それはいくつもの偶然の積み重なった物語。



三人の少女の畏れと、悔恨と―――――



それと・・・・・誤解。





・・・・・。









CPOK 〜Corpse Party Of Kanon




     tenth :refuge









・・・・・。





・・足を洗浄して、消毒、軟膏を塗って包帯を巻く。
もしかしたら、手順が間違ってるかもしれないし、もっと有効な処置があるかもしれないが、俺達に出来るのはそれくらいだった。


「あぅ〜っ・・・」


・・・何で非難がましい目で見られてるんだろうなぁ・・・俺。


「で、どうしてお前がこんな所にいるんだ?」
「知らないわよぅ・・・」


・・まぁ、聞かないでも分かっているんだが。
真琴も俺達と同じようにここに連れてこられたんだろう。


「気が付いたらこの建物の中にいたんだから」
「はぁ・・・心強くないよなぁ・・・」

溜め息を付くしかない。
余計な荷物を背負ってしまったような気がする・・でも、見捨てるわけにもいかなかったからな・・。

「もう立てるか?」
「・・・まだ痛い」


包帯の白が痛々しい、真琴の足。
靴が溶けてなくなっていたくらいだから、俺達がもう少し遅かったらどうなっていた事か・・・。

「う〜ん・・・あの緑色のゼリーみたいなのって、何なのかな?」
「そうだ、真琴何か知ってるか?」
「知らないわよぅ・・・あそこを歩いてたら突然じわーって、ふきだしてきてぶわーって・・」
「・・・うーん、あの奥って何があるんだ? 向こうから来たんだろ?」
「・・教えない。」
「へ?」

・・・思い当たる。

「お前・・・まだ俺の事仇だとかなんだとか言うのか・・? そんな場合じゃないだろうが・・」
「・・・。」

ぷいっとそっぽを向いてしまう。
ここらへん、思いっきりガキの仕種だ。





・・・・・。





で、真琴をなだめすかしてようやくわかった事。

渡り廊下の向こうにある校舎。
二階建ての造りになっていて、一階、二階ともに普通の教室らしい。

ただ、真琴が言うには一階の奥から離れになっている感じで、もう一つ建物があるようだ。
大きなグランドピアノがあるって言ってたから、おそらく音楽室だろう。

しかし・・・


「・・・まいったな・・・」


万事休すだ。
これでどこにも出口が無い事が判明しちまった。


「ここから帰れないのかな・・・」
「・・・・いや。」


名雪はふとすると弱気になる。
俺は。


「ここに俺達を引きずり込んだ張本人を捜し出せば、どうにかなるかもしれない。」


突破口はこれしかなかった。
ただ、どこかにそいつがいて、そいつは俺達に何かを探させたいらしい事だけはわかっている。


「とりあえず、分かる所から探していくしかないさ・・・何か手がかりがあるかもしれない・・・」





・・・・・





「お姉ちゃんっ!!」


思わず、足が止まる。


振り向くと、栞が居た。
雪のように白い肌は最後に見た時のそのままに。

・・・ストール。
栞のお気に入りのストール。
あたしがプレゼントしたものだ。
えらく気に入っててどんな時でも肌身放さなかった・・・。


・・・あの時・・死の瞬間も。


・・・死。
栞は死んだ。


・・・・・じゃあ、目の前にいるのは何?



「もう、大丈夫だから・・・・」



・・・嫌。

・・・嫌・・・!



「嫌ぁぁぁぁぁぁ!!」
「!!」


手近にあったバケツを振りかぶる。
液体をぶちまける。

見開かれる目。


ざばばああぁぁぁぁぁぁぁっ!!
しゅぅぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅううぅ!!



「きゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」



振り向かずに駆け抜ける。
その幻を振り切って。





・・・・・。





走った。
走った。
走り続けた。

何かから逃げるために。

そして・・・今はどこかの教室にいる・・・
途中で階段をのぼった記憶があるから多分三階だろう・・・

「・・・・。」

壁に手を付いて、息を落ち着かせながら。


・・・何やってるのよ。
・・・何?


整理が付かない。
何が起きたのかわからない。
ただ・・・いろんな事がいっぺんに起こったような気がする。


「・・・・北川君。」


見た。
彼の死を。

・・欠片も現実感を帯びていない死を。


「・・・何なの・・?」


次に、人が現れた。
倉田佐祐理と・・・・


「・・・そんな事があるはずが無いわ・・」


死人が生き返るはずが無い。
死人が生き返るはずが無い。

そんなものは奇跡だ。
奇跡なんて起こらない。

起こらないから奇跡っていうのよ?


・・じゃあ、今あたしの置かれている状況は。
・・これが奇跡じゃないといえるのか。


「・・・もうわからないわよ・・・」


つーっ・・・


「・・・?」


手元を見た。
気が付いた。


赤い、筋。


「・・・血?」


血が流れてきていた。
血の線を目でたどる。

黒板。
血は黒板から流れ出ていた。


『2−9』


血文字。
血は乾いていない。


『今、書かれた』


辺りを見回しても人影も何も無い。
生き物も何も無い。
殺風景に木の古めかしい机と椅子が並んでいるだけだ。


「だ・・誰・・?」


返事はなかった。

廊下の方に見えるプレートには『2−8』と刻んである。
つまり・・となりの教室。





・・・・・。





教室を出る。

何の音もない。
静寂。

歩くたびに床が軋んで悲鳴を上げるくらいか。


「・・・・。」


2−9。
扉は開け放たれている。
中には、他の教室と変わらない、整然と並んだ木の机。
誰かがいるようには見えない。


「・・・・。」


罠かもしれない。
さっきの人体模型みたいな。


「・・・・。」


気が付いたら足を踏み出している。
近づいてみても教室の中に不審な物があるようには思えない。
人の気配もない。


ギィィッ
床が軋む。


また一歩。


何も起こらない。


ギィィッ


また一歩。


ギィィッ


また一歩。


ギィィッ


一歩。


・・・足を、教室の中に踏み入れた。
一瞬・・・光が見えた。





カツン





「・・・・!?」


足元を見た。



・・・・・・・・・見慣れたリノリウムの床だった。



辺りを見回した。



・・見慣れた机、椅子、黒板『日直・水瀬、相沢』。



・・文化祭の作業途中のそのままの。



・・夜の闇に覆われた教室。
教室の時計は午前三時をさしている。
腕時計は10時。


・・・何で?
・・・わからない。



でも。



ただひとつ。





「・・・かえって・・・来れたわよ・・・・北川君・・・」





何故か、泣いていた。





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