プロローグ 〜夢の叶う苦しみ〜

1、 ドリームメーカー

2.夢の力

3・夢と願い

4・堕ちた夢

5.創られて夢

6.最後の夢

7.目覚め

エピローグ・夢の終わり






ドリームメーカー





プロローグ 〜夢の叶う苦しみ〜



プロローグ 〜夢の叶う苦しみ〜

自分は自分の夢をかなえる事が出来なかった。
自分は夢をかなえる力が欲しかった。
でも、夢をかなえる力の代償に自分の夢を失ってしまった。
だから……、
自分は夢をかなえる力を持ちながら最大の夢をかなえる事が出来ない。

でも、いまだに夢をかなえる力は持っている。
夢さえ見つけることが出来るならば、
どんな夢だろうと、この力を持ってすればかなえる事が出来る。
だから、今は夢を探している。

今、世界はつながりという網が沢山ある。
今、網にかかる夢を待つ。

さぁ、夢と呼べる願いを自分の元へ






1、 ドリームメーカー








「夢の館……? なんだか、いかにも怪しいHP。何々?
あなたの願いをお伝えください。
あなたの願いが夢と言えるものであれば、館の主、
ドリームメーカーがその夢をかなえます……? なにこれ?」

ネットサーフィンが趣味な私。
別に何か特別なものを見つけたいわけでは、ないんだけど……。

「うーん、
恋のおまじないとかが載ってるページが良かったんだけど……。
でも、まぁ、ここでもいいかなぁ?」

変なメールが返って来たとしても、フリーメールで送れば安心かな?
なんだか、慣れてしまえば結構こったHPと感じるだけで、
不気味さや怪しさを感じなくなってきたし。

「何々?お好きな名前と夢の内容?
うーん、別に本名や年齢とか、血液型と生年月日なんていう、
お決まりのものはいらないんだ?うーん、
ハンドルネームとか使ったことないんだよねぇ。
本名でも名前だけならいっかぁ〜」

特に、悩みもせず本名と願いを書き始める。

お好きなお名前:

氷見

願い:

「私には、思い人がいます。
その人と相思相愛にして欲しいとまでは言わないけれど、
この気持ちを上手く伝えたい、理解して欲しい。
もちろん、相思相愛のほうが嬉しいけど、
それは自分で何とかするものだと思う。
だから、せめて上手く伝えられるように、
きちんと理解されるようにお願いします。」

特に、長々と書かなかった。
いや、書こうと思えばいくらでもかけるのだけれども、
そんなの知らない人に書くのは恥ずかしい。
……、どちらかというと、送った後で後悔している。

それに、文字数制限であまり沢山書けない様になっていることを、
書き込みのページに書いてある。

「願いをかなえてくれる、なんて言う割には、こういうところは、
せこいような……」

いやいや、お願いしている身でそんな事言っちゃいけない。……、
もっとも、本当にこれで願いがかなうなって思っていないけど、
なんかこのHP、ちょっと信じたくなっちゃうんだよなぁ。

「……何でだろう?」

この日、私こと、山之内 氷見(ヤマノウチ ヒミ)
他にHPを見る気にもならず、そのまま寝る事となった。




翌日、いつもと同じように大学へ行き、同じように日々をすごす。
今も、いつもの時間、
いつもと同じローテーションで学食のメニューを変えながら食事をする。
今日は、おそば。なんでもない、本当につまらないくらいの日常。

……そのつもりだった。

(あぁ、何でだろう?どうしても、昨日のHPを思い出しちゃう。
相羽君に、上手く気持ちを伝えれるかなぁ……。)

相羽 元和(アイバ モトカズ)
同い年で、専攻している科目もサークルも一緒。
友人としては親しい方だけど、恋愛とはまだ遠い関係。何度となく、
気持ちを伝えようと思ったけれども上手く伝える自信がない……。

(はぁ、いくらおまじないや神頼みをして、
それが本当に効果を発揮する力があったとしても、
実際に行動に移さなければ、意味がないのよね…。)

