何度夢に見ただろうか、君がそこに居る光景を。
 何度、幻影で見ただろうか、君のその姿を。
 何度、夢の中で聞いただろうか、君の声を。
 今でも、僕は怯えている。これは夢ではないのかと。目覚めると、また無限に続く孤独な時が始まるのではないかと。
 僕は怯えている、目覚めれば、また君のいない世界が始まるのではないかと。
 怖くて、僕は振り返ることは出来なかった。振り返れば、その時、夢から現実へと引き戻されるのではないか、そう、信じて。
 だから、声をかけることが出来なかった、声を発したその時、夢から覚めるのではないのか、そう思えて仕方が無かったから。
 だけれども、背後から回された君の手の温もりが、背後から感じる、確かな君の鼓動が僕に勇気をくれる。
 だから僕は言葉を紡ぐ事に決めた。
 たった一つの言葉を。
 君と再び、出逢った時、その言葉を紡ぐことを僕は決めていた。
 ずっと、ずっと、昔から。君と別離をしたあの時から。君と約束を交わしたあの時から。
 そして、約束は果たされた。
 千年の時の果てで、だから僕は紡ぐのだ。あの時、決めた言葉を。
 ただ一言、僕は笑顔と共に、君に向かい、言葉を紡ぐのだ。
 そう、ただ、一言。
 
 
 
 

「お帰り、アスカ」
 
 
 
 

「ただいま、シンジ」
 
 
 
 

 言って、君は僕が夢にまで見た、言葉と笑顔を僕にくれた。
 そして、カーテンコールの声が響く。
 この長い長い物語の終わりを告げる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

