東京・三島プリンスホテル。世界に冠たる超一流ホテルである。
雷武龍は日本にいる間平八の好意でここに宿泊していた。
ザァ−ッと、降り注ぐ雨。どこかで稲妻が光った。
寒いな・・。
ロビ−の一角で新聞を読んでいたレイは肩を震わせた。
もちろん、ホテルの空調は快適な温度に整っている。
冷え性かね。
レイは自分が年寄りじみているのに気付いてくすっと笑った。
ベチャ、ベチャ・・。
後ろで泥を踏むような音が聞こえて、レイは振り返った。
ホテルの入り口から雨水をしたたらせた薄汚い少女が入口から歩いてきた。
およそこのホテルにはそぐわない恰好。
ロビ−にいた人々の視線が集まる。どうやら自分と同じ出場者らしい。
「君、アイアンフィスト・ト−ナメントの出場者? どうしたの、こんな夜更けに?」
レイはいつもどおり、軽いノリで少女に話しかけた。少女が足を止める。
この娘は・・。
褐色の肌、遠くを見ているような目、凛とした顔立ち。見間違えるはずはない。
「ミシェ−ル・・。いや、君はジュリア・チャンか。この大会に乱入したっていう・・。」
レイは言いかけて絶句した。
雷鳴が、二人の間を駆け抜けていった。
「ほら、バスタオル。シャワ−浴びる?」
レイはジュリアを部屋に招き入れた。とりあえず、服を乾かさなくては風邪をひいてしまう。
ジュリアはありがとうとも言わずにバスタオルを受け取った。
レイはジュリアをベッドに座らせ、熱い紅茶をすすめた。
「こんな雨の日に外をふらついているなんて信じられないな、ジュリア。」
レイはたしなめるように言った。しかし、ジュリアはうつむいたまま答えない。
「何か理由があったんじゃないの?」
「・・。」
無愛想なのは母親似らしい。レイは内心でため息を漏らした。
「アンタこそ、なんでアタシを部屋に連れ込んだんだ?
アタシがミシェ−ル・チャンの娘だから?」
ジュリアが逆に聞いてきた。
「そういう言い方って、良くないと思うけど・・。」
レイはちょっと口ごもって、ジュリアをじっと見た。
「でも、やっぱりそっくりだねぇ。」
ジュリアはレイが言いたい事に気付いたのか、プイッとそっぽをむいた。
「アタシは養女だよ。」
「え?」
「それに百万歩譲ったって、アタシはアンタの子じゃない。」
「・・知ってたのかい。」
レイははずかしそうに頭をかいた。
19年前、ミシェ−ルには風間準のほかにもたくさんの協力者がいた。雷武龍もその一人である。
レイとは一時期とても深い関係までいったのよ、とミシェ−ルは教えてくれた。
だが別れた。理由までは教えてくれなかったが、
ミシェ−ルが以来独身なのはこのためかもしれなかった。
「・・ねぇ。ミシェ−ル、元気?」
ジュリアはまた黙り込んでしまった。
「もしかして、怒ってんの?」
「そうだね。アンタ、母さんを捨てたくせによくそんなこと聞けるね。」
しかしジュリアは怖いほど静かだった。普通こんなセリフは逆上した感情をもって言うものだが、
ジュリアは心をどこかに置いてきたかのようにつぶやいたのだった。
もっと別の感情を隠すために言ったのかもしれない。
レイにはそれがとても奇妙に思えた。
「ひどいいわれようだな。」
レイは念を押すように言った。
「捨てたんじゃない。俺が捨てられたの。」
「ならよかった。」
だがそう言ったジュリアの声は、あまり関心がないことのように響いた。
「あのねぇ・・。確かに俺達は19年前、出会い、恋をし、そして別れた。
でもお互い悪い経験じゃなかったんだ。
別れた理由も、二人が住んでいる世界が違ってたから、それだけだし。」
「それでよかったの?」
「いいもなにも・・。後悔しなかったっていえば嘘になるけどね。」
レイはちょっといたずらっぽい笑みを浮かべてみせた。
「こういうことは恋には付き物だから・・。」
「母さんはずっと独身だったよ。」
ジュリアはレイを責めるように言った。
隠していたナイフを突き付けた、そんな感じだった。
「俺を責めないでくれよ。」
レイはばつが悪そうに顔をしかめた。
「俺だってそうだもの。今時めずらしくもないだろ、結婚しない奴なんて。
結婚するしないはミシェ−ルの意思さ。
もっとも過去の恋に振り回されるほど、彼女は弱い人間じゃないと思うけど。」
ジュリアは何も言わなかった。
「ところで君、さっき、だった、って過去形使ったね。あれ、どういうこと。」
レイが急に真剣な表情になった。
「アンタには関係ない。」
「関係なくないさ。そもそも、なんで君がここにいる?