そんな事を心の中で愚痴りながら、おそばをつつく。
本当に文字どうり、つつくだけ。

どうも、今日の氷見は落ち着かない。
親しくない人から見ればいつも通りの彼女に見えるだろう。
しかし、今日は確実にいつもどおりではない。

電車は一つ見送ってしまうし、駅は一つ乗り過ごす。
学食と一緒に買う飲み物は、
ワーストナンバーワンのゴマジュースを買ってしまった。

(そもそも、何なの……これ? 香ばしいのはいいとして、
ゴマを甘くしてるから、味と香があってない。
それに、なんだかやたらと、喉にまとわりつく。
ゴマドレッシングを飲んだらこんな感じかも。
なんだか凄く納得がいかない。その上、名前が良くない。)

「……ゴマんぞく」

「ん? 氷見、何独り言いってるんだ?」

「へ?」
気がつくと目の前に相羽君がいた。

「あ、いや……へ、変な名前の飲み物だなぁ〜と思って」
直ぐに反応できず、その上答えを正直に言ってしまう。

「ん? げっ、氷見。お前って勇気があるな……。
どうだ? 飲んでみた感想としては?」
好奇心旺盛といった、雰囲気が仕草だけではなく、
表情や言葉のからもあふれている。

「ん…。美味しくない…」
「そかそか。…ちなみに、もっと正直に言うと?」
「まずい」

彼とは、いつもこんな感じ。
私の気持ちなんか知らずに、とても親しげに話しかけてくる。
でも、一向に恋愛感情の「れ」の字も見えない。もしかして、
彼ってそういう感情ないのかしら?

「ところで氷見? 今日はどうしたんだ?」

「…え?」
一瞬反応できなかった。
何の話かよくわからない。

「…ったく。今日はやたらと気が抜けてるな。
正直、俺の話なんて全然聞いてなかったんじゃないか?」

「え?ごめん!…何の話?」

「ん?いや、何も話してなかった。試しただけ」

「…騙したわね」
彼のこと、好きだとは思うけどたまにものすごくむかつく…。

「まぁ、そうだけど。まぁ、氷見ってちょっとわかりにくいからな。
おかしいとは思ったけど、一応確認しないとな」

「…いつもは鈍感なくせに、こういう時だけめざといんだから」
「ん?」
「なんでもない」
どうも、人の事には敏感な彼。
でも、どうも自分自身の事になると全然鈍感。

「まぁ、何があったか知らないけれど。
困ったときは俺でもいいから相談してくれよ。
まぁ、頼りになるかは保障できないけど」

笑顔で。でも、真剣である事が目からなんとなくわかる。
彼が、他の人が気付かなくても気付いたように私も、
なんとなくだけれどもわかる。

なんて、言ったら自惚れかしら。

「ありがとう。でも、大丈夫よ。
昨日、ちょっと夜遅くまでパソコンをやっていたの。ただの寝不足よ」

「そっか。まぁ、なんにせよ無理するなよ」

そういって、綺麗に片付けられたトレイを持って席を立つ。

あれ?いつから彼は隣にいたんだろう?
……本当に今日はだめかも。

「はぁ、まずい……」
この日、二度とゴマジュースを買わないことを誓った。



異変に気付いたのは、
ネットサーフィンをしてから一時間も過ぎたあとのことだった。
いつも通り、特に当てもなくさまよっていると、
封筒のマークがついている。

直ぐには、なんだかわからなかった。
まぁ、普段はメールなんて使わないんだから仕方がないのよね。

新着メールを読んでみる。


件名:夢の館からの通知

内容:
内容拝見いたしました。あなたの願い、
夢と呼べるものであったので、ご協力させていただきます。
あなた様が、このメールを読み、
寝て起きた頃には効力が発揮しているはずです。
どんな方法でもかまわないので思いを伝えてください。
伝えた言葉がどれほどのものであっても必ずあなたの思い、
相手に伝わるはずです。言葉がもし足らなくても、
あなたの思いは、思いの強さだけ伝わります。
もしも、効力が発揮されない場合は、もう一度ご連絡をください。
それでは、良い夢を……。
館の主 ドリームメーカー







