気がつくとそこにいた。


ここは、別の場所。



自分には眠る事すら許されないのか―――――――――





・・・・・。









CPOK 〜Corpse Party Of Kanon






      fourth:last words









・・・・・。





「・・・あ・・なんだよ・・・これ・・・作り物じゃ、ないよな・・・?」
「ゆ、祐一っ・・・!!」

名雪は俺にしがみついてくる。
当のオレは、腰が抜けて逃げ出す事も出来ない。声を上げる事すら―――


ぼうっ・・・・


「・・・・!!!!!!!!」
「・・・・いやぁぁぁっ!!」


蒼い人影が――――


ゆらり・・・と。

「ちっ、近づくなっ!!」
『・・怖がらなくてもいいよ・・・・』


胸の中の名雪がその声にビクン、と反応する。


「・・・え?」


その、予想外の人間の声に。


『怖がらなくてもいいよ・・・・』
「な、なんだ・・・?」





・・・・・。





「こっちは・・・その、何だな・・・」
「特別教室が集まってるみたいね。」

理科室、理科準備室、それに教員室。
廊下に大穴が空いていて、行くことは出来ないが、向こう側には保健室が見える。

オレと美坂は今、二階にいる・・と思う。
ここに、階段を上ってきた事と、教員室を三階以降に作る学校はほとんど無いだろうとの見解からだ。
それが、いかにも戦前に造ったようなこの古い校舎ともなればなおさらだ。

「・・・ん?」

理科室の廊下の前に置いてあるバケツに目がいく。
中には、透明な刺激臭のする液体がなみなみと溜まっている。

「なんだこれ・・・」

ぱしっ、と。
液体に指を突っ込んでみようとしたオレの手を、美坂がはたく。

「な、なんだ?」
「・・・指が無くなってもいいのなら。」

「へっ?」

それ以上何も言わずに、廊下をすたすたと歩いてゆく美坂。

「お、おい、なんだよ!?」
「指が無くなってもいいならバケツに手を突っ込めばいいじゃない?」
「・・・何?」

立ち止まって、背後に視線をやる美坂。


「あれは濃硫酸よ・・・・しかも化学実験で使うような生易しい物じゃないわ・・・」
「良く見ただけで分かるな・・・・」


「・・・別に。」





・・・・・。





「お、お前、何者だよ・・・いや、ここは何処なんだ!?」

声が震える。
上擦る。
冷静でないのが自分でも分かる。
いや・・・この状況で冷静な奴がいたら、気が狂ってるか余程肝がすわってるかのどちらかだろう・・・

だが、その蒼い人影は気にした様子も無かった。


『・・・何処でもないさ・・・君たちももう、この世界の人間じゃないんだから・・・』


と、答えを返してくる。


「ど、どういうことだよ?」
「・・・・。」


名雪も、怯えてはいるが『彼』の言葉に耳を傾けているようだ・・・。


『ここは君たちの・・・そして僕の住んでいた世界と、死者の世界の狭間に作られた異世界なんだ・・』
「・・・そんな・・・馬鹿な事があるかよ・・」
「・・・・作られた?」

ぽつり、と名雪が呟く。

『そう・・・あの忌々しい女が作り上げた幻の世界・・・時の狭間・・。』
「女・・・?」

女。
女の、声。
あの時に、聞いた。


『・・・・・ちょうど、こんな雪の日だったわ・・・・・』
『・・・・・助けて』


『君たちも、声を聞いたはずだ・・・そして、ここに連れてこられたんだろう・・・』
「そいつは・・一体・・・」
『僕は・・・彼女に連れてこられて、そしてここで殺された。』


あくまで淡々と、自分の死を語る・・・。
言葉に、詰まる。


「・・・何のためにそんな事をしてるの・・・?」
『・・・わからない・・・でも、何かを探しているらしい・・』

『彼』は申し分けなさそうに首を振った・・・ように見えた。

『そのために・・・彼女は生者を、学校にいた者を無差別にこの世界に引きずり込んでいるらしい・・』


最近多発している、毎日・・・日本の何処かで数人が昏睡に陥り、死んでゆく事件・・・。
それは・・・まさか・・・。
それに、佐祐理さんや舞の死も・・・?


「ここから・・脱出する方法は?」

・・一番の、核心。

『・・・それも、わからない・・』
「・・そんな・・」

ぼうっ・・と『彼』の体が揺らぐ。

『だが・・・・必ずここから脱出する方法はあるはずだ・・・希望を捨ててはいけない・・・』
「希望が・・・」

・・・あるのか?

『・・・僕のように・・・ならないでくれ・・・』

ふっ、と。
電球のフィラメントが消えるように突然。


『彼』は、消えた。


「祐一・・それ・・・?」


『彼』が立っていた所に残された、一枚の紙切れ。
それは・・・写真・・・。

桜の咲き乱れる学校の、校門の前で。
初々しい感じの三人。学生服を着て。
二人の女と一人の男が三人で仲良く写っている写真。
優しそうな顔立ちの少年。


「これが・・・今の『彼』か・・・。」


何気なく、写真を裏返してみる。

『中崎中学校入学式に、茜、詩子と』


「・・・・。」
「・・・・・わたしたちも・・助からないのかな・・祐一っ・・」


ゆっくりと立ち上がる。
まだ、恐怖は残っている。
でも。


名雪を抱きしめて。
そして、『彼』だったものに向かって言い放つ。


「きっと・・見つけてみせるさ・・・・出口を・・・」



その写真をポケットに入れて。



オレと名雪は、その教室を後にした。




『僕らのように・・・・ならないでくれ・・・』




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