ミシェ−ルは三島を、この大会そのものを嫌悪してたんだぞ。
それなのに娘である君が出場している、どうしてだ?」
ジュリアが歯を噛み締めているのが、レイには手に取るようにわかった。
涙すら、こらえているのかもしれない。
「俺は今ね、あるヤマを担当していてね。
世界中の強い格闘家達が次々に失踪しちゃうって事件。
おかしな話だよね。毎年行方不明者なんて何万人とでるのに、
それをひとつの事件にして考えちゃうんだから。
・・いや、今の言い方はまわりくどかったな。
『闘神』については君の方が数倍もくわしいはずだからね。」
ジュリアはハッとして身構えた。
「FBIに・・アンタは香港国際警察だね。」
「・・闘神ねぇ。うん、こんなUMA、Xファイルじゃあるまいし、普通は誰も信じないよな。
でも合衆国や・・いや世界中、そしてミシマが総力をもって追跡しているものとなれば、
さすがに信じざるをえないね。FBIとウチはもう合同で捜査に踏み切っているよ。
あくまで極秘だけどさ。
闘神が発掘されたのは君やミシェ−ルの集落の近くだって?
FBIの連中から聞いたけど、その集落に闘神のことを研究している考古学者がいて、
ずいぶんと捜査の邪魔をしてくれたそうだ。」
レイはおかしそうに笑ったが、ジュリアにはおもしろくもないことのようだった。
「ジュリア。君がなんで大会に出場しているのかはわからない。
でも・・ミシェ−ルに何かあったんじゃないのかい?
そりゃ、俺だって信じたくはない。だがあの三島直属の鉄拳衆に、
キングに・・風間まで闘神にやられたんだ。もしかして・・。」
ジュリアは遮るようにするどく言った。
「・・始めは、FBIが母さんを拉致したのかもって思っていた。
アンタだって疑って・・いや、母さんのことで信じたくなければ、信じなければいいさ。」
ジュリアはベッドから立ち上がると、振り返りもせずにドアの方へ歩いていった。
「お、おい、どこへいくんだ?」
「どこだっていいよ。今、アタシが出場する理由はただひとつ、ミシマを倒すこと・・だ。
だからアンタも倒す。もう誰にも負けない。」
そうだった。
レイは思い出した。
明日の自分の試合は本当ならば対戦者はシャオユウのはずだったがジュリアになったのだった。
パタン、とドアの閉まる音がした。
しかしレイはジュリアの背中を見ているうちに、追い掛けることが出来なくなっていた。
ジュリアがでていった後の部屋で、レイはベッドに寝転がった。
そして19年前のことを思い出した。
母さんを誘拐された時のミシェ−ルとそっくりじゃないか、ジュリアは。
レイはその夜、少し泣いた。
次の日。
仁はジュリアが出ていってしまった後、シャオを伴って大慌てで捜しにいったのだが
結局見つからなかった。
しかもシャオには散々なじられるわで、踏んだり蹴ったりだった。
そのジュリアが今夜、三島財閥が経営しているホテルで雷武龍と試合だという。
「来るかなぁ、ジュリア。」
「来るわよ。ジュリアなら大丈夫・・たぶん。」
仁とシャオは試合一時間前からホテル屋上に設置された試合会場に待機していた。
会場といっても、プロレスやボクシングで使うようなリングはない。
試合のリングはだだっ広いコンクリ−トの間。ここにおいても
ストリ−トファイトの試合形式に則っているのだ。
そのまわりに観客が集まり、設置された幾多のテ−ブルで周囲のビルの
美しい夜景を見ながら豪華なディナ−を楽しんでいた。
来ている観客も昨日のように一般の者ではなく、着飾った金持ち連中が多かった。
「だけどジュリア、どうして出ていったんだ?」
「アンタが何かひどいことを言ったんじゃないの?」
シャオの容赦ない口撃が仁の心を刺す。