2.夢の力












今でも信じられない。そう、信じてはいなかった。
今まで思いを伝える事が出来なかったし、そんな勇気もなかった。
いまさら、そう簡単にできるものではない。

でも、どんな方法でも良い。
伝えた言葉がどれほどのものであっても必ずあなたの思い、
相手に伝わる。そういわれてしまうと、
何もしないのもどうかと思ってしまう。

だからつい、言ってしまった。
「私の気持ちを考えてくれないかな?
少しくらい気付いてくれると嬉しいんだけど」

自分で言うのもなんだけど、微妙な表現だったかもしれない。
それに、ずるいとも思う。伝わらない事を前提に言った。
なのに……。



私は、珍しくメールを打つ。
感謝のメールだ。もちろん理由は……。

題名:夢、叶いました。

内容:
今でもちょっと信じられないのですが、
彼と付き合うことになりました。実感がわかないです。
お願いしておいてなんですが、何も信じれれないような気分で。
でも、本当に感謝しています。ありがとうございました。


他にも、次からの予定。
今日の帰り道の出来事なんて、書いてしまった。
今、思い出そうとしてもはっきりとした内容は思い出せない。

良く考えてみたら、
こんな事をメールで送っても相手は困るだけなんじゃないだろうか?
もしかして、
私は凄く恥ずかしい事をしてしまったんじゃないだろうか?

「……考えるのは、やめよう」


……あれ?もう返事がきてる。







3・夢と願い










それから私は、ドリームメーカーと名乗る人と親しくなりました。
会うことは無かったけれど、
ちょっとした事を色々メールしては彼が返事をする毎日。
そう、最初の発見は彼の性別。
まぁ、なんとなく男性だとは思っていたけれど。

ドリームメーカーは、面白い。
いや、別に面白い事と話すというのとは違う。
別に笑える冗談を言うわけではないし、話題も多いわけじゃない。
というより、あまり彼から話しかけることは無い。
でも、なぜかどの時間にメールを入れても必ずと言っていいほど
直ぐに返事が返ってくる。
携帯のメールならそういう人も居るだろうけど、
間違いなくアドレスはパソコン専用だ。
まさか一日中パソコンの前にいて、
ずっと電源を入れているのだろうか?
でも、寝る時間は必要だろう。
でも、私が夜更かしした日にも返事はきた。
出先で、パソコンを使ったときでも、寝る前に送っても、
朝一番で送っても…。

一度、聞いてみたりもした。
「あなたって、いつ寝てるの?
いつも、返事が直ぐに返ってくるよね。
その上、内容は少なくないし。」

「メールが来てない時は寝ていますよ。そういう意味では、
凄く寝ている時もありますし、全然寝てない時もありますよ」

うーん、パソコンについたメールを携帯に転送してるのかしら?
メール来るたびに大音量で着信音が鳴っているのかも


結構彼と話しているのは楽しい。
なんか、ちょっと訳のわからないところが良かったりする。
普通と少し違う感じ。
ちょっと間の悪かったりずれたりするところが楽しい。

「明日、彼とデートするんだ。明日は晴れるといいなぁ。雨は嫌い」

「デートおめでとうございます。
しかし、晴れですか?雨は雨でいいと思いますよ?相合傘とか」

「あのねぇ・・・小学生じゃないんだから。
なんか、考えがふるくない?」


「そうなんですか? ・・・よくわからないですが。
では、明日は晴れにしておきますね」

まぁ、たいしたことは話してはいないんだけど。
でも、彼は本当に変わってる。「晴れにしておきますね」だって。
本当に晴れだといいな。明日、天気予報じゃ雨だし。

そんなことを思いながら夜を明かすと、
次の日は晴れていた。
もっともその時には、彼とのやり取りなんて忘れていたし、
昨日の天気予報も忘れていた。
自分にとっては晴れている事と、
デートのことで頭がいっぱいだったのだ。














