超未来ロボ

ドルァ・エームォン 4



二学期の終業式が終わった。
俺、ノービ=ノービッターにとって地獄だった学校は
今日から冬休みに突入し、当分行かなくていい。
今までの俺にとっては、休みは天国だった。
だが、アイツが現れて以来、学校も家も地獄だった。

その悪魔の名はドルァ・エームォン。
突然やってきて勝手に家に住み込むようになった
コイツのおかげで俺はパシリにされたりして、
どっちが家主なんだかわからなくなってしまった。
そして追い打ちをかけるように、ドルァの妹ドルァミも
住み込むようになり、苦しみは2倍に膨れあがったのだった。

「おいノービ、ビール買ぉてこいや。」
関西弁のドルァミが今日も俺を使いパシリにする。
逆らったら間違いなく命を落とすだろうから俺は素直に
従う事にしている。
やはりドルァより新しく性能が良いのか、妹の方が
強かったりする。しかも、容赦しない性格なドルァミ。
おそらく、今までにも幾人もの命を奪ってきたのだろう。
その強さは目を見てもわかる。ありゃ百戦錬磨で悪鬼羅刹の目だ。

俺はすぐに自分の部屋へ向かい、財布と防寒着を用意する。
俺の部屋には諸悪の根源、ドルァが昼寝しているはずだ。
ところが、今日は違っていた。
寝ているどころか、部屋の真ん中で立ち尽くしていた。
「…あれ?どうしたんだ、ドルァ。」
しかし返事はない。
うつむき加減で俺に背中を向けている。
「おい、ドルァ?」
俺がドルァの肩に触れようとした、その時だった。
「ぐぅぅぉぉおおおおぅぅああああぁぁぁぁぁあぁあぁっ!!」
「う、うおあっ!?」
突然、ドルァが叫び出した。
両手をわなわなと震わせさせながら奇声を発している。
「ド、ドルァ!おいっ!?」
「ぐぅるるるぁあああぁぁぁぁぁああぁっっっ!!!!!!!!」
まるで漫画のドラゴンボールのように「!」の数が多かった。
「ド…、ドルァが壊れた…。」
「おいっ!早ぉビール買ぉてこんかぁいっ!」
ガラの悪い喋り方でいきなりドルァミがやってきたが、
兄貴の様子を見て驚く。
「あ、兄貴?おい、どないしたんや?」
「わ、わかんないけど、壊れたんだ、いきなり。」
言葉にならない言葉で叫び続けるドルァ。
近所迷惑にならないかと心配になったが、
それどころではないようだ。
「…とりあえず、黙らせるで。」
「え?」
急に低い声で喋りはじめたドルァミ。
俺はすぐにわかった。ドルァミがバトルモードに入った事を。
ドルァミは右手の人指し指をドルァに差し向ける。
その先端から銃口が伸びてきた。

バババッ!ババババババババッ!!

耳を貫くような轟音が響く。
ドルァミのフィンガーバルカンが火を吹いた。
弾はドルァの額に容赦なく穴を開ける。
音が止むと、ドルァはそのまま後ろに倒れた。
傷口からオイルが漏れはじめた。

「ねぇ、ドルァは一体どうなったんだ?」
静かになった部屋で俺はドルァミに問う。
「わからん。ま、兄貴は年代モンやからなぁ…。
 そろそろやないかとは思うとったけど…。」
言う事は酷いが、落ち着いた声だ。やはり兄弟なのだから、
心配しているのだろう。
「しゃぁないなぁ…。」
おもむろにドルァミは兄貴の腹のポケットに手を突っ込んだ。
「えーっと…?…お、あったあった。」
そして取り出した。それは、赤い子供のようなロボットだった。
なんか、酷く凶悪な顔をしている。
「こいつは修理ロボのミニドルァや。おいノービ、
 今からこいつと一緒に兄貴の腹ン中に入ってぇな。」
「は?腹の中?」
突然不思議な事を言い出すのですぐに理解ができない。
「そや。今からアンタらの体を小さくするさかい、
 こいつと一緒に修理してや。」
と、今度は自分のポケットをゴソゴソしはじめる。
取り出したのは懐中電灯のようだ。
「こいつは物質縮小電灯って言ぅてな、こいつの光を浴びせると
 縮まって小さくなるねん。」
「それってスモールライトでしょ?」
「物質縮小電灯や!今は漢字が流行なんや。」
「……。」
あえて何も言わない事にした。

「ほな、いくでぇ。」
物質縮小電灯の光が俺と凶悪面のミニドルァを包む。
周りのものが大きくなっていく。
おそらく、自分が小さくなっているのだろう。
そして気が付いたら、巨大なダニが俺を見ていた。
「…って、小さくしすぎだぁぁぁっ!!」
「ええから早ぉ行きぃ!」
虫眼鏡で俺たちをのぞき込むドルァミ。
どうやら肉眼では確認できないほど縮んだらしい。
「…ううぅ、なんか不幸だぁ…。」
「ドルァッ!!」
突然、低いダミ声がした。
驚いてその方向に振り向くと、凶悪面のミニドルァが
ブースターを搭載したランドセルを俺に差し出していた。
恐くてちびりそうになった。

