| 「ミシェール、手を。」 「何?」 「手を開いて、こう、ちょっと空にかざしてみて」 「・・・・・こう?」 「指のまたから見える空って、きれいだよね。雲も風も空も、私の指を駆けぬけてくよ。」 「うん・・。」 「あの日は星が見えたわ。暗闇のなかで、こう、窓に手をかざして。」 「・・・・・・。」 「そして私は、彼の腕に消えないくらい傷をつけた・・。」 「・・・・致命傷になるくらい傷つけて、殺しちゃえばよかったのに」 「準・・どうしてこんなことになったんだろうね。」 「・・・・・・。」 準は答えられなかった。 そう・・どうしてこんなことになってしまったのだろう。 もともと保護動物を密輸しているミシマの動向を探るために大会に出場したのだったが、 準は、ミシマに近づくことで自分が一番嫌悪しているものを見せつけられた。 人間の耳を背中につけたマウス、クラゲの遺伝子を持ったサル・・ 最近は一般に公表されているが、もう数年前からミシマは違法に開発していた。そして、 もっと酷いこともしていた。 「神でも信じているのか? 下らんッ!! 自分さえ救えなかった男が、他人に何かしてくれるとでも 思っているのか!?」 弱い命を弄ぶ、その傲慢さが許せなくて、少しでも伝えようとして、か細い声で囁いた。 自分がしたことといえば、それくらいだ。 だが、彼が扉の向こうに行ってしまった朝、そして二度と開くまいと思っていたその扉が開かれた夜、 男を抱きしめて準は泣いた。 男が生きていたことで、世界にふりかかるであろう災厄を思う前に、彼が帰ってきたことを安堵し、 喜んでいた。 幸せで、夢のようで・・。 パンドラの箱は開かれた。 そう、その時、その瞬間、彼のために泣いたこと、それが準の「過ち」であり、「罪」だった。 どうすれば時が戻るのだろう。 かつての仲間に、もう何をいってもいいわけにしかならないのはわかりきっていた。 いや、これから後、あらゆる批判、非難、怒号・・そういったものが、準に矛先を向けるはずだ。 これが自分がしたことの結果だ。これからすべて、準が背負わねばならないことだ。 だが準は、何一つ後悔はしていなかった。 はっきりといえることは、これぐらいだ。 「みんなは、私が裏切ったと思っているんだろうね。」 「みくびらないで。アンタが裏切り者だなんて思ってる人間は、ホントは誰もいやしないよ。」 「・・・本当に、ごめんなさい。」 「でも覚悟はできてるの? 準。 もし今後、一八が何かしでかしたら、アタシは容赦なくアイツを倒すよ。 アンタがどうなろうと、アイツだけは許さない。」 「好きになさい。」 ミシェールは包帯の巻かれた腕を抱えて、そのまま踵を返した。 「・・さよなら、準。たぶん、アンタと会うのもこれで最後ね。体、大事にしてね。」 「さよなら、ミシェール。」 準の顔が悲しげに曇った。 ミシェールは、すこしふりかえって準を一瞥すると、やがて吹っ切れたように丘を歩き出した。 そして、なんだか 情けなくて馬鹿らしくて 今日の空はどこまでも晴れ渡っているのに くやしくて切なくて 涙がこぼれそうだった next |