真・幸福論
ネコになりたい、君のひざの上。
やたら長い石段を昇りつくと、純和風の大きな古めかしい門が仰ぎみえる。
銀髪の男性は、背後からついて来た部下を振り返った。
「お前達はここで待て」
部下達は黙って頷いた。
山の頂きは、広大な土地からなる庭園になっている。
一子相伝、古武術使いの道場があり、申し訳程度な広さの日本邸宅である母屋がある。
李は庭を横切り、真っ直ぐ母屋へ向かった。
心地よい午後の日差しに日光浴といった所だろうか。
目的の人物は母屋の縁側に腰を下ろしていた。
妙齢の和美人だ。落ち着いた色合いの着物を身に付け、膝の上に猫をのせている。
猫を飼っている、という報告はなかったので多分野良猫だろう、と李は見当をつけた。
突然の来客に驚いた風でもなく女性は李を見上げた。
「お久しぶりです。風間さん」
李は頭を下げた。
「こんにちは」風間は隣の座布団を勧める。
「李さん。どうぞ、お掛けになって」
「すみません、突然訪ねたりして」
李は恐縮して言った。
「いいえ、今日は誰かお客様が来ると思っていたから」
膝の上で猫が喉を鳴らした。
李は出されたお茶を飲み干し、話を切り出した。
「総帥と会って下さい。いい加減、今後の検討をしないと」
現総帥、三島平八の事である。
「不肖の息子の償いは存分にする、と御方は申しております」
しばしの沈黙の後、風間は軽く吹き出した。そして可笑しそうに笑う。
予想外の反応に、李は呆然とした。
「何が可笑しいんですか」
笑うのを止めた風間は、物悲しげな表情を浮かべた。
「そうやって、あの人は誤解され続けてきたのね」優しく猫を撫でる。
「私は、三島さんに謝られる事はされていません」
「しかし・・あなたは・・いや、失礼」
李は、言いかけた言葉を寸前で抑える。こういう事に私情は不要だ。
「こちらから、あなたが満足に暮らせるだけの用意があります」
風間は目を伏せた。
「お心遣いは痛み入ります。でも私はこれ以上何の施しも必要ありません」
「わかりました。御方にはそう伝えましょう」
李は立ち上がった。
長居はしたくない、私情に走ってしまいそうになる。柄にも無く李は思う。
「御身体を安静にして下さい。では、失礼します」
「ごめんなさい。あなたにまで迷惑をかけてしまって」
風間は困ったようにいった。
李が去ってから、何時間か過ぎた。日はおちて、空は茜色に染まっている。
膝の上の猫は寝入っていた。
約束の時間はとうに過ぎたが、彼女は待ちつづけている。
誰かが石段を昇ってくるのが見えた。
人物は庭を横切り、真っ直ぐ彼女の元へ歩いてくる。
「遅くなった」とか「ひさしぶり」とも言わず、彼は偉そう彼女の隣に腰掛ける。
「うるさい虫けらどもを巻いてきた。準、お前が手引きしたんじゃないだろうな」
準は無言で首を横に振った。
「ふん、どうだかな」彼は膝の上の猫を邪険に払う。
「李が来たのか」
猫の逆襲を意にも返さず、彼は灰皿に押し付けられたメンソールをさも嫌そうに見
た。
「いつまでここにいるつもり?」
準はそれとは直接関係ない事を聞き返す。
彼は押し黙ってしまった。数十秒後にようやく口を利く。
「いちゃ何か拙い事でもあるのか」
「近く、お義父さまがいらっしゃるかもしれないわ」冗談めかして彼女は微笑んだ。
彼は見る見る苦虫を噛み潰したような顔をして、
さっきまで猫がいた所に頭をのせて、寝っころがる。
「笑えないから止めろよな。もうここに来れなくなるだろうが」
「あら、元々ご無沙汰なくせに?」
「俺も忙しいんだ。これでもお前に時間を割いているんだぞ・・」
ご無沙汰な理由は準も承知している。
彼との繋がりが世間に知れれば、色々な意味で標的になろう。
マスメディアの好事、対立組織による営利誘拐もしくは報復、そして彼の実父。
「一八?」
急に静かになった一八を準は覗き込む。
その傍らで猫が退屈そうに欠伸をした。
《終》
「不・幸福論」はタバコが小道具だったとか・・!
これ以上のことはTODOの口がさけてもいえません
が、二人がしみじみ〜、としているのがなんとも
印象的でした。でも1番幸福そうなのはネコのようです。
準のひざまくら、サイコーでッス!
ネコになり〜た〜い〜♪ 言葉はいら〜な〜い〜♪
ありがとうございました!