4・堕ちた夢











最初はなんとも思わなかったけど、
なんだか、意識してしまうと何度も目についてしまった。

なんだか最近、相羽君が違う子と親しげ・・・。
別に、浮気じゃないのはわかっているんだけど…。
ただの幼馴染とはいえ、心情緩やかに・・・、とは行かないよ。




「・・・って、事があってね」
今日の話をドリームメーカーにメールする。
最近は愚痴も少なくない。
良くも悪くも何でもいえる相手になっている。

「そっかぁ。それじゃ心穏やかでは居れないんだね。
何か思ったりしない?」
その時は特に意識しなかったけど、
この時から本格的に始まったのかもしれない。
ドリームメーカーの悪夢が・・・。

「そうだね。やっぱり、こないで欲しいとか思うね。
風邪とか、ちょっと休んでくれないかなぁ? とか、思っちゃうね」
そして、この言葉から悪夢を一押ししてしまった…。





次の日、問題の彼女は風邪で休んだ。
彼女は今までずっと病気で休んだことが無い子なんだ。
そんなことを、彼から聞いたことがあったのをその時思い出した。

この時、何か心に引っかかった。本当はわかっているんだけど認めたくない。
いや、わからないままで居たい。
だって、そんなのあるわけないじゃない。そんなの…。

「氷見・・・?」

そう、そんなのあるわけない。大体どうやったって言うの。
そんなの人にどうこうできる事じゃないし・・・。

「おい、氷見? ・・・聞いてる?」

「え?・・・あ、ごめん。聞いてなかった」

それを聞いて苦笑する彼。
正直、いつから声をかけられたのかわからなかった。
今は、さっきのことがずっと頭をめぐっている。
「とにかく氷見、俺は見舞いに行くから」
ずっとずっと頭にかけめぐ・・・
「・・・え?」

「だから、俺は見舞いに行くよ。悪いけど、今日は一人で帰ってくれ」

「え…、うん。あ、でも…今日のデートは?」

「悪い、そんな気分じゃない。」

「え?…だって、ずっと前から…。それにお見舞いが終わったあとは」

「うるさいな!こんな時にそんな気分にならないんだよ!!!」
そして、彼はそそくさと行ってしまった。
この時にきっと、何かか大きく崩れ去ってしまったのかも。
これをきっかけに大きくすべてが壊れ始める。




ふらふらしながら家に帰る。
途中でお酒を珍しくも沢山飲んでしまった。
おいしくは無かったけど、中々止められず。
そんな状態でもきちんと酔えるんだなぁ。いいかも。
明日になったら忘れられるかな?

そんなことを考えている間に、家は目の前。
直ぐに何を考えていたかなんて忘れる。
玄関で靴を脱ぎ散らかし、上着を脱ぎ捨て、もうデロデロ。
喉が渇く。水を飲むか…。その前にパソコンに電源。
「立ち上がるまでの時間」がもったいないし。
グラスになみなみ、水を注ぐ。その場で少しこぼしながらも飲み干す。

「はぁ〜・・・」

ため息とも、つかないような息を吐き出す。
今日は疲れた。心が疲れた。体も疲れた。・・・もう、疲れた。
グラスにもう一杯。今度はなみなみいれず余裕を持っていれる。
そのグラスをナイトスタンドにおいて、ベッドへダイブ。
ベッドの柔らかさが、とても優しく感じる。
このまま横になっていれば、自分は癒されるんじゃないか?
この優しさがたまらなく愛しく感じる。
普段は何気ない事も優しく感じるほど、今は傷つき、
優しさに飢えているのだろうか?


