この町で、何が起こっているのか
いや、この国で、何が起こっているのか。



・・・人が死んでいる。



人は毎日のように死んでいるだろう。
何千人と、世界中で死んでいるだろう。
紛争や戦争、自殺、殺人、病死、寿命。
いくらでもある。


でも・・・例えば。

この国で。
この日本という国で。
人が死んでいる。

病死。
衰弱死ともいう。

毎日・・・日本の何処かで数人が昏睡に陥り、死んでゆく。
目覚めた者はいない。
原因は分からない。

ただ・・・共通しているのは・・・それが、学校で起こるという事だけ。

教師も、学生も関係なく。
小学生から定年間近の教員まで。



そして、また・・・。





・・・・・。








CPOK 〜Corpse Party Of Kanon







      first:prologue






・・・・・。





悲しいことが多い。
親しくないが、知人が死んだ事。


その人は、川澄舞といった。
その人は 美坂栞といった。
佐祐理さんについては、つい昨日亡くなったと聞いたばかりだ・・。

この一ヶ月で、俺の知り合いは何人も死んだ。
作為的なものを感じなくも無かった。

家から突然いなくなって以来、沢渡真琴を見掛けない。
あのお別れの言葉以来、月宮あゆから何の連絡も無い。


結局・・・俺にとっては何の変りも無かったのだけれども。


今は二月。





・・・・・。





「しかし、なんだな・・・」
「言うな、相沢・・・オレだって辛い。」

日も暮れた。
冬の日が暮れるのが早いからって、いくらなんでも、もう・・・

げっ、八時。

「・・・何でこんな時間まで俺達は学校にいるんだろうな。」
「あたしが一から説明してあげましょうか?」
「やめろ、香里・・・・聞きたくも無い」


手っ取り早く説明しよう。


二月。
受験シーズン。
何故か季節はずれの文化祭。
準備、何もしてない。
クラスメート逃走。
香里、学級委員。
北川、文化祭委員。
名雪、香里の手伝い・・・やっぱりまだ心配なんだろう・・妹の栞が死んでから、そう何日も経ってるわけじゃないからな・・・
俺、名雪に脅迫された。


「と、言うわけだ。」
「・・何が?」
「気にするな、名雪。」

せっせと文化祭の出し物か何かのために器材やらをセッティングしながら。

「それより、俺は早い所帰って飯が食いたい・・・」
「わたし、眠い・・・・」
「オレは見たいテレビが・・・」
「・・・ふぅ・・」


集中力も何も無いし・・・。
遅々として進まないわけだ。





・・・・・。





さらに一時間が過ぎて。


「こんな話・・・・知ってる・・?」
「ちょうどこんな雨の日・・・」
「一人の女生徒が渡り廊下から、転落して・・・・」
「頭がぱっくり割れて死んじゃったんだってさ・・・・・」
「どうなったとおもう?」
「どうなったって・・・そりゃ火葬にしてお葬式して・・・・」
「違うんだよ・・・祐一・・・」
「その子ね・・・むくり、と起き上がって」
「頭蓋骨がひしゃげて、中から脳漿を撒き散らしながら」
「『もっともっと』っていいながら起き上がって、どこかに行っちゃったんだって・・・・」

ひぃっ、と誰かが小さな悲鳴をあげる。

「そ、それで・・・どうなったんだ・・・?」
「う〜ん・・・中身はそのままだったし、やっぱり死亡扱いになったんじゃないかなあ・・・・」
「死亡扱いになったって・・名雪お前・・・」
「わたしも良く知らないよ・・・聞いた話だから・・」





『・・・・・ちょうど、こんな雪の日だったわ・・・・・』





「な・・何だ今の・・・北川、お前か?」
「オレは何も言ってないぞ・・・」
「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
「うわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
「何だっ!?」
「・・・・。」
「・・・。」


「落ち着いた?」
「ああ・・・しかし、怖いぞ・・・誰の声だったんだ・・?」
「空耳じゃないの?」


蝋燭の灯りの向こう側。
香里だけが冷めた眼で。

香里はこんなに冷たい眼をしている奴だっただろうか・・思いだせない。


「でも、確かに聞こえたぞ・・・」
「聞こえたくもなるわよ・・・怪談なんかやってればね。」
「何を言う。蝋燭を発見したら怪談をやるのがお約束だろう。」
「そうだぞ。相沢のいう通りだ。美坂。」
「・・・まあ、別にいいけどね。」

・・そのときの香里の表情はことさら、凍り付いて見えた。

「それよりも・・・もうすぐ十時になるぜ・・・」
「・・・諦めて帰るか?」

ちなみに、準備の作業は進行度30%といった所だ。
はっきりいって冗談じゃない。
このままのペースだと朝日を拝むまでがんばる事になるだろう。

「そういうわけにもいかないよ・・く〜」
「ねるなっ」

名雪も限界近いらしい・・・まあ、いつもはとっくに寝ている時間だからな・・

「香里、電気付けてくれ。」

返事のかわりに、香里が立ち上がる。
足音。

カチッという、スイッチの音。


そして電気が・・・・






付かなかった。





・・・・・。





あたしは電気のスイッチを何回も入れ直す。
でも、カチッカチッという音が空しく響くだけで電気は点かなかった。

「はぁっ・・停電か? こりゃ本気で・・・」

北川君が何かを言いかけた時に。




『・・・・・助けて』




女性の・・・声。

・・・・・教室が凍り付いたような気がした。


「わ、悪い冗談は止めろよ、美坂?」

声が上擦っている。
・・今のは絶対にあたしではない。


名雪でもない。


「・・・・何だよ、今の」

ぽつり、と。

「本気で、幽霊とか・・・?」


幽霊。
そんなものがいるなら・・・会いたい。

栞に。

あたしは今、悔恨の念だけで生きている。
・・・自分をだました罰に。
死ぬ事では生ぬるくて。


会って、一言でも謝れるなら。




あたしが自分の世界に入りかけたその時に。


・・・聞こえた。





・・・・・。





ポロン・・



「・・・ピアノ、だよな?」



旋律が耳に届く。



「こんな時間に・・・まだ誰か残ってるのか?」



『冬の花火』という曲だったと思う。


まさか、舞・・・じゃないよな・・・
舞は、昨日死んだのだから。
・・・そう、聞いたのだから。



「何処から聞こえるんだ・・?」



月の灯りと、教室内に入り込む雪明かりを頼りに、教室のドアから廊下に。
音は、もう少し大きくなった。


「・・・音楽室の方から聞こえるみたいね。」


香里が教室の前のドアから出てくる。


「こりゃ、本格的に怪談だな・・・」
「うにゅ・・」


ついで、北川と名雪が。
・・・名雪は寝ているようだが。


「相沢君、どうする? 行ってみる? 音楽し・・・」
「美坂、危ねぇっ!!」


ドンッ!!





・・・・・。





美坂香里の瞳は。


ぐしゃっ。


その、黒い影に北川潤が飲み込まれるのを、見た。


そして、その自分すらも―――





・・・・・。





「っなっ・・・!?」


考える間もなく、相沢祐一も。





・・・・・。





そして、水瀬名雪も。










・・・・・夜の学校に静寂が戻った。






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