Smokey
bubbles
〜夢の続きは覚えてる何か〜
〜 夢の続きは思い出の遥か〜
| 夕暮れ時の海辺の公園。季節は春でもこの時間になってくると結構肌寒いものだ。だが、ここは市の中心地に近いせいか、熱覚めやらぬカップルどもが大勢うろちょろしていた。そんな中、ハーレー・ダヴィッドソンにもたれて煙草の煙をくゆらせる金髪煙突頭な四十男は、一人ポツンと夕映えに輝く海を眺めていた。 「ポールさん、買ってきましたよ」 向こうからフォレストが息を切らしながら、マクドナルドの袋を抱えて走ってきた。 「おう、悪いな。」 「マクドナルドって世界中で味が変わんないっていうけど、本当なんでしょうかね。」 「さあな。食ってみりゃわかるんじゃねえの? ・・ポテトもらうぞ。」 キング・オブ・アイアンフィスト・トーナメントも架橋に入り、試合はさらに混戦状態、二人は多忙を極めていた。次々と続く試合のせいで、今日は二人とも昼食をとれなかったので、ハンバーガーを二口、三口で食べてしまうような勢いでパクついた。 「今度の試合会場は・・と、街の裏通りかぁ。規模の大きい大会の割にやる場所けちだなぁ。」 フォレストは大会のパンフを見ながら、指についたケチャップをなめた。 「食べたら早く行きましょうね。またスピード違反でつかまるの、ヤですよ。」 「まあ、待てや。食後は少し休むもんだ。」 ハンバーガーの包み紙をごみ箱に投げて、ポールは二本目の煙草に火をつけた。湾内を一周する遊覧船がボーっと汽笛を鳴らした。煙草の煙は揺らめきながら、海からの風にあおられて消えていった。 「余裕ですね。ま、ポールさん、次の対戦相手は女の人だから無理もないな。確か、ニーナとかいう・・」 「バカヤロ、そんなんじゃねぇ。・・オラ、フォレスト、早く乗れよ。」 ポールはバイクにまたがり、エンジンを全開にした。フォレストは嫌々ながら後ろに乗る。 ニーナ、生きていたのか・・? ポールは笑っていた。 へっ、夢の続きが見られそうだぜ。 バイクは豪快に走り始めた。 「今晩食事でもどうかしら。」 ポールがニーナ・ウィリアムズに誘われたのは、19年前、第二回大会の真っ最中のときだった。 「いいけど・・俺、ほとんど無一文だぜ。」 食事代ぐらい出すわよ、とニーナは笑った。 逆ナンパかね? ポールは美人に声をかけられてまんざらでもなかった。ステーキをがっついたような気がするが、何を食べたのかはよく覚えていない。食後、場所をかえて二人で街のバーに行った。 「なんでぇ。俺を誘ったのは、俺がアンタの今度の相手だからか。」 ポールはスコッチをグイとあおった。浮かべた氷がカランといい音をたてた。 「そうよ。今度戦う人がどんな人か、個人的に興味があっただけ。」 ニーナには悪びれた様子もなかった。 「言っとくが、手加減はなしだぜ。」 「ふふ・・お互い様。」 ニーナは笑って、赤いカクテルをあけた。 「ねえ、あなたはどうしてこの大会に参加してるの?」 ニーナの妖艶な瞳が、ポールにグッと迫った。 「どうしてって、俺の夢は世界最強になることだからさ。そのためにはカズヤを倒さなくちゃなんねぇ。」 「カズヤ・・ミシマカズヤ? 大会主催者の・・。」 「ああ。奴と俺は一度戦って引き分けていてな。ま、永遠のライバルって奴?」 「子供みたいね。」 「そういうアンタこそどうしてだ? ここはアンタみたいなきれいな女が来るトコじゃないぜ。」 「私? そうねえ、ま、妹と手っ取り早く決着をつけるためかしら。」 「妹? そりゃまた何で?」 「仲が悪くてね。私のやることなすことにいちいち突っかかってくるの。で、そいつがどういうわけかミシマのそばにいるっていうじゃない。だから一発張り倒してやろうと思って出場したわけ。」 「そ、そんな理由で!! わはははははは!!」 ポールは腹を抱えて笑い出した。 