ふと、目を覚ます。二、三時間寝てしまったようだ。
頭が痛い。ナイトスタンドにおいてあったグラスが目に付く。
喉の渇きを感じたので迷わず飲む。喉になまぬるい水が通る。
それでも、今は水がおいしい。
きっと、また別な時に同じ水を飲んだらきっと一口ですてるだろう。
渇きは水を美味しく感じさせる。

きっと、優しさもそうだろう。
そう、ふと思った。
今は、優しさが欲しい。せめて話し相手を・・・。
視線の端に電源の入りっぱなしなパソコンが入った。

後は、特に何も考えずにパソコンの前に座ってメールを書いた。
ドリームメーカーへ、愚痴を永遠と。
その時はなんとも思わなかったが、彼の返事は恐ろしく早かった。
内容は正確に愚痴を捉えた返事。それは的確に私の心を捉える。

「でも、それだけ思っていてもやっぱり彼のことがすきなんでしょ?」

と、ドリームメーカーが返す。

「前まではそうだけど、良くわかんない。
わからなくなった。あんなやついなくなったら迷わないのに」

愚痴をこぼす。

「いなくなったほうがいいの?」そう、問いかけるドリームメーカー。

「うーん、そうだね。いなくなったら悩まない。このことでどうしたら良いか困ったりしない。
きっとそれはそれで幸せだと思う。
でも、そんな事・・・うまく・・想像・・・・・できないけ・・・ど」
つぶやきながら、メールを打つ。誤字、脱字は多いものの、
話の流れや文の様子で辛うじてわかる者にはわかる内容。
送信を押すとともに、眠りに私は陥ってしまった。
私が押してしまったのは、
押してはいけないものだったとはまったく知らぬまま。
私が眠りに落ちていること、一通のメールが帰ってくる。

私は、そんなメールを気付く事も無く夢の中へ・・・。





5.創られて夢










次の日、私は家に閉じこもった。
どうしても出なきゃならないことも無かったし、
あったとしても今の自分は外に出る気には、なれなかった。
確立は少なくとも、彼と会う可能性を作りたくなかった。
いや、きっと違う。外で偶然に会うのは確かにいやだったが、
私に会いにきてくれることを本当は望んでいた。
しかし、その日はほとんど何も無かった。
家においてあったカップラーメンを食べて、
見もしないのにテレビをつけ、
空を眺め、パソコンには電源を入れず、かかってきた電話が有れば、
誰がかけた電話なのかを確認し、
目的の人物ではない場合は留守番電話になるのを待った。
(もっとも、目的の人物からは一回も電話などは無かったのだが)

こうして、今日という日は、ただひたすら耳に入り込むテレビの音と、
眺めていた空だけ、存在をうったえる時間だった。


変化が出たのは次の日からだった、
やたらと同じ人から電話が何度かかる。
全然、出る気はなかったのだけれど、あんまりなるのもうるさいし、
かといって電話線を抜くつもりも無かった。
この騒音を止めるために、特に何も考えずに電話を出た。
…その電話は、あまりにも衝撃が大きかった。

彼が・・・、行方不明になった。


結局、この日は電話の後、前日と同じようにすごす。
ただ、違うのは電話の内容が頭の中を繰り返し流れた。

もしかしたら、お前のところにいるかと思って
(私のところには来なかった…)

あいつ、そんなそぶりは見せなかったのに
(私にだって、そんなそぶりはなかった…)

一昨日の夜は、いつもどおり帰宅したらしいんだけど夜中に急に
いなくなってそれっきりらしい。
(夜中…)

それも、何も荷物がなくなってないらしいんだ。
靴から、財布から携帯までおいてあったらしい
(何ももたずに・・・?)

