22

連邦歴435年
連邦標準歴12月11日 日曜日
惑星ファーウェア 首都 エルシティ
AM11:00

惑星ファーウェア、辺境の入り口とも言うべきこの惑星に対する入植がはじまったのは、ここ百年ほどのことである。これは、植民星としては若い方の部類に入る。その首都、エルシティの人口は二百万ほど。全人類の数から比べれば、きわめて微弱な数字である。何しろ、この銀河において人類の数は兆を既に軽く超えているからである。だからといって、その半数の人が死傷するという事態は受け入れられることではない。辺境とはいえ、それなりの規模をもった惑星であるファーウェア、その首都であるエルシティ、その首都がほぼ壊滅するなど、あってはならない事態だった。その被害が最も大きかったのが市の中心街と郊外の住宅地。そこにはそこで起こった爆発の酷さを示すように、巨大なクレーターが二つ鎮座している。中心街にあるそれを見つめながらカリンは沈痛な面持ちをしている。まさか、帝国がここまでの強攻策を取るとは思わなかったから。惑星上での戦闘が終了したのは約十分前、カリンがこの惑星に降り立ったのが五分前地上のAC反応が消えるまで、彼女は何もできなかったのだ。そこで無辜の人々が死んでいっているのを知りつつ、そして、古い友人の一人が死闘を繰り広げているのを知りながら。
「ひどい、ものね」
「とりあえず、望み薄だけど、あの人の住んでいたって所に言ってみる?」
 横合いから彼女が雇ったボディガード、サラが尋ねる。少しの間の逡巡の後、カリンは首を縦に振った。ここにいても、何か手がかりが入るわけではない。わずかでも可能性があるのなら彼女はそれにかけたかった。それが、どんなに儚い希望であっても。
 
 
 
 

23

 そこは巨大なクレーターの中心部に位置する場所だった。ここに来るまでに得られた証言では天から巨大な光の柱が打ち下ろされたようだった、と、言う言葉を彼女たちは得ていた。
 このクレーターの大きさが、ここで行われた破壊の大きさを知らしめてくれた。
「シンジ、あなたはいったい何処に・・・・・・」
 そっと、クレーターの内部に手をつけながら漏らされた小さな呟き。
 答える人を求めたわけではないその言葉に一つ声が返ってきた。
「知りたいかい」
 弾かれたように声の響いた頭上に顔を向けるカリン。そして、その彼女の身を守るように彼女をかばうような位置に移動するサラ。サラの手には既に懐から取り出した拳銃が握られている。
「誰?」
鋭い声で言いながらサラが頭上に現れた男に銃を向ける。
ゆっくりと、影は、クレーターの底に降りてくる。逆光で見えなかった男の顔が二人の前で明らかになる。その顔は二人が良く知る人物に良く似ていた。だが、二人の知っている人物とは明らかにどこか違った。決定的に違うのは髪の色と、瞳の色、そして左腕がないこと。男の髪は金色で、そして瞳の色は青だった。彼女らの良く知る人物の髪は黒く、瞳も澄んだ黒色をしていた。
 どさり、そう音を立てて、男の腕の中にあった何かが地面に落とされる。地面に落とされた黒い何かを見てカリンとサラの顔が歪む。仕事柄二人はこういったものを見ることに慣れていた。それは焼け焦げた人の死体であった
「どうした、お前たちの、探し人だぞ」
 その冷たい声を聞いたとき、二人は一瞬、男が何を言っているのかわからなかった。そして、それを理解したとき、二人の表情はゆっくりと強張っていく。
「嘘」
 カリンの小さな呟きに、にやり、と男は笑うと言う。
「DNA検査でも、なんでもしてみるがいい、どんな検査をしたって、その焼け焦げた肉の塊が明けの明星だと教えてくれるはずだ」
「嘘よ」
 怒声と共に、サラの手に握られた銃が火を噴く。しかし、男の眼前に展開された赤き障壁が彼の身体に銃弾を届かせることはない。
「エンゼルチルドレン・・・・・・くっ、これならどう」
 怒声と共に、サラは銃を撃つと同時にサラは懐から取り出したいくつかの球状の物体を投げる。それはエンゼルブレイク、そう呼ばれる、対AC用兵器。それは問題なく発動し、目の前の男の力の発動を阻害するはずだった。が、男が小さく指を一つ鳴らすと、エンゼルブレイクは火を噴き、その機能を停止する。
「そんな・・・・・」
「セオリーだな、ACに対してはエンゼルブレイク、それに対する対応をこちらが考えてないと思うか」
 言って、男はにいっと笑う。
「それが、あの人だって言うの」
 激昂しかけたサラを抑え、冷静に言ったのはカリンだった。カリンの問いかけに男はニヤニヤしながら頷く。彼女の表情を楽しむように。
「ああ、間違いない陛下に逆らったのだ、当たり前の末路だろう、だが、さすがは明けの明星、私の腕の一本を持っていくとは、さすがだったよ」
 言いながら男は、もがれた自分の左腕のあった場所を見つめる。
「陛下、やはり、帝国なの、自我境界線崩壊事件を起こしているのは」
「ふふ、答えてやりたいところが、私はそこまでの権限は有してはいない、知りたければわれらが母星まで来るがいい、全ての真実はそこで、明らかになるだろうから」
 そして、響く嘲笑。男の姿はゆっくりと、彼自身の影の中に沈んでいく。
 エルシティに残された二人の女性達は、無言のまま、その場を動けなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
連邦暦435年 連邦標準暦12月12日付け 調査報告より抜粋
 