でも、それってジュリアを心配してるからだよな。
そう考えるとシャオは優しい子なんだと思ってしまう。仁はやれやれと肩をすくめた。
「あっ・・。」
突然屋上が真っ暗になった。ドドドドドド・・というドラムの音が鳴り響き、
真っ暗な屋上にライトとレ−ザ−光線が駆け巡った。
「ジュリアだ・・。」
リングアナの絶叫。ワ−ッという歓声とやけに派手な音楽が鳴り響く中を、
東から雷武龍が、西からジュリアが入場した。
何があったのかは知らねど、ジュリアはたった一日で二人がびっくりするぐらい変わっていた。
服装は昨日出ていったときと同じだが、まず頬が、他人が見てもわかるくらい痩けており、
目がぎらぎらと、よく研がれたナイフのように光っていた。
そして雰囲気。
沈黙のうちに獲物を狙うはずの獣が、殺気立った手負いの獣になった。
もはや何がきても喰ってやる、そんな闘志をむき出しにしていた。
「ジュリア−!」
たまらずにシャオが叫んだ。
だが周囲の歓声があまりに大きかったのか、ジュリアには聞こえなかったようだ。
いや、ジュリアには周囲の雑音など耳に入っていなかったかもしれない。
二人がリングの中央に降り立つ。
レイがジュリアに手を差し出したが、ジュリアはその手が見えないかのように無視した。
「ちょっと仁、雷さんの肩・・。」
シャオがはっとして指差す。
よく見ると、ジャケットを羽織っているから一般人にはわからないだろうが、
レイは肩に下げたショルダ−ホルスタ−に拳銃を一丁突っ込んでいるようだった。
「あれ・・。でも、使うんじゃないだろう。」
だがアイアンフィスト・ト−ナメントにおいては凶器を使用してはいけないというル−ルはどこにもない。
したがって雷が手持ちの銃でジュリアを撃っても、法には触れるかもしれないが反則ではないのだ。
「・・ふざけてるの?」
さすがにこれにはジュリアもいらだたしさを隠しきれなかった。
「ああ、安心していいよ。銃口いきなりむけてBANG! なんてことはしないから。」
レイは銃をちょっと取り出してみせる。
「長いこと警官やってるからね。この重さがあると、かえって安心して戦えるんだ。」
「いつも持って戦っているのか・・? それともミシマを警戒して持っているのか?」
「・・いつも本気だからね、俺は。」
レイの顔が、ちょっと真剣味を帯びた。
「ファイッ!」
そして、レフェリ−の声が響いた。
掛け声も高らかにレイの猛攻が始まった。
素早い左右の拳の連打で突進し、さらに右横蹴りから繰り出されるコンビネ−ション。龍牙連撃。
さらにレイの巧みな拳は、どれも急所を狙っている。
一撃必殺というわけだろう。読みやすい攻撃だが、連打のスピ−ドがケタはずれなだけに、
ジュリアは攻撃を受け流すのがやっとだった。
徐々に追い詰められる。ジュリアはバックステップで、レイの伸びてくるような蹴りをなんとかかわした。
大振りな蹴りで、レイの動きがわずかに硬直する。
ジュリアはすかさず、レイの鳩尾めがけて弾丸のように肘を叩き込んだ。虎身肘。
「おっと。」
だが余裕の一声とともに、レイは横にまわってジュリアの肘をあっさりとかわす。
攻撃は見切られていたのだ。レイは左脚を大きく踏み込み、
ジュリアの脚をすくうように腕を振りかぶった。豹双爪。
下半身の力を別の方向に押し流され、ジュリアは崩れ落ちる。
しかし反射的に後転し自ら間合いを広げた。
仁もシャオも、息を詰めて試合を見守っていた。
正直、レイは格闘家としての年齢のピ−クはとうに過ぎている。
スタミナ切れのおそれもあり、序盤からこんな積極的な攻めを展開することは無謀ともいえる行為だった。
だがレイはそれをやってのけた。
これが19年前の大会で戦った人のレベルなのか・・!
