超未来ロボ ドルァ・エームォン

幸福も不幸も、突然やってくるものだ。
外に出れば、宿敵のゴーダ=タッケスィーにボコられるし、
突然現れた謎のロボット「ドルァ・エームォン」とその妹、「ドルァミ」によって
俺はさらに不幸に陥れられていた。

そんな毎日を送っていた俺、ノービ=ノービッターに、1つの幸福は訪れた。
それは、ドルァの言葉から始まった。

「なぁノービ、ゴーダのヤツが旅に出るんだってさ」
「…え?」
ゴーダは今の日常に飽き、旅に出たのだと言う。
「なんでも、『俺より強い奴に会いに行く』とか言って」
どこかで聞いたフレーズだが、あまりに突然だったので俺は声も出なかった。

ゴーダはいない。
そう思うだけで俺は心ウキウキだった。
つまりこれは、平和なのだ。
ほぼ毎日の様に殴られ、登下校の時は常に目立たない裏道を通って
遠回りしていた日々に遂にピリオドが打てるのだ。
翌日の登校、俺は堂々と表通りを歩いていた。
もちろん、ヤツの姿はない。殴られる事はない。
「これが平和か…」
俺は平和の素晴らしさに涙を流さずにはいられなかった。
あとは家に居座る青と黄の極悪ロボさえいなければ……。
その時突然、背後からクラクションが響いた。
安心しきっていた俺はドキっとしてしまう。
振り返ると、道路から白のリムジンが俺に近寄ってきていた。
ボンネットには、ドクロの下に波線が3つ。
「あれは…、ボーンリバー家の紋章か」

この街では有名な大金持ちだ。
そして、俺の隣で止まり、運転席の窓がスーっと下がっていく。
「HEY、ノービ!素敵な学生ライフを送ってるかい?」
彼はボーンリバー=スネィオ。いわゆるボーンリバー家の御曹司だ。
彼もゴーダの被害者であった。
だが、ゴーダの元に下るという方法で難を逃れていたが、
俺が逃げ切った時には、スネィオが殴られているらしい。
が、ゴーダがいなくなった今、こうして堂々とリムジンで登校できるというワケだ。
「ってか、色々ツッコミを入れさせてくれ…」
「Oh、なんだい小市民?」
「そのリムジン、右ハンドルかよ。しかもオートマだし」
「今は国産車が流行りだぜベイベー」
違うだろ。
「それに、なんで御曹司のお前が運転してんだよ。普通、執事とかだろ?」
「この間、大規模なリストラをしてねぇ…」
なるほど、どこも不況なんだな。
「だからその車のあちこちがヘコんでるのか…。
 いや、そもそもお前、小学生だろ」
「ふ、僕みたいなお金持ちには何でも許されるのさ」
んなワケあるかい。
「札束を警官に手渡すだけで無問題さ」
それは世間一般で言うワイロだ。
「今日のミーはベリーベリー上機嫌だ。特別に君もこの車に乗せてあげるぜ?」
「思いっきり遠慮しとくよ」
間髪入れずに拒否する。
「ふっ、貧乏人は謙虚だな。では、また会おうベイベー」
そう言うと、颯爽と車を走らせていった。
ちなみにここは日本なので左側通行なのだが、
彼は思いきり右側を走っていった。
それで良く大事故を起こさないものだ。
リムジンは見事なドリフトで右折していく。
その際、「ガァン!」と大きな音とともにガードレールを粉砕していったが
気にしてないのか、車はそのまま進んでいった。
ちなみに学校は左折しないと辿り着けないのだが…。

これといって何も起こらず学校に着いた。
「これが平和か…」
校門で再び涙を流していた俺の背後から、再びクラクション。
振り返ると、ボーンリバー家専用リムジンが真っ直ぐ爆走してくる。
…俺に向って。
「ってか止まれぇぇぇぇっ!!」
「車は急にトマラルクだぜベイベー!!」
それを言うなら「車は急に止まらない」だぁぁぁぁぁぁっ!!
叫ぶ間も無かった。
ズガガガガガガガガガァッ!!!
リムジンは俺の目の前でドリフトする。
遠心力で座席後部が俺を薙ぎ払った。
「俺ってもしかして疫病神…?」
空中にはね飛ばされた俺は、きりもみ回転しながら己の不幸を呪った。

「キャーッ!スネィオ君〜!」
女子の黄色い声が教室に響く。
明らかに玉の輿目当ての女子たちがスネィオを取り囲んだ。
この街を支配していたゴーダがいなくなったおかげか、
こうして馬鹿騒ぎができるのだ。
「これが平和か…」
俺は3度目の涙を流した。
しかし、不幸は急に襲い掛かってくるものだ。
「あ〜、今日は転校生を紹介する」
そう言って担任が廊下に向って手招きする。
「ドルァ・エームォンです。未来から来ました」
「待てぁコラァァァ!!」
俺は速攻で隠し持っていた木刀を取り出し、牙突をかます。
「牙突は右が死角ぅ!」
と、ドルァもあっさり避ける。
「てめぇ…、何のつもりだよ…!」
木刀を白刃に見たて、俺はドルァの首にそれを宛がう。
「だって、家の中って退屈なんだもぅん」
ワザとらしい喋り方が余計に腹が立つ。
「だったら帰れよテメェ…!」
怒りに満ちた俺の顔を見て、嘲笑うかのように肩をすくめるドルァ。
「いいじゃんかよぅ。仲良くやっていこうぜ?」
「殺ス」
その異様な光景を、他の生徒は不思議に思いながら見ていた。
「ノービって、あんなキャラだったっけ…?」

