降魔大戦記

『魔族』
それは、人類が誕生する遥か昔に地球を支配していたモンスター。
知能は人間のそれを越えており、
文明を築き上げていたと言われている。
ところが、魔族同士の争いが永く続き、
地球は汚染されて生物が住めなくなってしまった。
危機感を抱いた一部の魔族は地底に巨大な結界を張り、
そこに逃れたと言う。
そして遥かな時間の流れで地球は元の姿に戻り、
人類が誕生したと伝えられている。

ふいに鐘の音が響いた。
この時間の授業の終わりを示す鐘の音である。
「今の所は次回のテストに出るので、
 しっかり覚えておくように。以上だ」
白髪混じりの先生が教本を閉じる。
「起立っ、礼!!」
学級委員長の女の子の声で俺は目を覚ました。
「…やべ、寝てたか、俺…」
慌てて俺も立ち、礼をする。
その後、生徒たちが騒がしくなる。
今日の授業はこれで終わりだ。
「よく寝てたわね、エクセル?」
隣の席の女の子が俺を冷やかしにきた。
彼女はレミー=ハイマン。
言うまでもないが同級生で、幼い頃から仲が良い。
ついでに俺の彼女だ。
「誰が彼女ですって?」
「こら、俺の心を読むな」
「全く、もうすぐテストなんだからちゃんと授業を受けなさいよ」
そう言ってレミーはノートを俺の机に放り投げる。
中には今日の授業の内容がぎっしりと埋まっていた。
「本当に魔術師になる気があるのなら、ね」

ここはメルフィス王国国立の魔術学校。
これも言うまでもないが、魔術師を目指す少年少女らが
通う大きな学校である。
人間が魔術を扱えるようになったのは今から約4万年も前になる。
どこぞの偉い学者さんが魔力の存在を発見し、
俺には到底理解できない研究を重ねて生み出した。
…と、目の前のレミーのノートに書いてある。

「いいから、さっさと書き写しなさいよ。
 どうせ、あんたのノートは真っ白なんでしょ?」
「真っ白どころか机に出してないぞ」
「自慢しなくていいから、早く書きなさい!」
俺は適当に返事をしながら自分のノートとペンを取り出す。
「2年C組 エクセル=フラット」
相変わらず汚い字で、俺の名前が書いてある。
俺がページを開いてこれから書き写そうとすると、
後ろから情けない声が聞こえた。
「ねぇ〜、レミー…」
「ん?どしたの、ユイ?」
何故か眠たそうな顔をした同級生、ユイ=ファルナが
白紙のノートとペンを持って近寄ってきた。
「ねぇ、ノート写させてくれないかなぁ」
「…ユイ、あんたも寝てたわけね?」
呆れた顔でユイを半目で睨むレミー。
「待て。今は俺が写してるから待ってろ」
「う、うん」
そう言って俺は走り書きで写しはじめた。
「あんた、そんな汚い字でちゃんと読めるの?」
「読める」
「じゃ、これは何て書いてあるの?」
俺のノートの1ページ前に書いてある字を指さす。
「………」
凝視する俺。
目を細めたり、顔を近づけて見たりするものの、
何て書いてあるのかさっぱりわからない。
「……冷やし中華大盛り3人前」
べしっ。
レミーが丸めた別のノートで俺の頭を叩いた。
「ユイ、後であたしの家に来てちょうだい。
 どうせコレが書き写し終えるまで時間かかるだろうから、
 あたしの家で書いてね」
俺を指さしながら失礼な事を言う。
しかも、俺を「コレ」扱い。
「じゃ、あたしたちは先に帰るから、
 終わったらノートをあたしの家に持ってきてね」
「…はい」
「じゃぁエクセル、またね〜」
ユイが手を振って教室を出ていった。
「………」
不思議そうに俺を見つめているのは、
ユイのホムンクルス(魔力で生み出された人工生命体)の
テンちゃんだった。
机の高さと同じ位の身長のテンちゃんが、
背伸びをしながらノートと俺を交互に見る。
「……そんな哀れみに満ちた目で見ないでくれ…」
「テンちゃ〜ん?帰るよ〜」
ユイがひょっこりとドアから教室を覗く。
「〜〜♪」
鳴き声(と思う)で返事をしたテンちゃんも、
さっさと教室を出ていった。
いつの間にか教室には書き写し作業に勤しむ俺と、
学級委員長で今日の日直のシャナしか残っていなかった。
黒板の文字を消し終えたシャナが俺を見てため息をつく。
「…何だよ」
「別に」
目を逸らして、窓の外で黒板消しを叩きはじめた。
毎度の事なので、俺も気にしない事にする。

『魔族』
それは、人類が誕生する遥か昔に地球を支配していたモンスター。
知能は人間のそれを越えており、
文明を築き上げていたと言われている。
ところが、魔族同士の争いが永く続き、
地球は汚染されて生物が住めなくなってしまった。
危機感を抱いた一部の魔族は地底に巨大な結界を張り、
そこに逃れたと言う。
そして遥かな時間の流れで地球は元の姿に戻り、
人類が誕生したと伝えられている。