「何よ! こっちには深刻な問題なのよ!」 「どはははは! たかが姉妹喧嘩で出場するたぁ、人のこといえねえよ!」 ニーナはふてくされたが、ポールはずっと笑っていた。 ・ ・でも残念だな。今度の試合、俺が勝つ。姉妹喧嘩はよそでやってくれ。 ・・あら、そういう自信ってよくないわよ。スキが生じるわ。 ・・ケッ、俺に死角はないぜ!俺はなあ、カズヤにも、アンタにも、誰にも負けねえ・・! その後ポールはニーナにすすめられるままにしこたま酒を飲み、気がついたら何と二人でポールのホテルにいた。ベッドで目覚めたポールは横にニーナが座っているのを見て真っ青になって飛び起きた。 「あら、起きたの。」 ポールは慌てふためいたが、自分が着の身着のままなのに気づき、ほっと胸をなでおろした。 「ったく、驚かすなよ。」 そう、なんかあったらぶっ殺されていたのに違いない。 「そんな言い方はないでしょう? 酔いつぶれたあなたをここまで運んできて介抱したのは誰だと思ってんの?」 「くそーっ!」 日はもうすっかり高く、昼をちょっと過ぎたころだった。部屋の時計を見たポールはああっ、と悲鳴を上げた。 「いけね! 俺、アンタとの試合の前にもう一試合あるんだった!!」 「ちょっと、時間は大丈夫なの?」 「・・ぎりぎりだ。」 ポールは布団を跳ねとばすと、ドアに向かって大急ぎで走っていった。バタン!と勢いよくドアを開け、ニーナの方に振り向いた。 「夕方な。楽しみにしてるぜ、あんたとの試合・・。」 「・・がんばってね。」 ニーナは何かを言おうとしていたようだが、だまって手を軽く振った。ポールは微笑むと、ホテルの廊下を一直線にかけていった。 だが夕方になっても、試合会場にニーナは姿をあらわさなかった。会場からは血に飢えた観客達の、ニーナを罵る声があがっていた。 なんかあったのか・・? 前の試合の相手を難なく叩きのめしたポールは、観客達の薄汚い罵声には耳を貸さず、ひたすらニーナを心配した。 数十分後・・レフェリーがポールの不戦勝を告げた。観客達は盛り上がっていたが、ポールは苛々していた。 逃げるわけねぇ、アイツが・・。 ポールは不安になった。すぐに会場を出てバイクにまたがるといそいでニーナのいるホテルに向かった。 「おい、ニーナ! いるのかよ! 開けろ!!」 ドアが壊れるぐらいノックしたが、返事はない。ポールは鍵をまわして、部屋の中に踏み込んだ。 「ニーナ・・。」 ニーナはすました顔でベッドの上に座っていた。しかし、ベッドの上に散らばった銃弾を見てポールの表情は引き締まった。 「・・何をしている?」 その問いにニーナは答えなかった。なれた手つきで弾倉に弾丸を詰め、遊底を引いた。 「そろそろ来る頃だと思ってたわ。」 「おい・・どうしてこなかったんだ? それにそれは・・。」 「急用ができてね。部屋から出られなかったのよ。」 ポールはニーナと銃を交互に見た。 「アンタ、何者なんだ?」 ニーナは手を止めて、ポールをじっと見つめた。沈黙の中で、時計の秒針の音がはっきりと聞こえた。 「カズヤに追われてるのよ。」 この女、殺し屋だ。ポールは理解した。ミシマ財閥の頭首であるカズヤの命を狙う者は多いと聞く。ニーナもどこぞの組織に雇われて、カズヤを狙い大会に参加したのだろう。 「じゃあ、俺を誘ったのは、俺を隠れ蓑にするためか。」 「危険な目にはあわせなかったはずよ。」 ニーナはゆっくりと立ち上がった。 結局、俺を利用したんじゃねえか!! しゃあしゃあと言ってのけるニーナが憎たらしかった。 不意に、ポールは部屋の外から殺気を感じ取った。それも一つや二つではない。ただ気配だけが、音もなくスッ、スッと近づいてきていた。 「あいつらは・・。」 「来たわね。」 ニーナは銃を握りしめた。 「どうするんだ。」 