でーもんず・げのむ

第三話『二匹のリュウ』(Double Dragon)


 事務室では、異形の鬼達に囲まれている柳泉の姿があった。

 その様子を冷静にルイネは見ていた。 彼女の容姿は名前の通り日本人と異なり、人種で言うと白人に見える。 青い瞳と眩しい長い金髪、長身ながらスレンダーな身体つきでいて豊かなバストが印象的であったが、白衣の前のボタンを締めていた為によくは解らないが、衣服の膨らみで その大きさが窺えた。


 鬼の一人が、鋭く尖った爪を柳泉に目掛けて降り下ろした。 彼は避けようともせず、その胸元に深々と突き刺さり、辺りを血の色に染めた。



 柳泉に一撃を加えた鬼の背後から


「何処を狙っているんだぁ?」

 聞き覚えのあるトボケタ声が鬼に語り掛けた。 その声の主は柳泉だった。


 鬼達は慌てて突き刺さった腕の先を見た。 そこには柳泉の姿は無く、代わりに激痛に顔を歪めた仲間の鬼が、力なく立ち尽くしていた。突き刺さった腕を抜くと仲間の鬼は床に、その血を吸わせる様に倒れた。


 壁を背にした柳泉の側にいた鬼が奇声を上げ、彼に襲い掛かってきた。
 鬼は折り曲げた膝を自分の顔近くまで上げ、全体重を掛けた足の裏を柳泉の腹目掛け突き出した。 その一撃も確かに柳泉を捉えて見えたが、轟音を上げコンクリの壁に空しく食い込むに留まった。


「無駄だ、お前らは俺の残像を相手にしているから当たりはしない!
今度は、こっちの番だな!」

 そう言うと近くにいた鬼の懐に素早く飛び込み、右の拳を腹に叩き込んだ。 その撃ち方は、単純に左斜からの右ストレートにも見えたが、左爪先を90度以上外側に捻るのに始まり左膝と続き、次に軸足の爪先その次に右膝を内側に捻り、その両足の捻りを腰に伝え左回転させ、その力の動きを途切れる事なく上半身に伝えながら、上半身ににも左回転の捻りを加え、最後に右腕、右拳を内側に捻り相手にねじ込んだ。 中国拳法の『捻りの発頚』に酷似していた。

 拳の接触部分に物凄い光と衝撃波がほとばしり、相手の鬼は後ろに吹き飛んだ。 飛ばされた鬼は、壁に叩き付けられ床に崩れ倒れた。 その姿は元の人間に戻っていた。


「キサマッ! 何をしたぁっ!」

 激しい憎悪の感情を剥き出しにしてルイネは柳泉に問い質した。


「『鬼殺しの業』を使ったまでさ。 どんなに屈強の "嵬" でも、"氣"に "念" を込められて撃たれたら、一溜りも無いさ。
俺に鬼は通用しないぜ・・」

 そう彼は静かに答えたが、眼は廻りを警戒していた。



 ルイネは先程の表情とは、うって変わり少し挑戦的な笑みを浮かべながら

「貴方、"嵬"を知っているの。 でも、これならどうかしら?」

 そう言うと白衣から『小笛』を取り出して、それを吹き、続け様に何やら唱え始めた。



『イアイア ハストゥール クフヤスク ブルクトン ブグトラグルン ブルクトン アイアイ ハストゥール』



「おいおいっ! 『悪魔』を呼ぶつもりかぁ? 少しヤバイかな・・。」

 柳泉は鬼の攻撃を避けながら、少しニヤケながら呟いたが,少しも困った素振りは無い。 むしろ、危険を愉しむかの様にも見えた。



 やがて、天井の角の空間が歪み闇が広がった。 闇の中から不気味な複数の大型の鳥が羽ばたく音と奇怪な鳴き声が聞こえた。



 隣の応接室では、扉の処にソファーやらテーブルなどが事務室側から開かない様に積み上げられている。
 そのバリケードを背にマサキと涼子が隣合わせに床に座っていた。
 マサキは膝を抱えて顔を欝向きながら何やら繰り返し呟いていた。

「何でオレが、こんな目に合わなけりゃいけないんだ・・・何でオレが、こんな目に・・・・・」

 そう言いながら彼は震えていた。



 何処からともなく、精霊が姿を現した。 ルリは先程の【真夜中の来訪者】の只ならぬ空気を感じ取り隠れていたが、マサキのこの様子を心配して姿を見せていた。 彼の顔の側に浮かびながら、心配そうに覗きこんでいた。