何も知らない観客たちがレイの一方的な戦いに酔いしれ、逃げまわるジュリアを嘲笑った。
しかし、二人にはレイと対峙するジュリアの心の中が自分の事のようにわかった。
間合いを広げたものの、レイの拳はすぐにジュリアの目の前に迫る。
ジュリアは必死で防御し、受け流す。解決の糸口を探す。
どんなに難しい数学の問題だって、これに比べればはるかにやさしいだろう。
答えのない問題ではあったが、ジュリアはそのうち、レイの攻撃にクセがあることに気付いた。
攻撃がパタ−ン化しているのだ。
焦っているのか・・?
おそらくレイとしては年齢からいっても早期に決着をつけたかったのだろう。
いや、つけられるとふんでいたのだ。それがジュリアの予想外の粘りにより試合が長引き始めた。
自分でも気付かぬうちに焦ってきたのに違いない。
レイは構えを、ある時は虎のように、ある時は片足を上げて鶴のように、くるくる変えながら攻撃してくる。
最初はただのフェイクかと思ったが、この特殊な構えから攻撃のパタ−ンが派生しているらしい。
再び、構えのシフト。動作に一瞬の隙。
ジュリアはそこに、突破口を見付けた。
体を回転させるようにひるがえし、軸をずらす。転身。
そしてそのままレイに向かって踏み込みながら両手を突き出した。突双掌。
我ながら、やった、と思った。
だが拳にこめられた力は、むなしくも大気のなかに解き放たれた。
しまったと思う間もなく−ちょうどシャオの試合の時と逆の形で−強烈なまわし蹴りが、
ジュリアの頭部を襲った。岩をも砕く衝撃。
ジュリアは一瞬のうちに立っている場所から大きく弾き飛ばされた。
「決まった・・か。」
仁が無意識のうちにつぶやく。誰もがそう思った。
レイが積極的に攻めていたのは、この一撃を狙ってのものだった。
カウンタ−を仕掛けようとジュリアが動いたところを、カウンタ−で返す。
攻撃を読まれていたのは、ジュリアの方だった。
レフェリ−がカウントに入る。ジュリアは脳震盪を起こしたのか、その場に倒れこんで動かない。
仁は心の中で起きろ、とひそかに祈った。
それは母親を必死になって探すことに対する同情であり、ジュリアに自分自身を重ねていたからでもあった。
カウントが終わりに近づく。レイも女の子相手に悪かったかなと思ったのかは知らないが、
沸き上がる歓声を前にしてもおとなしくしていた。
もうダメか・・、と仁が思ったその時。
獣が跳躍した。
信じられない出来事だった。その跳躍はレイどころか、レフェリ−も、会場にいる誰もが見えなかったのだ。
まさに瞬間移動、テレポ−テイションという呼び方がふさわしいだろう。
だが仁と、シャオの目だけは、ジュリアの姿をビデオのコマ送りのようにゆっくりと、鮮明にとらえていた。
ジュリアは起き上がった瞬間、何かに取り憑かれたようにレイに向かって身を躍らせたのだった。
飛び上がったジュリアはレイに激突し、レイは大きくよろけた。
必死で体勢を立てなおすも、おかしなことに右半身に重心がわずかながらかかった。
ジュリアは体当たりした際にレイのショルダ−ホルスタ−から銃を抜きとっていたのだ。
レイは気付いた。
そこにジュリアが肘を先端にして、レイの顎に突っ込んだ。
二人はほぼ密着した状態だったのでレイは肘を受けとめきれなかった。
ガッ!!
馬鹿な!