そこからは、何を聞いたか話したかは覚えてない。
気付いたら切れている電話の受話器を持って、
ずっと一つの考えが浮かんだ。


夜、恐る恐るパソコンの電源を入れる。
本当はもっと早い時間に入れるつもりだったのだが、
なぜかためらわれた。


自動で、電源が落ちていたパソコン。
あのドリームメーカーの事だから、
あのメールの返事が来ているはずだ。
それも、送って直ぐに…。
でも、まだ私はあのメールの返事を見ていない。

パソコンの立ち上がり時間。
いつもと変わらないはずの間も、何だか今日は長く感じる。
「……」

いつものように、
立ち上がりは飲み物でも取ってこようかと一瞬思い浮かんだものの、
次の瞬間にはもう意識がパソコンへ向く。
画面にデスクトップが浮かぶ、直ぐには動かない。
直ぐに、動かないのがわかっていてもどうしてもメールソフトを
一生懸命立ち上げる。
CPUがカリカリ音を立てる。その音がいやに耳につく。
(冷静でいないと…。それをいったら、こんな発想自体も、
冷静じゃない証拠かな?)

自問自答をする。そんなことをしているうちに、メールソフトが、
立ち上がり始める。土壇場で怖くなる…。
いや、ここまで来て今さら怖気づいてどうする…。
そう思っている間に、メールソフトが立ち上がりきる。

あった、やはりドリームメーカーからのメールがある。
メールを選択する必要もなく、
新着メールは数秒放置していると自動で開かれる。
別にその様に意識したわけではなく、ただ、
気後れしたままメールの内容が表示される。

「あなたの夢、聞きうけました。
その夢があなたにとって幸せである事を祈ります。
どうか、良い夢を・・・」





6.最後の夢









「どうしたんだい?何か思い出したのかい?」
優しい声、何度も夢に見た瞬間と、ずっと聞いていた声。

「ちょっと昔の事を思い出したの」
ちょっと、疲れた声でかえしてしまう。
気にかけてしまうんだろうな。

「おいおい、一気に老け込んでしまったのかい?
これからともに長いんだから、宜しく頼むよ?」
おどけた調子でかえすけど、
その中に含まれる優しさがきちんとわかる。
でも、そんなことを気付かない振りして

「酷い言い方ね。相手を間違えてしまったかしら?」
意地の悪い事を言ってしまう。先がわかる、きっと彼は…

「おいおい…。わるい、調子に乗りすぎた。」
そうやって簡単に落ち込む。だから私は。

「冗談よ?そんな調子でこの先大丈夫?
これからともに長いんだから、宜しく頼むよ?」
そうやって、彼の真似しておどけていう。

「……」
彼は黙って、両手を挙げ、
それこそ「降参です」とも言いそうなポーズをとる。

私は、今幸せです。そう、幸せなのです。
思い人と一緒になり、これから伴侶としてクラスのですから…。
あの恐ろしい夢は、きずあとを残したまま終わってしまったけれど……。


思い出す。あの夜を…。

ドリームメーカーのメールを見ながら呆然としたあの時。
別に長いメールではないのに、
何度も読み返した。何とか色々な見方をしようと。
どう受け取れば、現実につながるか。
いや、違う。他の現実を見つけるために。
自分が願ってしまった「夢の現実」以外を見つけるために…。

しばらくして、ドリームメーカーにメールを打つ。
「あれは貴女の仕業なの?」
たったそれだけのメール。
それは直ぐにかえってくる。

「あれといわれても困るのが素直な返事ですが…、
おそらく私がしたことだと思いますね」

目の前が暗くなる。
色々浮かんだ。そんな馬鹿なことを…。
そんなことできるはずもない。そう思いながらも、
嘘をついているとは思えなくなっている。

「どうやってそんなことを?それに何のためにそんなことを?」

「どちらも妙な質問ですね。
どうやってか、それは聞いても仕方ないのではないですか?
それに、本当に聞きたいことではないでしょう。
それと、何のためにですが、これが一番妙な質問ですね。
その質問に答えるためには、私は貴女に何でこのような夢を?
と、聞かねば成らないかもしれないですね」


目の前が眩んだ気がした。もう、自分は戻れないところまできてる。
「元に戻して」

「そうは言われましてもね。私は夢をかなえるだけであって、
どんな願いもかなえるわけではないんですよ。
貴女の願いは、夢というには現実的な思いが強すぎるんです。
私のことを、この力自体を現実的に思っていないながらも、
願ってしまうからこそあなたの願いは夢だったのでしょう。
現実として見つめてしまった貴女には、
夢としてかなえる資質がないのですよ」