「…ふぅ、やっと終わったな…」
もう日が暮れはじめていた。
なんせ、今まで走り書きで読めなかった部分も
清書し直していたから、時間も随分かかってしまった。
「さて、とっとと帰るか…」
俺は、自分一人しかいなかった教室を出ていった。

その頃、メルフィス城は騒がしかった。
「アルハランブとの連絡が取れなくなった?」
長髪の男が後ろ髪を括り、慌ただしく制服に着替えていた。
一見、女にも見える顔の青年だ。
「はっ。先刻、モンスターが飛来してきたという
 連絡を受けてから、途絶えてます」
仮面兜を被った部下の兵士が、早口に喋る。
「アルハランブ…、南のロルフ王国の首都だったっけ。
 まさか、自衛軍がやられたんだろうか…」
「ケリウス隊長、どうなさいますか?」
「他の国との連絡は?」
「隣国のサルヴァがこれから調査隊を向かわせる、との事です。
 協力要請はありませんが」
「じゃぁ、ウチはこのまま待機。いつでも出られるように
 テレポートの使える魔術師を2、3人準備させて。
 アルハランブへの通信は続けてください」
「はっ!」
兵士は一礼をして、早足で部屋を出ていった。
入れ替わるように、厚い鎧を来た男が部屋に入ってくる。
「ケリウス、俺もいつでも出られるようにしておく」
「ありがとう、アズマ。…ごめんね、今日は久々に
 家に帰れるはずだったのに」
ケリウスは申し分けなさそうに、副隊長のアズマ=ファルナに
手を合わせた。
「なに、いいさ。これも仕事だし、それに親友の頼みだ」
「奥さんには連絡した?」
「ああ。今度帰ってくる時は土産を忘れずに、だとさ」
「はは…」
「隊長、サルヴァの調査隊から連絡が入りました!」
先ほどの兵士が慌ててやってきた。
「それで?」
「はっ。アルハランブが……街ごと消滅していた、との事です」
「な…なんだって!?」
ケリウスの表情が驚きに変わる。
「モンスターはどうした」
アズマは冷静な声で聞いた。
「はっ。調査隊が到着した時には、モンスターはおろか
 人影すら見えなかった、との事です」
「…アズマ!!」
「わかっている。俺もアルハランブに向かうぞ」

「おーい、レミー。ノート持ってきたぞ〜」
俺はレミーの家の玄関を2回叩いた。
少しして、レミーが現れる。
「遅かったじゃない、エクセル。もう夕飯時よ」
「悪い悪い」
「それに、ユイも帰っちゃったわよ。そのノート、
 ユイに渡しといてよ」
「…今から俺が行くのか。あいつの家に」
「当たり前よ。んじゃね」
ばたん。
無情にも扉は閉められた。
「冷たい、冷たいぞレミー。それでも俺の彼女か?」
かちゃっ。
しかも鍵まで閉められた。
「………」
仕方なく俺はファルナ家に向かうことにした。

「えぇ〜!? お父さん、帰ってこれないのぉ〜!?」
俺がファルナ家の玄関をノックしようとした時、
ユイの声が聞こえた。
「なんでも、急な仕事が入ったそうよ」
これはユイの母親のサラさんの声だ。
「そんなぁ〜…。せっかく久々に会えると思ったのにぃ〜…」
いつまでも玄関の前に立っていうわけにもいかないので
俺はノックをする。
すぐにユイが出てくる。
「あっ、エクセル。遅かったね」
「おぅ、悪いな。ほれ、レミーのノート」
「あら、エクセル君。どうしたの?」
ひょこっとサラさんが顔を覗かせる。
その仕草は、教室でのユイと同じだった。
「あっ、えっと、なんでもないよ」
何故か慌てるユイ。俺はその理由を知っているので、
「こいつが授業中に居眠りしてたんで、今日の授業内容を
 ノートに書けなかったんスよ」
と、真実を述べてみる。
「あわわわ、わぁっ!!エクセルっ!!」
さらに慌てふためくユイ。
「…ほぉ〜?」
サラさんの穏やかな表情が急に鬼の形相に変わる。
それはまるで、大魔人のようだった。
「ユイ…。てめぇ、何のために学校へ通ってるんだ…?」
口調までもガラリと変わる。
そう、サラさんは怒ると途端に性格が変わるのだ。
名付けて「鬼人降臨モード」。
彼女は元・宮廷魔術師で、戦闘に入ると性格が変わる事から
「鬼人のサラ」と呼ばれ、恐れられていた。
俺は、この時のサラさんが猛烈に好きだ。大好きだ。
むしろ、胸キュンだ。ときめく。ドッキンバックン(謎)
「ちょっと来いやぁ!!教育してやるぁ!!」
「いやぁぁぁぁぁっ!!エクセルのバカぁぁ〜!!」
そのまま奥の部屋へと引きずられていった。
「おーい、ノートどうすんだ〜?」
「ひょえええぇぇぇぇぇ………!!」
しかし、ユイの悲鳴とサラさんの怒号しか聞こえてこない。
恐怖に脅えるテンちゃんが俺にしがみついてきた。
俺は、その微笑ましい光景をしばし眺めていた。

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