J-wing Presents
永遠の時の果てで
Last Episode
 
そして、君のもとに
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

56
連邦暦435年
連邦標準暦12月16日 PM8:47
地球 旧北米大陸西岸
 

 気が付けば、そこは暗い地下通路のようなところだった。
 床に叩きつけられたおかげで痛む腰をさすりながら、サラは立ち上がり状況を飲み込むために辺りを見回す事に決めた。
 あの瞬間、月夜のATフィールドが砕け散った瞬間までは覚えている、だが、その後、軽い浮遊感を覚えた後、気がつけば彼女はどこかに落ち、したたかに腰を打ち付けていた。
 そして、状況は今にいたる。
「月夜」
「なぁ」
 かけた声に、反応し、猫の声が一つあがる。そして、足元にふわふわした、柔らかいものが身体をこすりつけてきた、おそらくこれが月夜であろう。
 そして、一つ、耳慣れぬ声が彼女たちに向け放たれた。
「気がついたかね」
 声と共に、今まで感じることの出来なかった気配が一つ、生まれた。慌てて腰のホルスターから拳銃を一丁抜き、身構える、サラ。月夜も気配の方に顔を向け、警戒の構えを崩さない。
ゆっくりと、気配の主が闇の中から、歩き近寄ってくる。それと共に、気配の主の姿が、おぼろげに映し出される。そして、その人物を、サラも月夜も知っていた。
「そこまで警戒する必要は無いよ、俺に連邦のよき市民である、君たちを傷つけるつもりは毛頭ない、まぁ、君たちが犯罪者であるというのなら話は別だが」
 言って、気配の主である男、リン・アシトは唇を歪め笑った。それは非常に空虚な笑い方だった。だが、サラも月夜も、警戒を緩めやしない。どうして、帝国の宰相を務める男を前に警戒を解くことが出来ようか、しかもこの男は、サラにも月夜にも、気配を感じ取られること無くここまで進入してきたのだ。警戒を解け、というのが、無理な話というものだ。
「それ以上、動かないで」
 鋭い声で、サラが言うと。リンは苦笑を浮かべ、その歩みを止めた。
「命の恩人に対し、ずいぶんな態度だな、まぁ仕方がないか、俺の立場を考えれば、サラ君と月夜君、だったかな、そのままでも構わないから、話を聞いてくれないかね」
「命の恩人?」
 問い返すサラに、リンは苦笑を浮かべたまま言う。
「まさか、日頃の行いが良いから神様が窮地から助けてくれた、と信じられるほど、君らは子供でもあるまい、三人のラインの攻撃が君たちを殺してしまいそうだったからね"私"がローレンツに用意しておいた隠し通路に何とか君たちを引き込んだのさ」
 私、その言葉に妙なアクセントを込めながら、リンは言う。あいも変わらずその顔に浮かぶ苦笑を消さぬまま。
「貴方は、私たちの敵なのに」
「その言い方は適切ではない"私"は君たちの敵であったが、俺はそうではない、どちらかといえば俺にとって、君たちは恩人に当る、だから助けた」
 ここまで来てサラは気がついた、リン・アシトが自分の一人称を使い分けている事に。そして彼が何を主張しようとしているかに気が付いた彼女は皮肉たっぷりにこう言ったのだった。
「何、全部悪いのは『"俺"の頭の中にいる、たくさんの"私"だ』とでも言うつもり、寝言は寝ながら言う事ね、それに恩人ってどういう事、まさか『出世競争の邪魔をしたライン・カーンを殺してくれてありがとう』とでも言うつもり」
「その主張はある意味、的を射ているが正確ではないな、これでも俺は昔は連邦の捜査官なんてのをしていたんだよ、で、やばい山に首を突っ込んで、挙句、帝国に捕まって、ここに"ターミナル"なんて物を埋め込まれちまった」
 リンはそう言いながら自分の頭の部分を人差し指で、とんとん、と叩いて見せた。
「ターミナル?」
 怪訝な顔で問い返すサラにリンは一々、丁寧に答えてゆく。
「ありがたい、至尊の存在である皇帝様の声を脳みそに強制的に響かせてくれる機械さ、おかげで俺は俺ではなくなった」
「でも、今、貴方は自分を保っているように見えるわ」
「それが、君達に対する、恩なんだ、ラインは俺の脳みそにあるターミナルによってかけられる暗示を強固にする為の存在でもあった、それが死んだ、今、俺は何とか暗示を破り、こうやって君たちと話しているわけだ」
「話はわかったわ、それで、貴方は私たちに何の用があるの」
