たまご 



 〜たまごのなかには〜

そもそも、そのモルボルが、お腹いっぱいになって、ドロ沼でウトウト昼寝していたのが、すべての不幸の始まりだった・・。

  ドッッキュ−−−ン!!

 森にムスタディオの銃声が響きわたった。鳥達がどこからかバサバサとけたたましく飛び立つ。タ−ゲットのモルボルは、下水のようなスッゴイ臭いの体液を飛び散らせてあえなく絶命。ムスタディオはモルボルが死んだのを確認すると、片手で鼻をつまみながら、ナイフで死体を一気に切り裂いた。
「やった!! チョコボの卵、ゲットだぜ!」
 その声にラムザ以下仲間たちがわらわらとやってきた。
「おう、ラムザ! 見ろよ、卵がひい、ふう、みい・・五つも!!」
「やったね。モルボルがよくチョコボの卵を丸飲みにするって話は本当だったね。」
 なるべく死体にさわらないようにして卵を取り出し、川の水できれいに洗った。
「これぐらいありゃ、ケ−キはおろか、オムレツに茶碗蒸し、親子丼にプリンまで作れるぜ! なぁ、ラムザ。」
「うん。ちょっと清潔度が気になるけど、これならアグリアスさんもきっと喜ぶよ。」
 話は一週間ほど前にさかのぼる。
 王女オヴェリアがゼルテニアで即位。それに伴うように戦争が勃発。世の中は暗い話題であふれかえっていた。ラムザたち一行とて例外ではない。しかも、戦争勃発の責任の一端は自分たちにあるのだ。
 その責任を一番痛烈に感じているのが王女護衛の任にあったアグリアスだった。もともと生真面目な彼女なだけに、王女がゴルタ−ナ公の側につき、ラ−グ公との戦争の口実にされた事は相当こたえたのであろう。その欝憤を晴らすかのように彼女は日夜ますます修業に励んでいた。
「最近頑張るねぇ、アグリアスさん。あれ以上強くなる気かね。」
 焚火のなかのイモを突っ突きながら、ムスタディオがつぶやいた。
「王女様にえらく御執心だったからなぁ、やっぱ。おっと・・アグリアスさん、今出かけてるよな?」
 と、ラッド。
「くくっ・・。でもなぁ、アグリアスさんと王女様の関係って、男の子としちゃ変な想像しちゃうよなぁ。」
「そうそう。なんたってアレだぜ、アレ。

助けて〜  アグリア〜ス 」(オペラ風に、ラッド)

「姫様〜  ならば〜 私がぁ〜 守って〜ぇみせるっ 」(演歌風に、ムスタディオ)

「愛〜  それは尊く〜 」(ラッドとムスタディオ、一緒に)

「何バカやってんのよ!」
 二人の悪ふざけを横で見ていたラヴィアンだったが、いいかげん腹が立ったらしい。
「そんなことするヒマがあるなら、アグリアスさんを励ます方法でも考えてよね!」
「アハハ・・。悪りぃ。でも、励ますっていったってなぁ・・。」
「けど、そうでもしなきゃ、アンタ達が困るわよ。・・ふぐふぐ。ムスタディオ。」
 と、焼けたイモをほおばるアリシア。
 「アグリアスさんがね、『え〜い、なんだ、うちの軟弱な男どもは! 強化合宿で喝を入れてやる!』って言ってたもの。」
 「げぇ!!」
 アグリアスさんの強化合宿。それは、森の中で湿原の中で昼夜問わずモンスタ−と戦い続けるという超苛酷プログラム。現に、この前の合宿後あまりの厳しさに耐えられなくなったラッドが逃亡、が失敗してつれ戻されるという事件があった。
「そ、それは・・。戦争よりも大問題だ! ラムザ! お前、何かいい考えはないか?」
「いい考えって・・。そうだ、確かもうじきアグリアスさんの誕生日じゃなかったっけ、ラヴィアン?」
「そうね〜。そうよ、みんな! アグリアスさんの誕生パ−ティ開かない?」
 仲間達がおぉ〜、と歓声をあげた。
「でもな〜。俺、ほぼ一文無しだぜ。」
「大丈夫さ、ラッド。なんとかなるさ。」
「いいアイデアでもあんのかよ、ムスタディオ。プレゼントとかケ−キは買えないぞ。」
「バ〜カ、俺達で作るのさ  粉と砂糖はともかく、卵だったら自前で調達できるぜ!」
「チョコボのか? でもウチのボコはオスだしなぁ。まさか野性のチョコボの卵をとる気か? どつかれて死ぬぜ!」
「きしし・・。俺いい方法知ってんだ〜。まっ、このムスタディオ様に任せなさい!!」
  強化合宿回避のためならば、どんな苦労も惜しまないムスタディオであった・・。

