雪が赤く染まったように



血だまりの中に



血・・・





・・・・・。








CPOK 〜Corpse Party Of Kanon




     19th:blood






・・・・・。





「・・・あなたは・・」
『・・・やっぱり、負けちゃったよ・・・』


香里が、駆け寄る。


『ボク・・・できるだけの事をやって見ようと思ったんだ・・・』


腕、足。
全てをもぎ取られた芋虫のような格好。
血だまりは実体の無い彼女には関係の無いものだろうが・・・、存在の衰えがそういった幻影を作り出している。


「あゆ・・あゆなのか・・?」
『ゆう・・・いち・・くん・・・』


口の端からも血の筋が走っている。


『ボクが・・・もうちょっと頑張っていれば名雪さんは・・・どうにか真琴さんは助けられたんだけど・・・駄目だったよ・・』
「喋るな・・・今、手当てを・・・・っ!?」


すっ、と手が透過する。
祐一が、あゆの体に触ろうとして、触れなかった。


「・・・お前」
『これ・・・おぼえてる・・?』


祐一の手の中に、ぽふっと柔らかいものが落ちてくる。
人形。天使の。


『まだ、願い事叶うかな?』
「・・・・俺に叶えられる事なら・・・!」



『祐一君たちが、無事に帰れますように・・・』
「・・・・。」



『ボク・・・みんなを帰してあげられなくなっちゃったから・・・』



――――できるとは思わないけど。



『行っちゃダメって言っても行くしかないんだけど・・・』
「あゆ・・・・!」



『・・・約束だよ・・・死なないで、ね』


(消える前に・・・ボクの・・・・最後の力を・・・!)


強く、抱きしめようとした手が。


ふっ・・・・


無情に通り過ぎる。


あゆから、全ての表情が消え失せる。
あゆから、全ての色が消え失せる。
あゆから、生の感覚が―――――



天使の羽根が、空間を包み込んだ。
粉雪のような、あゆの欠片たち。
欠片が、静かに祐一たちに降りそそいだ。



「・・・・・・・行こうぜ」



「また一つ・・・理由が出来ちまった・・・」





・・・・・。





通路を奥へ、奥へと進んで。
やがてたどり着いた場所。


中。


「なんだよ・・・これ・・・」
「気持ち悪いです・・・」


どくどくと脈打つ壁、床。
何かの生命の体内のような、そんな場所。


「何・・・耐えられないわ・・・この臭い」
「あぅ〜っ・・・べちゃべちゃいってる・・・」


歩くたびに何かの粘着質の体液がまとわりつく。


「見えたぞ・・・」
「あれが・・・?」


最後に、広い空間に出る。
赤い床、赤い壁。生物の臓物のようなその場所に。
静かに安置してある。


「『彼女』、だ・・・」


頭部に致命的な損傷を負った身体。
もはや魂の感じられないそれに。

近づいて死体を、抱き起こす。
思ったよりも軽い。

「こいつを葬ってやればいいのか・・・」
「やっぱり、火葬して、お墓をたてて、ですかね?」
「何にしろ、この遺体を動かさなきゃな・・・」


「・・・な・・・」


うめき声。部屋の奥から。


「な・・・ん・で・・・」


絶え絶えに。


「・・・舞!!!」


内臓の壁に取り込まれるように。
頭部以外の身体を半ば埋め込まれた状態で。


川澄舞。


「ま・・・舞ーーーーーーーーーーーーっ!!!」


佐祐理が駆け出す。

「ダメだ!!」

その手を、必死で掴む祐一。
折れている方の手で。

「くぅ・・・いつつ・・」
「放してくださいっ・・・舞が・・・!」

佐祐理はその手を必死で振り解こうとする。
祐一の額に脂汗が浮かぶ。

「倉田先輩・・・駄目です・・・!」
「・・・もう、『いる』わ。殺されるわよ!」


『・・・触らないでよ・・・私に』


『彼女』が俺たちの前に立ちはだかった。
未だあゆの姿をとどめている彼女が。


『触らないでよ・・・!!』


祐一は『彼女』の死体を抱きかかえる。
彼女が、ヒステリックに叫ぶ。


『私に触らないでよぉ! 触るなぁ!  ううっ・・・・・・・・ 私が・・・ここでどれだけ・・・寂しい思いをしてきたかも・・・・・・知らないくせに・・・・・・。何も知らないくせに・・・・・・・私を成仏させられる訳・・・ないじゃない・・・。』