鑑定結果
 
件の死体と、提供された血液の持ち主は、同一人物である。
これらは、DNA鑑定、および各種検査の・・・・・・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
連邦暦435年 12月13日
地球連邦政府大統領 ハモン・ガルシアは全連邦下に対し非常事態宣言を発令
各惑星間、および恒星間に関する移動を必要最小限のものまでに限定
 
 
これは、連邦始まっていらい始めての措置であった
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
時は、連邦暦435年12月15日
千年の昔より続く物語の終焉が始まる
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
J-wing Presents
永遠の時の果てで
最終章
そして、君のもとに
第四十話
すべて、終わらせる為に
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

24

 装備を一つずつ身に付けるたびに、サラの内で緊張が高まっていく。防弾効果を持った特殊スーツ、各種装備のつまったディパック、多彩な機能を持った手甲、愛用の拳銃、そして、対AC用装備。
 背後で小さく響く圧縮空気の音に、彼女は振り返る。そこにいたのは先日までの依頼者、そして今、好意により各種装備を提供してくれた人。カリン・D・バークライト連邦情報局副長官。
「ごめん、結局、多発している自我境界線崩壊事件のおかげで、軍は出せないって事になったわ」
 沈痛な面持ちで言うカリンに、サラは言う。
「謝らないでいいわよ、どっちにしろ、アタシは一人でもやるつもりよ」
 確かな決意を込めたサラの言葉。
「一応、親代わりを殺されたのよ、古い考えだけど、敵ぐらいとらないとね」
 言って、サラはさびしそうに笑った。彼女は幼いころに親を無くし、たまたま、出会ったシンジに育てられたのだ。やがて、成長した彼女は独立し、父親代わりのシンジとは別にボディーガード業を営むことになったのだ。戦う術を、人を守る術を彼女に教えたのもまたシンジであり彼は彼女の師匠でもあった。
「それに、あの人の最後の仕事も継がないと、パパに対する、最後の親孝行かな」
 久方ぶりに口についた"パパ"と、言う呼び名。それに気がついた彼女は儚く寂しそうに笑った。彼女がシンジの死を告げられたのはつい三日前、それから一日、彼女は泣いて過ごし、そして、翌日にカリンの元を訪れると言ったのだ。地球へ行かせてほしい、と。
「船の用意は、してくれたの?」
 サラの問いかけに、カリンは首を縦に振る。
 軍の出動はかなわなかったけれども、カリンは最新型の高速艇を一隻用意していた。それくらいは彼女の持つ権限で何とかできたし、それ以上に、彼女自身、サラの為に何かしてあげたかったのだから。
「三番ポートに、船は用意してあるわ、あなたが行けば、いつでも発進は可能よ」
「ありがと、アタシの我侭聞いてくれて」
「ひとつだけ、教えてくれる」
 いつになく真剣な顔で、カリンがサラに問いを発する。
「何?」
「どうして、一人で行こうと思うの、いえ、一人でも戦おうって思うの」
 カリンの問いかけにサラは目を閉じ、しばらく考え込むそぶりを見せる。どれくらい経ってからだろうか、サラが目を見開き、カリンを見つめ答えたのは。
「全てを、終わらせる為に、かな、パパはよく言っていたわ、自分は旧世紀の遺物だって、もしも、帝国の本拠地が地球にあるとしたら、帝国も、旧世紀の遺物なのかもしれない、なら、終わらせなければいけない、人の命運を、いつまでも過去に縛らせてはいけないから、これはパパって言う、旧世紀の遺物に関わった者の、義務みたいなものよ」
 言いながら、最後にサラは笑った。
「そう・・・・お願いね、サラ、私もやれるだけの事をやるから、彼という、旧世紀の遺物に関わった者の、義務として」
 カリンの言葉にサラは頷くと、ぺこりと、一つ頭を下げると、駆け出した。
 全てを、終わらせる為に・・・・・・
 
