ドラゴンは、死ぬまでずっと成長しつづける。
止まることはないそうだ。
つまり、身体の大きさで年齢がわかるのである。
今、俺の目の前に立ちふさがっているこのドラゴンは
おそらく、まだ子どもであろう。
それでも、俺の5倍ほどの高さはあるが。
授業で習ったが、人間で20歳ぐらいの年になると
身長は30mを越えるそうだ。
…と、悠長に解説などをしている場合ではなかった。
普段は大人しいドラゴンが、殺気剥き出しで俺を見ていた。
なぜなんだ。俺は何も悪いことはしてないぞ。
そりゃぁ、「担任はヅラ疑惑」情報を俺が流したって事もあったが、
悪いことはしていない。これっぽっちも。
もちろん、勝算は無いに等しい。
ってか、ドラゴンと戦った事なんて無いんだけど。
周囲の人々はあっという間に逃げ出し、気がついたら
俺とドラゴンと、今は亡きアレスが残っていた。
「だからっ!!死んでないわぁぁっ!!」
ドラゴンの足の下から声が聞こえるが、おそらく気のせいだろう。
「さて、どうしたもんかな…」
俺は呟きながら構える。
ここで大きな魔術を使えば街に被害がでる。
…とは言っても、効くかどうかは解らないし、
こいつが暴れ出したら同じ事だろうが。
ドラゴンは低い唸り声を出して俺を睨んでいる。
「ふむ、絶対絶命とはこの事だな」
いつの間に脱出したのか、アレスが俺の隣に立っていた。
例によって、腕を組んで誇らしく仁王立ち。
ちなみに、「絶対絶命」ではなく「絶体絶命」である。
「お前…。いや、もう突っ込まない事にするわ」
「で?どうするつもりだ」
「無論……、逃げる」
「ほぉ、この街を捨てて逃げるか。負け犬のお前には
お似合いの行動だな!はぁっはっは!」
いつ俺が負け犬になったよコラ。
「だったら、こうするのさ。ふんっ!!」
気合いと共に俺は右手に魔力を溜める。
それを見てドラゴンも、口に魔力を溜めはじめた。
「アレス君。君は良い友人だった…」
いきなり俺はアレスに微笑みかける。
「あ?いきなり何だエクセル…」
「だが、君の行動がいけないのだよ!ムカツクからな!」
俺は不意にアレスの腕を左手で掴む。
「え?」
「呪うなら、君の生まれの不幸を呪うのだな!」
そして、おもむろにドラゴンに投げつける!
「どぉおぉおぉおぉぉ!!!?なんでじゃぁぁぁああっ!!!」
「坊やだからさ……」
ドラゴンの視線が、空中のアレスに向く。
「よっしゃ、今だっ!!」
俺はこの隙にドラゴンの足元に向かって走る。
走りながら印を組む。
ドラゴンは、口で溜めた魔力の熱光線をアレスに直撃させた。
「うぎゃあぁああぁああぁぁぁ……!!!」
俺はドラゴンの足元まで接近した。
そして、ドラゴンの足に手を突いて、魔術を発動させる。
「とりあえず一緒に飛んどけ!テレポートっ!!!」
目映い光が俺とドラゴンを包んだ。
そして、真っ直ぐ南に向かって飛んでゆく。
テレポートを使う場合は、行き先の場所を強くはっきりと
イメージしなければ、正確に飛ぶことができない。
走りながらのイメージは、さすがに無理があった。
目的地の上空でテレポートの光は消え、
俺とドラゴンと、何故か巻き込まれたアレスは
空中に投げ出される形になってしまった。
「うおぉぁあああっ!!!???」
アレスの叫び声が耳障りに聞こえる。
すぐに俺は風の魔術を放つ。
風は俺の身体を包み、落下スピードを和らげた。
が、少し遅かったのか、結局顔から地面に着地してしまった。
「ぐはっ…」
地面が土で助かった…。
大した痛みも無く、俺はすぐに立ち上がった。
ドラゴンは翼をはばたかせて上手く着地したようだ。
アレスは……、まぁ、いつもの事のようにすぐに
復活するだろうから放っておく。
それにしても、ここはどこだろうか?