 サラは未だ銃口をリンに向けたまま問う。リンの目的が、彼が何を考えているか全く読めなかった故に、彼女は警戒を緩めるつもりはなかった。
「君達に二つ頼みがあるんだ、これは君たちにとっても悪い話ではないはずだ」
「どうだか」
 リンの言葉に対し、皮肉っぽく言うサラ、そんな反応は予想していたのか、リンは苦笑を浮かべるだけで抗弁はしなかった。
「一つはこのディスクを、この先にある端末で読み込んで、中にあるファイルを実行して欲しい」
 そう言いながらリンは、懐から、データディスクを一枚取り出し、サラの方に投げて渡す。銃を構えたままサラはそのディスクを左手で受け取る。
「聞くけど、何が入ってるの、このディスク」
「何、俺がこれまで見た中で最も凶悪なウィルスが一つ入ってるだけだ」
 どこか、悪魔めいた雰囲気を持った笑いを、リンはその顔に浮かべた。
「本気、なの」
「ああ、本気さ、感染の方は心配しなくて良いぞ、君たちの有能なる雇い主はどうやら大統領に銀河ネットワークの停止を進言し、受け入れられたらしい、まぁ、君たちの送った報告を見れば当たり前だろうな」
「それで、もう一つの頼みって」
 構えた銃を降ろそうか、降ろすまいか思案しながら、サラは問うた。リンが言う、もう一つの頼みの内容を。
「そうだったな、そっちの方が大事な頼みだった」
 言いながらリンはその顔に苦笑と、迷いを表情として浮かべた。
「ん〜、言いにくいな、ま、単純に言おう、君の持つその拳銃で、俺を殺してくれ」
 その瞬間、場の空気が固まった。銃を構えたままの体勢だったサラは、危うくその手にもつ拳銃を取り落としそうになった。
「何、言ってるの、あんた」
「聞こえなかったか、その銃で俺を殺してくれ、狙いあたわず、このくそったれな、ターミナルごと俺の脳髄を、打ち抜いてくれ」
 トントンと自分のおでこを叩きながらリンは言う。ごくごく、簡単なことの様に。実際、肉体的な労力から言えばそれは簡単な事だった、ただその指先に力をこめ引鉄を引く。ただそれだけのこと。だけれども、サラには、そんなことは出来なかった。甘いといわれるかもしれないけれど非武装の、無抵抗の相手に引鉄を引く事は彼女には出来なかったのだ。
「理由、聞いて良い」
 幾ばくかの沈黙の時の後の、サラの言葉、それに対しリンは苦笑を浮かべながら答える。
「理由もなしに、非武装無抵抗の相手を殺す事はできんか、甘いな、ふぅ、あまり時間もないが、まぁいいだろう、願いをかなえてもらえなければ、困るからな」
 いいながら、リンはこつこつ、と自分のおでこを叩いて見せた。
「ここにターミナルって言うくそったれな機械が埋まっているのは話したな、こいつは皇帝の放つ、ある特定の電波を受信して動いているんだ、そして、それが途絶えた時、即ち皇帝が死んだとき、これは、ドカンと行くんだ」
「なっ」
 サラは微かに驚きの声をあげた、自分の部下にここまでするとは、皇帝はまともではない、それがサラの抱いた感想だった。
「俺は、機械の一部品ではなく、人として死にたい、せめて俺は"私"としてではなく、俺として死にたいんだ、今でも"私"を押さえ込むのには、苦労しているんだぜ、ちょっとでも気を抜いたら出てこようとしている」
 苦笑いを浮かべながら、リンはそこまで言うと、そっと目を閉じ、一言、言った。頼む、と。サラは無言のまま、下ろしかけた銃口を、再度彼に向けた。
 銃を持つ腕が震える。こんなこと、初めての経験だった。震えて狙いの定まらない腕を、彼女は右腕で支える事によって、押さえ込む。
 会話を交わしたのは、短い間だったけれども、彼の放った言葉の数々が、サラの頭の中で反響する。迷う。かつて、彼女の義父が、渚カヲルを前にしたように。迷う。己が指先に人の命を預かりながら。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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 パァン
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 永遠とも思える、沈黙の時が過ぎた後、乾いた銃声が、一度だけ、場に響いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

