〜究極のヘタレSS〜
卑しんぼ
(登場人物)
・病岡士郎
東西南北新聞文化部に勤めるダメ社員。一見ヘタレなオタク。
実は孤高の天才オタク芸術家「怪原憂山」の息子であり、本人も優れたオタクセンスを有する。
ギャルゲーに熱中するあまり、病気の母をないがしろにした父に反発。ゲームのセーブデータを破壊して勘当された過去を持つ。
「究極のヒロイン」の実質主導者。
・怪原憂山
日本が誇る孤高の天才オタク芸術家。
特にフィギュア方面に素晴らしい実績を残し、「美少女フィギアを芸術に変えた男」という名声は、国内はおろか海外にまで轟いている。
自他共に厳しく、そのため気難しいと誤解を受けることが多いが、広い人間性から多くの人に慕われているという一面も。
「至高のヒロイン」を担当し、息子の士郎と激しい勝負を繰り広げる。
・粟田ゆう子
ダサめのスーツと八方美人な性格が魅力の美人記者。
最初は一般人気取りであったが、「究極のヒロイン」担当になってからは士郎に影響され、徐々に潜在的なオタセンスを開花させている。
(前回までのあらすじ)
文化部の夕刊若者向け“媚”企画としてはじまった「究極のヒロイン」。
担当者として選ばれた東西新聞一のダメオタ社員――病岡士郎。
もちまえのうんちくで、次々と難題を解決してゆくのだっ!
第23話 『巨乳病の恐怖』(前編)
東京、赤坂――
一般人なら暖簾をくぐることすら難しい、大臣ご用達の高級料亭。
惜しげもなくテーブルに料理を広げて、歓談を繰り広げていた。
「いやぁ、怪原先生のお力で、こんどの接待もうまくいきましたよ」
「…うむ」
禿げ上がった頭を何度も上げ下げして、憂山に礼を述べる初老の男。
日本有数の大企業、磐台山コーポレーション取締役、山頼厨氏である。
「先方の好みを写真だけで見抜くとは…」
「センセイの眼力には我々一同、感服いたしました」
取引相手の社長令嬢(4歳)の誕生日プレゼントを選ぶため、憂山に相談。
憂山は少ない情報から、見事令嬢の好みを見抜き、指導したのであった。
「しかし、『ハナちゃんタコ殴り人形』を喜ぶとは…」
「てっきりカービィぬいぐるみを欲しがると思っていたのですがな」
憂山は誇るでもなく、静かな口調で語り始めた。
「…あの年頃の女児は、母性本能より破壊衝動のほうが強いものだ」
「なるほど」
「そういえば、うちの娘もよくリカちゃん人形を壊してましたなぁ」
かっぷくのよい体躯をふるわせながら、しきりに感心のため息をくりかえす。
憂山は満足そうに、杯を干した。
「そうそう。…これ、山崎」
「あ、はい」
部下は山頼厨氏にうながされると、弾かれるように部屋の隅へ向った。
「センセイ、実はお礼と申しましては、その…なんなのですが…」
「うむ?」
部下は丁重に風呂しき包みを、憂山へ差し出した。
「これは?」
「はい、今回の件でセンセイには大変お世話になりましたので」
つまらないものですがと、ゆっくりと包みをひらく。
中は薄い本が一冊。
「人気同人作家(ここは伏せさせて下さい…笑)氏に連絡をとりまして、描いてもらいました」
「いやー、苦労しましたよー」
それは、売れっ子の某氏に大金を握らせ描かせた同人誌であった。
傍目にも相当に手間をかけた製本処理がされているのが、光沢から分かる。
「…む」
憂山の表情が曇る。
視線の先には、表紙に描かれた紫髪の少女の姿があった。
「世界に一冊しかない品です」
「いかがですかな」
豊満な肉体美を恥ずかしげに晒す、その少女。
タイトルは『ぷるるん ぷるん ふぁみふぁみふぁぁぁ〜ん♪』と書かれている。
「…これは、おんぷた…」
ゴホン!と咳払いを挟むと、ゆっくりした口調で尋ねた。
「瀬川おんぷ嬢か」
「そうです、おジャ魔女シリーズ真のヒロインと称される、瀬川おんぷを扱った本です」
「ふむ…これは“おジャ魔女どれみ#”の後期バージョン…川村作監がベースだな」
憂山は本を手に取ると、厳しい視線のまま、眼前に近づける。
その様子を見て、山頼厨たちは憂山が本に関心を持ったと感じたらしく、自慢げにその経緯を説明しはじめた。
「それを…」
憂山は話も聞かずに、本をめくる。
おんぷ嬢の痴態が繰り広げられるたび、憂山の表情が険しくなっていった。
「いやー、苦労しましたよ。こちらは言い値でかまわんと言っているのに、なぜか『嫌だ』と拒まれて」
「わが社がギャラクシーなんとかとかいうアニメ番組のスポンサーになることで、なんとか了承してもらいましたがな」
その震える肩を歓喜のせいと捉えたのか、山頼厨たちは意を得たとばかりに大はしゃぎ。
「どうです、お気にめしましたか」
「もちろん、続編も準備させる予定でおりますが…」
掌をこすり合わせ、こびへつらう二人。
そして、新たな商談を持ち出そうと憂山に歩み寄ってゆく。だが…
「痴れ者がーっ!」
まさに一喝。
こめかみに血管を浮き上がらせ、仁王立ちの憂山
その迫力に、ふたりは震え上がった。
「こんなものを描かせよって。芸術を知らぬバカ者どもと、これ以上付き合ってられん」
叩きつけられた同人誌のバシっという音が、ふすまを震えさせる。
その迫力におされ、山頼厨と部下は反論に口を開くことすらできなかった。
ようやく気をとりなおしたときには、すでに遅く。廊下をドスドスと乱暴に歩く憂山の後ろ姿を見守るしかなかった…。
(つづく)
次回予告!
粟田さん「怪原先生、なぜ怒ったのかしら」
病岡「簡単なことさ。アイツは人の親切より自分の趣味を優先させる。自分の狭い価値基準でしか物事を判断できないのさ」
粟田さん「どうにかして機嫌を取り戻してもらう方法はないかしら…」
病岡「あるにはあるが。これには実は、重大な問題がふくまれているんだ。日本の将来に暗雲を投げかけるような」
粟田さん「それって…」
次回 〜究極のヘタレSS〜 卑しんぼ
『巨乳病の恐怖』(後編) ご期待ください
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