 
 

25

連邦暦435年 
連邦標準暦12月15日
地球 旧北米大陸西岸
 

 そこには荒涼とした大地が広がっていた。かつては人類の母星としてあらん限りの栄華を極めたその惑星。だが、時の流れと共にその権威を失い、今では忘れ去られた辺境の一惑星。それがこの星だった。だが、人は知らなかった、闇の奥底でうごめいていた存在が、皇帝を名乗るその存在がこの星を、自らの帝国の首都として定めていたことを。そして、帝国の心臓ともいえる部分がこの星にあると言う事を。
 男は何をするでもなく、海を見つめていた。風になびき、男の長い金の髪がゆれ、そして、風は同時に中身が入っていない男の上着の左袖を揺らす。男の名前は、金、碇シンジの遺伝情報を継ぐ者。そして、オリジナルを殺せし者。
「何をしているのだ、金よ」
 唐突に声が響き、金の傍の影から、赤毛の男が姿をあらわす。ライン・カーン、帝国最強のACであり、帝国最強のAC部隊"近衛"を束ねるもの。
「別に、ただ海を見つめていただけだ」
 金の言葉に納得したわけではなかったが、ラインは小さく鼻を鳴らすと、ここにきた本題を金に対して言う。
「リンの奴が呼んでいる、お前の手の再生に関して話したいそうだ」
「了解した、ところで"子供"のほうの具合はどうだ」
「今日にも、与えた薬の効果が切れ、目を覚ますはずだ、その後待っているのは、起きながらの悪夢だがな」
 言った後、くくくく、と低い声で、ラインは笑う。
 金はそんな彼を一瞥したあと、無言のまま、自分の影に沈んでいった。
 
 
 
 