俺は、今朝から話題沸騰の街、アルハランブを
イメージしたのだが……。
「なっ…、何だイキナリ!!?」
背後から男の声がした。
振り返ると、同じ服を着た男たちが俺とドラゴンを
驚きながら見ていた。
この制服は見た事がある。たしか、サルヴァの国の軍人の制服だ。
そういえば、アルハランブを調査してるのが
サルヴァだと新聞に書いてあったから、
どうやらここはアルハランブに違いないようだ。
「…あ、そうだ、ドラゴンは…」
と、振り向くと熱光線が真正面からやってきていた。
「げっ!!?」
急いで飛び退く。
俺は間一髪で回避したが、その瞬間、後ろから絶叫が聞こえた。
どうやら調査隊の人が巻き添えを食らったようだ。
「あ…あが…がはぁ…」
黒焦げになってピクピクしている。
子どものドラゴンだったのが幸いだったか、生きているようだ。
「とりあえず、ここなら暴れても大丈夫だろうな」
「フム…。人間モ、ナカナカヤルデハナイカ」
いやに低い声が聞こえた。それも、ドラゴンの口から。
「このドラゴン…、喋ったぞ…!?」
「何者だ貴様ぁっ!!大人しく正体を明かせぇぃっ!!」
例によって復活したアレスが、ドラゴンに指をさして
仁王立ちしていた。
「フフ…、良イダロウ」
気味悪く笑ったと思ったら、不意にドラゴンの身体が光りはじめる。
すると、身体が徐々に縮みはじめた。
よく見ると、人の形に変形しているように見えた。
光が消えると、そいつの素顔が見えた。
紺色の肌に、長い爪や牙。背中には、悪魔のような翼。
凶悪な面をしたモンスターに見えた。
「いや…、もしかして、魔族か?」
「オ前タチ人間ハ、ソウ呼ンでいるな。何故解った?」
声も次第に自然に聞こえるようになった。
「いや、話の展開からして、そうかなと思って」
「……ま、まぁ良い」
コホンと咳をする魔族。まるっきり人間の仕草と同じに見える。
「ほぉ…、お主が魔族か」
後ろから老人の声がした。同じ調査隊の人間のようだ。
「ならば…、この街を消したのもお主か?」
「私ではないが、私と同じ魔族の者だ」
淡々と話す魔族。
「んで?目的は?」
俺は警戒しながら聞く。
一瞬でも気を抜いたら、やられる。
「うむ…、お前たちなら頼めるかもしれん…」
「頼める?」
魔族は、ゆっくりと俺に近づいてきた。
緊張が走る。逃げ出したいが、どうやら足が言うことを
聞いてくれないようだ。柄にもなく、俺の足が震える。
「安心しろ。攻撃をするつもりは無い」
安心しろと言われても、この状況で安心などできるわけがない。
「私の名はアーグァ。第四階級位に属する者だ。
わかりやすく言うと、魔界で4番目に偉い者だ」
なるほど、わかりやすい。中間管理職か。
「実は、魔界は最近、人口が多くなって住む場所が
狭くなってしまってな」
「はぁ…?」
「一部の魔族が人間界に移り住もうと、魔界を飛び出して
いってしまったのだ。
…我々魔族はプライドが高くてな、
中には人間を忌み嫌う者もいる。
この街を消滅させた者も、人間を非常に嫌っているのだろう」
「つまりアレか。その飛び出した魔族をアンタは捕まえようと
してるワケか」
「うむ、まぁそういう事だ」
「じゃぁ、さっきの熱光線での攻撃はなんだったんだ」
「む、せっかく人間に会えるのだ。挨拶はしておかんとな」
「挨拶だったのかよ……」
難儀な種族だな、魔族ってのは。
「…この街の事については、本当に申し訳ないと思っている。
この私の命をもって償いたいところだが、
まだ仕事が残っているのでな」
「まて、早めにそやつを捕まえねば、街は次々と
消されてゆくのではないか?」
急に老人が口を挟む。
そうだ。人間を消すのが目的でこの街を消したのなら、
下手すると人間全てを殺してしまうのでは…。
「かもしれぬ。だから、お前たち人間に協力してもらいたいのだ」
「協力って言ったって、どうやって?」
「うむ。犯人の名はグレゴリオスと言って、
先ほど私がやったように、変化をするのが得意な男だ」
「ほぉ」
「特に、人間に化ける事が得意で、見た目では判別がつかぬ。
だが、ヤツには弱点があってな」
人指し指をピッと立てて話を続けるアーグァ。
「ヤツは、『グ〜レちゃん☆』と呼ばれるのが苦手なのだ」
「……はぁ?」
なんだが、本当にギャグ路線を突っ走ってるぞ、この話。
「この名で呼ばれると寒気が走って鳥肌が立ち、
逃げ出すそうなのだ。そこで……」
「なんだ、全員で『グゥ〜レちゅわぁ〜ん(裏声)』と
言いまくれば良いのか?」
「…そこまで気持ち悪く言わなくても良いが、まぁそういう事だ」
「………」
ちょっと殺意を覚えた。
「では、よろしく頼む」
そう言ってルーグァは飛び去っていった。
「…本当かよ」
小さい声で呟く俺。
「…ふむ、とりあえず連絡を入れておくかの」
老人は部下の一人に何かを伝え、部下はすぐに走っていった。
「おいおい!あんな話を信じるのかよお前ら!!」
アレスは怒ったように叫んだ。
「ありゃデマだ!嘘っぱちに決まってるだろうっ!!
きっと俺たち人間を馬鹿にしてんだよ!」
珍しくもっともな意見だった。
「そんなお茶目な魔族がいたら見てみたいぞ!?」
「いや、そもそも『魔族』自体が伝説の存在だからさ、
信じてもいいんじゃねぇか?
ってか、さっきのアーグァってのも十分お茶目だったぞ」
「どこがだ、どこが!だいたいアイツ、
この俺様を踏みつけた上に熱光線も浴びせたんだぞ!?」
「ありゃ魔族風の挨拶なんだろ?俺も魔族風の挨拶をやるかなぁ。
こんにちわっ、アレス君っ!!」
ひゅごっ。
俺の回し蹴りがアレスのこめかみに炸裂した。
「のぉおぉぉぉぉぉおぉぉおぉっ!!!???」
吹っ飛んでいくアレス。
「ほぉれ、お前の好きなバイオレンス愛情表現だ」
キックボクシング風のステップをとる俺。
地面で頭を抱えてゴロゴロと悶えるアレス。
その二人の様子を呆れ顔で見ている老人。
太陽は時間と共に沈んでゆく……。
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