ニューヨークの休日(2)


 

腕を組んで歩くと、二人はほんのちょっと、恋人気分になった。
最初は渋っていた仁も、ジュリアにつられるように、その気分を楽しむようになっていた。

「これはルノアールかな。ここ、ピサロとか、印象派の絵が多いな。」
「うん、そうそう。パンフに書いてあるよ。ジンってば、よく知ってるね。」
「いや、三島の家にいたとき、いくつかこれとそっくりなの見たから・・」
「・・・・・・ウソ。」
メトロポリタン美術館で絵画や彫刻を鑑賞して、

「私、読みたい本いっぱいあるんだ。ゆっくりできるようになったらきっと、図書館に
入り浸るの。あ、ほらジン、これ『ゴーストバスターズ』にでてきたのと一緒だ。」
「見たことない。」
「ビデオとかで見たことないの?」
「ない。そういうの、あんまり見ないんだ。ファランがよく、オマエん家の
超大型テレビでビデオ見せてくれって、なんだか厳重に包装されたビデオテープ
をもってきてたが・・」
「・・・・見るな、見せるな。魂が汚れる。」
ニューヨーク市立図書館に行って本を少し読んだ。

「ハーレムって、一昔前は危険な場所、ってイメージあったけど、最近は観光に
力をいれてるからずいぶんキレイになったみたいだね。ま、最近のニューヨーク自体
そうなんだけど。」
「ハーレム・・。」
「んー、東方の女人部屋って意味じゃないぞー。ベタだなー。」
「・・だと思っていた。」
ハーレムの街をちょっと見て、

「そう、これこれ!! これが食べたかったんだ〜〜〜!!!」
「これはまた、ずいぶんと・・大きさも見た目もアメリカ的だな・・。
しかも、あんな大きなピザ食べたあとに!」
「ああ、でもあの店、おいしかったでしょ。ポールの推薦なんだ。本人とはちあわせ
しなくってラッキーだった。」
ジュリアが前々から食べたかったという「ジュニア」という店のベイクドチーズケーキ
を食べた。

「・・シャオ、元気かな。」
ケーキをつっつきながら、仁は唐突につぶやいた。
美味しそうにケーキを食べるジュリアと、幸せそうにケーキをほおばっていたシャオの姿が、
重なって見えたからだった。
「・・元気なんじゃないの。」
ジュリアの、ケーキを食べる手が止まった。そっけなく返事をする。
聞きたくない。
知りたくない。
「しっかし、シャオもそうだけど、女の子ってダイエットだなんだいってるわりに
甘いものは別腹、なんていうんだよな。」
「別腹、は、胃の予測運動のことだな。科学的に証明されている。
なにさ、アンタ、自分のスレンダーなウエストを自慢したいわけ?
こっちは、この体型保つのに苦労してるっていうのにさー。」
「別にそういうわけじゃ・・」
「前々から不思議に思っていたんだが、ミシマの連中とかロウとかブライアン、アイツら
なぜ、脱ぐんだ?」
「脱ぐって・・ボクサーとかプロレスラーだって脱いでるじゃないか。それと同じ・・」
「結局、『かっこいいから』でしょ。見せつけちゃってー。」
「違う!!」
「へッ、覚えてなさいよ。」
嫌な予感がした。

ビアバーで、ビール片手にメッツの応援をしていたら、シンジョーがニ打席連続ヒットを
飛ばしたので、仁もジュリアも周りもすっかり盛りあがってしまい、気がついたら、夜の
11時をまわっていた。
「プハーッ!! 飲んだ呑んだ〜〜!! すーーーっかり、酔っちゃった〜〜!」
「ジュリアって、お酒弱かったんだ・・ほっぺた、真っ赤・・」
「アンタは結構強いのね〜〜。日本人のクセに〜〜♪ ・・ねえ、ジン。これからどうする?」
「これからどうするって・・帰るしかないだろう。」
「帰る? アンタが? どこへ??」
「・・・・・・。」
「ねえ、」
「どっか安いホテルでも探すよ。」
「モーテルとってあるからそこまで連れてってよ。まさか、一人で行け、
なんていわないでしょ。」
その言葉に驚いて、彼女の方を振り向く。
喉が渇いて、
手足が震えるように冷えて、
何も言えない。
夜はまだ始まったばかり。

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