『野生動物注意』

 全くもって、馬鹿げた話である。どうして、こんな運命に行き当たったのか?

私は、机の上にある弾丸を右手で拾い、左手に持った猟銃にこめた。

ここは、山林の中の小屋である。私のほかに、一緒にここまで登ってきた仲間がここには3人いる。

 つい30分ほど前、私たちは、得体の知れぬ怪物に後方を襲われた。

そのとき、私を含めて6人の登山者がいた。

怪物は一番遅れをとっていた痩せ型で眼鏡をかけていた男を、まず獲物にした。

怯えて、腰を抜かした彼の肩を持って、ガブリと頭から食べた。

怪物は口の中でガリゴリと音をたてながら、満足そうな顔をする。

彼にとって、硬く歯ごたえのある頭蓋骨と、溶ける様に柔らかく濃厚な味の脳は好物らしい。

「くそうっ!」

そういって、腰に挿したハンドナイフを引き抜き、怪物に挑んでいったのは、

食われた男の兄である。彼はトップクラスのサバイバル競技選手であったが、

怪物相手に、ナイフ一本で太刀打ちできるはずがなかった。

しかし、彼は巧みに怪物の懐に飛び込み、その胸を刺した。

笑みを浮かべていた怪物は、苦しい顔をし、一変して、怒り狂いだした。

男はどうにか第一撃を紙一重で避けるも、次の一撃で、ナイフを持っていた腕を抉られる。

「早く逃げろ!」

彼は激痛に苦しみながらも、我々に向かって叫ぶ。

我々は、彼の言うとおりに走り出す。今までの登山が予定通りであれば、あとちょっと行った所に、

休憩用の山小屋があるはずだ。誰かが、

「荷物を捨てるんだ! 少しでも時間稼ぎになるかもしれない!」

と叫んだ。これは実に単純な考えであったが、実際、役に立ったようだ。

現に、半時間を経過しても怪物は現れない。

 暫時的に生き残った我々は、計画を立てた。あの怪物を殺す計画である。

協議の結果、足の速い1人が囮になり、怪物を極めて近辺まで誘き出し、

狩人である私が、怪物の頭を打ちぬく・・・という事になった。

後の2人はそれぞれ斧とナタを持って、接近戦に備える。

しかし彼等は、単なる登山趣味の役人であるため、期待は出来ない。

むしろ、足手まといである。私は頭の中で、彼等をわざと怪物の餌食とし、

怪物が彼等をむさぼって、他に気が行き届かない状態の時・・・

もっとも仕留め易いコンディションにおいて、銃の引き金を引く計画を、

密かに廻らせていたが、口には出さないでいた。

「それでは、行ってくる・・・」

囮役の男が、扉を開ける。怪物はまだいないようだ。彼は、扉を開けたまま、暫く辺りを眺めていたが、

ふと何か思いあたったかのように、頭上を見上げて、硬直した。

次の瞬間、上から口が落ちてきて、彼の体をすっぽり覆う。

食した物体を丸呑みにした怪物はその赤く大きい目で、狭い扉から、中をじぃとみわたす。

斧とナタの2人はあまりの恐怖に失神してしまった。

・・・胸に傷がある。先ほどの怪物であろう。私は、まっすぐに猟銃を構える。

怪物と目が合った。その瞳孔が縮まる。

バンッ!

怪物の目は一瞬にして砕け、血液とともに辺りに飛び散った。怪物はそのまま体をズシンと地に落とす。

私は安心して、気を失った二人を起こそうと、後ろを振り返った。

だが、その視界の中にある1つの窓から見える外の光景を見て私は愕然とした。

熊のようにがっしりとした体をもち、肉体はそれよりさらに一回り大きく、黒い体毛で赤い目をもった生物・・・

それが、何匹もたむろしているのである。

恐らくは、先ほど仕留めた怪物が仲間に知らせに行って、我先にと集まってきたのであろう。

・・・なるほど、だから我々に、これほどの時間が許されたわけだ。

山小屋が激しく揺れ出した。2人は気楽にも、まだ眠ったままである。

私は再び、猟銃に弾丸をこめ、自らの頭を打ち抜いた。

Fin