『妄想猫の魔法』
(1話)
某月某日
今日もやっぱり雨が降る。
「そーてぃみ〜ひんぎてぃよ〜♪」
*(「矢切の渡し」沖縄方言バージョン<笑>『連れて〜逃げてよ〜♪』)
冠次郎ばりの美声を響かせ私は行く。
道行く通行人の視線など気にならない。
ご近所の評判なんてとっくに地に落ちたも同然だったから。
「そーてぃみーみんそーりぃ〜♪」
隣家の主婦がさっと道を開けてくれる。
連れている子供を自分の左側に隠すように引張りこみながら。
「がはは!憎まれっ子世にはばかるぜぇ」
むろん憎まれてるだけで、はばかるどころか世間からダメ人間呼ばわりされてるだけだろうが、このさい無視無視。
しかし、とかく自分らしく生きて行くのは難しい。
人間様として生まれた以上は仕方ないかもしれないが、エロ本裸で持ち歩いてたくらいで
『いやよねぇ…これだから最近の若い男は』
『ホント、近所にあんな変態がいたら子供達を自由に遊ばせるわけにもいきませんもの』
…と噂され、買い物に行くたんびに冷たい視線を浴びせられるのは正直辛い。
てめぇの金を自由に使ってなにが悪いんだろう…
そして、
「みゃ〜お」
私はそいつと出会った。
東京砂漠にも雨が降る。でも、潤いすら与えてくれないらしい。
そいつの声は弱々しかった。
「みゃ〜お」
都会のオアシス。錆びた自動販売機の前に一匹の子猫がいた。
捨て猫だ。
一応ダンボールに雑巾のようなボロ切れが入ってる。餞別代りなのだろうか。
痩せた体に、光を失いかけた瞳。
なによりも弱々しいその泣き声。
「…………」
暫く思案する。
そして決意。
「…夏とはいえ、こんなとこじゃ辛いだろ」
箱ごと抱えてやると、予想してた以上に軽い。
雨に濡れないように傘を傾けながら、大通りに向かって歩み出す。
「ついでだしな」
…それがコイツとの出会いだった。
*
「ここでいいかな」
ドサッ
『獣医学科』と書かれた看板の前にダンボールを投げ捨てる。
「うみゃ!」
もちろん猫ごと。
「…ここの連中ならお前を存分に活用してくれるはずだ」
「ふみゃあ」
「安心しろ。お前の犠牲は無駄にはならん。同族の命を救う礎にとなるなら本望だろう?」
「みゃー」
「…そうか。立派にお勤めを果たしておいで。じゃあな」
「みゃー!みゃー!」
猫の鳴き声が悲しみを帯びているように聞こえたのは気のせいだろうか?
「…………」
たぶん気のせいだ。
*
それから数週間が過ぎた。
晴れてはいたけど、心は雨だ。
「ううっ…うぐぅ…ひっく」
涙が…溢れて止まらない。
悲しかった。
永遠なんてないんだって…知ってたはずなのに…
どうしてこんなに悲しいんだろう。
『琴稲妻引退』
あの薄い髪が
もはや大銀杏とさえ呼べないあの髪がもう拝めないなんて
悲しくて
辛くて
でも…
ドンドンドン
「…………」
ドンドンドン
玄関の扉を叩く音。
インターホンがあるのに何故?
ドンドンドン
うるさい…
いいや…今日はもう誰とも会いたくないんだ。
ドンドンドン
「…………」
ドンドンドン
「…………」
ドンドンドン
「…う〜…」
しつこいヤローだ。
新聞の勧誘だったら水ぶっ掛けて追い返してやろう。
だけど…そこにいたのは。
がちゃ
「早く開けてよねー!もう!」
…………
誰だ…コイツ?
そこには藤原紀香もどきのブサイクな女がいた。
「おじゃましまーす。…うわぁ、狭い部屋ー!しかもキタナイしクサーイ」
…………
言っとくけど私にはこんな知り合いはいないし、縁もゆかりも全然ない。
「エロ本ばっかりー!しかも顔だけ張り替えされてるー!キャハハ!変態だぁ」
…………
なんだこの○チガイ女は。
そういや先輩が『この近所に、クスリでおかしくなった連中を収容している秘密の施設があるらしい』とか言ってたしなぁ…まさかそこから。
「やっぱ噂通りの変態なんだねぇ。うんうん、噂って当てになるよ」
押し入れの中の秘蔵のコレクションを漁りながら感心したように呟くブサイク。
…………
隠してあったそれの居場所を一発で突き止めた。
おかしい。あれの存在は一部の友人連中しか知らないはずなのに…
その馴れ馴れしい態度といい、やっぱり私の知っている人間なのだろうか?
「…あの…お前誰だ?」
キョトンとしてる。
……ありゃ?やっぱり私がド忘れしてるだけなのだろうか?
だとしたらスゲェ失礼な問いだよな
…しかし
「…うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」
イヤ〜んな笑い声。
こんなムカツク笑い方をする女…初めて見た。
「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃうひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」
やっぱり知らないぞ…こんなヤツ。
一度会えば絶対忘れられないだろう…それくらい不快な笑いだった。
「ひゃひゃひゃひゃ…あっ、ごめんねー。名前まだ言ってなかったもんね」
「“まだ”って…初対面じゃないのか?」
するとブサイクはニヤリと笑って
「アタシの名前は紀香。今日からあんたの恋人よ」
<続く>
作品解説!
うひゃひゃひゃひゃ(笑)
から丸さんの傑作SS『幻想猫の魔法』に影響を受けまくって、なんとなく書いてしまいました(笑)
先の展開なんてちっとも考えてないけど、結構面白そうだなぁ(大笑)
ちなみに2話を書くかどうかは反響を見て決めます。
さーて、今度こそ「千代・大海物語」だぞ(^^)
*このSSをから丸さんに捧げます(^^)向こうは迷惑かもしれませんが。
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