 涼子はそんなマサキを自分の方に引き込み、自分の心音を聞かせるかの様に優しく抱き締めた。


「大丈夫ですわ。 私には貴方を守って差し上げられるだけの力なら、少しぐらいありますわ。」

彼女は、そう言いながら脅える子供を落ち着かせる様に、彼の髪を撫でた。


 マサキは不思議と冷静さを取り戻していく自分に気が付き、もしも自分に母がいるとしたら、こんな人なのかもしれないと考えていた。




 マサキの束の間の平穏な時間をぶち壊すかのごとく、突然背後から不快な声が聞こえた。


『いい様ですな眞樹! 女に慰めて貰っているとは無様だな!』


 マサキを罵る主は、先程の長南 清隆であった。
 清隆は、突然出来た闇の中からゆっくりと、その姿を現した。



 涼子は爬虫類を思い浮かべる男に向かって

「あらあら、入り口はあちらですわよ。 常識で物を考えて下さい!」

 などとトボケタ事を真顔で言ってのけた。


「これは失礼しましたな。 入り口には、そちらの恐いお兄さんが頑張っていらっしゃるので、仕方無しにこちらからお邪魔させて頂く事にしました。」

 こちらも負けじとばかり、トボケタ事を言っているが、目が笑っていない。 そればかりか少しずつだが、間合いを詰めて来ている。




 マサキは自分を『眞樹』と呼ぶこの人物を知らない。 だが、危険な人物という事だけは理解できる。 それなのに自分は震える事しか出来ない情けなさに苛立ったが、今は涼子に全てを託すしかない。


 自虐の念に捕らわれている彼を庇う様に涼子は前に出た。

 彼女は事務服の懐に手を入れ、4枚のカードを取り出した。
 カードの大きさは、丁度タロットカードぐらいだったが、絵柄がそれとは異なっていた。 絵柄は彼女が描いたらしいカワイイ動物のイラストだった。


 彼女は左手にカードを持ち、右手の人指し指で "☆"の形をカードに向けて描き、呪文を唱えた。


『 "神"、"宿"、"翔"ッ!』


 カードは地面に向け光を放ち、そこから異形なる者達が姿を現した。 涼子は、異形の者達に命令を下した。

「酉神(ユウシン)と申神(モウシン)は敵を攻めなさい!
 丑神(チュシン)と午神(ゴシン)は私達を守りなさい!」

 異形の者達は彼女の言うがままに素早く行動を開始した。


 その姿は、その名の通り "鳥"、"猿"、"牛"、"馬"の半人半獣の姿で、神話に出て来る神々に酷似していた。
 それぞれ、ガルーダ(迦楼羅)、ハヌマーン、牛頭、馬頭に似ていた。

異形の者達は各々が鎧を着ており、手に武器を持っている。



「陰陽師ですか・・・。 しかも "式神"として、12神将を使役する処をみると『古陰陽』の直系の者ですな。 『シンダラ』『マゴラ』『バザラ』『インダラ』を同時に呼ぶとは、かなりの術者ですな。」

 酉神が空中から刃で切りかかり、地上からは申神が棒で突きを放つが、清隆の前方で何かの力により弾かれて、彼には攻撃が届かなかった。


「まぁ!、かなり御詳しい様ですが、それは薬師如来の方の12神将の名前ですわ・・・」

 少し呆れ顔をしながらも、牛頭と馬頭に自分達を守らせながらマサキを連れ退路の方にニジリ寄る。



 清隆は涼子の指摘を気にする様子も見せず、マサキの方にチラッと視線を向けて、何かに気が付いた様子だったが、すぐにケゲンな表情を浮かべた。

 そして、誰にも聞こえない様に呟いた。

「あれは、『眞樹』では無く『マサキ』ではないか!
・・・『万城目』めっ!・・・・計ったな!」


 視線を涼子の方に戻して、何事もなかったかの様に

「まともにやり合っても、時間の無駄ですな。
今日の処は、これでオイトマさせて頂きますが、近いうちに『マサキ』を引取りに御伺い致します。 では、御機嫌ようぅ!」

 清隆は前面に "式神"の攻撃を引き付けて、後ろの方にまた、あの闇を作り出し、彼はそこに消えていった。





「あらあら、散らかしぱなしで帰るとは失礼な人ですわね。」

 そう言いながらカードを"式神"の方に向け、戻る様に命令をした。
 "式神"達は涼子に一礼をするとカードに吸い込まれる様に姿を消した。




 涼子の活躍の中、マサキは終止、恐怖に震えている事しか出来ない自分の情けなさを悔やんでいた。 自分にも力が欲しい、何者にも負けない絶対的な力が欲しい。 そう考えながらも今もまた震えている。


 戦いのさなか、マサキにしがみ着いて離れなかったルリは、事務室での激闘中の柳泉の事が心配になり、ドアを見つめていた。

 そんなルリを見兼ねて涼子は

「所長なら大丈夫ですわ。 あの人は必ず笑顔で戻って来ますわ。」

 絶対的な自信で語る涼子を見てマサキは、その姿に心を奪われていた。



『オレは力が欲しい。』





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