テンゴク
「.59」
〜還りたい場所〜
| The king of iron fist tournament
4、 決勝戦アリーナ会場…。 だが、そこにいるはずの大勢の観客は一人もいなかった。会場 全体がまるで焼き払われたかのように、激しく破壊されていた 。 そして、闘技場であったであろう場所に倒れている者が二人…。 …空が暗いな…。 俺は仰向けの状態で見上げる。体のアチコチは傷だらけで出血がおびただしい。 あまりの苦しさに俺は咳き込む、その度に体の傷が痛んだ。 「…チッ、無様だな。相討ちとは。」 そう言って俺は首だけ起こして少し離れた場所に倒れている老人を見た。 そこには、今回のトーナメントを開いた主催者である三島平八が俺と同じように 倒れていた。しかし、もう息はしていない。 俺の渾身の一撃が奴の息の根を止めたからだ。 だが、俺も同じように奴の一撃を喰らってしまいほとんど虫の息だった。 かすんでゆく意識の中、走馬灯のように思いが駆け巡った。… 復讐の終焉などこんなものだ。もしかしたらここに倒れていたのは俺ではなく仁、 もしくは李だったのかもしれん。だが、運命の神とやらがいるのだとしたら 選ばれたのは俺だったという事か…。 …このまま、死ぬのか? そして、このまま天国と呼ばれる所へ…。いや、俺の場合は地獄行きだな…。 自嘲するように思ったその時、フイに昔の記憶が蘇った。 「…人は死んだらどうなるのかしら?」 真っ白なワンピースを着た女、風間 準が俺に聞いてきた。 「…急になんだ、変な事を…。」 突拍子もない事を突然言われて俺は答えに窮した。 「どうなると思う?」 美しい黒髪をそっと自分の手でかきあげながら、風間は再度尋ねてくる。 まったく、変な女だな…。 そんな事を思いながら俺はぶっきらぼうに答えた。 「死んだら土に返る、ただそれだけだ。」 決まりきった事だ、それが当然だろう? 「…そうね、肉体はそうなるわ。けど、魂は?どこに行くのかしら?」 …魂?いわゆる幽霊ってやつか。 「くだらん、俺はそんなもの信じてない。」 それを聞くと風間はやっぱりね、と柔らかく笑った。 「あなたならそう言うと思ったわ。…けど、あえて聞いてみたのよ。」 「俺が別の答えを返すと思うか?わかっていたのなら聞くな。」 そう言って俺はソファに深く座った。風間はそれについて何も 答えずに、外の景色を眺めた。 ガラス張りの部屋からは、下の風景が一望できる。 「さすが最上階の会長室からの眺めね…、とても綺麗だわ。」 風間のセリフを聞きながら、俺はグラスにワインを注いだ。一気にグイッと飲み干す。 「おまえも飲むか?」 俺が聞くと風間は少しもらうわ、と言いながらこっちに歩いてきた。 そして、俺と同じようにソファに腰掛ける。 この女は自然保護団体WWWCの密輸動物捜査官…、要するにスパイだ。 俺を捕まえるために、俺に近づいてきた…。 俺を捕まえるなどできるものかよ。女を使えば俺があっさりおちるとでも思ったのか? 甘く見られたものだ。力で蹂躙しようと思えばいくらでもできるが、この風間という女が どんな事をしてくるか興味があった。色仕掛けか?それとも? だが、予想を裏切ってこの女は何もしてこなかった。他に何か企んでいるのかと思ったが、 そんな様子は微塵も感じられなかった。静かに微笑みをたたえながら、ただ俺と 他愛無い話をするだけだ。そして、今日も俺はこの女と話をしている。 まぁ、退屈凌ぎにはなるからいいが…。 「…さっきの話だけど…。」 ワインを飲みながら風間が喋りだした。 …さっきの?ああ、死んだらどうなるかって話か。 ホロ酔い気味に俺は話の続きを促した。 「私もね、魂そのものについてはあまり信じていないわ。見た事もないしね。」 「ほう、意外だな。おまえは信じてると思ったがな?自然や動物を守る とかのたまってる偽善者達は。」 皮肉をたっぷり込めて俺は言い放つ。 しかし、風間はそんな皮肉を意に介さないように話を続けた。 「人は死ぬと天国に行くってよく言うけど、死後の事なんて死んだ人しかわからないのよね。 何故、生きてる人は死後の事を知りたがるのかしら? …天国なんて私は、人が勝手に作り出した都合のいい世界だと思ってるわ。」 ワイングラスをゆっくり回しながら淡々と語る。 俺は話を聞きながら風間の顔を見ていた、綺麗に整っているその顔を…。 「もし、天国があるとしても…。私は行きたくないわ、自分で決めたいじゃない? 行きたい場所とかは。自分にとって居心地の良い場所…。 そこがその人にとっての『天国』なのよ。」 「…おまえの話だと魂は存在するように聞こえるが?」 信じてないと言ってただろうに…、ワケのわからん女だ。 「私は魂ではなく、人の『思い』が残るのだと思うの。何かを強く思う心は時にすごい力を生むわ、 その強い『思い』が残ってたとしてもなんの不思議もないと思わない?」 「フン、俺にはさっぱりわからん。」 そういうと俺は立ち上がり、風間の腕を強引に取り引き寄せた。 なんの抵抗もなく、風間の細い体が俺の胸にもたれかかる。 艶やかな髪からは微かに良い匂いがした。 「…安心する…。」 俺の腕の中でポツリと風間が言った。 「安心?…おまえがか?」 「いいえ、あなたがこうしてると安心するみたいだから。」 「……。」 何故…、こんな時に風間の事を…? …いや、当然だ…。 俺は捕まってしまったんだ、あの女に…。 …惚れちまったんだ、認めたくはなかったがな…。 これが最後なら…、風間が言った事が真実ならば…。 おまえがいる場所へ、俺は…。 そして…、俺の意識は急激に閉じていった…。
ライラさんからいただきました |