジの遺伝子があるが故に出来る事。そして金の放った"光の輪"はATフィールドごとシンジの左腕を正確に切り裂いた。そして、同時に動いたラインが間合いを詰めるとシンジの左腕ごとアスカの身体を自分の元に引き寄せる。そして、至近距離から再度"雷"をシンジに向け解き放った。
白い光が再度その場を包み込んだ。そして一瞬、遅れて爆発音が当たりに響き渡る。
爆煙の中、自ら展開したフィールドに包まれながらラインが姿を現す。その腕には意識を失ったアスカがしっかりと抱かれていた。そして、彼の視線は油断無く爆煙の内の一点を見据えている。そこにシンジがいた。切断された左腕のあった部位を右手で庇いながらシンジは辛くもフィールドを維持していた。腹部の傷が原因で"雷"に対するフィールド展開が間に合わなかったらしく彼の身体はぼろぼろだった。
「アスカをかえせ!!」
怒鳴り声と共にシンジの体の回りに水が生まれ、槍状に姿を変える。そして、生み出された水の槍は一斉にラインに向け突き進む。しかし、次の瞬間、水の槍はラインに届くこと無く霧散し元の水へと姿を戻した。傷の痛みのために、シンジの精神集中が解かれたためである。
「力の制御すらままならぬか、ふ、無様だな"明けの明星"」
ラインの嘲笑が響き渡る。シンジは苦痛に顔をしかめながら、何も言えない。彼の脳裏には護りたくても護りきれなかった一人の少女の姿が浮かび上がる。あの時と同じように少女と同じ名前と顔を持つ少女が奪われようとしていた。
「金、私はASUKA=ONEを連れ帰る、お前はその手で生きた伝説にとどめを刺してやるがいい、さらばだ"明けの明星"」
高笑いと共に、ラインは自らの作った影へと沈んでいく。虚数空間を介した空間移動それをされたら。アスカを取り返せる確率は極端に低下する。
「アスカ」
故にシンジは、残りの全ての力を振り絞り、六対のフィールドで形成された翼をはためかせ、彼女の元へと向かう。されど、二人の間を遮るかのように躍り出る影が一つ。金がラインとシンジの間に立ちふさがったのだ。金はその手に生み出した光の槍をシンジに向けたたきつける。そして、今のシンジにそれをかわすだけの余力はなかった。フィールドの翼を何とか防御用に回し攻撃をかわすシンジ。だがその間に、ラインの姿はファーウェアから消えていた。
「失意の中で死ぬがいい"明けの明星"」
金の怒声と共に生み出された光の槍が、再度シンジに向け放たれた。そして、シンジには最早それをかわすだけの力は残されていなかった。
いつかこの手はきっと
翼になって希望の空へ
20
連邦歴435年
連邦標準暦12月11日 日曜日
???
闇の中に巨大な瞳、皇帝ルパード三世の姿が浮びあがる。その御前で膝をつきラインは皇帝からの言葉を待っていた。ラインはファーウェアでの作戦の終了を報告に来たのだ。どれくらい経ってからだろうか、おもむろに皇帝は口を開いた。
「ご苦労だった、ライン=カーンよ、此度の作戦の成功、すでにリン=アシトより報告を受けておる、ASUKA=ONEの奪回に成功したそうだな」
「全ては陛下の御威光の賜物です」
「これからの働きに期待している」
「かしこまりました」
その言葉を最後にラインの姿が掻き消える。先程の彼は、皇帝の前に映し出されたホロビジョンだった様である。ラインが消えた後もなお、巨大な瞳〜皇帝ルパード三世〜が消えることはなかった。
「千年に渡る我が悲願、果たされる時が来たか、紅き魔女も既に死に明けの明星は最早おそるるに足らぬ、今度こそ我が福音を人類全てに広め、人は進化するのだ」
笑い声が闇の中響き渡った。
悪夢は終らない。
千年の昔、一度人は命の水に還元され一つに成った。後の世の歴史家に"審判の日"と呼ばれる日のことである。寄り代に成ったのはまだ十四歳の少年。彼はその身に、その心に負荷をかけられ壊された。壊された少年は一度、一つに成る事を選んだ。しかし、希望はどんな時にもあった。一欠片の希望が少年の心を救い、たった一つの言葉が人類を再度群体へと戻した。結局サードインパクトは起きたがその被害は、実質最小限ともいって良いほどで押さえられた。そして、大部分の人々が命の海から、現世へと帰還した。そして、二年後、フォースインパクトを起こそうと考えたゼーレ残党はNERV本部への攻撃を敢行。アスカかシンジどちらかを殺し、どちらかを寄り代にしようと考えたようだが以前より力を失った彼らのずさんな計画が成功するはずが無かった。それどころか半身を奪われた一人の少年の手により彼らは殲滅されることに成る。ゼーレの残党は壊滅し、その技術と知識、そして裏死海文書は闇に葬られた。シンジはそれで、全てが終ったものと想っていた。だけれども悪夢は終っていなかった。シンジは知らなかった、半ば狂気に犯された科学者、Drルパードが作り上げた、多人格移植コンピュータ"Rupard=T"の存在をそして、その材料の一つとして人が溶けたLCLが使用されたことなど、シンジは知らなかった。
そして、悪夢は千年の時を超え花開こうとしていた。
21
約束、そのたった一つの言葉が僕を支えている。千年前に交わされた約束、そんな昔に交わされた約束だけれども、僕はそれを憶えている。それがあるからこそ、僕は永遠を生きられるんだろう。それが儚い希望だとわかってもなお。そして、僕がであったもう一人の君、まもってみせる、そう誓ったはずなのに、僕は護りきれなかった。そして、僕は彼女に言ってあげなかった。たった一つの言葉を僕は言ってあげなかった。その言葉を彼女に言ってあげれば、この後起こった幾つかの悲劇は回避できたのかもしれないのに、僕は言ってあげなかった。僕は千年の間、いろんな人にあった、そして、只一人取り残されてきた。だから怖かったのかもしれない、彼女にまで置いてきぼりにされるのが。だから僕は言わなかった。彼女が欲しがっていた、たった一つの言葉を。たった一つの言葉だけれども、とても大切な、その言葉を。
その言葉とは。
「愛している」
その言葉が僕を千年の間のささえとなり、生きてゆくための糧の一つとなったのに。僕はその言葉を口にしなかった。そして、その事を僕はずっと後悔することになる。
最終幕は、まだ開幕したばかり。
いつかこの手はきっと
翼になって希望の空へ
To Be Continued
後書き
永遠の時の果てで、最新話、ここにお届けいたします。
なんか、毎度おなじみの鬼引き展開になっておりますが、続きはきちんと書きますのでよろしければ、いま少し、お付き合い下さい。
それでは、また次話でお会いしましょう。
出典
作詞 叶アニス
作編曲 大森俊之
高橋洋子 アルバム“refrain”より
希望の空へ
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