26
 
 連邦暦435年
 連邦標準暦12月15日
 地球 旧北米大陸西岸 帝国地下宮殿ローレンツ

 そこは大地の底にあった。人がその文明をもつずっと以前より存在した地下空間。ジオフロントそうよばれ、かつてはネルフ、という名の組織の支部があった場所にそれはあった。帝国の本殿とも言うべき建造物、地下宮殿ローレンツが。もはや忘れ去られた惑星の、忘れられた組織の忘れられた基地の跡に、それはある。この星に住む者たちですら知らない、この星の裏の顔、帝国の本部がそこにある。その地下宮殿のと、ある一室で、アスカは目を覚ました。
 目覚めれば、そこにあったのはいつもの天井ではなく、見慣れぬ白い天井。
 アスカは今、自分が、何処にいるのかわからなかった。倒れ、シンジの腕の中に倒れた所までは覚えている。そして、彼に何か言ってもらったのも憶えている。そこから先の記憶が、いまいちはっきりしなかった。覚えているのは、激しい爆音、舞う血飛沫、そして、切り飛ばされたシンジの左腕。
「お目覚めかな、ASUKA=ONE」
 聞こえてきたのは聞きなれたシンジの声ではなく、別人の声。そして、彼女はこの声の持ち主を知っていた。
「ライン・カーン・・・・」
 ゆっくりと身を起こしながら、目の前にいる男をにらみつけるアスカ。しかし、ラインはそんな彼女の厳しい視線を気にした様子は全くない。
「名前を覚えていただけたとは光栄だな、我が、兄妹よ」
「兄妹ですって、あんたと、アタシが冗談じゃないわ、アタシにとっての家族はお爺ちゃんと、シンジだけよ」
「ふふふふ、ははははは、知らないと言う事は幸福とは事実だな、ついてくると良い、君に真実を教えてあげよう」
 嘲笑と共にラインは言い、アスカをゆっくりと手招きする。
 そして、アスカは一瞬の逡巡の後、ラインの後をついて歩き始めた。知りたかったから、自分が何者なのか、そして、何故自分が帝国に狙われるのか。そして、すべてを終わらせる為に。
 彼女は歩き出した、それが悲劇へと続く、一方通行の通路とは知らずに。
 
 
 
 

27

 連邦暦435年
 連邦標準暦12月16日
 連邦軍高速巡視艇アキレス

 船はまもなく、人類の母星に着こうとしていた。
 連邦の中心星系から離れること、およそ、数十光年。かつての連邦の中心たる星、地球。
 今では長空間航法を行い、それでも一日かかる距離にある、辺境の惑星。
 サラを載せた船は、ここまでたどり着いたのだ。すべてを終わらせる為に。本来ならサラは一人でこの星に降り立つはずだったが、ひょんなことから道連れが一人、いや、一匹増えていた。サラはちらりと、出発間際になって増えた、一匹の道連れに目をやった。銀の毛並みと、青の瞳を持つ神秘的な雰囲気をもつ猫。かつて、彼女の父代わりの人物が飼っていた一匹の猫、月夜。彼女は何時の間にか現れ、ちょこんと、アキレスの席で横になり毛繕いをしていた。何度かサラは彼女を船から下ろそうと画策したのだが、どれも上手くいかず、結局、根負けし、彼女を共に連れて行くことにした。自分が、カリンに言った一言を思い出したから。
『これはパパって言う、旧世紀の遺物に関わった者の義務よ』
 その一言が、月夜を共に連れて行くことに決めたのだ。月夜も彼に関わった者の一人であることは間違いないのだから。
 サラは知らない、この猫が、シンジと共に千年の時を生きてきたことを。そして、この猫こそが全ての始まりとなった者の化身であると言う事を。
 知るのはただ、じっと母星の周囲を巡る二つ目の月、黒の月を見つめる猫、月夜だけ。
 全ては、千年の昔より続く、悪夢の鎖を解き放つために。
 
 
 

 
 舞台に役者はそろい、全ては、終焉へと向け収束していく。
 この長い物語の終わりが、ゆっくりとだが見え始めている。
 全ては、母星の南の極で起きた事件より始まり、そして、全ての終わりは母星の上にて。
 それを知る、唯一つの存在は、物言えぬ姿のまま、久方ぶりに見る母星に、心奪われていた。
 

 時は一日さかのぼる。    
 それが悲劇の始まり所以に。
 そして、それが絶望より生み出される最後の希望の礎となるのだから。
 
 
 

