みんな、サンタさんにプレゼント貰ったことあるかなー?

…え? 靴下の中に?

ふふふ、バーカ。そりゃ、キミんとこの親父が夜中にこっそり入れたんじゃよ。

世界にはたくさんの子供がいるんだ。サンタのおじさんが一晩でどれくらい配れると思う?

そう。せいぜい30人。サンタさんからほんとうにプレゼントを貰えるような運のいい子供なんて、そうそういないわい。

うーん? ワシがだれかって?

そう、察しがいいのう、キミ。ワシこそ世界中の子供たちのアイドル、正真正銘本家本元のサンタクロース本舗じゃ。

今年も、クリスマスイブがやってきたのう。

最近は世間も荒れて、ワシからプレゼントを貰うに値するような、純粋なお子様はなかなかおらんでのう。

牧場の少女カトリのような、よい子も少なくなったものじゃ。

さて、愚痴はこのくらいにして、そろそろプレゼントを配りに行こうかのう。

なんといっても、今年はとっておきのよい子の願いが届いたからのう。

ほほ、喜ぶ顔が楽しみじゃ。いくぞ、トナ子! ――「はい、ご主人様♪」




 
       いこクリスマ





『さんたさん え 』

観鈴は拙い字で、広告チラシの裏にサンタ宛のメッセジを埋めている。
この世に生を受けて以来、なにひとつ楽しいクリスマス経験を持たない彼女。

「なんやぁ、なんであるある大辞典やってへんのやっ」

台所から聞こえる義理の母、晴子の怒鳴り声。
クリスマス特番でお気に入りの番組をつぶされた恨み節を、酒瓶かかえて大声で続ける。

『いい子にしてたよ だから ぷれぜんと ください』

現実を無視するかのように、作業に没頭する観鈴。
さて、肝心の願い事をなににしようかと、しばし思案する。

「…う〜ん」

ちらり、と部屋の外に視線を送る。
階下からは、タモリギャグを詰る母の声。

『やさしい お母さんがいいな』

晴子が、テツみたいじゃなくて、ヨシ江さんみたいに優しくて人畜無害な母親になって欲しい。
そう願いを込めて――かなり難しい事であるのは、幼い観鈴にも分かっていたが…。

「こらっ、田中ばかり話聞くな、えこひいきしよって、このグラサン!」

必死に自己主張する駆け出し芸人を無視して、お気に入りのタレントにだけ話題を振るタモリの横暴が許せないのだろう。
『いいともクリスマス増刊号』を放映しているというだけで、罪のないTVをドカドカ蹴り続ける晴子。

「………」

観鈴は机に視線を戻すと、大きくため息。
――せめて、お酒さえ飲まなければ…

「…そうだよね」

あぶさんだって、マイホームパパになれたんだし…と自分に言い聞かせて、描き終えた紙を丁寧に四つに畳むと、寝床に向かった。


      *


――さて、夜もふけ…

「ガハハ、ミジメな男もおるもんやなー」

明石屋サンタを見ながら、聖夜を不幸に過ごす人間たちの話を聞いて、大笑い。
酒も回ったのか、腹をかかえ、食卓を蹴って大爆笑。

「…う、もようしてきよった」

酒瓶を戻すと、しぶしぶ腰をあげる。
TVを消すと、冬の静かな夜が急に感じられた。

晴子は、大きく伸びをして…ふと、天井を見上げる。

「………」

思い出したように、一言。

「…観鈴のやつ、もう寝はったんかな…」

後頭部をぼりぼり掻きながら、仕方なさそうに足を廊下に向けた。

「…ええか。あの子ならなんでも喜ぶやろ」

いったん自分の部屋に戻ると、バックからきれいに包まれた箱を取り出し、乱暴にポケットに入れる。
そして、酒臭いゲップを撒き散らしながら、トイレに向かった。
      

      *


「うー、糖出てるんかいなー、匂ってたまらんわ」

用便を済まし、手をおまじない程度に濡らすと、乱暴にシャツで拭く。
そのまま、音をたてないよう、静かに階段をあがる。

(…起こすと、かわいそうやしな…)

部屋の前にたどり着くと、そっとノブに手を伸ばし

(…ん?)

