エピローグ3、レイ・・


「さてミシマさん、これが頼まれていたDr・ボスコノビッチからの報告書です。」
 所変わってー大会直後のある日の深夜、東京・ミシマ・本社ビル。
 異様なほどに高くそびえたつビルの最上階で、二人の男が机をはさんで対峙していた。
「報告書によると・・オーガの死体を詳しく調べたところ、やはりこの地球の生物である可能性は薄いと・・。しかも、遺伝子の構造からみて、人工的に遺伝子操作された、いわば人造生物って奴らしいですね。あと、闘神は遺伝子レベルで他の生物と融合・再生する力があるとかなんとか。」
「ほう・・。」
 レイは分厚い書類が入った封筒を机の上に置いた。
「ま、俺は警官だから畑違いのことはさっぱりですよ。とにかく闘神は死んだし、俺もお役御免でめでたし、めでたし・・っと。」
 しかし目の前で鎮座している平八は、おもしろくもないことのように、フン、というだけだった。
「しっかし、あなたが言ったとおりになりましたね。大会に出場すればすべてがわかると・・だが、今一つ腑に落ちない。」
「・・何だ」
「あなた、この大会の最中に闘神が出てくることを知ってたんじゃないですか? そうでなければ、闘神を追っていた俺を、呼びはしなかった。」
「・・・・。」
「俺達を・・大会の出場者すべてを・・闘神をおびきよせるエサにしましたね。」
 平八は椅子から立ち上がり、ライトアップされ夏の夜に美しく映える摩天楼を見下ろした。
「・・証拠でもあるのか。」
「ありません。」
 レイはきっぱりと言った。
「よしんばあったとしても、闘神の存在が世間に知られていない以上、それを証明することは不可能でしょう。闘神はアメリカの最重要国家機密です。ミシマさんだって、アメリカと事を荒立てたくないから、私的にボスコノビッチに調査させてるんでしょ?」
「・・おまえに頼んだのは、大会出場と、報告書の提出だけだぞ。レイ・ウーロン。」
 レイはチッ、チッ、と指を振った。
「いや、でも、しゃべらせてもらいますよ・・それと、あなた、またろくでもないこと考えてませんか?Dr・ボスコノビッチ、何でも闘神の細胞組織を使って娘の蘇生実験とやらを成功させたそうですねぇ。後は脳のミオシンの合成だけとかなんとか、ボスコノビッチがぼやいてましたけど、それであなたのことを思い出しました。」
 レイは机に身を乗り出して、平八にぐっと迫った。
「この実験、応用したら、例えば生き物を蘇らせるとか、若返らせるとかに応用できませんかね。」
「・・・!!」
「あ・・図星でしたか。世界を事実上掌握なさっているあなたのこと、支配者が次に思い立つのはいつの世も『不老不死』ですからねぇ。
いや、それとも闘神の力で若返ったあなたが、世界を征服するとか・・。
だいたい、世界征服のために闘神の破壊力を使うっていったって闘神なんかミサイル一発でボボン! ですしね。
ま、どんなに恐ろしい兵器よりも、恐ろしいのはそれを使う人間・・ってね。」
「・・いいかげん聞き飽きたぞ、レイ・ウーロン。」
「それで、あなたはお孫さんも蘇らせるんですか?」
 平八の顔が見る間にこわばった。
「貴様・・!!」
「ミシマさん、あなたは年老いた・・。」
 レイはすばやく、ショルダーホルスターから拳銃を抜き、平八に向かって構えた。
「・・何をする!!」
 レイの顔からは、あのひとなつっこそうな笑みは消えていた。虎のようにギラギラ光る、獰猛な眼差しを、レイは平八にまっすぐ向けた。
「・・19年前、アンタがカズヤを殺したとき、俺がアンタのしたことに目をつぶったのは、アンタを信じていたからだ。これで、平穏な世界がくると・・そう信じていたからだ。確かに、世界は表向き平和になった。だが、みろ! 世界のあちこちで、ミシマという大きな力に翻弄され、支配された人々の間で紛争が生じている!! 今日も世界のどこかで、ミシマの名を刻んだ兵器に殺される人達がいるんだ!
 だけど俺が一番許せないのは、アンタが何の罪もない自分の孫を、自分の欲望のために殺したことだ!!
俺、今なら19年前の悪魔の気持ちもわかる。アンタやっぱり、悪魔の親なんだ!!」 
「・・・・ククク。それをどこで知った? レイ・ウーロン。」
 平八は静かに笑った。
「そうか、あの小娘・・生きていたか。・・あの小娘のことだ、おそらくもう日本に来ていることだろう。」
「・・ジュリアにはもう、指一本ふれさせないぞ。」
「それはワシが決める。それでレイ、おまえはどうするつもりだ。まさか、ワシを連行するつもりか。」
「できればそうしたいのですが、残念ながらあなたには逮捕状が出ていません。」
「では、どうするつもりだ? 仮にも公僕たる者、このような行動は許されないのではないか。」
 平八は銃とレイを交互に見た。
「そうです。確かにこれは、警官にあるまじき行動です。昔っから自分にはむかない職業だと思ってはいたんですけどね〜。」
 何を思ったか、レイはその場に銃を放り捨てた。
「ミシマさん、一つお手合わせ願えませんかね?」
 レイは平八に背を向け、部屋の中央に歩いて行った。
「19年前、あなたはこの部屋でカズヤを倒した・・。」
 白く冷たい月の光が、部屋の豪奢な青い絨毯の中心で咲き誇る赤と白の薔薇の刺繍を、くっきりと浮かび上がらせた。
「今度はおまえがワシを倒すというのか・・おもしろい!!」
 平八はゆっくりと、レイに歩み寄った。
「だってあなた、あんな歳若い女の子が、必死になってあなたと戦ってるんですよ〜。
こっちも何かせにゃあ、お天道様に顔が向けられますか?」
 レイは フンッ!! と気を溜め、瞬時にバッと構えた。
「いきます・・ミシマさん、覚悟してください。」
「来るなら来い!!」
 伸びあがった二つの影が、互いに激しく衝突し、長い長い戦いが始まった。

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