57
連邦暦435年
連邦標準暦12月16日 PM8:57
地球 旧北米大陸西岸
ローレンツ最深部 皇帝の間
 

 アスカはATフィールドを利用した反重力によって宙に浮かびながら、ぐるりと、場を見回した。そこには、彼女が愛する男の、醜悪なコピーがたくさん居た。
「アンタ、何時の間にプラナリアの親戚になったの」
 背後に居るシンジに向け、笑いながらアスカは問う。対する、シンジは、といえば苦笑いを堪えながら、体の代謝機能を促進させ、ゆっくりと傷をふさいでゆく。
「プラナリアの親戚になった覚えはないなぁ、さすがの僕も真っ二つにされたら、それぞれが別の個体として再生する前に、死んじゃうからねぇ」
 のんきなやり取り、でも、その空気が、その雰囲気が彼に百二十パーセントの力をくれる。
「ほら、皇帝は、ああやって増えていくんだよ」
 LCLの湖から実体顕現を続ける皇帝を指で指し示しながら、シンジが言うと。それを見たアスカは、大笑いした。
「何でまた、馬鹿シンジなんかの姿で増え続けているのよ、アタシの下僕で恋人の馬鹿シンジは一人で上等よ、馬鹿なんだから」
「馬鹿、馬鹿、人様の前で言わないでよ」
「馬鹿を馬鹿といって何が悪いのよ」
 それは千年前と変わることのない、二人のやり取り。
 そして、アスカの復活にしばらく茫然自失としていた皇帝たちは、我を取り戻すと、最後の戦いにふさわしい雰囲気を打ち壊した無粋な侵入者の姿を見つけ激昂した。
『この道化が、神聖なる戦いを邪魔するとは、もうよい、復活して早々なんだが、二人揃ってあの世に行くがよい』
 怒声と共に突っ込んできた皇帝の攻撃から、軽々と身をかわすと、アスカは容赦なくその体にその手に持った、紅い槍を突き刺した。悲鳴をあげる暇すら与えられずに、皇帝の一人は、塵へと帰った。
「で、完全再生にはどれくらいの時間が必要」
「だいたい、あと五分くらいかな」
「なるほど、わかったわ、アンタはこれを持って五分休んでなさい、その間、この醜悪なアンタのコピーどもはアタシが責任を持って相手をしてあげるからさ」
 その手に持ったロンギヌスの槍をシンジに手渡しながら、アスカは何処かにピクニックに行くかのような気軽な調子で言った。
「千年振りの戦いだから、血が騒ぐのよ」
「ホント、君は好戦的だねぇ、お願いするよ、アスカ、ありがとう」
 最後の一言は、アスカにしか聞こえないような小さな声で言ったので、皇帝達の耳に届くことはなかった。そして、皇帝たちは、あまりに不遜な、アスカの発言に怒り狂った。そして、不遜な発言をした彼女を一通りなじると、一斉に、アスカに向け襲い掛かった。
『槍を持たない貴様に何が出来る』
 そんな声と共に、シンジから距離をとったアスカの元に、左右から皇帝が二人がかりで襲いかかる。その手には、カテゴリーサキエルの力が生み出した光の槍と、カテゴリーシャムシエルの力で生み出した、光の鞭が輝いていた。そして、鋼鉄をもバターの如く切り裂くそれぞれの一撃が、容赦なく、アスカに向け放たれる。
 だが、アスカは慌てることなく、それぞれの一撃をかわす、そして彼女は彼らの力の向く先をその手を持って変えてやった。結果、彼女を左右から挟撃しようとした二人の皇帝は、それぞれの武器で以って、その身を滅ぼすこととなった。
『ならば、これは』
 そんな声と共に、今度は虚無の刃と、水の槍、そしてカテゴリーサンダルフォンのメタモルフォーゼの能力によりその手を、剣と変えた皇帝達が、三方から同時に襲いかかる。
「なるほど、二人で駄目なら三人か、でもまだ甘い、えっと、こんな感じかしらね」
 声と共にアスカの両手に、無数の光の輪が出現する"鏡"すら切り裂く、カテゴリーシャムシエル最強の武器、リング、である。
「いっけぇぇぇぇ」
『なっ"学習"しただと』
 驚きの声をあげながら三人の皇帝たちは、リングによって、その身を切り刻まれることとなった。アスカは不敵な笑みを浮かべながら、ぐるり、と皇帝たちを見回し、言った。
「次は誰」
 と。
『貴様、有しているのはカテゴリーアラエルの力だけではないのか』
 狼狽交じりの皇帝の問いかけに、アスカは不敵な笑みを浮かべたまま、懇切丁寧に説明してやる事にする。五分の間、時間を稼ぐ目的の彼女の目的にもそれは合致しているが故に。
「アンタバカ、カテゴリーアラエルの力しか有していないのは、ルシアでしょう、アタシは、シンジと同じく、福音の名を持つ者と融合せし者、惣流アスカ・ラングレーよ」
 そこで、彼女は言葉を切り、にやり、と笑った。それは、一人、新たな不死者が誕生したことを告げる言葉であった。そして、シンジと同様の"学習"能力を持つエンゼルチルドレンの誕生を告げる、言葉でもあった。
「そうね、シンジの二つ名が、明けの明星ルシフェルだから、アタシの二つ名は四大天使が一人炎を司りし者、ミカエル、よければ、アタシの事はミカエル・アスカ様、と呼ばせてあげるわよ」
 言って、アスカはからからと笑った。その、あまりに人を食った言葉に、皇帝たちは怒り、そして不遜な言葉を言うアスカをなじり、一斉に攻撃を開始した。その攻撃は、彼らの力を一点に集めた、最大級の"ラピュタの雷"。これ以上、アスカがカテゴリー能力を学習する前に、一撃で葬り去ってしまおうと考えたのだ。
『死ねぇ』
 怒声と共に、今まで作られた中で、最大級の"ラピュタの雷"がアスカに向け、襲いかかった。アスカは、それを恐れない、一つの確信があったから。先ほどまでの彼女と、皇帝に使われた時間は二分、言葉を交わすのに使用された時間も、また二分、そして"ラピュタの雷"がチャージされるまでに使われた時間は、一分。五分の時が、経過していた。それは、世界最強のエンゼルチルドレンが復活するまでに必要だった時。数刻前の光景が、次の瞬間、再現された。シンジの手により投げつけられたロンギヌスの槍は、皇帝たちの放った"ラピュタの雷"を打ち砕いた。
「ありがと、シンジ」
 アスカは振り返ることなく、背後にいるであろうシンジに向け、礼を言う。右手で、戻ってきた槍を受け止めながら、シンジは騎士が、姫君にするように慇懃に一礼するというのだった。
「どういたしまして、僕のお姫様」
「僕の、とは言う様になったわね、シンジ」
 そう言って、彼女は微笑んだ。
『くっ、まぁ、よいわ一人が二人に増えた所で、いかに防御に強くなろうとも、万や億を超える数を誇る余を、殺すことは出来はしないのだから』
 頭上から、憎々しげに、彼らを見下ろし皇帝たちが言うのを聞き、アスカは背後にいるシンジに向け、振り返りながら問う。
「だ、そうだけど、その顔だと何か手はあるんでしょう」
「もちろん、さっきまでの僕だったら手詰まりだったけれど、この槍があるからね」
 阿吽の息でシンジはそう答えると、その手にした、真紅の槍を構え、不敵に笑う。
『そんな槍一つで、いかに神殺しの槍とはいえ、たった一本の槍で、余を殺そうとは片腹痛いわ』
「教えてやるよ、皇帝ルパード三世、本当の死って奴を、確実に殺してやるよ、ルパード」
 何時の間にか、LCLの湖面近くに移動したシンジが、皇帝たちを見上げながら言った。
「アスカ、僕と一緒に、槍に手を添えて、そして、ありったけの力を槍に注ぎ込んで」
 シンジの言葉に、それ以上の説明を求めることなく、アスカは首を縦に振った。そして、得たばかりの自分の力の殆どを、槍に向け注ぎ込んでゆく。
「教えてやる、ルパード、これが、本当の死って奴だ」
 怒声と共に、ありったけの力をこめ、シンジは神殺しの槍を、別名、魂砕きの槍、とも呼ばれるそれを、人の"魂"が溶けたLCLの湖に向け、突き刺した。
 瞬間、場をはげしい光が満たしてゆく。
『なっ、きさま、何を』
 液体であるはずのLCLの湖に、ヒビが入った。魂すら砕く槍、ロンギヌスの槍の力によって。
『バカな、余が滅びるというのか、バカな、バカな』
 