俺たちはあんぐりと開いたドルァの口から侵入する。
中は異臭がたちこめている。歯を磨いてないな、こいつ。
鼻をつまんでいると、再びミニドルァのダミ声が聞こえた。
見ると、今度はガスマスクを差し出していた。
どうやら主人と違って親切な奴のようだ。
…顔はかなり怖いのだが。

しばらく飛行していると、宇宙船のような廊下に出た。
「す、すげぇ…。」
延々と続く廊下。左右の壁には扉が並んでいる。
扉のプレートには、英数字が並んでいる。部屋の名前だろうか。
立ち止まって見ていたが、気が付いたらミニドルァが
さっさと歩いて進んでいたので慌てて後を追う。

網の目のように入り組んだ廊下を、ミニドルァは
迷うことなく歩いていく。
右に曲がり、左に曲がり、また右に曲がる。
ミニドルァがいなければ、永遠に出ることが出来ないような、
まるで迷路のようだった。
「……ドルァッ!!」
突然ミニドルァは立ち止まり、1つの扉を指した。
「…ここなのか?」
「ドルァッ!!」
うなずく。どうやら目的地に到着したらしい。
ミニドルァはドアノブに手をかけ、ゆっくりと回した。

部屋の中は真っ暗で何も見えない。
どこかにスイッチはないのだろうか。
だがミニドルァは平気で歩いていく。
赤外線カメラでも搭載されているのだろうか。
俺はする事もないので部屋の入り口で待機しておく。
「ドルァッ!!ドルァァッ!!!」
…来い、と言っているのだろうか。
「いや、暗くて見えないんだけど…。」
「……。」
しばらくすると、ミニドルァの周囲が明るくなった。
よく見ると、目が光っている。
とんでもなく怖い顔だった。

その時、突然部屋が振動をはじめた。
「う、うわっ!?」
俺は体制を崩し、尻餅をついてしまった。
「また兄貴が暴れ出した!黙らすからじっとしとき!」
どこかにあるスピーカーからドルァミの声が響いた。
そして、銃声。さらに強くなる振動。
「ぐわあぁっ!!!」
急いで耳を塞ぐが、急に耳鳴りしか聞こえなくなった。
他の音は全く聞こえない。
「…あ、あれ?」
だが、振動は続いている。
どうやら、俺の鼓膜が破れたようだ。
ダニより小さい体なんだから、こんな五月蝿い銃声を
まともに聞くと破れるのは当然か。
妙に冷静になれた。これって死の覚悟なんだろうか。

しばらくすると振動が止んだ。
「ふぅ〜、止まった…。」
と言ったつもりだったが、自分の声は聞こえない。
ミニドルァが心配そうな顔で(それでも凶悪だが)俺を見る。
俺の鼓膜が破れた事を伝えると、ミニドルァは紙とペンを取り出し、
何かを書きはじめた。そして俺に手渡す。
「……。」
字が汚すぎて読めなかった。

ミニドルァは何やら作業をしている。
俺はどうすることも出来ず、その場に座っていた。
何も聞こえないと、考え事が多くなる。
俺は、これからどうすればいいのだろう。
もう誰の言葉も聞こえない。
好きな番組も映像しか楽しむ事ができない。
大好きな片想いのあの娘の声も聞こえない…。
絶望的な気持ちになった。思わず涙が溢れ出る。
ふと、肩に何かが触れた。
顔を上げると、ミニドルァが睨んでいた。
…いや、睨んでいるように見える顔だが、
どうやら心配してくれているようだ。
「ありがとう、ミニドルァ…。君は本当に良いヤツだ。
こんなに心配してくれるなんて…。俺は嬉しいよ。」
見つめあう二人。こいつの凶悪顔が非常に親しげに見えた。
が、ミニドルァは部屋の出口へ歩いていく。
「終わったのか?」
ミニドルァはこくりとうなずく。俺は立ち上がり、ついていった。

ようやく俺たちは外へ出る事ができた。
ドルァミは物質拡大電灯で二人の体を元に戻す。
そして、にこやかな顔で何かを喋っていた。
鼓膜が破れた俺には聞こえない。
それを伝えると、ドルァミは紙とペンを俺のノートから剥ぎ取り、
書き込む。そして手渡す。

「ビール買ぉてこいや」

涙が止まらなかった。


「いやぁ〜、ご心配をおかけしました〜。」
照れるような顔で笑うドルァ。
「まったく、ええ加減メンテナンスせぇや、このオンボロ。」
怒ったような安心したような、複雑な顔をするドルァミ。
その会話を紙に書いて俺に読ませる親友・ミニドルァ。
(かろうじて字が読めるようになった)
そして一番の被害者、俺。
俺の耳を失うという、大きな代償で復活したドルァだが、
一向に感謝の様子は無い。
怒りを通り越して諦めている俺。
もしかしたら、俺はこの家から出ていった方が
幸せなのかもしれない。
そう思った俺は夜中、旅支度をして足早に家を出た。

木枯らしが吹く冬休みの第一日目は、
俺の新しい人生のスタートになる……はずだった。
目の前には、大魔王・ゴーダ=タッケスィー。
何か喋っているが、その間にもヤツの拳が
俺の顔面にのめり込んでいる…。

                    fin.

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