TIME

どうすれば時が戻る・・

「これはきっとパラレルワールド。」
彼女は言った。
「もうひとつの世界では、きっと一八は帰ってこなかったのよ。」

よく晴れた夏の日の丘。
準は、白樺の木の木陰に寝そべって、葉が風に揺れる様をぼんやりとみていた。
ザザ・・ザザザザ・・・ たくさんの葉がこすれ合う音。
丸いガラスの文鎮に、青い雫を閉じ込めたような空。雲ひとつない空から指す光が目に痛い。

「恥知らず。」
「・・・・・・。」
ミシェールとここで最後に会ってから、早5ヶ月がたつ。
準は、意識せずに下腹部に手をやり、臨月間近の膨らみを抑えた。
「アンタはW・W・W・Cを裏切ったんだよ? それどころか、世界中を敵にまわしたの。
・・一八が帰ってきてホントに良かったね。これでアンタは名実ともに世界のファースト・レディよ。
豪奢なお屋敷、数え切れない召使、使いきれないお金、そして権力。
およそこの世で望むものを全部得た、ご感想はどう?」
「・・ツワリってさ。」
「?」
「モーニング・シック。他に例えようがない気持ち悪さなんだよね。
まずご飯がシャブシャブした感じでダメ、ミソ汁は匂い最悪、
油っこい炒め物なんかはゲロ吐きそう・・。小分けにして食べれば大丈夫、
なんて聞いたからやってみたけどやっぱダメ。」
「・・・・アンタさあ・・もしよければ、今、アタシと一緒にここから逃げてもいいんだよ。
敷地のすぐ外にレイが待機してくれてるし、ワン・ジンレイも協力してくれるって。
しばらくどこかに身を潜めて、一八があきらめるのを待てば・・。」
「そんなことのために、あの三島の警備網を破ってここまで来たの?」
 ミシェールの腕に巻かれた包帯にはかすかに血が滲んでいた。  
弾が貫通していたことは、もっけの幸いだった。
「みんなアンタが、好きだから。準、無理しないでもいいんだよ。お腹の子供のことだって、
どうこういわない。あなたの自由にすればいい。さあ、どうするの、
行くの? 行かないの?」
「行かない。」
「・・それは、お腹の子供のため? アンタ自身のため? それとも・・一八のため?」
自己犠牲はやめて。アタシ達が無力だってこと、思い知らされるだけだから・・」
ミシェールは目を閉じて、空に顔を向けた。
「ミシェール・・」

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