赤い、涙。
文字どおり血の涙を流す彼女を見て。


全てが。


「・・・・・・・知ってる。」
「・・佐祐理たちはあなたの事故の事を知っています・・あゆさんが教えてくれたんです・・・だから・・」
「私も、あなたの痛みや悲しみを少しはわかってあげられるつもりです・・・。」
「あたしも・・・あたしたちだって一番大事なものを失ったんだから・・・。」



名雪を。
北川を。


・・・あるいは、失った経験。


自分の居場所を。
倉田一弥という存在を。
姉を。


「でも、これ以上、名雪や・・その北川みたいな・・悲しい犠牲を増やす必要なんて・・・」
『・・・わたしは・・・』
「祐一・・・佐祐理・・・」


舞が小さく声を発した。

『わたし・・・はっ・・・!』
「・・・わかってくれたんならいいのよ・・・」
「でも、祐一さんは・・・」

下を向いている祐一。
心底、戸惑って。

「ああ・・・何だかもう・・・俺・・・お前を殺したいほどだったんだけど・・・」

がりがりと頭をかきむしる。

「お前はもっと悲しくて・・・それで・・・・・・ああ、なんつったらいいか・・・」
『・・・。』

「・・・あなたがわかってくれればいいのよ・・・・名雪や北川君も復讐なんて望んでいないはずだから・・」
『・・・わたし・・・・』
『・・・・・。』
『ご・・・・・ごめ・・・ごめん・・・なさい・・・!』
「・・・・。」
『・・・もう・・とっくに終わっていた事だったのに・・・・わたし・・・・!』
「・・・お前・・・行くのか・・・・? ・・・自分の帰る場所に・・」
『・・・それがわたしに許されるのなら・・・』
「・・・・行ったら・・・・・」
「北川君と名雪に・・・・ちゃんと謝るのよ・・・」
『はい・・・・』
「それじゃあ・・・・さよならだ・・・・。」


『・・・・行かせるものか』


「な、何・・・!?」
「・・まさか・・・!」
「祐一さん・・・!」
「みんな・・・俺から離れるな!!」
「祐一っ・・・何かが・・・集まってくるよぉっ・・・・!!!」


こおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!


『行かせるものか・・・・・!!!』
『俺たちをこんな目に合わせておきながら・・・・』
『自分だけ成仏だとぉ!?』
『ふざけるなァッ!!!』
『貴様等も死ねェッ!!』



学校中の。
赤黒い、『悪霊』が。
彼女に。



『っ・・・・ああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!』

瘴気が、空間にみちる。
黒い空気が。
魔性の気が。


『!!体が・・・・・勝手に・・・・・・!にっ、逃げてぇ!・・・・早く・・・!逃げ・・・・・・・ないと・・・・・・・・こっ、殺し・・・殺して・・・うぐぐ・・・・・・コロシテ・・・・・・や・・・・・・・・・・逃しはしない!お前達も・・・・・我らの仲間に・・・・してやる・・・・・・死ねェ!!』

がぎりっ


「・・・ぁああ・・・・・!!!」
「何・・・これ・・・!!」
「あ・・・頭が・・・おかしい・・・おかしいよ・・・・!!」
「割れ・・・割れちゃうっ・・・!!!」
「くっ・・・こ、このままじゃ・・・・・・・・・!!」


『潰れろ・・・・!!』


「お・・おあああああああっ・・・!!!」


・・・ぐしゃあっ





20話へ…
SSの間に戻る