レイは視界が真っ白になった。いかに肘での攻撃が強力であるとはいえ、
こんな至近距離からのものは威力が落ちるはずだ。
しかも放ったのは自分よりはるかに筋力が劣る女性である。
だが顎が砕けるような衝撃に、レイはうめいた。
ジュリアは攻撃の手を休めることなく左手でレイの腕をひっぱって動きを封じ、
奪った銃の銃身を右手に持って銃底でレイの後頭部を殴った。
吹き出る血。
ジュリアの手が真っ赤に染まる。
それでもジュリアは容赦なく、右手を返してレイの顔面をもう一度殴った。マッドアックス。
ジュリアがつかんでいたレイの腕に力がなくなった。
ずるり、とレイが床に崩れ落ちる。レイが倒れたところにはじわり、じわりと血溜りが出来た。
一刹那、会場は沈黙に包まれた。
ジュリアは顔についた血を、指で拭った。
奪った銃を、レイに向かって投げ落とす。
そしてかすかに、笑った。
観客たちが悲鳴を上げた。
わからず屋な連中もやっとこの異常な事態に気付いたらしい。
絶叫、なじる声、怒号・・観客席はパニック寸前だった。
ジュリアが腿もあらわに戦うがレイの前には軽くやられてしまう、
というシナリオを観客たちは期待していたのだが、今は誰もがレイが死んだと思った。
その中でジュリアの勝利を告げるコ−ルだけがやけに冷静に響いた。
レスキュ−隊がレイのところに駆け付ける。
担架で担ぎ出されるレイが仁とシャオの横を通っていった。
「ひ、ひどい・・。」
修羅場には慣れているはずのシャオも、思わず嗚咽を漏らす。
レイはおそらく、ジュリアが自分の銃を奪って攻撃してくるとは考えていなかったのに違いない。
いやジュリアだからこそ、正々堂々と戦えると信じていたのだ。
それは見事に裏切られた。
仁はひとりでに人混みをかきわけ、ジュリアを追っていた。
何故かはわからない。
嫌な予感が、体全体を包んでいた。
ジュリアはやはり観客など眼中にないように、会場に背を向けてゆっくりと退場した。
だが仁は大勢の観客にもみくちゃにされ、なかなかジュリアに追い付けなかった。
「ジュリア!!」
ホテルの最上階で仁はやっとジュリアに追い付くことが出来た。
人気はない。みな屋上に出払っているようだった。
ジュリアは声に、チラと振り返った。その顔は返り血で赤く染まっていた。
「・・何なんだ、今の試合は。これは試合なんだぞ、殺しあいじゃない。」
「・・勝てばいい。」
ジュリアは誰に言うでもなく、虚ろに呟いた。
「勝てばいいって・・。どうしたんだ、ジュリア! 昨日、何があったんだ!?」
ジュリアは答えず、そのまま踵を返して立ち去ろうとした。
「待てよ。そこまでして勝ちたいのか! なぜだ!? なぜああしてまで戦う!?」
「勝たなきゃいけないんだよ!! ミシマと戦うために、闘神をおびきよせるために! これは復讐だ!」
ジュリアは仁を睨んだ。
「・・何があろうとも、アタシはミシマを許さない! 闘神もアタシが倒す!
アンタに邪魔はさせない。それでアンタと戦うことになっても、今のように容赦はしない!」
ジュリアの目は何者の手も拒むような孤独さをたたえていた。
ジュリアが歩き去った後、仁はその場にしばらく立ち尽くしていた。
どうしてすぐに気付かなかったのだろうか。
闘神はどこにでもあらわれて強い者の魂を奪い取る。
そして、後に残された弱い人間を嘲笑うのだ。
俺とジュリアは同じだ・・。
仁は何も出来ない己の弱さを悔やんだ。
レイは一時ICUに入る程危険な状態に陥ったが、持ち前の強靭な体力のおかげで
みるみるうちに回復し、1ヶ月程で退院した。
入院中、ベッドの中でぼんやりと試合のことを考えていたりもしたが、
不思議とジュリアに腹は立たなかった。
むしろ、自分が油断していたのだなとおかしく思った。
功夫が足りなかったかねぇ・・。
退院したとき、仁、ポ−ル、キング、そしてジュリアが準決勝にコマを進め、
舞台はアメリカに移動したことを知った。
何故アメリカなのか、レイはいぶかしく思った。
何を考えているんだ・・三島。
そしてレイも捜査のためにアメリカへ飛んだ。
とんでもない結末が待ち構えているとは、むろん、思いもよらずに、だ。
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