   誕生日当日。今日は宿屋の食堂を借り切って丸一日かけてパ−ティの準備をした。壁に紙製の花を飾り、ボ−ドに「アグリアスさんお誕生日おめでとう!」と書いた。森で仕留めたうりぼうの丸焼きにチキンのス−プ(本体不明)が台所でおいしそうな匂いを漂わせている。なかでも特筆すべきなのがムスタディオの、あのモルボルからとった卵をたっぷり使用してこしらえたバタ−クリ−ムのケ−キであろう。生クリ−ムが手に入らなかったので、ムスタディオはバタ−クリ−ムをしぼり出してケ−キの上に可憐な花を描き、綺麗にデコレ−ションした。手先の器用さはさすが機工士である。
「アグリアスさん、こっち、こっち!」
 外でラヴィアンの声がした。どうやら、主賓の到着である。
「何だ、ラヴィアン。そんなに急いで・・。」
 アグリアスが食堂の扉を開いた。

 パァ〜ン、パン、パン!

「アグリアスさん、お誕生日おめでとう!」
  ワァ−っと声があがり、紙吹雪が宙を舞った。ムスタディオが空砲を鳴らし、ラッドがシャンペンの栓を抜く。
「なんだ、なんだ!? 私の・・誕生日?」
 アグリアスは目を丸くする。
「アグリアスさん。二十二歳のお誕生日、おめでとう。大変な時だけど、お祝いしたくって、いろいろ準備したんだ。気に入ってもらえたかな?」
 ラムザが代表して言った。
「気に入るも何も・・ラムザ。私の誕生日なんて覚えていてくれたのか・・ありがとう。」
  アグリアスがめずらしくどぎまぎした様子で、顔を赤らめる。盛大なパ−ティが始まった。ジョッキを片手に乾杯し(無論、ラムザはミルクで)、ハッピ−バ−スディトゥ−ユ−と大合唱。ラッドがアコ−ディオンを弾き、それにあわせてラヴィアンが酔った勢いでスカ−トの裾を捲くって激しく踊りだした。アグリアスへのプレゼントは、みんながなけなしのお金を出しあって買った真っ赤なリボン。それが彼女の美しい金髪によく似合い、今日のアグリアスはちょっと色っぽい。
「さあさあ、アグリアスさん。俺が作ったケ−キも食べてみてよ!」
 ちょっぴり顔が赤いムスタディオが上機嫌で、ケ−キを切り分けた。
「ケ−キ? お前が? どれどれ・・。美味しい!」
 クリ−ムの甘さは程よく、スポンジ台はフワフワで卵の風味が生きていた。料理の本と格闘しながら作ったものであったが、みんなの評判は上々であった。
「美味しいわぁ。ムスタディオ、普段料理なんかしないくせに上手じゃない。」
 ラヴィアンが冷やかす。へへ・・、と笑うムスタディオ。

 おや・・?

 アリシアが変な顔をした。
・・不思議なニオイがする。
 やがてまたドンチャン騒ぎが再開し、みんな歌い、踊り、ヘンテコなゲ−ムをした。いいかげんとっぷり夜が更けるまで騒ぎ、ベッドに行けたものもいたが、ほとんどはそのまま床で椅子で、ぐうぐう鼾をかいていた。
 そうだ。椅子に座って舟を漕いでいたアリシアが、ふと目覚めた。あのケ−キ・・。

なんだかちょっと台所の三角コ−ナ−のニオイがしたんだわ・・。


 さて、みなさん、お気付きだろうか? いくら火を通したからといっても所詮はモルボルの体内にあった卵、中はモルボル菌で汚染済。さらにムスタディオ手は洗ったのかのO−157、バタ−クリ−ムの生卵使用はまずかったかのサルモネラ。
 幸福は夜明けごろ不幸へと変わり、ケ−キを食べたもの全員、急な腹痛に襲われ男も女もトイレが満員御礼となったのである・・。

「よ、よぉ、ラッド。どうだ、調子は?」
 寝込んでから三日目、げっそりとなったムスタディオが話しかけた。
「お、大当たり。・・ウワサには聞いていたが卵に当たるとハンパじゃないな。」
「そうか・・。みんな・・アグリアスさんも寝込んでいるのかな・・?」
「ああ・・。覚悟・・覚悟だけはしとこうや。」
「・・ああ。」
 その予感は的中した。一週間後、青筋立てたアグリアス先生による地獄の強化合宿が全員強制参加という形で強行されたのである。

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