放課後。
あのランポリ(ランバラル専用ポリプロピレンの略)の事だから
何かやらかすだろうと思っていたが
予想に反して特に何も無く、普通にクラスに馴染んでいた。
そうか…、俺は勘違いしていたんだ…。
きっとあいつは、トモダチが欲しかったんだな…。
考えてみれば、俺が学校に行っている間、家にはあいつとドルァミしかいない。
知り合いも少ないアイツには、その時間が嫌だったのかもしれない…。
そう思うと、彼の行動が許せる様になった。
「ドルァ、一緒に帰ろうぜ」
そう言おうと思い、俺は満面の笑みでドルァに声をかけようとした。
「なぁ彼女、俺と一緒に夜明けのサプリを飲まないかぃ?」
ナンパしてやがった。
俺は迷わず飛龍閃を放つ。
「ごふぁっ!?」
「くたばれ、このヤロウ!」
「何しやがる!?殺す気か!?」
当然よ。
「ナンパ目的なら帰れ!!」
「何を言う。綺麗な女性を見たら迷わず声をかけろと
 学校で習わなかったのか!?」
「習わんわ!」
こいつ、ロボットのくせに何を考えてんだか。
「ふん、お前みたいなヤツは一生彼女なんかできんわ。
 こんなヤツ放っといて俺と帰らない?彼女…」
しかし、その彼女はとっくに姿を消していた。
「………」
「お前みたいなナンパ野郎は嫌われるんだよ」
俺はそう言い捨てて教室を出た。
「ま、待ってくれよぅ、ノービ君〜」
慌ててドルァが俺についてきた。
「その気持ち悪い声で俺を呼ぶのはやめろ」
「え?だって人間って猫被って接するのが普通なんだろ?」
違うだろ。
「お前が何を考えてこの学校に来たかは知らないが、
 あまり変な事して目立つんじゃないぞ」
ただでさえ目立つ風貌なんだから、少しは大人しくしていてほしいもんだ。
ってか、学校もよくこんな怪しいヤツの入学を許可したな。
「ヘイ彼女、俺と一緒に夜明けのアクエリアスを飲まないかい?」
本日2度目の牙突は、青ロボの眉間に深々と突き刺さった。

「しかし、やっぱ平和は良いなぁ」
普段ならゴーダの目を気にしながら帰る下校も、
今ではこうして堂々と表通りを歩くことができる。
…登校時も同じ事を言ってた気もするが。
すると、またも後ろからクラクション。
例によって白いリムジンがガードレールを擦りながら俺に近づいてくる。
「HEY、ノービ!」
だから、こっちは反対斜線なんだっつーに。
そんな事も気に留めず、スネィオは俺に声をかける。
よく見ると、ボンネットが真紅に染まっている。
「……何でやねん」
「いやぁ、信号で止まろうとしたらアクセルとブレーキを踏み間違えてね」
お前、ダメ人間決定。
「そしたら偶然歩いていた老婆を…」
「大人しく警察のお世話になってろ!」
まぁ、例によって札束渡して許してもらったんだろうが。
「そんな事より、ミーは上機嫌なんだ。
 特別に君を乗せてあげてもOKだぜボーイ?」
「絶対嫌だ」
速攻で拒否する。
「今日は久々にドライブしようと思うんだ。
 そこで親友のノービを招待したいってワケさ」
「だから断るって」
「まぁまぁ、そう言わずに」
そう言いながら懐から取り出したのは、ぶ厚い札束。
「是非お供させてください」
自分も相変わらずダメ人間だな、と思った。

「ああああああああああぁぁぁぁっ!!!
 止めろっ!!止めろぉぉぉぉっ!!!!」
案の定、スネィオの運転技術は凄かった。
反対斜線を200km/h以上のスピードで爆走。
正面から来る対向車を右へ左へ寸前で回避し、
もの凄い勢いでドリフトしながら右へ左へ曲がっていく。
「こーいうのはゲームの中だけにせぇぇぇぇ!!」
「リアルだから良いんだよボーイ!!良いんです!!J・カビラです!!」
「良くねぇぇぇぇええ!!!」
ガゴンッ!!
再び何かにぶつかる。
何かが割れる音もする。
誰かの悲鳴も聞こえる。
そして俺は助手席で悶絶する。
「ヤーヤーヤーヤーヤー!!」
「やめろぉぉぉぉぉっ!!!!」
そしてリムジンはガードレールを突き破り、宙を舞った。
「クゥゥゥレイジィィィ・タァクシィィィ!!!」
「死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」
だけど俺の右手には、さっきの札束がしっかりと握り締められていた。

平和の第1日目だった。

fin.



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