ボクに力が無いから――――――
ボクに出来る事なんてこの程度だから―――――
だから・・・・
・・・・・。
CPOK 〜Corpse Party Of Kanon
11th:memory
・・・・・。
雪は雨に変わっていた。
窓を雨粒が叩く音だけが響く。
「・・・・何だったの・・」
小一時間が過ぎても。
ここに立っているのはあたしだけだった。
廊下に出た時に、何かが分かったような気がした。
倒れている3人。
北川君、相沢君、名雪。
3人が倒れていた。
・・・北川君は死んでいた。
外傷も何もなく。
苦しんだ様子もなく。
ただ、眠るように。冷たくて。
・・・・ただただ涙が零れた。
3人は今、教室の中に引っ張ってきてある。
相沢君と名雪のからだはまだ脈打っていた。
呼吸もしている。
・・・ただ、起きる気配はなかった。
・・・救急車を呼ぶ気は起こらない。
呼んだらは二度と帰ってこないような気がした。
・・北川君が。
・・・・・。
目を開けると異界が広がっていた。
内蔵のようにグロテスクで脈打つ壁。
自分の縛めも、その壁そのもの。
生暖かい、脈打つ壁に両腕を肩までと、体の大部分を包み込まれている。
身じろぎする事すら出来ない。
パチパチと視界がはぜる。
脳細胞にまで侵食されているせいだ。
・・・せめて、剣があれば・・・右手だけでも動けば・・・
右手に力を入れ・・・たように感じない。
肩から上以外の体が動く感覚がない。
その代わりのもの・・・・幻肢痛。
失った体の痛み。
絶え間ない苦痛。
「・・・・・。」
よじろうにも身はよじれない。
死ぬ事も出来ない。
戦いの末路―――――
・・・・・。
・・静かな音色が聞こえる。
ピアノの音。
悪夢が始まる前にも聞いた。
あたしは音楽室に来た。
元凶が、このピアノの音にあるのだとしたら、それは。
がらがらと音を立てて戸を開く。
少女が居た。
カチューシャをした少女。
羽根付きのリュックを背負った少女。
うっすらと青白い光を放っている。
人間でない事は容易に想像がついた。
「ここで、何をしているのかしら?」
「待っているんだよ」
ピアノの旋律。
『雨』という曲にかわる。
「美坂香里さん、あなたを・・・」
「・・・説明はしてくれるんでしょうね?」
「・・・ボクは」
ぐらぐらっ、と足元が震えた。
・・・・・。
・・・その夜、とある雪の降る街を中規模の地震が襲った。
・・・ある人は、奇妙な幻を見たという。
・・・高校の建っている所にもう一つ、重なって木造の学校が見えたと・・
・・・・・。
「ボクにできるのはこれくらいだから・・・」
揺れがおさまる。
世界が変わっていた。
さっきまで見ていた、古ぼけた木造校舎の一教室。
「・・・何なの?」
「ボクは・・・捕まってるんだよ」
ふわり、と青白い姿が宙に浮かぶ。
「でも・・・香里さんを元の世界に連れ帰す事くらいはできる・・・」
「・・・じゃあ、どうしていないのよ・・相沢君や名雪は・・」
「・・・駄目なんだよ・・・」
「・・・どうして?」
「祐一君たちは『彼女』に魅入られてるから・・・
香里さんは、悪霊達を一時的とはいえ、振り切ったからボクのつたない力でも元の世界に連れ戻す事が出来たんだよ・・・」
・・・振り切った。悪霊を。
・・・大いなる犠牲とともに。
「『彼女』って何なの・・・!? 誰だか知らないけど、そいつのせいで北川君は・・・!!」
「ボクの知ってる事も、少ないけれど・・・」
・・・・・。
それはどれだけ昔のどれだけ遠い場所で起きたのだろう。
ただ、こんな雪の降る日だった事だけは分かっている。
ある少女が、渡り廊下から転落して、亡くなった。
ごく希にある事故だった。
ただ、それは。
その事実は闇に葬られたのだ。
・・・・・。
雪。雪が降っている。
わたしはこんな雪の日に、この渡り廊下で誰もいないグラウンドを眺めているのが好きだった。
・・・雪。
「なにやってるんだ? こんなところで」
・・・先生。
「グラウンドを見てたんです・・・」
わたしはクラスでも、目立たない、友達も少ない人間だった。
そんなわたしにもよく声をかけてくれるこの担任の先生に、わたしは少なからず好感を覚えた。
雑談。
他愛のない時間。
そして、いつしか最終下校時刻を知らせるチャイムが鳴る。
「・・もう帰らなきゃ・・・それじゃせんせ・・・!?」
彼は、強い力で思いっきりわたしの手を掴んだ。
抵抗の声を上げる間もなく。
わたしは先生にキスをされていた。
正直、どきっとした。
わたしはうっとりして先生の顔をみつめた。
でも・・・
「・・・・えっ?」
「・・・いいじゃねえか・・」
「え?」
醜く歪んだ悪魔の顔。
「俺はお前がいつも、雪の日はここで一人でぼぅっとしてるのを知ってたんだよ・・
いいじゃねえか・・お前も俺が好きなんだろ?」
心の中の彼のイメージが音を立てて崩れた。
「な、なにいってるんですかッ!?」
「やらせろって・・言ってるんだよ」
「・・・!!」
にじり寄ってくる。
「ひ、人を呼ぶわよっ!?」
「こんな時間に誰がいるってんだよ・・・お前だってキスはよさそうにしてたじゃねえかよ・・」
「み、みんなに言うわよッ!? そうしたら、あんたなんかこの学校にいられなくなるんだからっ・・」
「友達もろくにいねえ、根暗のお前の言う事を誰が信じるって言うんだ!?
ひゃあはははは!!」
・・・!!
「ち、近づかないでよっ・・・!?」
「な、何の真似だ?」
「そ、それ以上近づいたら・・・死んでやるからッ!」
「・・・・。」
手すりをよじ登る。
「な、なぁ、先生悪かった・・・謝るから・・・もう冗談はよせ・・なぁ?」
「な・・何よ!?」
「おい・・・」
手を。
「ち、近づかないでって・・・・いってるでしょッ!?」
「いい加減にしろっ!」
わたしの手を掴もうと。
つるっ・・
「あ・・・・」
「!!!」
「きゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・!!!!」
ぐしゃっ。
・・・・・。
「それが・・・彼女?」
「その、死んだ彼女の怨念・・・亡霊だよ・・・・でも、これだけだったら、彼女はここまで強い力をつける事もなかったんだよ・・」
「問題は・・・もう少し後に起こったんだよ・・・」