28

 連邦暦435年
 連邦標準暦12月15日
 地球 旧北米大陸西岸 帝国地下宮殿ローレンツ
 

 どれほどの距離を歩いたか、彼女は良くは憶えていなかった。ただ目の前にある、赤毛の青年の背中を追う。無論、彼女は油断なく通路を見回し、脱出経路などを探していた。高い塔に囚われのお姫様など、彼女の柄ではなかったから。王子様が助けに来る前に彼女自身の力で何とかし脱出してやろうと考えていたのだから。
 そんな彼女の様子に、ラインは気がついていたが、何も言わなかった。彼女に絶望を与えるのはあと少し先だ。アスカには最後の大仕事が待っているのだ。そのためには彼女の心を完全に砕く必要があるから。彼女の心から生み出された絶望こそが、銀河により大きな悪夢を撒く原動力となるのだから。だから、彼は、まだ何も言わない。彼女の出生の秘密も、シンジの死も、彼女が作られたわけも。何もいいやしない、彼女に絶望を与えるその時までは。
 やがて、と、ある部屋の前で、ラインは足を止めた。そして、ドアの脇にあるキーボードに決められた番号を入力し、その瞳を探知装置の前にさらす。機械が網膜紋を確認し、ドアの前にいる人物がライン・カーン出あることを認知すると、小さな音を立て、扉が開いた。ラインはアスカの方を向き入ってこいという風に、その手が振られる。アスカは一瞬の逡巡の後、部屋に足を踏み入れた。そこは、何も無い真っ白な部屋だった。いや、正確に言うと違う、部屋の中央には情報端末が一つだけ置かれていた。無言のまま、ラインは、端末の前まで行くと、なにやら操作を始める。そして、昔話をするような口調で、話を始めた。
「約一千年前、この、母星の南の極である物が発見された」
「ある物?」
 いぶかしげに問う、アスカを振り返りもせず、ラインはその言葉に答える。
「それは、当時の人の眼から見ても、神と言っても良い代物だった、それは二体の巨人、発見者はその巨人たちに、アダムとリリスと名づけた、無論、それは人の手には過ぎた代物だった、だがな、自らの力を客観視できない人間はいつだっている物だ、自信過剰と過信、それにより行われた実験、結果、アダムと名づけられた巨人の力は暴走、人類の半分近くの人口に奪うに至った、それが今でも歴史の教科書に記されている、セカンドインパクトの真相だ、偶然でも自然災害でもない、完全な人災だよ」
 ラインはもう、ほとんどの人類が忘れている事実を淡々と語っていく。その間も、彼の手は端末のキーボードを操作し続けている。
「だがな、人は懲りないもので、暴走を免れたもう一体の巨人の力を利用しようなんて考えた奴がいたんだよ、それは、と、ある予言書の記述に従い、巨人の力を借り人をより高次の存在へと高めようとした老人たちだった、そして、生み出されたものが、福音の名を持つ者、エヴァンゲリオン、まさにオーパーツといって言い代物だ」
 その言葉が終わると共に、ラインは端末を操作し、幾つかの立体映像を浮かび上がらせる。その内、一つは数ヶ月前、アスカが見た、あの紅い巨人の姿だった。だが、幾つか、アスカには見慣れない巨人の姿が、そこには映し出されていた。青いボディーカラーの単眼の巨人、漆黒の身体をした巨人、銀の身体をした巨人、爬虫類じみた顔をした白い巨人、そして、紫色をした角を生やした鬼のような巨人。
「これらが、エヴァンゲリオン、人が己が手によって生み出した、神の写し身だ、そして我らが大願をかなえるための、キーでもある」
「千年も前の与太話が、アタシに何の関係があるというのよ」
 そのアスカの言葉に、ラインはにやりと、笑うと答えた。
「知らないのか、お前も良く知るあの男、シンジ・イカリはこいつの搭乗者だった、そして、とある戦いの後、こいつと融合し不死となった」
「知ってるわ」
 アスカの言葉に一瞬驚いた顔をするライン、だけれども、次の瞬間、再度彼は人の悪い笑みを浮かべていた。
「そうか、ならばこれは知っているか、この神の移し身達こそが、千年の昔、一度人を滅ぼしかけた"審判の時"サードインパクトを引き起こしたことを、そして、その直接のキーと成ったのが彼の絶望の叫びだったことを」
「それがどうしたって言うのよ、あいつはその事で充分苦しんでいたし、償いもしていたわ、千年も前のことであいつを攻めるのはもうお門違いよ」
