夜の東京湾。
夏風に運ばれてくる潮の匂いもどこか油っぽい。
ファランは波止場に座り込んで夜の海を見つめていた。
何だよ、これ・・。
手には、金ぴかのトロフィ−が燦然と輝いていた。
キング・オブ・アイアンフィスト・ト−ナメント参加賞。平八の頭部を模した純金製のトロフィ−である。
こりゃまるで三島のオッサンの生首じゃねぇか。
ト−ナメントは結局、平八の優勝ということで幕を閉じた。決勝戦はなんでもアメリカ大陸のどこだかの遺跡で行なわれたと風の噂に聞いた。
しかも、大会終了後遺跡内で謎の大火災があり・・それに巻き込まれた仁が死んだ。
あの野郎が・・。
ファランは未だ信じられなかった。
一説によれば、本当に優勝したのは仁だったが、三島財閥によって謀殺されただとか、戦いの最中にオ−ガが現われてすべてを破壊していっただとかいわれたが、結局くわしいことはわからずじまいだった。
ファランは葬式ぐらい顔を出してやるかと思い三島家の門を叩いたものの、葬儀の列のなかに今にも泣き崩れそうなシャオがいるのを見て・・やめた。
あんな野郎のために線香なんかあげる必要ねえや。
そして一方、ペクの方も、必死の探索もむなしく未だ行方不明だった。
くそったれ。
急に、手にした平八トロフィ−が憎たらしくなってきた。
ファランは海に向かって大きく振りかぶりトロフィ−を放り投げようとした。
と、その時。 向こうで、腕を抱えながら走ってくる人影が揺れた。
驚いて振り返ると、男が一人、SF映画にでてくるようなコンバットス−ツを装着した兵士たち四、五人に追われていた。
あれは・・?
男はファランには気付かず、そのままよろよろと、埠頭の、今は使われていない倉庫の奥へと入っていった。兵士たちもそのあとについてぞろぞろと続いていく。
ファランは急いであとを追った。
薄暗い倉庫の奥で、追われていた男はついに逃げ場を失った。銃口を向けた兵士たちがじりじりと、男ににじりよっていく。
ファランは倉庫の入口に立って言葉を失った。
あれは・・仁じゃねえか!
「チッ、世話がかかる野郎だ!」
ファランは兵士たちに向かってトロフィ−を投げつけた。
ゴンガラゴン!
大きな音をたててトロフィ−が兵士たちの真下に落ちる。
驚いた兵士たちはファランのほうをを振り返った。
ドカッ!
ファランは弾丸のように相手に向かって飛んでいった。兵士の鳩尾に重い蹴りが決まる。まず一人。
「テイヤァ!」
つづいて体をひねりながら蹴りを連続して繰り出す。二人目。
ファランに驚いた兵士が銃口をこちらに向けたが、ファランは間髪入れずに兵士の脛を払い、突き上げるようなキックを繰り出した。三人目。
「うざってぇ!!」
ファランの跳び蹴りからの回し蹴りのコンビネ−ションが兵士二人をまとめてフッとばした。ハンティングホ−ク。ペクから受け継いだ技だ。
「オラ、オラァ!」
ラストは気を失いかけた兵士の腕をとり、自分の踵を相手の顔にぐりぐりと押しつけた。デスプレッシャ−。兵士たちは全員、気を失った。
「手間とらせやがって・・。コラ、仁。大丈夫か。」
仁は何も言わずにうずくまっていた。
へっ、やっぱり生きてやがった。
ファランは得意げに仁の方に近付いていった。
と、突然。
うずくまっていた仁の体から青白い稲妻が走った。
「な、何だよ、オイ!!」
ファランは口をあんぐりと開ける。
仁は狂ったように走りだし、そして弾かれるように跳躍すると、そのまま倉庫の天井を突き破って夜の闇に消えていった。
とても人間とは思えない跳躍力に、ファランはしばらく動けなかった。
あの、恩知らずが・・。
だが、ファランの顔には知らず知らずのうちに笑みがこぼれていた。
まあ、いいさ。それでこそ、倒しがいがあるってもんだ。
ファランは仁が消えていった夜空を見上げにやりと笑った。
と、ここで終わればかっこよく決るのだろうが・・。
ガツン!
突然、ファランの頭部に、なにやら固い、棒のようなものが当たった。
「いてっ!」
「・・動くな!」
若い女の声だ。
「手をあげろ! ちょっとでも動いたらブッぱなすからね!!」
ファランは背筋がゾクッとした。どうやら銃を突き付けられているらしい。
ここはいったん、素直に手をあげる。
「答えて!」
女は銃でファランの頭をこづいた。
「アンタは誰!? ジンは、ここに入っていった男は、どこへ行ったの!?」「し、知らねぇよ!」
チンピラみたいなことをいって適当にお茶を濁す。
「嘘をつくな!!」
女はすごい剣幕で怒鳴った。
誰何だよ! コイツ!!
ファランは急に腹が立ってきて、女から銃を取り上げようと振り返った。
ドッキュ−−−ン!!
そのとたん、ファランの頬すれすれのところを弾丸が駆け抜けていった。
マジかよ・・!!
ファランは腰が抜けた。
目の前に、ショットガンを構えた女が立っていた。顔立ちからいって、日本人ではない。銃口からは、白い煙が立ち昇っていた。
「チッ・・。」
女は軽く舌打ちした。
ドサッ。
ファランの背後で何かが倒れる音がした。 横目でそっと振り向くと、さっきの兵士が悶絶していた。ぴくりぴくりと小刻みに痙攣し、肩から大量に血が流れだしている。その手には拳銃が握られていた。
「・・あれは。」
女は仁が天井にあけていった大穴に気が付いた。
「ジン、だね。ジンがあけていったんでしょう?」
鼻先に銃口を突き付けられて、ファランは膝をガクガクさせながらうなずいた。
「まったく・・。世話の焼ける。」
女は深いため息をつくと、銃をおろしてそのまま何も言わずに、夜の港を走り去っていった。
何なんだよぉ、いったい・・
ファランはその場にペタンと座り込んだ。
たまに人助けみたいなことしたら、その結果がこれかよぉ。
おまけに、その女も兵士たちに追われていたらしく、女が去ったあとすぐに敵の増援部隊が雪崩を打って倉庫に侵入してきた。
ファランは目の前が真っ暗になった。
そのあとのファランの運命は・・知らない。
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