 そして、その時、ローレンツの一角の、皇帝直轄の端末で、一つのデータディスク内のプログラムが実行された。これほど、絶妙なタイミングはない、と、いうタイミングで。
 

『が、リン=アシト、がぁぁぁぁ、ざhふうぃうぇvぎyっぶいういぇqnfiえいfj、な何の、プログラムを、実行しjヴぃおpwじょぺいfjをぺつ8、ガガガガガ外グ義ウグ絵gふうえぎぐwべうfvにロh義追えghyj語彙ウェくぉ憂げウrhsfんぎうrg非h義追えdrytghんhd義おあえjrggjぼいぺrjgmうぇぽちじぇおじぇyふぃ7うwgにおりじおうぇrんgへいおひおhせにろううぇhふぇいおgひおgじrhごhぎおうぇhちぎおうぇんをつうぇえいtぎぎおうぇういえをいえちおえt』

 皇帝は、もはや、人語を話すだけの余力もなかった。あれほどたくさんいた、皇帝たちは、一人ずつ、その姿を消滅させてゆく。シンジとアスカがその手にした槍、ロンギヌスの槍の力によって。
『ばかな、バカな、余は、神聖不可侵の皇帝、銀河を救う者、人類を進化させる義務を有せし者余は、余は、最強の使徒、リリンであるぞ、その余が滅びるというのか』
 最後の一人になった、皇帝の絶叫。ゆっくりと、LCLの湖から槍を引き抜いたシンジは、頭上に浮かぶ皇帝を見上げ、言った。
「悪夢は終わりだ、皇帝、だれも自我境界線を崩壊させて、一つになることなど望んでいないよ、人は人として、あるべきなんだから、一つになった、それは、人とは呼べないのだから」
「そうね、あんな世界、アタシも真っ平ごめんよ」
 そして、シンジは引き抜いた槍を、頭上に浮かぶ、最後の皇帝に向け構えた。
「これで、千年の妄執も、悪夢も終わりだ」
『や、やめろぉぉぉぉぉぉぉ』
 そして、槍は、放たれた。投げられた槍は狙いあたわず、最後の皇帝の身体を打ち抜いた。
 

『ぎゃあああああああああああああああああああああああああ』
 

 皇帝の断末魔の声とともに、彼の足元に広がっていたLCLの湖は、粉々になって砕け散った。
 そして、悪夢は滅びた。千年の間、母なる星、地球の地下深くで生き続けた、悪夢の結晶は滅び去ったのだ。孤独ではなくなった、一人の不死者の手によって。

