5/7 chmod
例えば、ここに一つのWebサイトがある。開設しているのは専門学校生のママハハ君(仮名)だ。お決まりのように借り物CGIでカウンタをつけ、さらに彼はWeb上でオープンな友人関係を広げたいと考え、掲示板を置き、チャットを作成する。そのハンドルネームから分かるように彼は対戦格闘もののゲームが大好きで、その趣味を反映して対戦格闘ゲームの攻略法などのコンテンツも作成した。はじめ彼の近しい友人達だけが書き込んでいた掲示板やチャットも、口コミやリンクなどによってどんどんと常連が増えていった。準内輪ではあったが、それなりに盛り上がってきたのである。
もちろん例えばの話しである。さて、そのような準内輪ネットが成立してから半年ほどが過ぎた。何回かOFF会もし、友人の輪も広がり、ママハハ君(仮名)にとっては良い事づくめであった。「ああ、いんたーねっとにほめぱげつくってよかったなぁ」
くどいようだがもちろん例えばの話である。さて、きっかけはある日のチャットであった。チャットの常連メンバーのうち2・3人が、アニメ系の濃い話しで盛り上がり始めたのである。それはママハハ君の直接の知り合いではなく、Web上で知り合った人達であった。そんな日々が何日か、何週間か続いた後で彼の近しい友人はこう漏らす。「最近、チャットに入りづらくなったし、入っても 分からん話しばっかりしておもしろくないなぁ」などと。それどころか、せっかくWeb上で得た気の合う友人(もちろん対義語として気の合わない友人とか、もっとはっきりいえば嫌いな人物とか目障りな人物とかもいるのであるが、何しろページの管理者としての立場がそれを公言する事を許さないのであった)も、だんだん居心地が悪そうにし始めたのである。
ここにいたってママハハ君(仮名)はチャットボードを二つに分ける事を決意する。しかしまさか「こっちは僕の友人用で、こっちはどうでも良い人用」なんておおっぴらに言える訳ではない。そこで彼は「ここは格闘ゲームのファンサイトなんだから、その話題とほかの話題を分ける事にします」なんていう良く分からないがもっともらしい理由をつけた。それでとりあずは目前の危機は沈静化したのであった。
しかし、それはパンドラの箱であった。
格闘ゲーム用のチャットで、一般話題用のチャットのメンバーの陰口をいうものが現れたのである。もちろんその逆もまたしかりで、いったん沈静化した火種はさらに大きくなってママハハ君(仮名)の前に立ちはだかったのだ。そのケンカは彼の友人関係を真っ二つに切り裂いた。もはや彼にとってインターネットはパラダイスではなかった。現実とまったく変わらない人間関係のシビアさが彼の脆弱な精神を切り裂く。
彼はとうとうたまらなくなった。「目の前の(自分が作り上げたにもかかわらず)人間関係から逃げだしたい。でもできれば得た(自分好みの)友人は失いたくないし、新しい(自分好みの)友人も作りたい。嫌な人には見られずに、何とか僕にとっての友人だけで楽しい場所を築けないだろうか?」
そして彼は裏ページと裏チャットを制作する。メンバー選択の基準は「彼と、彼の近しい友人が認めた者」であり、パスワードをかけてほかの者には一切見えないようにした。さらにもちろん表ページも何食わぬ顔で続ける。新しい友人を得ることはクローズドな場所では難しいからだ。
しかし、その裏チャットは思っていた以上に居心地が良く、彼はネットワークで過ごす時間の大半を裏チャットに費やすようになった。また、表でチャットしながら裏でもチャットして、表にやってきた嫌いな奴に話しを合わせながら裏で近しい友人と陰口を叩いたりもした。たまらなく楽しかった。
ある日、彼は学校の端末でいつもの様にチャットをしていた。一時間、二時間と楽しい時間が過ぎていく。そのうちトイレに行きたくなり、席を立つと、彼と今までオンラインで話していた友人が隣の教室にいるのを発見した。彼は驚かしてやろうとそっと近づく。そして、友人の背後にたった彼は、何気なく友人の端末のディスプレイを見て驚く。NetScapeが2つ。一つは彼のチャット、もう一つは知らないサイトのチャット。
大王:さいきんさぁ、ママハハ(仮名)の奴のサイト面白くないよな。
まき:裏チャットなんて、何様のつもりって感じよね。っていうかばか?(笑)
大王:知ってるか?奴裏チャットで陰口叩くんだぜ。趣味悪いの。
大王:あ、トイレ行きやがるって。案外オナってたりしてな。(笑)
まき:(笑)
彼は静かにもといた部屋に帰り、エディタをたちあげつつ、チャットに書き込む。
ママハハ:ただいま〜。すっきりした(^^;
大王:おう。おっきいの出た?(笑)
作るのだ作るのだ。裏チャットをもう一個。作るのだ作るのだ作るのだ。誰にも知られない、誰も不愉快な思いをしない、誰も傷つかないチャットを。会員制にしてパスワードをかけて、chmod u=rwx, go= だだだだだだだ。
話はこれで終わる。
最後にしつこく断っておくがこれはもちろん例えばの話である。実在の人物や団体には一切関係が無い。もちろん筆者にも関係が無い。関係はないが、世にゴマンといるママハハ君に言えるアドバイスがあるとしたならそれはこうである。
オープンな場を持ったなら、それを後から中途半端に閉じてはいけない。人のコミュニケーションをもてあそぶ者は、必ずコミュニケーションによって逆襲されるのだから。