激闘タッグ育児編A


VIP専用の豪華な病室。準は朝の光さすベッドの上でまどろんでいた。
けっこう難産だったので、産み終えたときは「子供が産まれて嬉しい」というよりも
「やっと産まれた〜〜」という気持ちの方が先に立った。現に、産んだ後で体重測定したら、
体重が10キロ近く落ちていた。子供一人3000グラムとして3000×2、
あと胎盤が2000グラム×2としたら丁度計算があうのだが、それでも1日で10キロとは
究極のダイエットである。
お産は大変だったが、落ち着いてくると、準の傍らでスヤスヤ寝ている双子が
だんだん愛しくなってくる。
大変だった分だけ喜びもひとしおである。
・・この子達にはどんな人生が待っているのかしら。
準はふと思った。
世界経済を動かす「三島」の御曹司と令嬢として生まれ、天使と悪魔の血を受け継ぎ、
かつそれを象徴するかのように時を同じくして生をうけた、いわば運命の双子。
あの時いっそのこと、子供ができたことを一八に知らせず、一人屋久島に帰ってひっそりと子供を産み、
心静かに育てれば良かったかもしれない。しかし自分は一八と生きていくことを決めたのだ。
「ホンット、お父さんがあんな感じだから、君達、苦労するかもしれないよー。
お兄ちゃんなんか特にね。あ、双子だからお兄ちゃんとか妹とかは関係ないか。
じゃ、仁君だ。男の子の名前はね、もう決めてあったんだよ〜。お兄ちゃんが「仁」、弟が「準八」・・
だったんだけど・・一八のヤロー、どうせ男二人だっていって男の子だったときの名前しか考えなかったのよ!! 
やーねえ、いまどきああいう家制度の思想が抜けきれていないヤツって・・
あ、でもね、私はちゃんと女の子だったときの名前も考えていたのよ〜。
「準子」でしょ、「樹里」でしょ、あ、ちょっと外国風に「樹里亜」なんてのもいいかな? 
ちょっと雨降ってた明け方頃に産まれたから「暁雨(あきう)」っていうのはどうかな??」
「よお、けっこう元気そうじゃねえか」
突然、ドアをバタン!! と開けて頭痛のタネ・・じゃなくてウワサの主・一八が、
いつもの強面で一抱えもある大きなバラの花束を持って病室に入ってきた。
「一八!? なに、その花束!?」
「何って・・李が持っていけっていうから・・」
「あっそう、李が、ね。フン。」
とたんに不機嫌になる準。
「って・・体の方は大丈夫なのか? けっこう難産だったって聞いたが・・」
「心配してくれるの? フフッ、大丈夫よ。さすがにちょっと疲れたけど・・ゆっくり休めば治るって。」
「まあ、
10ヶ月も便秘してたのと同じだもんなー。大変だったのも無理はないか。」
さすがの準も頬を引きつらせて、何でわたしゃこんな男と一緒になったのかなー、
という思いを禁じえなかった。
「ま、まあ赤ちゃん達も異常なしだったから安心したわ・・。
ほーら、双子ちゃん。君達のお父さんだよー」
・・もしここに、李の他、三島の関係者がいたら、「まさにあの二人の子! がはははは!!」
と笑いだしただろう。
双子の一方は、骨格は一八に似てしっかりとしているが顔は端正で母親似、
しかしもう一方は線が細くて華奢だが顔は見るからに父親似・・つりあがった眉毛、
閉じているのにガンとばしているような目、ムスっとした口・・寝顔まで苦悶しているような表情をしていた。
「・・どっかで見た顔だな・・コイツ。」
アンタの子供である。
「当たり前でしょ、こっちの子、アンタそっくりよ。この子はね・・」
準が言い終わらないうちに、一八は準そっくりな子供の方をベビーベットから抱き上げた。
「コラ一八! まだ首がすわっていないんだから、もっとしっかり抱っこしないと!!」
「わかってるって、うるせえなあ。ふっふっふ・・俺の娘か。かわいいもんだな〜〜〜。
ん〜〜、俺がお父さんだぞ〜〜わかるか〜〜〜(^^)」
準は一瞬、耳を疑った。一八の不気味な笑いもさることながら、後に続くフレーズが
(予想外だっただけに)驚愕である。
「赤ん坊なんてみんなサルみたいなもんだとばっかり思っていたが、やはり俺の子は違うな。
うーむ、こんな顔立ちの整った赤ん坊ははじめて見た。オマエは美人になるぞ〜〜。」
ただの親バカである。
「あ、アンタねえ!! なによ、生まれる前は「男だ、男!!」っていって女の子だったときの
名前も考えなかったくせに〜〜!!!」
「あ、悪ィ。いや、三島家三十ウン代、家系図たどってみて一人も女の子がいなくてな。
てーっきり女が産まれない家系だと・・」
「ウソぉ!!」
「まあ、この俺が三島家ではじめて女の子をもうけた男になったわけだ。またひとつ、
俺がオヤジより優れていると判明したな! ぐふふふ・・」
「・・・・・・。」
ここまでくると親バカでなくてただのバカとしか思えない。
これが世間で恐れられている三島財閥の頭首だろうか。しかも早くも娘にメロメロ・・
「一八、じゃ早いうちに教えてあげる。アンタが抱っこしている子供の方が男の子よ。」
「はい?」
「こっちのアンタそっくりな子供が女の子! 
アンタが今抱っこしてるかわいい子供の方が男の子なの!!」

--息子は母親に似やすく、娘は父親に似やすい-- 神は早くも幼子達に試練をお与えになったようである。
しばし、沈黙・・。

「ウソだろ・・不憫だ・・これで女かよ・・」
「あのねえ! この子のキリっとした眉毛とか口元とか・・この子は絶対
ボーイッシュな感じの美人になるって!!」
ダンナの顔をフォローする気はさらさらないが、自分の子供の顔見て不憫といわれると腹が立つ。
「そういわれれば・・そうだろうか。」
一八は抱っこしている男の子の方をぽいっとベッドに放り投げるようにして置くと、
女の子の顔をまじまじと見た。
「ま、年頃になれば女は化けるっていうし・・金積みゃ、誰かくるだろうし・・」
何を勝手なことを。
「そんなことより、女の子の名前どうするのよ? 私がいろいろ考えておいたからそれで・・」
「そうだ、名前・・名前ぐらいうんとこさいいのをつけてやらないと・・!! 
よし、男のほうは「仁」だ! 準が考えた方の名前にする!! 
じゃ、女の方、俺ちょっと行って考えてくるからな! 待ってろよ!!」
言いたいことだけ言って、一八は来たときと同じようにバターン! 
とドアを開け、ドドドドドッ!! と帰っていった。
・・子供はかわいいって思っているようだけど、あれじゃ先が思いやられるわ。
準はほーッとため息をついた。お見舞に来てくれたはずなのになんだか疲れが倍になったようだ。
おまけに、一八の足音がうるさかったのか、双子の一方が泣き出して、
もう片方まで火がついたように泣き出した。

・・早くも育児ノイローゼになりそうな準であった。