ニーナはフッ、と笑った。 「もし私が生きていたら・・。」 「ん?」 「また会えたら・・そのとき決着をつけてあげるわ、ポール。」 ニーナはポールの手を取って、ベランダに走った。その直後、ドアが乱暴にこじ開けられ何かが放り込まれた。 ドシュッ!! 白い煙が部屋一面に広がる。催涙弾だ。煙は外のほうまでまわってきた。 「下に逃げて!!」 ニーナが叫ぶ。ベランダの隅に下の階へと続く非常口がポッカリと開いていた。ポールが非常口まで一気に駆け抜けると、ニーナは銃口を上に向けた。暗い夕暮れに銃声が鳴り響き、上の階のベランダで待ち構えていた狙撃者の血が降ってきた。 「チクショオオオオオ!!」 ポールは非常階段を滑るように降り、下の階のベランダに着地した。 「ニーナ!! 早く来い!!」 だがニーナは、ポールが行ったことを確かめると、煙渦巻く部屋に再び戻って行った。 「おい、ニーナ! ニーナァァァ!!」 ドン!!! 次の瞬間、上の階が爆発した。ポールは爆風で外の投げ飛ばされそうになった。上はベランダごと木っ端微塵になり、瓦礫がばらばらと降り注いだ。 部屋から燃え上がる火の手、非常ベルの音・・。 ポールは迷わずに、逃げ惑う人々を押しのけて上の部屋へと急いだ。しかし、上の部屋から上がった炎は予想以上に早く、黒い煙がゆくてを阻んだ。 「ニーナァァァ!!」 ポールはもう一度叫んだ。 返事は、なかった。 後日、事件は原因不明の火事、とだけ報道された。カズヤが手をまわしたことは明白だった。 「ケッ・・。」 殺し屋の末路なんてこんなもんか。ポールは思った。 しかし、ポールはニーナが死んだとは思えなかった。確証はない。けれども、ニーナがいつか帰ってくるような、そんな気がした。 かくして事件はもみ消され、大会はすすんでいった。 だが・・ポールは最後までニーナとも、カズヤと戦うことができなかった。 ポールは準決勝で見事熊を倒し、何とか決勝戦にこぎつけたものの、ポールが決勝大会に着いたときにはもうすでに大会は終わっていた。しかもカズヤは平八によって倒され、そのまま平八の手によって火口に葬られたと風の噂で聞いた。 すべてが終わったとき、ポールはベッドに寝っ転がって、ぼんやりと天井を見つめていた。 もう戦えないのかよ・・あいつらとは。 不意にポールはむなしさで、胸が締め付けられるように痛んだ。何年も流したことのない涙が浮かんできた。泣きながら眠り、夢を見た。自分がカズヤと、ニーナと戦っている夢だった。 「そろそろ決着をつけようぜ!!」 夢の中でポールは叫んだ。だが夢も、二人もそこで煙のように消えてしまった。 その後、数々のトーナメントで優勝を果たし、ポールは世界中の少年があこがれる格闘家になった。しかし、ポール自身は物足りなさを感じていた。 「カズヤ〜! ニーナ〜! 俺と戦え!」 しかし、夢の結果はいつも同じだった。ポールはいつしか、夢の続きを見ることをあきらめていた。 「ずいぶんさわがしいな・・。」 街の裏通りにある、比較的大きな空き地が試合会場だった。このストリートファイトを一目見ようと、観客達が早くも集まっていた。ポールが爆音を上げながら会場入りすると、周囲はワッと歓声をあげた。だが、ポールの目はまっすぐに対戦者に注がれていた。19年前と変わらぬニーナがそこにいた。「ずいぶん遅かったわね・・。」 ポールは驚いた。しかし間違いない。ポールは冷えきっていた魂に、火がつくのを感じた。 「厚化粧は似合わんぜ、ニーナ。」 「何のこと・・?」 ポールは笑って体を構えた。ニーナもそれにあわせて構えの姿勢をとる。 「決着をつけにきてくれたんだな・・。」 ポールは鼻をグシュ、とすすった。ニーナは不思議そうな顔をした。 さあ、見ようか。19年ごしの夢をよ!! そしてレフェリーの声が響いた。二人の拳が交錯した。 |