人の気配を中に感じて、その動きを止める。
緊張から、酔いがすぅと引いていった。
そっと戸を開くと、中腰に身をかがめて、観鈴の部屋をのぞきこむ。

(…あ、あれは…)

布団に包まり、幸せそうに寝息をたてる観鈴。
大柄な人影がそれを覆うように動いている。

「ほほほ。よい子には、おじさんからのプレゼントじゃ」

人影が月明かりに照らし出される。
ニヤニヤと笑みを浮かべ、観鈴の寝顔を覗き込む老人であった。

(み、観鈴…!)

驚きと、恐怖と、娘を守らねばという母親の本能が、彼女を突き動かした。
考える間もなく、娘の名を呼びながら、部屋に飛び込む。

「…ん?」
「うちの娘になにする気やぁー」

人影は突然の乱入者に言葉を投げかける間もなく、晴子のフライングクロスチョップをもろに食らってしまった。
相手ははるかに大柄であったが、体重差を上回る威力に、男は部屋の隅までふっとばされる。

「ぐぐ…い、いきなりなにを…」

男が弁解する間もなく、凶暴な形相を浮かべた晴子が襲い掛かる。

「あ、あんた…うちら母娘になにするつもりやっ!」
「はあ? …うぎゃ!」

モンゴリアンチョップが炸裂。
さらに、逆水平を連打、連打

「さては、うちらオンナだけやからって…ナニする気やったんやなぁ!」
「ぎゃああ!」
「幼子の莟を散らして、美女の肢体を弄んで、最後は親子丼の予定やったんやろ! このヘンタイジジイ」
「ぎゃあああああ! …わ、わしの話を聞け…」
「そうはいくかいなぁ!」

チャランボ一閃。
鼻骨が潰れるグチャリという不快な音が響き、男は戦意を完全に失った。
仁王立ちの晴子から逃れるよう、這い蹲ったまま、部屋の反対方向へ逃れる。

「ひぃぃ」
「待てや、ポリ公につきだしたるっ」

襟元を掴まれ、引き摺り戻されるが、なんとか上着を脱いで晴子から逃れた。
その勢いで、男は窓から飛び出す。

「うわあ、トナ子、戦略的撤退じゃ」
「了解、マスター」

鈴の音を鳴らし、空を翔るソリ。
だが晴子はそれに構わず、騒ぎで目を覚ました観鈴を抱きしめた。

「うぅん…眠い」
「観鈴! 無事やったか! まだ処女か! うう〜」
「…ん?」

泣きながら自分の頭を撫でる母を寝ぼけた瞳で不思議そうに見つめる。

「…おかあさん、どうしたの?」
「もう安心や。怖いことないでぇ、うう…」





    




    ――それ以降、サンタの姿を見たものは、いない…











さて、それから数十分後…


「そや、プレゼントやる……って、なんやこらっ!」

べしっと頭を叩く晴子。
途端、観鈴の表情が崩れる。

「ううっ…なんでそんなことするのかなぁ…」

べそをかく観鈴の眼前に、晴子はサンタへの願い事――『やさしい お母さんがいいな』と書かれた紙を突き出す。
プレゼントを入れようと、ベッドにくくりつけられた靴下を探って、見つけてしまったのだ。

「新しいオカンが欲しいやてっ! ウチより他の母親がええ言うわけや」
「…ち、ちがう…」
「せっかくプレゼントやろう思うて、買うてやったのに、こんなもん見つけるなんてな…」

幼い観鈴には、母の誤解を解くほどの語彙を持っていない。
なんとか言葉をつなごうとするが、晴子に一喝され、反論の機を失ってしまう。

「わかったわ。それならうちも考えがある」
「…え、うわ」

観鈴は首根っこを掴まれると、玄関から放り出されてしまった。
あわてて家に戻ろうとするが、冷ややかに扉は閉ざされた。

「入れて、入れてぇ」
「…知らん、よそがええならよそに貰われぇ」
「うぇぇぇん」


聖夜――
空からは柔らかい雪が舞い、静かな夜を彩る。
ただ、少女の泣き声だけが、木々を震わせていた。


     (おわり)


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 あとがき

サンタ?
親父もおかんも「そんなもんいるか」っていう教育だったからなー
メルヘンとか嫌いだったし。だから息子がこんなに歪んでそだったんだろうな。
うち、クリスチャンだから世間様みたいにパーティとかしなかったし…おかんの誕生日だし…うわ、やなこと思い出した(笑)

んじゃまたー