私の混乱してきている頭では正確には理解できていなかったと思う、
ただただ叶わぬ願いなのだと言う事以外は。

「夢でないと、あなたはかなえてくれなの?」

「勘違いだけはしないで下さい?私はあなたのことが気に入っています。今まで願いをかなえてきても、
今までのような接し方をしてくれた人は貴女だけなので。
ただ、ドリームメーカーとしての力では夢でないと願いを
かなえられないのです。
もし、貴女の願いがドリームメーカーとしてではなく、
私個人としてできるものであるのならば、
私はその私個人としての力で願いをかなえてあげたいと思います」

「…ドリームメーカー、
もう二度とこのような事が無いようにしたいの。
わがままなんだと思うけど、
HPを閉鎖して二度とネット上で活動しないで欲しいの」

「……、わかりました。
約束します。貴女がそう願う限り私はもう、ネットにはありません」

結末としては好転せず。ただ止まったまま。
覚めない夢が覚めないまま終わりを告げた。





7.目覚め








そう、私は幸せなのだ。幸せでいないと…。
あの時の傷跡はまだ、残っている。

「どうしたんだい?まだ、物思いにふけっているのかい?」

「……、そうね。物思いにふけっているかな?
昔をどうしても思い出してしまうのよ。
幸せであれば幸せであるほど……ね」

彼はおどけた様子で「やれやれ」と、手の仕草で伝える

「君は昔からそうやって、難しい事を言う。これでも結構、
個人で出来る事は色々やってこれたつもりなんだけどな」

「そうね。私みたいな我侭に良く尽くしてくれてると思うわ」
ちょっとした含み笑い、でも直ぐにそれを消して…

「でも、叶わないのもあるのよ。別にあなたが悪いわけではないわ。
私が考えているのは叶わない願いだもの。そう、夢ね」
そう、寂しくつぶやく私。

「でも、夢はかなえるものさ。教えてくれないかい?
叶えられないかも知れないけど、
聞かせてくれたっていいんじゃないか?」

「そうね。頑固なあなたは聞かないと満足できないものね。
でも、残酷な夢よ?何せ、幸せな今より、
昔に戻りたいという夢だから」

「昔……?」


「そう、昔よ。あのサイトに出会う頃、夢の館に入ってしまう前に…」

「夢の館…か」

「そう、夢の話よ。ごめんね。普通の願いじゃないのよ。
夢だもの。普通はそう叶わない話なのよ。ごめんね」
おどけて言う、今さらこんな事を言っても仕方ない。

「でも、普通の願いではない。夢だから叶う事もある」

「……?」

「昔と違って、今は夢と呼べるものですね。
貴女との夢と現実。楽しかったですよ」
何時もおどけた彼が、真面目な顔と真面目な口調。
このしゃべり方は……。

「あなた……!?」

「良い夢を……、いや、目覚めですし、良い目覚めを……、かな?」
ドリームメーカーとして、
そして普段の彼としての混ざり合った口調と表情。
それが最後の彼の顔だった。










エピローグ・夢の終わり











あれ?
私はいつ寝てしまったんだろう?

気付いたらパソコンを前にして、
椅子に座ったまま机に手を組んで寝ていた。
少々頭が痛むし、手もしびれる。体の間接も少し痛い。
パソコンを前にして寝るものじゃないなぁ。
そういえば、パソコンで何をしていたんだっけなぁ?

ジジジ……、機械の音、ディスプレイも小さな音を立ててい。
ディスプレイには、HPのサイトが映っている。

「夢の館……? なんだか、いかにも怪しいHP。何々?」


夢の館。
当館は閉鎖いたしました。
長い長い夢の夜は終わりとなりました。
あなたにすばらしい朝が来る事を、お祈りいたします。
どうか、良い夢の目覚めを…。

ドリームメーカー