 シンジを信じる、アスカの言葉。対するラインは、それにさして驚いた様子は無い。彼はにやりと唇を邪悪な形にゆがめ言った。
「そうだな、あまり死者に鞭打つ物ではないからな」
 その言葉をアスカが理解するのに一瞬の時を要した。そして、その意味を彼女が理解した時、彼女の顔色がゆっくりと青く変わっていく。
「嘘よ」
「嘘ではない、読んでみればいい、私の心を、特A級のカテゴリーアラエルである貴様なら簡単だろう」
「嘘、嘘よ、あいつが死んだなんて、嘘よ!!」
 耳をふさぎ、ラインの言葉に抗う様に、彼女はゆっくりと首を左右に振る。そんな、アスカに対しラインは更なる追い討ちをかける。
「死んだよ、彼は、明けの明星、シンジ・イカリは死んだよ、我らの手にかかってな」
 ラインはそのまま、何事も無かったようにアスカに語りかけるのを止めない。
「そして、約二十数年前、我々はこの星の、かつて日本と呼ばれた環状列島で、あるものを発見した、それが、今回の計画の始まりとなったわけだが」
 ラインの手が端末を操作すると、映し出される立体映像の内容が変わった。それはアスカにも見覚えのある代物だった。数ヶ月前、自分が見たもの、エヴァンゲリオン、その弐号機。
「ほぼ完全な状態で発見されたそれ、そして、そのエントリープラグの中で我々は、ほぼ完全な状態の適格者の細胞のサンプルを手に入れる事に成功した、以前から進んでいたクローニング研究のおかげで、そう時間をかけずその細胞からクローンを作り出す事に成功した、だが問題がここで発生した、どういうわけだが、そのクローンたちに自我が宿ることは無かった、まるで魂そう呼ばれるものが欠けているかのごとく」
「それが、なんだって言うの」
 絞るように吐き出されたアスカの言葉、だがラインはその言葉にはこたえず、自分の言葉を伝えることを止めない。
「そこで我々は考えた、受精卵をLCLを満たした人工子宮ではなく、実際の子宮に移したらどうか、と、そして代理母としては、ある特A級のエンゼルチルドレンを使わせてもらった、結果は大成功だったよ、そして、オリジナルの細胞の持ち主はACではなかったのに、クローンは代理母と同じカテゴリーの特A級のACだというおまけまでついた、ここまで話せば気づいているだろう、そう」
 ゆっくりとラインの手が端末を操作していく、そして、最後の始動キーとなるボタンをラインは押した。それに反応し、ゆっくりと部屋の周囲の壁が競り上がり天井に収納されていく。
「ここがお前の生まれた場所、これがお前の真実だ」
 そこには金色の水が満たされていた。
 そこにはたくさんの何かが浮いていた。
『ふふふふふ』
『ははははははは』
『くすくすくすくす』
 それの内の一つとアスカの視線が交錯する。彼女と同じ青い相貌が彼女の瞳を除きこんでいた。その顔をアスカは良く知っていた。それは他ならぬ、アスカ自身の顔だった。たくさんのアスカがそこには浮き、笑い続けていた。
「いや、いやぁぁあっぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 それは傷ついた彼女の心を壊すには充分すぎる光景だった。
 そして、彼女の心は、砕け散った。皇帝の思惑通りに。
 
 
 
 
 

29

 すべて、終わらせる為に。
 その言葉と共に、役者は、人の生まれし母星へと集っていく。
 それが、千年の昔より、あらかじめ定められた、運命のように。
 すべて、終わらせる為に。
 千年の昔より続く悪夢を終わらせる為に。
 

 時はきたれり。
 すべて、終わらせる時が。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

To Be Continued
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 後書き

 どうも、J-wingです。どうにか、こうにか、永遠の時の果てで、最新話完成です。
 ふう、ようやくここまで書けました。LCLにたくさん浮かぶ、アスカって構図は書き始めのころからあったんで。
 ようやく、終盤まで来たことを、よくよく実感させてくれました。
 それでは、また次話でお会いしましょう。