降魔大戦記(2)



「これはこれは、メルフィスの副隊長殿」
アズマと部下2人がアルハランブへたどり着いて
最初に出会ったのは、サルヴァ調査隊の隊長だった。
もう60歳は越えているであろう、白い髭を生やした老人である。
「状況は?」
「…ご覧の通りですじゃ」
顎で示した方向を見る。
大きなクレーターが出来ていた。
調査隊が数人ウロウロしているが、それ以外には何も無い。
「うっひゃぁ…。こいつは酷ぇな…」
アズマの部下の新米兵士、ジャンは素直な感想を述べる。
「…本当に、ここはアルハランブなんでしょうか…」
もう一人の部下で魔術師のアルファーナも、
驚きを隠せない様子だった。
「他に変わった事はありませんでしたか?」
アズマが調査隊長に敬語で尋ねる。
この年でも隊長でいられるという事は、
相当腕の立つ者だろうと思ったからだ。
しかし、調査隊長は首を横に振る。
「何も見つからん。おそらく、この街の住人は全滅じゃろうて…」
「そんな…」
アルファーナは呆然と立ち尽くしていた。
「原因などは、まだ判明していないのですか?」
アズマはそれでも冷静な口調を崩さない。
「うむ…到着してすぐの時は、強力な魔力がまだ残っておった」
「魔力?じゃぁ、犯人は強力な魔法で街を吹き飛ばしたって事?」
「ジャン!!なれなれしい喋り方はやめなさいって
 言ってるでしょう!?」
すかさずアルファーナが注意をする。
ジャンはわざとらしく肩をすくめた。
「ほっほっほ…、良い良い。…おそらく、強力な魔力を持った
 モンスターの仕業じゃろう」
「強力な魔力を持ったモンスター…。ドラゴンか?」
「ふむ…、これほど強力な魔力を持つモンスターなぞ、
 ドラゴンか、それとも…魔族か…」
「魔族…か。そういえば、彼の有名な予言師が言っていたな。
 魔族は近いうちにまた姿を現す、と」
アズマは腕を組んで呟くように言った。
「それ、本当なんでしょうか、副隊長…」
「さあな。…隊長、何かありましたら、直ぐに連絡を下さい。
 我々は待機しておりますから」
「うむ。頼む」
「よし、俺たちは戻るぞ。アル、テレポートを」
「はっ」
愛称で呼ばれたアルファーナは、すかさず印を組む。
両手の中で白い光が輝きはじめた。
「では、私たちはこれで失礼します」
「アズマ殿、ご苦労」
アルファーナを中心に、光が3人を包んだ。
そしてそれは一瞬で空の中へ消えていった。

翌日、この事件は世界各国を騒がせた。
新聞で大々的に報道され、緊迫させたのだった。
「ねぇねぇ、新聞見た?街が消滅したっていうニュース」
レミーがやや興奮気味に喋る。
俺はあくび交じりで相づちを打つ。
「あぁ、アルハランブが消滅。犯人はあの魔族か。
 …なんて見出しがデカデカと書いてたな」
「魔族、ねぇ。本当にいるのかしら」
「さぁ、どうだろな。…ところで、ユイは?」
「ん?後ろにいるわよ」
「あぅぅぅぅぅぅぅ……」
振り返ると、なぜか朝からボロボロのユイがふらふらと歩いている。
おそらく、あれから一晩中サラさんにしごかれてたんだろう。
「自業自得とは、この事だな」
「あうぅぅぅぅ…、エクセルだって、
 昨日居眠りしてたんでしょぉぉぉぉ…。ぅぅぅぅ〜…」
「安心しろ。俺には、俺を叱る両親がいないからな」
「…そういう問題じゃないでしょ」
冷静に突っ込みを入れるレミー。
世界が大変な危機に貧しているかもしれないというのに、
この3人は平和だった。
「うぅぅ〜…平和じゃないよぉぉぉ……」

しかし、今日の授業は朝のホームルームで終了した。
やはり、昨日の事件が原因だ。
本当に魔族が現れるかもしれない…。そんな時に呑気に授業を
している場合ではない、という事だろう。
本来なら、今日は放課後の地獄のホームルームで、また担任が
「今日のHRも『誤認逮捕』についてだっ!!」
などど吠えるだろうから、どうやってサボろうかと
考えていたのだが、どうやら簡単に回避できたようだ。
「…というワケで、当分の間、授業は休止になる。
 休みになるからと言って、フラフラと出歩かないようにな」