「さて、と、最後の大仕事が一つ、残ってるからやらないと、手伝ってくれるよね、アスカ」
「大仕事って?」

 背伸びをしながらのシンジの言葉に、アスカは首をかしげる。皇帝を倒した以上、自分たちの仕事が残っているとは思えなかったから。

「LCLに溶けちゃった人たちがいるから、呼び戻さないと、施設はあるはずだから逆利用してやれば、結構、スムーズにことは運ぶと思うよ」
「あ、そっか、いいわよ、手伝ってあげる、人類の保護者も大変ね」
「僕は、そんな大した者じゃないよ、ちょっとだけ余分な力を持った、ただの人間だよ、約束を信じて待ち続けた、夢見がちな少年って、所かな」
「少年って年でもないでしょうが」
「そう言うアスカこそどうなのさ」
「あ、女性に年齢の事を言ったわね、ええ、どうせ、アタシはお婆ちゃんですよ、だ」
「そんなことは言ってないじゃないか・・・・・」
「だいたいね、あんたは・・・・・・・・」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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 その日、人類の母なる惑星、地球にて巨大な光が一つ、確認された。
 月面都市においても、確認されたその膨大な光は、地球の旧北米大陸西岸より発せられたことが確認されたという。
 そして、それと、時を同じくして、銀河各地で生命のスープに還元された人々が、帰ってきた。その因果関係は一切不明とされているが、夢見がちな一部の人たちは、母なる星が起こした奇跡ではないかと伝えている。
 

 連邦暦435年12月17日付け
『ギャラクシィ・ネットワークニュース』より
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 声を聞いたんだ。帰ってきなさいって言う声。
 一人は、落ち着いた男の人の声、もう一人は、元気な女の人の声。
 そこは暖かかったから、最初は帰るのが嫌だったんだ、そうしたら、しょうがないなって、声が聞こえて、その後、世界が見えたんだ。
 

 何処までも広がる緑の草原。そこを駆け抜ける子供たち。
 蒼い、蒼い空と広がる、海、陽光に煌くそこを、シャチが一頭、はねたんだ。
 見たことのない、何処か遠い星で、昇る二つの太陽、とても、とても綺麗だった。
 また、別の星の、別の場所で、空を見上げれば、七つの月が瞬きながら僕を見つめていた。
 また、何処か遠い場所の、暖かな場所で、僕は人が生まれるのを見た。新たな命が生まれるのを見たんだ。
 また別の場所で、宇宙船の内側から見える、星の煌きを僕は見た。
 今度は、何処か遠い星の、誰もいない草原で、風が頬を優しくなぜるのを感じた。
 そして、次に僕が見たのは、風に吹かれ一斉に舞い上がる、タンポポの綿毛。
 次に見たのは、雪、真っ白な雪が、世界を白く染め上げていくのを見た。

 
 全部、とても綺麗な光景だった。
 そして、また声が聞こえたんだ。
 これが、世界だって。世界には、暗くて、怖い所も汚い所もあるけれど、こんな所もあるんだって。だから、帰っておいでって。君は、まだ見たことのない世界がこんなにもある、だから帰っておいでって、きっと、君の事を待っている人がいるって。
 だから、僕は、暖かなそこから出て、目を覚ます事にしたんだ。
 

 目を見開いたら、そこに、泣き続けたせいか、目を真っ赤に染めた君がいた。
 だから、僕は言ったんだ、ただ、一言。
 

「ただいま」
 

 って・・・・・・・・・・
 君は僕が見た中で、最も綺麗な顔で微笑むと、ただ一言、こう言ったんだ。
 
 
 

「お帰りなさい」
 

って・・・・・・・・・・・
 
 
 
 

 と、あるLCLよりの帰還者の手記より、抜粋。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 世界は日常を取り戻した。無論、全てが平穏に終わったわけではない。銀河の交通の停止、銀河ネットワークの停止は、連邦内に多大な混乱生み、内乱が一部地域で発生する事になった。
 連邦政府が、銀河の平和を完全に元に戻すには、これから三年の月日を要する事になった。
 だけれども、人類が再度、一つに統合されるという、最悪の事態は避けられることとなった。一人の不死者の少年と、彼の義娘、そして女神の思いを託された一匹の猫と、少年が待ち続けたたった一人の少女の手によって。
 そのことは、殆どの者が知らない。その偉業の影に儚く消えていった一人の少女のことも、誰も知らない、一部の人間だけが心に留めている、一欠片の真実なのだから・・・・・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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