ある日の風景〜サボり組編〜
始業のチャイムが、学園に響き渡る。誰もが机にむかうその時。 「よっすターフっ♪ 面白そうなもの持ってるのね☆」 「やっほv あ。やっぱ分かったー?」 明るい紅の短い髪の少年は、ナルシーに近づきながら「へへーv」と同じように笑う。 「じゃじゃーん♪酒持ってきたんだ♪」 「おぉ。ピングレだーv」 それに嬉々とした表情で、ナルシーが煙草を持っていないほうの手でそれを受け取る。そのまま、缶に頬をすり寄せて喜ぶナルシーを見ながらターフも缶を取り出す。 「じゃ。さっそく酒盛りでも…。」 「何、堂々と酒盛りしてるのさ。君ら。」 「あ。」 「げ。」 突如聞こえてきた不機嫌な声に、ナルシーとターフは揃って同じ方向を向く。二人の向いた先の水タンクの上から、ひょいっと黒猫が顔を出す。そうして、そのまま水タンクが上にある屋上入り口の壁をすすっと降りた時には、黒猫は既にナルシー達と同じ蒼のセーラー服を纏う長く鴉羽色の髪をした少年へと姿を変えていた。 「ルエリィも呑まない?」 「止めとけターフ。あの顔は絶対寝起きだ。」 「煩い。」 あははと軽く笑ってまだ開けていない缶を差し出そうとするターフに、ナルシーが軽く静止させる。それをルエリィが反発したのは当たるとも遠からずだったからだろう。 「まー。それは良いとして。学級委員長もサボりー?」 あははと笑うナルシーに、ルエリィは軽く頭を振って覚醒を促してから、少し顔を在らぬ方向へと向ける。 「…次は古典だからな。」 「ルエリィのクラスの古典って確か担当はアイーだった。」 ふむと、ターフがいつも自分達に目を光らせている青い髪の教師を思い出す。恐らく、またナルシーと逃亡していることは耳に入っているんだろう。 「うわー。アイー先生ご愁傷様っ。」 それにナルシーは笑って目の前で手を合わせて祈りのポーズをとってみせる。 「何ー。ルエリィ古典キライー?」 「嫌いじゃないけど、午後は眠いんだ…。」 まだ軽く目をこすりながらルエリィが答える。この理由を聞いたのは、はたして何度目か、ナルシーもターフも数えた事はないが。結構いっぱいあった気がする。 「まぁ。それはそれとして。」 「そうそう。ルエリィもどうせサボり組一員なんだから♪」 しかしそれに気を止めないのもナルシー達の特性である。ぽむっとナルシーがルエリィの肩を叩き、ターフはにこぱと笑って酒を手渡した。なかなか良い連携プレーである。これをもっと別の方向性に生かせればきっと怒られる事はないんだろう。 「だからっ。なんで其処に酒盛りが入ってるんだい。」 二人のペースに一瞬でもハマらないところがルエリィがルエリィたる所以なのかもしれない…。 「あーっはっはっはっは!楽しそうだね君達。」 突如としてさっきルエリィがいたところからまた高笑いと共に声がする。ばっと三人がそれを見れば、同じくセーラー服を身に纏った金の髪の青年。蒼いスカートが風ではためくが、それすらもしっかり似合ってしまう端正な顔である。ここでその青年が高笑いを水タンクの上でしているという事実さえ取り除けば…。 「何してるんだ。アルテミス先輩。」 「ふ。それは愚問というものだよ。この麗しい俺がわざわざ此処まで来ているのにはそれなりの訳というのがあるのだからね。」 それ以前に何時其処に上ったんだろう。 「さぁ。君達は一体何故此処に揃っているのか。話し聞かせるが良い。」 「…アルテミスこそ授業どうしたんだ?」 「そんな些細な事は気にするにも値しないよ。」 ルエリィの質問にも、全く動じずにアルテミスは上で高笑いをする。せめて降りてくれば良いものを。と、思うのだが誰もそれを突っ込むタイミングを無くしていたのだった。 「さぁ。重大な理由がないのなら、速やかに授業に戻りたまえ。」 ぱんぱんと手を叩いて行動を促すアルテミスのテンポには他の誰もがついていけなかった。ただ一人を除いて。 「やーっなこったっ。」 「あっ。こらナルシー!」 少し面食らってしまっていたルエリィとターフをおいてナルシーが唯一の出口へと走る。体力少なく、別にこれといって器用でもないナルシーの最大の武器ともいえる逃げ足はある意味学園一であった。 「何かあるのか?先輩。」 一人逃げたナルシーの足音が遠くなるのを聞きながら、ターフが軽く困ったようにアルテミスを見る。ルエリィも、同様に逃げたナルシーに対し舌打ちしている。どうも雲行きはよろしくない。 「お前ら。助かったなー。」 「え?」 「は?」 その頃。屋上からの階段をテンポよく降り、更に下の階へと続く階段を下りようとして、ナルシーは思いっきり人とぶつかった。 「いったー!何すんだよっ…」 前方不注意だったナルシーが全面的に悪いのだが、それはつっぱってる生徒。むしろそんな問題児にぶつかる方が普通は悪い。だが、今回はナルシーもぶつかった相手が悪かった。 「え。…なんでここに…。」 「…意気がいいな。」 慌ててスカートの埃払って立ち上がるナルシーの腕をむんずと掴んで、スカラベはぼそりと、ただ一言だけそう呟いた。 「あ。あのぉー。先生ー?」 「実験に付き合え。単位落としたくないだろ。」 「単位は大事だけど、命のがもっと大事だぞっ!」 冷や汗の垂れるナルシーに気にすることもなく。スカラベは簡潔にそれだけ言うと、ナルシーの腕を引いたまま化学室の方向へと引っ張っていく。はっきり言ってその力にナルシーは敵わない。 「動物になる薬の試験体がいなくてな。」 「え。ちょ、ちょっと! 嫌ぁー―――――っっ!!!」 その時のナルシーの叫び声もむなしく、ぱたんと化学室の扉は閉じられ、上のランプに『実験中』の文字が煌々と光っていた。 「ほら。すぐ降りなくて良かっただろう? 「…ナルシー。戻ってこれるかな。」 「…馬鹿。」 こっそりと見ていた屋上の3人は、それぞれの感想をナルシーに送るのであった。 「…大丈夫なのか?この学園…。」 学ランの美少年…いや、制服から言えば女生徒であるのは見てとれる。その性別も間違えそうになる可愛らしい少女は、新しい学園生活に対し少しの不安と期待を胸に。…今もまだ迷っていた。 「此処は一体何処なんだよーっ!!」 誰もいない校舎裏に向かって叫ぶインサイト。転入生の彼女が学園に正式に辿り着くのはいつなのだろう。 以下次号!(嘘) あとがき かなり妙な出来具合(苦笑) 03.05.28. |