「なんか、大変な事になっちゃってたんだねぇ」
やはり呑気なユイが、呑気そうな顔をしている。
「…あなた、新聞読んでないんでしょ」
レミーも相変わらず呆れた顔をしている。
「私、普段から新聞なんて読まないから…」
「読みなさいよね…」
早い下校になってしまい、俺たちは暇になった。
とはいえ、事態が事態なので、どこかへ遊びにいく事は
出来なさそうだ。
なので、適当な公園で適当に時間を潰すことにした。
ところが、唐突に上から声が聞こえてくる。
「やぁ、レミーっ!!今日も美しいなぁ!!」
「ん…、こ、この声は…」
見上げてみると、太陽の逆光で顔は見えないが
男が上空からこっちに降りてくる。
「出たわね…、アレス=ヴィクター!!」
「はぁっはっはぁっ!!俺の愛情を受け取ってくれぇぃ!!
 ハイパーストロング・アレスキィィィィィィクっ!!!」
どこからどう見ても攻撃をしてくるようにしか見えない愛情が、
真っ直ぐレミーに向かってくる。
が、レミーはサッとその場を去る。
アレスは、レミーが居なくなった場所へ
急降下イナズマキックを浴びせた。
ゴキッ。
「うごぉぁあっ!!足がっ!足がゴキッてぇ!!」
曲がってはいけない方向へ曲がった足首を指さしながら
アレスはその場でもがき苦しんでいる。
その姿があまりにも滑稽なので、俺は茶々を入れる。
「ほぉ、お前は地面に愛情を注いでいるのか」
「ちちち、違ぁうっ!!俺が好きなのはレミーただ一人!!」
「あたしを好きなのはいいけど、そのバイオレンスな愛情表現は
 やめてよね!せめて、何か物をプレゼントしてくれるとか、
 そういう事はできないわけ?」
それって貢げって事か?
「ふっ、そんな金があるなら、とっくに高級な物を
 プレゼントしているさ」
いつの間にかヒーリングの魔法で足を戻したのだろうか、
アレスは何事も無かったかのように仁王立ちしている。
「さぁレミー。折角の休日なんだから、
 俺とデートでもしないかぃ?」
「休日じゃないわよ。先生にもフラフラ出歩くなって
 言われたでしょ?」
「おぉう!!レミーは良い子だなぁ。
 先生に言われた事を素直に従うなんて、
 さすが俺のフィアンセっ!!」
「…ユイ、あたしの家に行きましょ」
「え?あ、うん」
「おぉぃっ!!この僕を無視するなんて、照れ屋さんだなぁ!!」
「………」
相変わらずこいつはリアクションがオーバーすぎる。
見ていて腹が立ってくる。
ごっ。
気がついたら俺は、アレスの後頭部にカカトをめり込ませていた。
「おっと、いけね」
「みぎゃあぁあぁぁぁぁあああっ!!!」
再びその場でもがき苦しむアレス。
「レミー、こいつは俺が葬っておくから、安心して帰宅しとけ」
「さんきゅ、エクセル♪じゃユイ、行きましょ」
「うん。エクセル、またねぇ〜」
「おう。テンちゃんも、またな」
「〜〜♪」
2人+1匹はそのまま歩いて帰っていった。
「ってコラァアっ!!」
「なんだアレス、相変わらず復活が早いな」
「エクセル、貴様!!俺たちの恋路の邪魔をするなっ!!」
「お前の場合は恋路じゃなくて婦女暴行罪だ」
こいつはからかうと面白いので、しばらく遊んでやろう。
「貴様…!!そう、お前は常日頃から始末しなくてはならんと
 思っていたのだ。今日こそお前を倒すっ!!」
びしぃっ!!と、俺に人指し指を突き付ける。
「ほぉ。14戦14勝0敗0分の戦績のこの俺に、懲りもせず
 まだ闘いを挑むか。まったく学習能力が無いな」
「黙れ黙れぃっ!!今日の俺は一味違うぞぉ!!」
「その台詞聞いたの、14回目だ」
「むきぃぃいっ!!この俺を馬鹿にしやがってぇぇ!!」
「って言うか、馬鹿だろ?」
「むがあぁーっ!!おのれっ!死なすぅっ!!」
アレスの拳が俺の顔面に向かってくる。
はっきり言って、遅い。
ジャンプマンガなら3週間分延ばせるほどの遅さだ。
ぺちっ。
殴った音には聞こえないが、一応、アレスの拳が俺の頬を
突いている。
「ふっ…、この俺の拳にビビって動くこともできなかったか」
「………」
俺は黙ってアレスの腕をむんずと掴む。
「あれ?」
「ふんっ」
有無を言わさず、俺はその腕を逆にひねる。
「あぎゃあぁぁぁぁっ!!?痛い痛い痛い痛い痛いっ!!!」
「おぅおぅ、さっきまでの勢いはどうしたんだ?」
「あががががががががががぁぁぁっ!!いでででででででぇっ!!!」
そのままアレスに足払いをかけて転倒させ、
どこかで見た関節技を決める。
これ以上力を入れると、アレスの腕は折れるだろう。
「いやああぁぁぁぁぃいいい痛い痛い痛いぃっ!!」
「おぅ、俺を倒すんじゃなかったのか?」
「あげべむぼべなば@*&%$#仝¶∬∀〒っ!!!!!!!!!!」
声にならない声を叫んでいるアレス君。
どうせ折ってもすぐ復活するだろうから、
遠慮無く折ってみようかな。えいっ。
ボキボキッ☆
「はぁぅぁっ!!!??」
爽快な音を立て、アレス、KO負け。
「また、俺の無敗記録が更新されたな」
「ううぅ、お、おのれエクセルぅぅっ!!!」
「ふん。雑魚とは違うのだよ、雑魚とは」
俺が青空に向かって勝利ポーズを決めようとした時、
何か巨大な物が上空から影を作った。
「…あ?」
翼をはばたかせる音。それが次第に接近してきた。
「な…っ、なんだぁっ!!?」
やばい、踏まれる。
そう思う前に、俺は走り出してた。
そして、地響きがした。
「うぎょぉおぉっ……!!?」
ついでにアレスの悲鳴も聞こえたような気がしたが、
気のせいだろう。
「…くっ!!? げっ、あれは…!!」
ドラゴンだった。
緑色の鱗は鋼よりも硬く、鋭い牙は万物を砕くと言われている。
やや小柄ではあるが、小柄と言っても高さは俺の身長の5倍はある。
なんでこんなモンスターがここに…?
ドラゴンは、普段は人里離れた険しい山に住んでいる。
人間の住んでいる場所に現れることは滅多に無い。
こちらが危害を加えなければ、非常に大人しいモンスターだ。
だが、目の前に現れたドラゴンは、明らかに殺意を
剥き出しにしていた。
現に今、一人の友人を踏み殺し……。
「ま、まだ死んでねぇぇぇぇっ!!」
うおっ、生きてやがる。どういう身体をしてるんだ、アレスは。
もしかして、不死身?

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